WEB・モバイル2014.04.23

制作現場のスペシャリストである ディレクターの地位向上を目指す

Vol.102
株式会社ビットエー CMO/日本ディレクション協会 会長 中村健太(Kenta Nakamura)氏
「ディレクター」とはよく聞く職種だけど、実際には何をする人?そう聞かれると、言葉に詰まる人が多いのではないでしょうか。そんなディレクターのスキルを高め、地位を向上させていこうと様々な取り組みを実践しているのが「日本ディレクション協会」です。今回は、日本ディレクション協会の会長であり、人気サイト「Webディレクターズマニュアル」の編集長でもある中村健太さんを直撃!中村さんの考える「ディレクター像」、これまでのキャリア、若手へのメッセージなど、ディレクションに関わる人や志す人すべてにとって有意義なお話をたっぷり伺いました!
 

制作会社のCMOであり、日本ディレクション協会の会長 昨年は講演20本、今年は著書2冊刊行予定!

中村さんはWebディレクターとしてはもちろん、様々な方面でご活躍中ですね。

現在はWeb制作・開発会社のビットエーのCMO(Chief Marketing Officer)として勤務している一方で、日本ディレクション協会の会長として協会の運営や講演活動をしています。講演は2013年で20本はやりましたね。今年中にWebディレクションに関する本も2冊出版する予定です。間に合えば、ですけどね(笑)。

今まで、これだけWebディレクターとして前面に出てきた人はいなかったと思います。

Webディレクターは様々なスキルが必要とされる仕事です。しかし、今までは日陰の存在だとか、クライアントとスタッフの間の板挟みになってかわいそうだとか、そんなイメージが強かった。それを何とか変えたいと考えているんです。企画を立案して、世に届けるメッセージを発信しているのはディレクターですから。

アフィリエイトサイトがWeb業界入りのキッカケ 営業としてNo.1の実績も

中村さんご自身は、最初からWebディレクターを志していたのですか?

いえ、実は社会人としてのスタートは、飲食店の店長だったんですよ。父親がいろいろなフランチャイズを経営していて、その中の1店舗を任されていました。コーヒー屋さんです(笑)。

それはWebとはかなり遠い仕事ですね(笑)。

いわゆる「雇われ店長」として仕事をして、限界を感じていたんですよね。安定しない水商売だということもありますし、基本的にはローカルビジネスでスケールの広がりを感じられなかった。そんな状況の中で、アフィリエイトサイトの仕組みを知り、自分でもやってみようと思ったのがWebに関わりはじめたキッカケです。HTMLをイチから覚えて、SEOも自分で仕込んで、いろいろなアフィリエイトサイトを作って、月に40〜50万くらいの売上が立つようになりました。Webビジネスはスケールが大きくなりそうだし、もっと本格的にやりたいと思って25歳の時に父の元を離れたんです。

アフィリエイトサイトが転機のキッカケだったんですね!

飲食店を辞めて、最初に入ったのはビジネスフォンの販売会社でした。そこでWeb制作をビジネスとして手がけることになり、自分も営業に出ることになったんですよ。ちょうど「Webディレクター」という名前が浸透し始めた頃でもあり、いろいろな本を読んで勉強して、「ユーザーインターフェースはかくあるべき」のような提案資料を作って営業しました。No.1の売上が立つようになり、アフィリエイターとしてサイトを作った経験は豊富だったので、受注した仕事は自分で仕様書を作って外注に出していましたね。そこで実績を作り、さらにWeb制作会社に転職しました。

Webディレクターのスキル・考え方の差を実感 「Webディレクターズマニュアル」を立ち上げ

いよいよ本格的にWebディレクターとしてスタートされたわけですね。

Web制作会社に入って気づいたんですが、ディレクターの仕事のやり方がバラバラで、人によってスキルや業務範囲、さらに考え方に差があるんですよ。さらに自分なりに仕様書を作ってデザイナーやプログラマーに仕事をお願いすると、ものすごく感心されたんですよね。これはWebディレクターが何をすべきか誰もわかっていないのでは?と感じ、「Webディレクターズマニュアル」を立ち上げたんです。

「Webディレクターズマニュアル」は、私もちょくちょくチェックさせてもらっています。

アフィリエイターとしての経験もあるので、SEO対策をしつつサイトを作っていたら、しばらくすると「Webディレクター」のGoogle検索でトップに表示されるようになり、サイトの認知度も上がっていきました。そこから自分の周囲が変わり始めて、いろいろな会社から声をかけてもらったり、日本ディレクション協会の立ち上げにも誘われたんです。

日本ディレクション協会は、具体的にどのような活動をしているのでしょうか?

ディレクターのスキル向上のために、研修や講演をしたり、情報交換の場を設けたりしています。現在は地方での活動も増えているのですが、協会のような存在はものすごく求められているのを感じますね。小さな制作会社も多いですから、ディレクター同士の横のつながりはなく、誰も教えてくれる人がいないので自分の仕事のやり方が正しいのか不安に思っていた、との声が多いんですよ。地方は情報がまだまだ不足しているので、これまで以上に講演や交流の場を増やしていきたいです。

ディレクターは専門スキル ビジネスのデザインをして設計図を描くことが仕事

中村さんご自身がディレクションについて講演をされる機会も多いとのことですが、ディレクターとして大切なことは何ですか?

まず「クライアントファースト」ではダメだ、ということですね。「ユーザーファースト」にならなくては。クライアントはビジネスの種を提供してくれるので、それを伝書鳩のように持ち帰ってそのままやるのではなく、種からビジネスのデザインをして設計図を描くのがディレクターの仕事です。

ディレクターは、どうしても納期や予算に縛られがちだと思います。

「納期厳守」という言葉は、あまり好きではないんですよ。設計図ができてから納期が決まるはずです。納期を守っても、ユーザーに届かないサイトを作っては意味がないと思います。そこは飲み込まず、クライアントを納得させるような設計図を描かなくては。

クライアントとの交渉をしつつ、デザイナーやプログラマーなど、スタッフをまとめる役割も求められますよね。

ディレクターは、クライアントとスタッフの板挟みとなる存在ではなく、リーダーとして引っ張っていく存在です。まずディレクターが設計図を描いて、スタッフがみんなで知恵を出し合ってクオリティを高めていく。ディレクターを“営業に毛が生えた仕事”のように揶揄することがありますが、ディレクションとは専門スキルで、スキルの下地があるのだから営業とは違います。スタッフを引っ張っていくのですから、同じ言語で話をするためにHTMLやCSS、JSなどをある程度はわかる必要がありますし、ワイヤーフレームを書いたり、デザインディレクションや、ライティングもできたほうが良いです。リーダーである以上、足が遅かったらそれはあちこちから文句を言われますよ。

スキルが必要だからこそ、価値ある仕事 2000万プレーヤーを育てたい

ディレクターとは厳しい仕事ですね。

それだけのスキルが必要だからこそ、価値がある仕事だと思います。ビジネスをデザインする仕事で、産み出したサービスによってマーケットに与えたインパクトが報酬になる仕事です。本来ならば2000万や3000万プレーヤーが出てもおかしくないと思っていますし、そんなディレクターを育てていきたいです。

中村さんの話を聞いていると、ディレクターのイメージが変わります!これからディレクターを目指す人へメッセージをお願いします。

まずはとにかくアウトプットすることですね。書いてもいいし、誰かに話すことでもいいから、アウトプットすることで自分の考えがまとまります。交流会や研修でインプットすることもいいですが、行って心持ちを新たにするだけで帰って来るほど無駄なことはない(笑)。心持ちを新たにするだけでなく、必ずインプットしたことをアウトプットしなくては意味がありません。ディレクターはアウトプットすることによって価値を産み出す仕事ですから。そして、10年後を想像して何をやりたいか、書いて話して、その実現のためには何が必要かをアウトプットしていけば、今何をやるべきかわかると思います。

取材日:2014年3月10日 ライター:植松

Profile of 中村健太

中村健太氏

株式会社ビットエー(BITA)CMO、日本ディレクション協会会長、Webディレクターズマニュアルプロデュース・運営など数多くの肩書を持つ。 Webディレクターズマニュアル上では開設当初よりナカムラというカタカナ表記で名乗っている。

 
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