豆しばが夢を叶えてくれた。コンテンツを作る仕事から見えるもの

Vol.163
コンテンツプランナー
Kim Suk Won
キム・ソクウォン

「ねえ知ってる?」 のフレーズで始まる、かわいらしくもニヒルな豆知識を語りだすキャラクター、豆しば。CMからスタートしたこのキャラクターは、電通のオリジナルキャラクターです。作り出したのはクリエイターのキム・ソクウォン氏。2008年に初めて放送されてから、今日に至るまで、様々な形で私たちを楽しませてくれた豆しばの生みの親であるキム・ソクウォン氏に、クリエイターとしての活躍や豆しばの制作秘話を伺いました。

周りと違う自分への劣等感。その劣等感が消えていくうちにクリエイティブへの気持ちが強くなった。

クリエイターという仕事を目指したきっかけについて伺えますか?

僕は韓国籍の在日3世として日本で生きてきたんですが、自分が在日であるということに劣等感や違和感がありました。先生に「苦労してきて」というニュアンスのことを言われて、その時、周りからこういう風に思われているんだと小学生ながらに傷ついたんです。その頃、あまり友達も作らずひとり漫画ばかり描いていました。漫画家になりたかったんです。この頃の経験がクリエイティブの出発点かなと思います。

どんな漫画を描いていたんですか?

とにかくドラゴンボール(笑)。漫画部の部長もやりました。誰も部長になりたがらなかったから僕がやることになったんですが。
中学からはアメリカンスクールへ進みましたが、これが僕にとって転機でした。国籍もいろんな人がいる中、僕が嫌だった、「人と違うこと」は世の中において武器になると知りました。何かひとつ、リスペクトできることがあればいい。人と違うことは魅力だと思うようになったんです。
ここからですね。何かを発信したいという気持ちが強くなって、大学では演劇をやっていました。でも演劇では食べていけない。そこで何か作る会社に就職したいと就職活動をはじめました。その時たまたま今の会社(電通)に入ることができました。

僕が担当するのはコンテンツ。新しいことや面白いことをビジネスにつなげていく。

現場に出られてからのお仕事に幅があるように感じますが、肩書きとしてはどのような立場と考えていらっしゃいますか。

一応、コピーライターやCMプランナーと名乗ってはいますが、うちの会社にはそういうちゃんと広告の仕事をしている人でもっと優秀な人がごまんといるので、僕にはそういった仕事はあまり回ってきません。僕が担当するのはコンテンツの仕事です。運良く豆しばが大ヒットしたので、コンテンツが誕生し、どうやってビジネスになっていくかということを一から十まで経験させてもらえました。今はそのノウハウで新しいことや面白いことをやっていくビジネスの仕事が多いです。豆しばのようにキャラクターも作ります。

今、担当されているのはどのようなお仕事ですか?

地方創生映画プロジェクトを担当させてもらっています。映画というコンテンツをいかに有効活用してビジネスにつなげるかという仕事です。映画というのはやっぱりコンテンツの王様だと思います。いい作品というのは人の記憶にも残るし、世界へも出ていける。映画作りというのはすごくやりがいがあります。ただ興行というものは、人が入らなければ成立しない。広告だと予算があって、クライアントのPRをマスに流して終了ですが、映画は制作にかかった費用を回収しなければならないという大変さがあります。

CMと違い、映画はBtoCが強いので、収益によるところが大きいですね。その点についてはどう感じていますか。

うちの会社では、おそらくきちんとBtoCで制作した経験を持つ人はあまりいません。僕は幸いなことに豆しばでBtoCを経験させてもらっているので、その大変さは知っています。僕たちの仕事は、いかに動線を作るかだと思っています。BtoBやBtoCのtoの部分。でもコンテンツがつまらないとどうにもならないです。だから企画から携わるのは大切です。

万人受けするものではなく、たったひとりでも凄く面白いと言ってもらえるものを作りたかった。

豆しばのCMはインパクトがありました。これは商品や会社のPRではなくて、キャラクターそのもののブランディングCMということですが、どのようなきっかけで誕生したのでしょうか

CM枠を使うことは確定していたので、変なものは流せないということでした。そのため、教育的なコンテンツを求められていました。そうなると企画する側は真面目なものを想像しがちです。ですが、真面目なものって流していても案外記憶に残らないんですよね。だから僕は全然違う、コンテンツの体を成しているけれどドン引きさせるような「こう来たか」ってものを作りたかった。豆しばは見た目はさわやかを装ってるけど腹黒い僕に似ています(笑)。そういうインパクトを意識しました。

企画から実際に誕生するまではどうでしたか?

企画では30秒しかないCMでいかにインパクトを残すかも意識したポイントです。どれだけ覚えてもらって、どれだけインパクトを与えるかで、今後のビジネスも変わると思っていました。その時のコンペで、コンテンツの先のビジネスまで考えて企画を出したのは僕たちだけでした。自信を持ってこれはヒットすると思って出したのですが、実は会社の人はこれがウケるとは思っていなかったみたいで、コンペでは1位じゃなかったんです。それでも、あるプロデューサーの方が、強く推してくださいました。そのプロデューサーがいなかったら豆しばは世の中に出ていなかったかもしれません。

大ヒットした豆しばはコンペを1位通過したわけではないんですね。

その時1位を取ったコンペも見せてもらいました。誰もがいいねと納得できる企画です。一方で僕は誰もが面白いというものではなくて、コンテンツが溢れている今、たったひとりでも「これすごい好き!」って思ってもらえるものを作りたかったというのはありました。たとえば、シンプルさ。たった30秒の中に複雑なものを入れても、人の記憶には残りません。豆しばは「へんな豆が豆知識をしゃべる」と一言で説明ができます。面白いと思ってもらえたら伝聞もしやすい。シンプルであることで面白いと思った次の行動も移しやすいんです。「何あれ?」って気になった人が豆しばを調べて、ホームページにたどり着くまでが設計なので、その部分の設計はかなりがんばりました。

演出や設計のコツってありますか?

今は何でも調べられるじゃないですか。大切なのは投げかけ方ですかね。それを見た人がどういう行動をするのか想像して、いかに見せていくかということだと思います。それは時代だったり空気だったりに左右されますが。僕は常々、新しいコンテンツは新しいインフラから生まれると思っています。今だったらYouTubeだったり、Twitterだったり、TikTokだったり、そういった新しいインフラを使って、新しいコンテンツができていきます。前と同じことをやっていても、インフラが違うと新しく見えたりします。豆しばはCMというインフラの枠の使い方が新しく見えたんじゃないでしょうか。やはりそういった新しいインフラに、いかに効果的にコンテンツを載せていくかが重要ですね。

豆しばが僕の夢を全部叶えてくれた。

豆しばがヒットしたことでコラボも多く展開されましたね。

豆しばが世の中に出ると、反響が大きくて、本当にたくさんの企業や著名人の方とコラボさせていただきました。僕は豆しばによってすべての夢が叶っちゃったんです。本を出すのが夢でした。主婦と生活社さんから豆しばの本を出させていただきました。これがかなり売れてました。僕は関西出身ということもあってお笑いが好きなんですが、ダウンタウンさんや志村けんさんは子どもの頃から大好きだったんで、そういう方々とコラボできたことはうれしかったですね。我が人生、一片の悔い無し(笑)。

夢が全部叶ったと言えるのはすごいです。それだけ魅力あるキャラクターだったのが豆しばなんですね。

キャラクターって僕は2種類あると思っています。ディズニーのように世界観から軸を作って確立していくタイプと豆しばのように一発芸じゃないですが骨組みがあるわけではないタイプ。だから豆しばは飽きさせないようにいろいろなことに挑戦してきました。意外性を意識したり、常にニュースになるようなことをやってきました。今回も日本を代表する絵本作家の荒井良二さんと意外性のあるコラボができました。そういった世間をざわつかせることが毎回できればと思っています。

2019年4月には絵本「まめしば」を発表。

今回、荒井良二氏とのコラボした絵本についてお聞かせ願えますか?CMのタッチとはかなり違う作風だと思いますが、どのようにコラボレーションしたのでしょうか。

最初、僕はストーリーものを作りたくて、荒井さんにいくつか提案させてもらいました。小学生の登場人物を作って、そこに豆しばが現れて……という。ところが荒井さんが豆しばはやっぱり豆知識だから、絵と豆知識で、子どもたちの想像力を増幅させられるような絵本にするのがいいんじゃないかとおっしゃって。話し合った結果、豆知識をピックアップした今の形になりました。

そこで今回のような絵本が誕生したんですね。

豆知識をピックアップして、荒井さんに絵をつけてもらうのですが、本当にご多忙な方なので、なかなか進みませんでした。絵が上がってくるのを、まだかなと楽しみに待ち、実際に出来上がったものを目の当たりにするとすごいなと、荒井さんは天才だと確信しました。僕が言うのもおこがましいのですが。すばらしいイマジネーションをお持ちの方なので、荒井さんとコラボレーションさせてもらったことで、豆しばの世界が2倍にも3倍にも広がりました。CMで豆知識を言うだけだった豆しばが、すてきな絵になって、ここからまた豆しばの世界観だったり新しいものが生まれるんじゃないかと思います。

色彩が特にすばらしいですよね。CMとはまた違ったタッチの絵本ですが、荒井氏とコラボレーションしたのはなぜでしょうか。

たまたま荒井さんの知り合いがつないでくださったのがきっかけです。豆しばは11年目になるんです。ちっちゃい頃好きだった方には浸透していますが、今のちっちゃい子は触れる機会がなかったので、絵本という媒体で今までとは違う面白いことができればと考えました。せっかく独特の世界観を持っている荒井さんとご一緒させていただくので、化学反応を期待したコラボレーションです。

爪痕を残していけば、きっと誰がが見ていてくれている。

同じクリエイターの世界を目指す人に向けて、メッセージをいただけますか?

僕は常々、自分がとことん好きになれるものを見つけた者勝ちと思っていて、自分の情熱や人生を捧げることができるものを見つけられたら本当に幸せで強くなれるんじゃないかと感じています。僕もまだ探している途中で、人生迷子なんですが。自分の好きをずっと大事にしていければ、人生の意味が見つかったも同然じゃないかと思っています。

ご自身が大事にしていることはなんでしょうか。

サービス精神ですかね。いかに見ている人を喜ばせられるかという想像力とサービス精神さえあれば、なんとかやっていけるんじゃないでしょうか。僕はどちらかっていうと広告の本流ではないんですが、どんな仕事でも自分の爪痕を少しでも残せるように頑張っています。その積み重ねが自分のポジションを作っていくんじゃないでしょうか。少しだとしても、爪痕を残していければ、見てくれている人はいるので、そこからつながっていくこともあります。ふてくされないでがんばるしかないと思っています。

ちょうど新卒の方も現場に入ってくる時期ですが、新しくクリエイターの世界に入ってくる人に伝えたいことはありますか。

会社でうまくやっていこうと思ったら、やっぱりかわいがられるというのは大切です。もうひとつ、この世界で大切なのは自己演出力だと思います。いかに自分ができることがあるか、PRできる人は評価が上がりますし、そういう人のところには仕事も集まってきます。ただ僕はそういうのがうまくなくて苦労しています。でも僕みたいにそういうことが苦手なタイプにもワンチャンはあると思います。だからくさらずに頑張っていけば、何かしら結果は出るので、一緒に頑張っていきましょう。

取材日:2019年5月9日 ライター:久世 薫 撮影:楊鎧仲 映像編集:遠藤究

 

プロフィール
コンテンツプランナー
キム・ソクウォン
コピーライター、キャラクター作家、コンテンツクリエイターといくつもの顔を持つ。大ヒットキャラクター、豆しばの生みの親。2019年に絵本作家、荒井良二氏とのコラボによる新作絵本「まめしば」を発表する。電通在籍。

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