グラフィック2008.06.12

「恥ずかしくないもの」を 出すのが仕事であるとは考えています

Vol.40
CGクリエイター/株式会社画龍代表取締役 早野海兵(Kaihei Hayano)氏

映画なら『蟲師』『ベクシル』『ゲゲゲの鬼太郎』、ゲームなら『鬼武者3』、PVなら『アジアンカンフージェネレーション』、CMは、とにかく多数――早野海兵さんの生み出すCGグラフィックは、類まれな存在感と美しさで見る者を圧倒します。 映像作品をメインに活動しつつ、月刊『CG WORLD』誌にCGへの造詣を開示する連載をしたり、それらの作品を書籍として発表したり――CG界のヒーローと呼んでも過言ではない、幅広い活動と実績を見せる人物。作品が露出するほど本人は表立ってはこないのが、創作分野の常ですが、そんな中でも特に早野さんはあまり素顔を晒さない部類のクリエイターです。正直、お会いするまでは「ちょっと怖い方かも」なんてどきどきしましたが、案ずるより産むが易しでありました。誠実で、軽やかで、ユーモアもたっぷりな、魅力的な人でありました。

 
月刊誌「CGWORLD」の表紙は早野氏の作品

月刊誌「CGWORLD」の表紙は早野氏の作品

映像作品にベースデザインから参加依頼があるのは、 2次元の仕事を手がけているからだと思う。

株式会社画龍を設立して、1年になりますね。会社を作って、意識などは変わった?

いちばんの違いは、仲間ができて楽しくなったことかな(笑)。会社設立の動機は、ほぼ、皆さんのお察しの通りで、管理すべきことがあれこれと増え、スタッフをそろえる必要が生じたからです。いろいろ必要に迫られて、ということですね。

早野さんは、ほぼ3DCGの黎明期からこの分野に取り組んでいる方ですね。

そうなります。大学(日大芸術学部)ではグラフィックデザインを学び、イラストレーターをめざしていたのですが、何を思ったか、3年生のゼミでCGを選択してしまった(笑)。以来、今年で12年目になりますね。

当時は、今の自分の姿なんて、想像できなかったでしょう?

まったく(笑)。とにかく、新しいもの好きで、面白くてやっていたというだけのことです。

CGに取り組んで約12年という立場から、今の若手CGクリエイターたちにどんなことを感じていますか。

あえて言うならですが、ソフトに頼り過ぎかなと感じることはありますね。

なるほど、コマンド打ち込みながら創意工夫をする時代も経験している早野さんですからね。CGクリエイターやCGデザイナーは、アプリケーションオペレーターではないのだという気持ちも強いのでしょうか。

黎明期には、アプリケーションが使えるというだけで持てはやされるような状態がありました。あれがあったから現在の、業界の隆盛があるという功の部分もあるけど、罪の部分もあるような気がする。いずれにしろ大切なのは、コンピュータやアプリケーションを使えることではなく、使って何をつくるかですから。

月刊誌「CGWORLD」6月号

月刊誌「CGWORLD」6月号

結局は、創作もできてコンピュータも操れるのが理想の形なのでしょうね。

ほぼ、そうでしょう。ただ、創作意欲があったり、自分なりのイマジネーションを持って取り組める人は、成長が速いのは確かです。ヨチヨチ歩きをしているなと思っていたら、ほんの数年で、すごいクリエイターになっていたなんてことがよくある。 学ぶ意欲が強い人が伸びるのは、どの世界でも当然なのでしょうが、CGの世界は特にそれが強いと感じますね。

CGは、比較的新しい分野。そういう分野に籍を置く早野さんにとって、グラフィックデザインや実写映像の分野など、歴史のある分野はどんな存在なのですか?

そのどちらにも、いい部分があるし、勉強すべきことがたくさんあります。一時、たとえば実写映像はCGにとって代わられるという意見を述べる人もいましたが、僕はそんなことはないと思っていたし、事実そうはならなかった。

早野さんは映画やドラマのお仕事も多いですよね。

実写の仕事でアドバイスを求められても、無理にCGを勧めることはないですよ。「このシーンは実写の方がいい」と感じたら、そう発言します。実写作品におけるCGの価値って、まさにそういうところにあると思う。無理やりCGにしても、今の観客には見抜かれますからね。目が肥えてきている。だから、「なるほど、このCGは効いてるね」と評価されるには、「のべつ幕なし」にCGを使うのは、むしろ逆効果です。

出版系のお仕事も多いですね。

趣味みたいなものですね(笑)。少なくとも、ギャランティにはあまり期待していません。でも、映像作品にベースデザインから参加させてもらうケースが多いのは、2次元の仕事を手がけているからだと思っています。

早野さんは、ご自身の「肩書き」をどう考えていますか。CGデザイナー?CGクリエイター?CGアーティスト?

難しいですね。呼称には、こだわってもいないし。ちょっと前まではCGアーティストと呼ばれることが多かったけど、最近は定型がない感じです。

仕事の内容として、もっとも気に入っているのは?

やはり、映画やCMなどの映像作品に、デザインから取り組ませていただくケースですね。

依頼者の条件をクリアするだけでなく、 プラスアルファの提示を心がける。

月刊誌「CGWORLD」4月号

月刊誌「CGWORLD」4月号

早野さんの作品には、造形へのこだわりがあると感じます。本人はその辺、どう考えていますか?

う~ん、どうなんでしょう。自分ではわからないな。

では、仕事を依頼された時に大切にしていることは?

そうですね、依頼される方が持っているイメージと、僕が「これがいい」ととらえていることの間にギャップのあることがよくあります。 もちろん依頼者のイメージを尊重するのは基本なのですが、僕はそれで終わるのはいけないと思っている。依頼者の出した条件をクリアするだけでなく、それにプラスアルファを提示することを心がける。そう言う意味で、「恥ずかしくないもの」を出すのが仕事であるとは考えています。

クリエイターとして、日ごろ心がけていることは?

出歩くこと。旅をすること。映画を観ること。その辺は、かなり心がけています。 この仕事は、作業はほぼデスクに張り付きっぱなしになりますから、かなり意識しないとできません。しかも、そういう日常のインプットが、とても大切な仕事でもある。映画は、ほぼ毎日1本観ていますよ。もちろんDVDで、ですが。

CGをつくる、CGで創作するジャンルを、 「花形」と呼ばれるような職業にしたい。

フリーになって成功して、会社まで設立することになって――ここまでのご自身の歩みを振り返って感じることは?

仕事を通じて、僕を理解してくれる方、応援してくれる方、共感できる方に多く出会えたこと。それに尽きますね。とても幸運な仕事人生だと思います。

業界の未来展望、将来展望に関しては、どんな見解をお持ちですか?

今後のこととして気にかけているのは、CG制作者の地位向上ですね。

なるほど。向上させたいということは、現状は地位が低いと感じている?

ずっと低いですよ(笑)。低いまま推移している。この仕事には、もっと可能性があるのだから、その魅力をちゃんと伝えなきゃと思っています。CGをつくる、CGで創作するジャンルを――そうですね、「花形」と呼ばれるような職業にしたいと思っているんです。

月刊誌「CGWORLD」7月号

月刊誌「CGWORLD」7月号

そうですか。かっこいい仕事だと思っている人も、あこがれている人も多いと思うですが。

ハリウッドまでとは言いませんが、アジアの他の国と比べても日本のCG制作者は、「花形」にはなっていません。給料の水準を比べても歴然ですし、いわゆるリスペクトの度合いもちょっと違う。

早野さん自身の今後として、こんな作品に取り組みたいというようなことはありますか?

映画なら、SFですね。何と言っても「ロボットアニメ世代」ですから(笑)。

では最後に、若手クリエイターたちにエールを贈ってください。

とにかく、時間を無駄に使わないでください。別に、「勉強しろ」と説教するつもりはありません。むしろ、時間を有効に使って、うんと遊んでほしい。

なるほど、「時間を有効に使う」は「遊ぶ」ですか。

これは、自省でもあるんです。正直、「もっと遊ぶべきだった」と後悔しています(笑)。

へえ、早野さんが後悔しているんですか。

少なくともCGに限って言えば、CGだけを勉強してきた者より、バンドをやっていた人とか、他の分野で面白いことをやっていた人がポンと入ってきて、感性の豊かさですごい仕事を成し遂げるのを何度も見せつけられました(笑)。いろんな遊びを通して、いろんな引き出しを持っている人は、かなり強いです。

取材日:2008年6月12日

Profile of 早野海兵

早野海兵氏

日本大学芸術学部卒。Sony MusicEntertainment、Links、SonyComputerEntertainmentを経て、フリーで活動後、2007年株式会社画龍を設立し代表取締役に就任。

 
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