
益子貴寛――WEBプロデューサー(サイバーガーデン代表)
陳腐な表現でご本人は不本意でしょうが、WEB業界以外の方にも速やかに理解してもらうために、あえてこの言葉を使います――WEB業界のカリスマのひとりです。著書『Web標準の教科書』は、多くのWEBクリエイターたちがバイブルとしてデスクに置いています。セミナーやイベントで講演もするし、実務家向け講習や専門学校で講師もします。理論だけではありません、現役のWEBクリエイターとして、WEB構築の実務もこなしています。そんな多岐にわたる活動をサイバーガーデン(http://www.cybergarden.net/)というプロジェクト名のもとに行い、WEBの現状と未来を考え、発言し、行動している。それが益子貴寛さんです。あったり前ですが、WEBの見識深いです。講演やプレゼンテーションで鍛えられているのでしょうか、論旨明確、弁舌爽やか、なかなかに人を惹きつける方です。なにより、仕事と生活を心の底からエンジョイしている、素敵な成人男子です。人間でいえば成人式が済んだ位かなと思えるWEB業界ですが、もうこんな人物を輩出するようになっているのだな。凄い。そんな感慨を持ったインタビューでした。
DTP的な発想でとりあえず見栄えだけ作って公開して、動けばオーケー――WEBはここまで、そういう時代を過ごしてきました。でもこの2〜3年で、そのような、言ってみれば「いい加減」な制作スタイルは大きく変わりつつあります。検索エンジンに評価されやすかったり、さまざまなデバイスで利用しやすいという点で、“正しい構造”を備えたサイトか否かが重要になっている。標準的な仕様、つまりWEB標準にもとづいて正しく構造化しながらサイトを制作しようとの機運が高まってきているのです。ポイントは、これまで高齢者や障害者への配慮といった非営利的な発想での、守りの話として語られることが多かったのですが、ここへきて攻め、つまりWEB標準が収益獲得につながるという認識が強まっていることです。
使命感は、あります。セミナーなどでの講師の仕事は、それほど報酬が高いわけではありませんし、場合によっては交通費だけで仕事を受けることもある。それでもやはり、人に伝える機会があれば積極的に関わりたい。あきらかにお金の問題ではないと思っていますね。
世代もあると思いますが、大きいのはWEBが元来持っている特質じゃないでしょうか。だって、ソースコードを見ればすべてが一発でわかる世界ですから。隠しだてなんて、しようと思っても、もともとできない世界なんですよ。
原動力は、「好きだから」に尽きますね。好きだから勉強したし、共有してきた。好きな業界だから、常に少しでもよくなってほしいと考える。それだけです。セミナー資料や音声データを原則公開するのも、知識は共有したほうがよいし、それをもとに皆さんの実務が少しでも効率的になったり、よい成果物がアウトプットされるきっかけになれば、との思いからです。
まったく関係ありません。大学・大学院へ通いながら、その後は会社に勤めながら、まったくの趣味としてWEBを続けていました。大学院の時はあまりに勉強に身が入らないので、研究室の先生には「クビにするぞ」と何度も脅されました(笑)。会社には3年いましたが、仕事をしながら、陰でこっそり、Webを制作したり、お声がけがあって雑誌に原稿を書いたりしてました。
その辺は、それこそ世代が大きな要因だと思います。1975年生まれの僕たちやその前後は、自分たちの幸せは自分で決めるしかないと考える世代なんです。バブルが崩壊し、山一證券など大手企業が倒産するのを、実社会に出る前から見ています。企業なんてあてにならないし、社会的な尺度によって個人の幸せが規定されるなんてことはなくなったのだと思っている。もちろん、大企業に勤めていればそれだけで幸せだなんて、思ったりしません。だからまず、キャリアを捨てるなんていう発想がありません。年齢的にも背負っているキャリアや地位はそれほど重いものではなく、単純に身軽だから、ということもあったでしょう。
僕が21、2歳の時に日本でもWEBが利用できるようになって、大学にもPCルームが設置されて学生が自由にネットに触れられるようになりました。僕のWEBへの傾倒は、ほぼ同時に始まり、一気に進むわけですが、それがたとえば社会人としての刷り込みを経た30歳前後だったらまったく状況は違ったと思います。時代の幸運というのは、やはり感ぜざるを得ませんね。ただ、どのような世代であっても、時代に柔軟に対応できる人はいるし、僕が仕事で関わるのもそういう人が多いと感じています。
先行者利得は確かにあるかもしれません。新しいWEBのあり方や考え方に人より早く気づき、好きになって、その分少しだけ早くいろんな知識や経験を身につけ、発信し続けてきたというアドバンテージがある。もちろんこれまでもこれからも、身につけるべきことはいろいろあるのだけれど、ちょっとだけアドバンテージがあるので、こういう仕事ができているのだとは思います。




