グラフィック2014.04.10

手ぬぐいを通して 日本の美しさや感性を伝えたい

大阪
宮本株式会社 チーフデザイナー 森野哲郎氏
創業は昭和24年、大阪南船場に本社を構え、タオル・手ぬぐいの製造卸では老舗メーカー。4年前には新たな手ぬぐいブランド、JIKAN STYLE を立ち上げ、東京にショップを展開する宮本株式会社。今回は異色の経歴を持つ、チーフデザイナーの森野哲郎氏に自社ブランドの魅力や手ぬぐいに込めた思い、デザイナーとして仕事への取り組みを語っていただきました。

実用品からインテリアになるデザイン性。

フラッグショップJIKAN STYLEのオンラインストアでは、手ぬぐいの様々な使い方も提案

フラッグショップJIKAN STYLEのオンラインストアでは、手ぬぐいの様々な使い方も提案

御社の展開しているオリジナルブランドのことを聞かせてください。

手ぬぐいのブランドは大きく2つ、一つはKENEMA、もう一つはJIKAN STYLEです。 「KE-NE-MA」は「気-音-間」。 日本人が美しいと感じる気配や音色、それと日本人独特の間、それらのイメージをコンセプトにしています。美しい自然の気配や、季節を彩る鳥の声や虫の声、気配や空気感といったテーマを柄に起こし、広く流通する商品をつくっています。 JIKAN STYLEは手ぬぐいを通して日本の文化や価値観を伝えていきたいと立ち上げたブランドです。 古来からの日本の色や、季節のうつろい、時のうつろい、日本人の感性や価値観などをテーマにしたシリーズを展開しています。こちらのブランドではよりこだわりを持って、男女関係なく持てるようなお洒落さやハイセンス感、持っていることがステータスになるようなものを目指し、技術的にも難しいものに挑んだ凝った染めにしています。また、手ぬぐいそのものではなく、手ぬぐいのある生活、衣食住全てのシーンに、この手ぬぐいという生地を取り入れる提案をしていきたいと思っています。

手ぬぐいと言うよりまるで一枚の絵のような物もありますね。

そうですね。タペストリーにしてインテリアとして飾られる方もいらっしゃいます。あと、テーブルクロスにしたり。もちろんハンカチ代わりにガンガン使われる方もいらっしゃいますし、外国人の方は頭に巻いたりされるんですよ。日本的なモチーフや伝統的な柄は、特にフランスの方に好まれていますね。

商業船舶の企画・売買の仕事を経て、デザイナーに。

森野さんは最初からデザイナー志望だったのですか?

デザイナーと言えば芸大やデザイン関係の専門学校卒の方が多いと思うのですが、僕の場合は大学の商学部を卒業後、船舶会社に就職して大型のタンカーや貨物船などの商業船舶を企画、売買する仕事に携わっていました。2年くらい働いていたんですが、自分がやりたい仕事を意識するようになりまして。会社を辞め、建築と店舗デザインを専門学校で2年勉強して店舗の設計施工の会社に入りました。そこでは1年ほど、ほとんど現場に出ていたのですが、やっぱり自分の手で何かを作る仕事をしたいな、と。30間近だったので、思い切って方向転換したんです。

そこでなぜ、デザイナーになりたいと思われたのですか?

一番は、自分の手でモノを産み出している、とりわけ工芸分野の職人さんと関わりたかったことでしょうか。図面をひたすら描くことよりも、自分でもある程度、目の前でイメージをヴィジュアルとして形にできる仕事の方が性に合ってたんですね。育った環境も影響してると思います。叔母が造形作家で、祖父はずっと日本画を描いていましたから。

では、宮本に入ってから染めやデザインのことを勉強されたわけですね?

そうですね。染めの工場を見学して面白い世界だなと思いました。この手ぬぐいの注染と言う技法は生地に型紙を乗せて糊を置いた生地を何枚も折り重ね、そこに液体の染料を注いで一気に重なった生地に通すという独特の技法でして、デザインの制約が多いのです。それを見極めることから勉強していきました。今でも工場に直接足を運ぶことで、アイデアが出てきたり、解決策が見出されることが多いですね。

動画は面影・空シリーズの染めの様子。 生地の真ん中にまっすぐグラデーションをかけて、時間とともに表情を変える空の色を表現したシリーズ。 シンプルなデザインだが、これを表現するために、通常の染め方とは違う技法が使われた。 ●シリーズコンセプト・職人さんインタビューページ http://www.jikan-style.net/chusen/omokage.html

デザイナーと職人とのコラボによって新しい絵柄や技法が生まれる。

職人さんとの関わりはたいへん重要ですね。

そうですね。職人さんの技術によるところが大きいですから。また、技法上どうしても<できるデザイン>と<できないデザイン>があるんです。そういう意味で、自社オリジナルではなく企業さんから請けてデザインする商品などは、技術的なリスクを避けるデザインを心がけています。

リスクを避けると言うと?

細い線や小さな点は表現できないことが多いので、確実に出る太さや大きさにします。また、場合によりますが本来意図しない部分に染めの色が混ざってしまうとB品になるんですね。なので、色が極力混ざらないようなデザインで仕上げたりなどします。 一方自社オリジナル、特にJIKAN STYLEの商品では凝ったものや技術的に難しいものを作りたいことが多いので、職人さんに直接相談することが多いですね。そのやり取りを続けていると、職人さんの方からも「森野さん、こんなことができるんですけど、これでなにか作りませんか。」って、逆に提案してくれることもあるんですよ。難しい技術に挑戦するリスクはあるけれど、表現の幅を広くできるのが嬉しいですね。

デザインのアイデアはどのようなところから?

アウトドアが好きなので海や山に出かけたり。あとは子供の頃に野山で遊んだ記憶であったり・・・広島育ちで、海が近かったので瀬戸内の海の色の変化をモチーフにしたシリーズもあります。同様に時の流れをテーマにして、明け方から夕方までの空の色をぼかしだけで表現したものがあるんです。あのシリーズはまさに表現したいことがシンプルにできて、他にないようなデザインにできた感があります。デザイナー関係の方からも評価していただきました。

海雪花 夜雪
 

JIKAN STYLEで扱う面影シリーズは季節や時間とともに変化する自然の姿をテーマにしたシリーズ。 SHINRAシリーズは自然の見せる一瞬の姿を切り取ったイメージをテーマにしている。 写真左は様々に変化する海の色をイメージした「面影・海」シリーズより、上から「明海」「闇海」「雨海」「暮海」 写真右は昨年発表した雪の表情をイメージした「面影・雪花」シリーズより、「夜雪」 面影シリーズには他にも「空」シリーズがあり、それぞれ多色の展開をしている。

面影シリーズURL:http://www.jikan-style.net/fs/tenugui/c/ct_ser_omo SHINRAシリーズURL:http://www.jikan-style.net/fs/tenugui/c/ct_ser_shinra

個性とともに、器用さと柔軟性がもとめられる。

JIKAN STYLEオンラインショップの季節の商品ページ

JIKAN STYLEオンラインショップの季節の商品ページ
この季節は美しい桜のデザインが並ぶ

てぬぐいをデザインする上での難しさは?

モチーフとして描き尽くされてるものは難しいですね。この季節なら桜。もう、出尽くしている感のあるモチーフは非常に苦労します。 それからオーダー商品は、自分の思うように好きなモノを描くだけではダメで、お客様がイメージしているタッチや雰囲気、世界観を描かないといけない。一発で通るものを描けることもあれば、何案も描いてやっと通ることもあります。

「作家」ではなく、あくまでも「インハウスデザイナー」であると?

そうです。絵を描く要素が強いので個人の作家性が出やすいのですが、職人さんとやりとりしたり、いろいろなデザインを求められるので、器用さと柔軟性が必要ですね。好きか嫌いかではなく、正しいか正しくないかという視点で考えることです。 僕自身、絵を描く勉強をしてこなかったことが逆に良かったのではと思うことすらあります。今でこそ、これが自分のやりたいことだなという表現はありますが、この仕事に就いた時点から俺はこれだ!という世界がいい意味でなかったと言うのか、案件ごとに色々な雰囲気やタッチ、画材を実践で試してきたのでその分対応できる柔軟性や幅を広げられてこれたんじゃないかと。ただ、造形作家の叔母からは「まだまだ未熟ね」と言われることもありますが(苦笑)。

絵はPCで描かれるのですか?

そうですね。でも、PCでデータ入稿しなくても型は起こせるんです。注染のことをよく理解した職人さんは、絵を見て、その通り染まるような型を彫ってくれるんですよ。それに、職人さんからは「PCで描かれた線はシャープ過ぎる。」と言われることがあるんです。 昔は図案家と言われる絵師さんがいて原案を描いていたんですが、絵師さんが描いた絵は独特で、立体感があるんですね、浮き上がるような。それも長年の経験と技術によるものなんです。 ですから、今度は、PCを使わずに一から手描きのみで最終商品まで仕上げることにも挑戦してみようかと思っています。

区切りをつけて、とにかく行動してみる。

これからデザインの仕事に転職したいと思っている方にメッセージはありますか?

昔の僕と同じような境遇の人ってけっこういると思うんですね。「今の仕事がほんとにやりたい仕事なのか?」って …。結果的に、僕は26才のときに最初の仕事をやめて専門学校に行ったのですが、"決めること"には、強い覚悟がいると思います。 でも、自分の中で区切りをつけといた方がいい。 僕は30才までに自分がやりたいことを見定めて、デザインの世界に行くと決めてこの世界に入ったんです。 で、入ってみるとおのずと見えてくるものがあるから、次の目標を定める。例えば35才までにはこの世界で認められるようになるとか。将来のある時点でのビジョンをしっかり持って。 リスクもあるし不安も大きいけど、自分で腹をくくって、とにかく動くことが必要だと思います。まずは飛び込んでみることですね。 必ず道は開けると思います。僕もまだまだ、その真っ只中にいます。

取材日:2014年3月

宮本株式会社

  • 代表取締役:宮本敏幸
  • 創業:昭和24年1月
  • 設立:昭和32年12月
  • 資本金:24,000,000円
  • 事業内容:
    • 手ぬぐい
    • タオル類・ガーゼ類
    • 風呂敷・バンダナ・ハンカチ類・他雑貨商品
    • 浴衣・鯉口シャツ・甚平
    • 晒・ねまき
    • ハッピ・のれん・のぼり
    • 販売促進用商品及び上記商品の企画
  • 所在地:本社/542-0081 大阪市中央区南船場1丁目10番20号 東京営業所/130-0026 東京都墨田区両国4丁目24番4号 JIKAN STYLE本店(表参道店)/丸の内店
  • TEL:06-6261-0021
  • FAX:06-6261-0701
  • URL:http://www.miyamoto21.co.jp/
  • お問い合わせ:上記サイト内お問合せページより
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