
福田桂子さん――株式会社新生銀行マーケティング部長

このコーナーに銀行の方が登場するとは、思わなかったでしょう?クリステ編集部にも、そんなことを想像できる者はひとりもいませんでした。想定外、ですね。きっかけは、「32色のキャッシュカード」。ご存知の方はご存知と思いますが、昨年銀行界はではかなり話題になった企画。その企画の素晴らしさは銀行界を飛び出して、各種広告賞に輝き、グッドデザイン賞まで獲得し、コミュニケーションデザイン部門では金融業界初になりました。もちろん消費者にも受け入れられ、多くの新規口座を獲得したそうです。表参道ヒルズの地下3階に行くとカフェと隣接したバンクカフェなるものが出現しました。「新生銀行って、なんか他とは違った銀行だなあ」と思い、取材を申し込むと、スルスルとOKが出た。32色/カラーキャッシュカードの導入をリードした福田桂子さんも、予想を超えて“他とは違う” 新生銀行のリテールバンキング(個人顧客部門)の素顔を解説してくださいました。
「Color your life」――これは2005年から本格的にスタートした新生銀行リテール部門(個人顧客ビジネス)のブランドコンセプト。真に価値ある商品とサービスの提供を通じてお客様の生活を豊かにし、彩りのあるものにするお手伝いしていきたい、という意味。32色のカラーキャッシュカードは、その一環として生まれました。
金融商品は目に見えないもの。そんな中で、キャッシュカードはお客様と銀行の接点にあって、唯一目に見えるものです。タンジブル(有形)で毎日見てもらえるキャッシュカードには、お客様と銀行のコミュニケーションツールとして最適であると考えました。では、「Color your life」というコンセプトで発想したら、キャッシュカードはどんなコミュニケーションツールになるのだろう?と考えて生まれたのがこのカードです。
単なる華やかさを狙ったものではありません。私たちのリテールブランディングの根底には、エンパワーメント(権限を与える)という概念があります。お客様に選択の余地を持っていただくということです。これまで日本では、銀行の窓口は3時になると閉まるし、自分のお金を引き出すのに105円、210円と手数料を取られるのもあたりまえでした。すべて銀行側の都合が優先されてきたのです。本来リテール業というものは、そんなことではいけない。新生銀行の店舗は夜7時まで開けていますし、ATM引出手数料はいただきません。お客様に選択の余地を持っていただくことは、そういう考えの延長線上にあります。
ですから、「カラフルなキャッシュカードを」という着想も、ある意味必然的に生まれたのです。自動車だってお洋服だって買うときには色を選べるのに、銀行のカードだけは選べない。しかも、銀行のロゴが大きくついていたりするんですから(笑)。そこで、エンパワーメント――選ぶことを楽しんでいただくための32色をご用意することになりました。

狙いは、エモーショナルコミュニケーション――お客様と感情的なつながりを持ちたいということです。そう考えると、「黄色」「赤」ではなく、「パッション イエロー」「ファースト ルージュ」といった感情的なことを想起させるようなネーミングにすることになりました。そんな流れの中で、担当のクリエイターたちと詩も作ろうと盛り上がりました(笑)。
特に今回のクリエイティブの狙いはエモーショナルコミュニケーションですから、銀行っぽい「固い」表現は避け、お客様とつながりがもてるようなもの、誰にでもなにかを想起できるようなものにしようと思いました。ある市場調査では、「銀行に行くときはお役所に行くのとおなじ気持ち」という消費者の意見がありましたが、私たちはそう思われたくありません。カバンを買うと心に決めて外出するときのワクワクと同じように、ワクワクしながら訪れてもらえるような銀行でいたいのです。
おかげさまで大変好評です。昨年6月の導入当初には、新規口座開設が前月比160%という結果を出しました。口座開設の動機として「32色のカードがあるから」というご意見も多数いただいています。
コミュニケーションによって企業のメッセージは、社会に、消費者に伝わります。企業は広告やプロモーションなどを通じて、常に商品やサービスを消費者に伝達したいと考えていて、それを届けるのがコミュニケーションです。どれだけ伝達したいことを伝えれるかは、すべてクリエイティブにかかっていると言っても過言ではありません。クリエイティブなしには、企業の言いたいことは何一つマーケットには伝わらないので非常に重要なことです。特にリテール業というのに求められるのは、何百万、何千万人というお客さまへのコミュニケーションで、それはマスコミュニケーション。それはすべてクリエイティブが要なんで、重要なことですよね。
たとえば、銀行のマーケティング部の広告担当スタッフが広告クリエイターに仕事をお願いするとき、彼らは、銀行から課せられた明確なミッションを抱えています。クリエイターさんには彼らが抱えるミッションをまず、理解してほしい。銀行が「これで1日2000人呼ばなきゃいけない」と考えているのに、クリエイターさんが「これで広告賞を獲りたい」と考えているケースは決していい結果は生まれません(笑)。結果として賞を獲得するのは素晴らしいことですが、その前にミッションを共有してもらいたい。そこを理解してくださっているクリエイターさんの才能を、買わせていただきます。
大手流通業宣伝部に勤務しているときに、上司から受けた薫陶(くんとう)です。広告クリエイティブは「アートバイイング」――アーティストやクリエイターのタレント、才能を買わせていただいているのだということを徹底的に教えられました。広告クリエイターを下請け業者のように扱う宣伝担当者がいるとしたら、勘違いもはなはだしい。それが、私の価値観です。
そうですね、たとえばデザイナーさんにフィードバックをする場合も、「ここを赤くして」ではなく「ここを目立たせて」と言うよう指導しています。私たちの希望は、「赤くする」ことではなく「ここが目立った方がいい」のはず。そのために赤が必要か青が必要かを決める能力はあきらかにクリエイターの方が上だし、それを期待して参加してもらっているのだから、スペシャリストの能力に蓋をするような間違いは犯してはなりません。
また、発注側の内部の打ち合わせでよくあるのが「デザイナーが見当違いのものを出してきた」という発言。私の経験上、そういう場合は十中八九、原因はオリエンテーションの不備にあります。発言者に「どんなことを、どう伝えた?」と問いただすと、必ず説明の不備や間違いがみつかるので、オリエンテーションのやり直しを指示することになる。担当者が広告代理店やクリエイターのせいにして終わる、なんてことは、私は許しません(笑)。もちろん、何度オリエンテーションをし直しても、的を射たものが出てこないこともあります。それは、広告主とクリエイターの相性が合わなかったということ。仕方のないことです。それがわかった時点で、ちゃんと説明した上で、クリエイター変更をすべきです。




