金縛りと解放。ラストシーンには 突き抜ける解放感を用意しています

Vol.11
映画監督 塚本晋也(Shinya Tsukamoto)氏
 
塚本晋也さんに会ってきました。劇場公開用中編作品『ヘイズ/HAZE―Original Long Version』が公開されます。あの『鉄男』と同じ時期からあったアイデアの作品化――興味持たざるを得ないでしょう。あのサイバーパンクな作風の復活か?なぜ今作品化なのか?どうして49分なのか?大枠で言うと、デジタルビデオの環境が整い、簡便に、ローバジェットで映像化できるので踏み切ったのだそうです。リマスタリングで昔の映画が綺麗になって復活というのはよく聞くけど、デジタルビデオで昔の企画が復活映像化っていうのは、なるほど2006年にふさわしい出来事だとも思う。映画作りが大好きな塚本さんは、やっぱり、映画がたくさん作れそうな喜びでホクホクの福顔でインタビューに応じてくれました。

デジタルビデオの簡便さが実現させた『ヘイズ』。

『ヘイズ』拝見しました。閉所恐怖症の人にはたまんない映画ですね。

僕、閉所恐怖症なんです。『大脱走』という映画で、チャールズ・ブロンソンが狭いトンネルを使って逃げようとして、埋まってしまう。そして前にも後ろにも動けなくなるシーンが、もの凄く怖かった。あの時の恐怖がこの映画を作らせたのかもしれない(笑)。

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観客には、どんな反応を期待しますか?

金縛りと解放。ラストシーンには、突き抜ける解放感を用意しています。まあ、お客さんは映画館を出て、やっと解放でもいいんですけどね。ラストのシーンは最初からあったアイデアで、僕自身がもっとも解放感を感じるシチュエーションを描いたんです(笑)。

デジタル技術がなければ捨てていたアイデアだそうですね。

完全に捨てていたわけではないんですが、もしかしたら生まれなかったかもしれませんね。アイデアとしては『ヴィタール』にたどり着く前のもので、人間の意識と肉体というものにこだわっていたころのものです。同じテーマで3つのプロットがあったんですが、『ヴィタール』を作ってしまったので、そのまま消える可能性があった。スポットをあてることができたのは、ビデオの進化のおかげだと思っています。

チョンジュ映画祭からのオファーがあって、作った?

それが具体的なきっかけですね。チョンジェ映画祭とは、デジタル表現の可能性を追求しているインディペンデント映画祭。韓国、日本、タイの映画監督が同じバジェットで30~40分のデジタルシネマを作る『三人三色』というプロジェクトへの参加です。

デジタルは初めて?

上映まですべてがデジタルというのは、初めてですね。撮影がデジタルというものは過去にもありました。一つ前の短編『female~玉虫』のなんかがそう。デジタルハイビジョンをフィルムにして上映したんですが、今回のようにすべてがデジタルというのは初です。ノンリニア編集は、『ヴィタール』が最初でしたね。

史上最小くらい小さい。 尺も短いし、狭いし、自分で作って自分で出てるし(笑)。

観客を脅かすつもりだった?

そうですね。とにかくやりたかったのは、あの人型のトンネルに人がはまってる映像。狭くて、動けなくて、ほんと怖いでしょう(笑)。

小作、と呼んでもいいんでしょうか?

そうですね。史上最小くらい小さい。尺も短いし、狭いし、自分で作って自分で出てるし(笑)。

達成感は?

もしかしたら置き去りにされていたかもしれない企画なので、それが形になった分、やっぱりかわいい。

以前お話を聞いた時、役者としての活動を減らして映画作りに専念するとおっしゃっていましたが。

言いました。劇場公開用映画を作っているとなんのかんのと1年2年かかるし、その間に出番がなくなってしまった。だからそんな風に言いましたし、基本は今もそうです。今回は、まず、アイデア段階から「この役は自分でやりたい」と思っていたことと、小さなバジェットですから、重宝な役者をスケジュール調整の必要なく使えるというメリットを優先させました(笑)。

自分で考えたアイデアを、自分が作ってさえ、 作る時々で仕上がりはいろいろなんですね。

映画作りの状況としては、後戻りしたことになる?

古い企画を作品化したという意味では後戻りとも言えます。そういう意味では『六月の蛇』も後戻りと言えば後戻りだったけど、ギトギトのSM犯罪映画にしようとしたものが、作ってみたら、ああいう、女性へのシンパシーが生まれるような内容になった。今度の『ヘイズ』も、アイデア段階では乱暴なばかりの映画だったんだけど、今の僕が作ると、生きていくことにポジティブなものになった。自分で考えたアイデアを、自分が作ってさえ、作る時々で仕上がりはいろいろなんですね。古い企画を手がけるっていうのは、そういうところが面白いし、意義があることに気づきました。

『ヘイズ』などの短編は、塚本さんにとって1時間半サイズの作品とは別のラインになる?

そう、違いますね。『ヘイズ』を1時間半にすることもあり得たけど、小さいサイズで、映像イベントっぽく作ってみて、かえってそれがよかったと思う。

あの、狭いシチュエーションの連続での演技は大変だったのでは?

藤井さん(藤井かほり)は、実は大変だったかもしれない。でも喜んでやってくれたので、助かりました。

おふたりの出会いのシーンは、映画史に残る狭さとかっこ悪さですね。

女性のお尻越しに、こんにちは(笑)。とにかく、なまめかしく撮りたかったのでああなったとも言えます。

しつこいようですが、狭かったですね。撮るのも大変だったでしょう。

かなり狭いところにカメラを入れてますよ。フィルムに比べると小ぶりな、デジタルカメラだからできた。ライティングが、フィルムに比べると小さなもので済むというのも大きかった。

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長年温めていた地獄もあれば、1秒で考えた地獄もある。

セットは?スタジオは1カ所ですか?

1カ所です。そこに、数々の地獄を作りました(笑)。長年温めていた地獄もあれば、1秒で考えた地獄もある。人の恐怖がオンパレードの現場でしたよ。例えば、歯の地獄は1秒の地獄。人にとって1番いやなことはなんだろう?と考えたら、瞬時に出てきた。ハンマーも1秒でしたね。ゆっくりとにぶく、いつまでも叩かれたらいやだろうなあと、しかも延々とね。体をくの字にしないと入れない穴も、僕は腰痛もちなので、やってみたら撮影が地獄だった(笑)。

「地獄」は、自分のアイデアだけで?

はい、自分がいやだと思うものばかりです(笑)。

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撮影の現場も恐怖にまみれていた?(笑)。

いつもどこかで戦々恐々となるのが、僕の現場なんですが、今回は不思議と和気あいあいとしてました。お菓子食べながら、「こんなのいやだね~」とか言いながら(笑)、嬉々としてやってましたね。

藤井かほりさんは、どうだったんですか?

藤井さんって、根性ある方なんで、大変な演技もバシっとやってくれました。演じる側からのアイデアも、たくさん出してくれた。なにしろ、ほとんどふたりしか出ない映画なんで、リハーサルもとことんできたのがよっかたと思う。

肉体へのこだわりは一旦捨てて、 次は自然の風景が撮りたいと思っています。

ファンは、塚本晋也の次回作を待っていると思います。特に、劇場公開の長編。次は、どんなもんが出てくるんでしょう?

『ヴィタール』で、とうとう体の中に入っちゃいましたからね(笑)。肉体へのこだわりは一旦捨てて、次は自然の風景が撮りたいと思っています。あるいは、『ヴィタール』と一緒に考えたアイデアが3本あるので、それをデジタルビデオでばっと撮ってもいいかなとも思っています。具体的には、まだはっきりと言えるものはないんですけど。

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塚本さんの撮る「自然」って、興味ありますね。ぜひ見せてください。

ちょっと先になりそうですね。なにしろ目覚めたばかりで、僕には、まだ、自然体験が足りてないと思う(笑)。

『ヴィタール』にも、綺麗な自然の風景がありましたね。

そう、あれが最初の体験、目覚めでした。でも、次にやるのは、もっと極限の自然をやりたいんです。

塚本さんが「極限の自然」なんて言うと、ちょっと凄そうですね。

いや、普通の綺麗な自然ですよ(笑)。

フィルム?

風景は、まだフィルムでないと無理だと思います。

デジタルへの可能性はどう感じた?

自分の映画作りの姿勢には合っていると思う。作りたくなったらすぐ作れるし、スタッフも少なくて済むし、機材も小さいし、そのわりには思ったことが簡単にできる。撮影もそうだけど、仕上げに自由がきくし。自分のインディペンデント感には、ものすごく合っている。やりたかったけどできなったことが、どんどんできる感じがしているので、今まで置き去りにしてたことを、ビデオで一気にやれるんじゃないかと思ってます。そして、それとは別に、1本1本時間をかけて、やりたいことをフィルムでやっていけたら理想的だと思ってます。

楽しみが2倍に増えた、っていう感じですか?

そうですね。

Profile of 塚本晋也

profile

1960年1月1日、東京・渋谷に生まれる。14才で8ミリ映画を撮り始め、高校時代も意欲的に8ミリ映画製作を続けると同時に、演劇にも魅了され、本格的に絵画も学ぶ。大学在学中は、自ら劇団を主宰。卒業後、CF制作会社で4年間ディレクターと務める。退社後、85年、劇団「海獣シアター」を旗揚げし、3本の芝居を興行した後に活動休止。86年、『普通サイズの怪人』で映画製作を再会し、87年『電柱小僧の冒険』で、PFF88のグランプリを受賞。89年『鉄男』発表。国内よりも海外で高い評価を得、以来、海外映画祭に積極的に出品、様々な賞を受賞している。監督だけでなく、自らの作品に主演、その他、脚本・製作・脚本・美術・撮影・照明・編集・特撮などもこなす。役者としての評価も高く、映画の他、舞台、ドラマ にも出演している。

【作品】

1987年『電柱小僧の冒険』1998年『バレッ ト・バレエ』1989年『鉄男』1999年『双生児』1991年『ヒルコ/妖怪ハンター』2002年『六月の蛇』1992年『鉄男II/BODYHAMMER』2004年『ヴィタール』1995年『東京フィスト』2005年『female~玉虫』 『ヘイズ』 『ヘイズ/HAZE―Original Long Version』
 
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