
是枝裕和さん――映画監督
日本には、日本でより海外での評価のほうが高い映画監督が何人もいます。是枝さんもそんな人のひとりです。ただ、そういう状況の監督たちがそうであるように、難解だったり、鋭く前衛だったりするわけではない。むしろ、毎回、毎回、極めて高い娯楽性を備えた作品を作っている。要は、映画は面白い。だからこれはもう、たまたま現在、海の向こうにファンが多いというだけで、大ヒット、大ブレークするはずだと確信している次第です。そんな是枝さんが『花よりもなほ』を完成させました。これは、まっこう勝負の娯楽作品、時代劇です。期待するなというのが、無理な話です。
撮影は楽しかったし、今も楽しいですね。完成披露試写をあちこちでやっているんですけど、お客さんが笑ってくれるので、とても新鮮です。
見終わった後に「面白かったね」と言いながら劇場を後にしてもらいたいと思っていました。扱っているのがあだ討ちで、重たく描こうと思えばいくらでも重たくなるものなので、笑いで包んで届けたほうがいろんな世界観が伝わると思ってましたから。

あだ討ちをしなきゃいけないんだけど、「なんとかしないですまないか」と思っている侍を描きたかった。それを考えていたら、戦国時代が終わって100年、武士が公務員化している元禄時代ならありえるかな、と。そして、どうせなら「忠臣蔵の人を同じ長屋に住まわせてしまえ」と思って(笑)。時代を限定したら、逆にイメージが広がったという感じですね。
もちろん書くのは大変だったけど、一度人物設定が終わったら、その人たちをどう動かすかがとても楽しめました。特にキャスティングが決まってからは、ワクワクしてました。
タレント名鑑から抜き出しながらキャスティング表を「夢」として作ったんですけど、ほぼそのまま実現してしまった。むしろ驚きでした。
はい。
無責任な性格なもので、まったくなかったです(笑)。
だと思いますけど。企画を出したときに、「チャンバラないの?」と突っ込まれました。絶対チャンバラにするつもりはなかったので、頑張って押し通しました。ブームに乗って、こういう企画をこっそり出すのは、それはそれで大変でしたよ(笑)。
汚せるだけ汚したかった。リアリティなんていう水準を超えても、汚くしてくださいとお願いしました。
最近作られている時代劇があまりに汚れてないので。以前から、『どん底』や『隠し砦の三悪人』の人の汚れ方が素晴らしいと思っていました。ただあれはモノクロだからできることで、カラーでそのままやっても、だめなんですよ。だから、カラーでどれくらい汚せるかにチャレンジしてみたかったんです。

夕方、主人公が帰ってきて、屋根の上に木村祐一(孫三郎)さんが座っているシーン。あそこが好きです。脚本にはないシーンです。美術の磯見さんが「この長屋の屋根に誰か乗せると面白くない?」と言い出し、「そうですね」「誰にする?」ということでできました。綺麗なシーンだと思う。苦労したのは、もちろんいろいろ苦労しているんだけど、特に雪。雪って降らすのなかなか難しいんです。いろいろ試しました。今はエコスノーというトウモロコシから作ったものを使うことが多いんですが、降るスピードが速い。スノーマシンという、泡を使うものもある。それも試したけど、だめで、結局羽毛を使いました。羽毛は理想的なゆっくりとした降り方をしてくれるけど、風の影響を受けやすく、風をさえぎりながらの撮影はスタッフがとても苦労してました。おかげで、いい情感がでたと思います。ちなみに情感の不要な雪のシーンもあって、そちらはむしろ情感を消そうということでエコスノーを使っています。
これまでと違ってまったくのフィクションにはなったけど、演出は基本的には変わってません。自分でももっと変わるかなと思っていたけど、やってみると地続きでしたね。人の気持ち――なぜこの人がこのときに、こう動くのかということを考えながらやったんですが、その部分は時代劇でも変わりないのだと実感しました。
キャリアが浅いので、苦労はずっとしてますが(笑)。キャストがみなさんうまくて、いろんなアイデアが役者さんから出てきて刺激的でしたし、助けられました。
かなりタイトでしたね。でも、不思議と撮影日数が足りないとは感じなかった。ただ、僕は今までのやり方に慣れてしまっていて、撮影して編集して次のことを考えるというインターバルが欲しいんです。なので、その日の撮影が終わったあとに、夜中に編集していました。夜は撮影の夢しか見なくなってましたね(笑)。1ヵ月半びっしりだったので、体力的にはきつかったけど濃密でいい経験になりました。今にして思うと、あれくらいでちょうど良かったと思います。
役者のみなさんが、「このメンバーで『花よりもなほ2』をやりたい」と言ってくれてまして(笑)。嬉しいですね。僕もまたやりたいです。
「花見のあだ討ち」ですね。落語ネタは、他にもちょろちょろあちこちに応用してます。エピソードだけでなく、会話のリズムとか場面転換とか。
新解釈というほど大袈裟なものではないんですけど、「ヒーロー像」に対する自分なりの違和感を出しました。赤穂弁の指導のために、現場に「赤穂義士会」の方がいらしていたので、一応、「こんな話だけど、いいのでしょうか」とお伺いはたてましたよ。とりあえず、問題はなかったようですが、内心、怒られたらどうしようとドキドキしてました(笑)。ただ、300人の仲間がいたけど結局47人しか討ち入らなかったというのは事実。なんらかの理由で参加しなかったわけだけど、歴史的には「私は第二陣のはずでした」とか、後で言い出す人が出てきた(笑)。それが事実かどうかは置いておいて、言い出したくなる気持ちは人間的だし、そんな参加しなかった側の感情の機微が出せるといいと思いました。




