驚かすつもりでいますよ(笑) 期待していてください

Vol.39
映画監督 佐藤太(Futoshi Sato)氏

佐藤太さん――映画に、CMに、ビデオクリップにと幅広く活躍する演出家、映像作家です。そんな佐藤さんが手がけた、たぶん、日本で初の試みである「90秒×80日間」連続配信のWebドラマ『Tokyo Prom Queen』が5月7日から配信を開始。取材時点で10数話が配信済みなのだけど、これ、なかなか、ハラハラ、ドキドキの内容です。 ディズニーの元CEOマイケル・アイズナー指揮のもと制作され、エミー賞にもノミネートされたアメリカのWebドラマ「Prom Queen」のリメイクですが、制作陣曰く、日本版には日本オリジナルの展開が用意されていて、あっと驚く結末が待っているとのこと。「ホラーとミステリーとサスペンスがすべて詰まった、まったく新しい形のWebドラマ」とのことで、この後の展開に目が離せません。 当然ですが、配信が始まった5月とはいえ、舞台裏は7月の大団円に向けて編集作業の真っ最中。そんな忙しさの真っただ中の編集スタジオに、佐藤太さんをお訪ねしました。

Tokyo Prom Queen

『Tokyo Prom Queen』

1話90秒×80話。日本初、斬新なタイトルを 『Tokyo Prom Queen』の配信開始。

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『Tokyo Prom Queen』の配信が始まった、今の感想は?

感想ですかあ……まだ60話以上残ってますし(笑)。編集もまだ50話くらいまでしか終わっていないのでね。ただ、撮影を完了させたという意味では「やった!」感は持っているんですが。

そうかあ、正しくはまだ完成も、公開完了もしていないんですからね。

もちろん僕の頭の中には全話の編集の構想も、全体の完成イメージもできあがっています。ただ、こういうスタイルで配信がつづく中、残りの編集に取り組んでいると、さて、視聴者からどんな反応が――と気になりつつの作業にはなります。

編集は、通常の映画やドラマより大変でしょう?

倍くらい大変かなと想像してましたが、とんでもないですね(笑)。倍とか3倍とかの範囲じゃない!

そんな苦労をしている監督は、たぶん日本で初でしょう。

あるスタッフが言ってました。1本90秒とはいえ、80話全部をひとりの監督が撮ったのは、少なくとも日本では初めてだろうと(笑)。

Webドラマは初めて?

2006年に東京ディズニーシー5周年Webシネマ『Sea of Dreams』という作品を手がけているので、Webドラマは2回目ということになりますね。でも、『Tokyo Prom Queen』はスタイルがきわめて異質なので、ほぼ初めての体験ばかり。Webドラマというよりむしろ、映画を撮影している感覚に近かったですね。

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映画に近いですか。

1話90秒かける80回って、トータル2時間。ほぼ、映画の長さでしょう。ただ、1話1日で進めなければならないので、そこは明らかに映画とは違う取り組みを要求されました。

脚本づくりも大変だった?

覚悟はしていたのですが、やってみるとあらためて「おお、こんなに大変だったかあ」と思わされました(笑)。

具体的には?

いろいろありますが、プロム(卒業パーティ)という習慣、日本にはないですよね。しかも本場のは高校の卒業パーティだから、さすがに日本には置き換えられないぞと(笑)。舞台を大学に置き換えることにしたんだけど、今度は、設定がちょっと大人になってしまう。日本版は日本ならではの内容にしようという計画なので、それはそれでいいのですが、「プロムとは何ぞや」をどう説明するかとか、世界配信を意識して日本の文化をどう織り込むかとかを1回90秒の脚本で消化するのには苦心しました。

多くの苦労を重ねて完成した脚本の出来栄えは?

もちろん満足しています。青春ドラマ、恋愛ドラマ、サスペンスホラー、ミュージッククリップ、実験映画――いろんな要素を盛りだくさんに披露していますよ。

結末には、私たち、相当驚かされるんでしょうね(笑)。

驚かすつもりでいますよ(笑)。期待していてください。

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演出上、このスタイルならではの苦労はあった?

もちろん。たとえば普通の尺(長さ)の映画であれば、シーンごとに間を使っていろんな演出ができますが、90秒枠ではそういう余裕はない。わかってはいるんだけど、演出をしていると役者さんに間を要求しちゃって、スクリプターから「90秒超えました」とダメだしをもらうのがしばしばでした(笑)。

なるほどねえ。やっぱり90秒というのは、難しい。

経験則から、30分のドラマなら、台本は200字詰め原稿用紙で60枚前後とわかっている。たとえば3分のドラマは、そこからの単純な割り算で計算できる。何度もやっています。が、90秒では同じ計算式があてはまらないんです。これには、驚いた。落とし穴だと思った(笑)。撮影の現場で、急きょ台本を書き直すことが何度もありました。

まあとにかく、あれもこれもが初めて経験だったわけですね。

もちろん、ものすごく意識していましたが、成功すれば当然初めてのケースだし、日本のWeb映像コンテンツの新たなスタイルや仕組みをつくることになる。新しいジャンルを確立することになるかもしれない。そういう気概というか、夢を抱えて取り組んだ仕事でした。

うまくいった秘訣は?と問われたら?

簡潔明瞭。スタッフに恵まれたからです。まったく初めての経験ばかりで、先がよく見通せない中、よく僕についてきてくれたと感謝しています。

映画やドラマをWeb上でどうするかと企んでいくと、 結局、ロールプレイングゲームみたいになる。

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あらためて質問するまでもなく、この仕事はかなり面白かったようですが、斬新なチャレンジにはもともと興味があった?

Web上の映像コンテンツでどんなチャレンジができるか、それは仕掛けも含めて、興味はものすごくありました。そういう意味では、何年も前からアイデアは練っていましたよ。ただ、映画やドラマをWeb上でどうするかと企んでいくと、結局、ロールプレイングゲームみたいなところに落ち着いてしまうものなんです(笑)。それじゃあ、面白くないなあと頓挫するケースばかりだったんですが……。今回の企画に際しては、ドラマづくり以外の仕掛けの部分で、いろいろ面白アイデアが出せたと思っています。ことあるごとに思案していたおかげなんでしょうね。

「仕掛け」とは、具体的には?

あまりしゃべるとネタばれになるので、ちょっとだけ(笑)。たとえば、劇中に使っている挿入歌は、主題歌以外はネットを通してインディーズバンドに投稿してもらったものを使用しています。

なるほど。佐藤さんご自身が、『INDIAN LAND/S CLUB BAND』を率いる現役のミュージシャンだから。「ならでは」の企画、仕掛けですね。

Webを使えばミュージックシーンの可能性も、もっと広がると思っていますから。劇中に使用した楽曲は、着うたとして、携帯でもダウンロードできるようにもなっています。

佐藤さんは、かなりWebに詳しい監督?

いや、技術的なことなんか、ほとんど知らないですよ。

素朴な疑問なんだけど、コンテンツをWebで公開することなどに抵抗はないタイプ?

ないですね。映画、ドラマだけでなく、チャンスがあればCM、ミュージッククリップもと、なんでもこなしてきたせいなのかな。もちろん一番好きなのは映画ですが、そういったもろもろの経験は、映画づくりに必ず生きると信じています。

では、これからもジャンルに関しては多彩に取り組んでいく予定?

いろいろなことにチャレンジしたいですね。

助監督になっても仕事はなかったけど、 気にならなかったなあ。

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映画監督をめざしたのは、いつ頃?

小学校2年生で映画にはまって、小学校3年生の道徳の授業で職業の全国統計の話になって、映画関係者になりたい子どもたちが全国で0.3%いると知ってから。

なんですか?それ(笑)。

いや、だから(笑)、0.3%もいる映画を職業にしたいと考えている人たちに会ってみたいと思ったんですよ。映画人になりたいなんて思っている子どもは、自分だけだと思い込んでいたので。

なるほどねえ。

で、これはいつか出会うであろう、「まだ見ぬライバル」との対決のために、もっともっと映画を見なきゃらならんと自分を戒めたわけです、子ども心に(笑)。

で、今に至る?

そう、今に至る(笑)。今も、その延長線上です。

でも、あれですよね、佐藤さんがそんな青春を送ったのは、ばりばりに映画産業不況の時代ですよね。

関係ないですね。長年みてきた夢、壊されちゃ困りますから、それくらいのことで。たしかに映画学校を出て見習いで助監督になったばかりのころは仕事がなかなかなかったけれど、気にならなかったなあ。

さて、では、今後の活動方針は。

走らせている企画が何本かあるので、それを実現させるのが直近の課題ですね。

どんな、企画?

劇場公開映画です。今はまだ発表できませんが、映画以外の媒体を使った企画も走らせています。

では最後に、若手クリエイターたちにエールをお願いします。

まず、やりたいことがあるなら、諦めないこと。それから、思いこみの強さと視野の広さのバランスを大事にしてほしい。俺はこうしたい、俺はこういうことがしたいという信念は大切ですが、それにとらわれて「木を見て森を見ず」になると、結局自分の可能性を狭めることになる。自分の感性を磨くチャンスはいろんなところにあるわけですから、磨いて、その磨きあげたものを自分の夢見るフィールドにフィードバックする作業ができると、かなり夢が広がる。そう思っています。

Profile of 佐藤太

佐藤太氏

1968年3月19日生まれ。宮城県仙台市出身。 学生時代に撮った数々の自主映画で注目されプロの世界に。装飾助手としてキャリアをスタートした後、助監督となり、金子修介、和田誠、椎名誠、辻仁成、秋元康らの監督作品につく。1995年に発表した短編映画 『デートトレイン』 で注目を集める。以降、テレビドラマ、ドキュメンタリー、ミュージックビデオ、CM等で活躍。 CMでは、『TOYOTA~ECOプロジェクト・ヤシの実篇~』 で 「消費者広告大賞・銀賞受賞」。また、ドラマやゲームの脚本、ラジオ番組の構成、著書出版 『怖がる人々を作った人々』 (文芸春秋)等、活動は多岐に渡る。2003年~2004年に製作=2005年に公開された 『インディアン・サマー』 で、長編劇映画デビュー。映画監督業とは別に、『INDIAN LAND/S CLUB BAND』 を率いて音楽活動も精力的に行っている。

<映画・監督作品> 1995年 『デートトレイン』(短編作品) 2005年 『インディアン・サマー』 2007年 『ITバブルと寝た女たち』 2008年 『Girl’s BOX/ラバーズハイ』

<インターネット配信作品> 2006年 『Sea of Dreams』(東京ディズニーシー5周年Webシネマ)

<TVドラマ> 2005年 『ウルトラマンマックス』(第9話、第10話) 『ホーリーランド』(第11話、第12話)

<ミュージッククリップ> 『涙がただこぼれるだけ』松田聖子 『私のすべて』河口恭吾 『しあわせの勝ち組』ジョビジョバ 『抱きしめたくて・・・』JIN 『街』jimama 『去り行く君へ』ザ・ベイビースターズ(撮影)

<CM> 『TOYOTA /ECOプロジェクト・ヤシの実篇』 『ライフマイル/しあわせはつながっている篇』

 
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