抜けたなにかを考える それが大切です

Vol.17
ディレクター/有限会社teevee graphics代表 小島淳二(Junji Kojima)氏

CMディレクターであり、MV(ミュージックビデオ)ディレクターであり、映画監督でもある。つまり、映像作家である。コントユニット /ラーメンズの小林賢太郎さんと組んだNAMIKIBASHI(ナミキバシ)名義の活動でも各方面から注目されていて、本人もかなりのめり込んでいる様子。NAMIKIBASHIでリリースしている作品は、もう、映像作品というより映像芸術の粋に達している。話をしてみると、ご本人、ファインアート、映像芸術への造詣がかなり深く、意識もしている。仕事として取り組んでいる映像づくりのこと、会社の運営のこと、そして個人的興味やこだわりのこと。様々な話題を、トツトツと、独特の言い回しで語ってくれた小島さんなのでした。

 
キャノン "インクジェット技術広告/どちらが本物篇"

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この会社は、バンド活動のイメージに近い。それぞれのソロ活動 もありますが、バンドとして集まったときにはきっちり仕事をします。

では、teevee garaphicsの現況からお聞かせください。

谷篤、長添雅嗣という若手ディレクター2人を売り出していこうとしているところです。

なるほど、会社として小島さんの後を担う人材を世に出そうとしている。社内で一本立ちできる人材が出るのは、はじめて?

いえ過去に3人育ってます。でも、彼らはすでに会社からも巣立ってしまいました。谷、長添も将来は会社を巣立つのかもしれないし、そうならないかもしれない。まあ、本人次第です。

会社としては、「人が育つ」「巣立つ」「また育てる」の繰り返しになるんでしょうね。

まあ、それは仕方のないことですね。ただ、この2人は、teevee graphicsとしてのカラーができつつある時期に会社に入り、僕と一緒にそれをつくってきた人たち。考えてきたことができつつあるという意味で、少々特別の思い入れがあります。

木村カエラ"YOU"コロムビアミュージックエンタテインメント

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小島さんにとって、teevee graphicsという会社はどんな存在なんですか?

バンド活動のイメージに近いですね。僕たちはteevee graphicsというバンドで集まっているし、それぞれにソロ活動も抱えている。だからみんなが集まったときには、きっちりと仕事を仕上げて、新しい表現も探っていける。そんなグループでありたいと思っています。

もちろん、バンマスは小島さんですよね。

そうです。楽しいですよ。

会社設立当初、小島さんは「映像にグラフィックが足りない」と主張していたし、社名にもそれがちゃんと入っている。そのこだわりは今も健在?

あります。グラフィックが動くことで新しい意味、イメージが生まれるということには、まだまだ可能性があると思ってます。グラフィックの追求は、今後も続きますよ。

MVで4~5分をいかに飽きさせないかと考えていた次に、 CI(コーポレートアイデンティティ)で1.5秒の勝負をする。

小島さんにとってのソロ活動は、たとえばNAMIKIBASHIということになりますね。かなりのめり込んでいる?

そうですね。楽しい。今、11月のリリースに向けて何本もつくってます。

小島さんのようにかっこいい映像をつくる作家と「お笑い」のマッチングは、ちょっと想像できなかったんですが。

まず、小林さんとやること自体が楽しいのですが、お笑いの構成の仕方を近くで見るのは、もすごく刺激がありますよ。要は、勉強になる。知る限り僕以外そこに身を置いているディレクターがいないということのほうが、僕にとっては不思議です。

NAMIKIBASHIの活動はかなり評価されているし、ファンも多いようですね。儲かってる?

いえ(笑)。まったくとは言いませんが、利益が出てないのは事実です。でも、この活動は、発信したことにちゃんと反応があるので、やりがいが大きい。とにかく楽しいですし。

小島さんはいろんなジャンルの映像づくりに携わっていますが、それぞれがそれぞれに影響したりするものですか?

してますね。させていると言うほうが正しいかもしれない。CMで知ったことをMVに活かしたり、逆にMVの手法をCMに取り入れたりしています。たとえば、MVでは当たり前だけどCMではあまりやらない音と映像の組み合わせでのグルーブ感にトライするなんてことですね。要は使ってない頭を使うのが楽しいんです。MVで4~5分をいかに飽きさせないかと考えていた次に、CI(コーポレートアイデンテティ)で1.5秒の勝負をする。やらなくて忘れていた作業のポイントを思い出しながら仕事をするのがとにかく楽しいし、刺激になります。

ソニー・コンピュータエンタテインメント"PSP/Good Night PSP篇"

ソニー・コンピュータエンタテインメント"PSP/Good Night PSP篇"

NAMIKIBASHIの活動もどこかにフィードバックされている?

それはどうかなあ。わかんないですね。大袈裟に言うとあれは、ファインアートなんです。だからこそ長く続けたいとも思っている。

なるほどね。ジャンルとしてはお笑いだけど、小島さんにとってはファインアート。そう聞くと、取り組みの姿勢がよく理解できます。小島さんは、もともとファインアートや現代芸術に造詣の深い方ですものね。

今、ファインアートが楽しい、面白い。村上隆さんが切り込んでいってくれているので、日本の現代美術の人がかなり注目されてます。とにかく面白い状況になってますね。韓国や中国の人も、日本の現代芸術にかなり注目している。昨年も韓国の映画祭にNAMIKIBASIHの作品を持っていたのですが、すごい受けてました。僕たちの知らないうちに、動画投稿サイトYou Tube(ユーチューブ)に作品がアップされてたなんてこともありました。

少なくとも小島さんと海外の方は、あれをアートとして受け止めるということで一致しているわけですね。

最初から、外国の人に受けるものをつくるつもりでしたからね。

実は、他のどの分野にも同じような気持ちを持っています。 「ごめんなさい」と言いながら、やらせていただいているって感じですね(笑)。

小島さんは最初、CMディレクターとしてデビューしています。そこから、現在のような多岐にわたる活動をすることになるとは思ってました?

だんだんそうなったという感じですね。CMの仕事をいただけるようになった7~8年前は、とにかくがむしゃらに仕事を受けて、没頭していました。端的に言えば、余裕が出てきたのでアートやNAMIKIBASHIに取り組めるようになったということです。

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違う言い方をすると、小島さんは最初編集プロダクションにいて、モーショングラフィックをやって、それからCMディレクターになった。他の人とはステップが違う。「自分は門外漢だ」という意識ってあるんでしょうか?

それはあります。むしろ、だから頑張れるのかもしれないと思います。CMに関して王道を通っていないのはその通りですが、実は、他のどの分野にも同じような気持ちを持っています。「ごめんなさい」と言いながら、やらせていただいている感じですね(笑)。

そういう小島さんって、やはりまわりからは異端視されているんですかね?

いえ、そんなことはないと思いますよ。今は、映像制作の世界はかなりボーダレスです。グラフィックのADがディレクターやったり、監督もすればコピーも書くし、プランナーとしてプレゼンテーションも担うという人もいます。プライベートにDVD作品をリリースする人も、増えている。デジタル技術が進歩したので、アイデアさえあれば面白い映像ができる。そういう環境が大きく影響していると思います。

RASMUS FABER"Ever After"ビクターエンタテインメント

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CMの仕事で、最近記憶に残っているエピソードなんてありますか?

今、資生堂さんの仕事で、8月オンエアのCMをつくっています。4月に撮影し、編集も音楽もいいところまできたのですが、一度全部捨てました。もちろん資生堂さんの判断です。主に社内クリエイターの判断なのですが、つくりにつくって検討して、それでも「しっくりこないね」となったら、全部捨ててやり直しです。全然妥協しない。そういうこだわりは、凄いと思った。編集も、音楽も常に最高のものをつくろうとトライする。真摯に突き詰めて、美しいものをつくる姿勢が凄いです。敬服します。

最初に突破するところはブレないほうがいい。 狭いほうがいいと思います。

今後の活動方針は?

まず、谷、長添とのバンド活動を充実させたい。これまでにもまして、1本1本に力の入ったものをつくっていきたいですね。そして、自分たちから発信する仕事も増やしていければいいなと思います。バンド活動とソロ活動がくるくる回っていく毎日が理想ですね。

やっぱり、忙しい毎日になりそうですね。

走っていないといけない。休みたくないですね。

会社として人を増やす予定はあるのですか?

スタッフ募集は常時していますよ。会社のホームページ(www.teeveeg.com)に応募フォームが用意してあります。

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小島さんが面接する?

週に1~2人くらいの応募者に会ってます。

では最後に、映像制作を目指す若者たちにエールを贈ってください。

最初に突破するところはブレないほうがいい。狭いほうがいいと思います。いろんなことに興味があるだろうけど、ひとつに特化したほうが道が開けると思う。抜けたなにかを考える。それが大切です。頑張ってください。

Profile of 小島淳二

profile

1966年佐賀県生まれ。 1989年よりデジタル編集のエディターとして活躍。その後ディレクターに転向し、1995年teevee graphics設立。コマーシャル、ミュージックビデオ、ブロードキャストデザインなどジャンルを越えて多くの印象的な映像作品を輩出している。また、映像作家としてオリジナルショートフィルムの制作にも積極的に取り組み、その作品は世界最大規模のデジタルフィルム映画祭”RESFEST”でAUDIENCE CHOICE AWARDを受賞するなど海外でも高い評価を得ている。

 
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