3DCGで切り拓くオリジナリティが強み 次のエンタテイメントと向き合う気鋭のCGプロダクション

福岡
株式会社ハッピープロジェクト 代表取締役 田上キミノリ氏
 
「フルーティ侍」や「パパンがパンダ」など、ユニークなキャラクターの造詣で注目を集めるCGプロダクション、それが株式会社ハッピープロジェクトです。同社が3DCGのどこに魅力を感じたのか? またオリジナリティに溢れたキャラクターの創出と真剣に向き合うようになった背景とは何か? そのホンネを代表取締役の田上キミノリ氏にうかがってみました。

キャラクターをビジネスにしたいという想いから学生時代の仲間と起業

設立の経緯について教えてください。

短大でIT分野の学科を卒業した後、一度は大手不動産会社に就職しました。これは両親が堅実な道を望んだこともありますが、特に父親が営業畑を歩んできたので、その影響は大きかったと思います。 大手不動産会社では営業から事務まで幅広い業務を学べましたが、一方で子供のころから好きだったデザイン・制作の業務に就くという夢も絶ちがたく、4年間勤めていた会社を離れることを決意しました。すでに20代の中盤に差し掛かっていましたが、大手不動産会社を退職してデジタルハリウッド福岡校に入り、そこで出会った仲間と「3DCGの制作を強みにした集団を立ち上げよう」と語り合ったことが2002年2月のハッピープロジェクト設立へとつながっていきます。

本気で3DCGクリエイターを目指したきっかけとは何だったのでしょう?

子供のころから絵を描くことが好きで、自分で描いたイラストや絵画で受賞したり同級生や学校の先生などに評価されたのが、最初の成功体験として刻み込まれたことは大きいと思います。 デジタルハリウッドで3DCGを学ぼうと考えたのは、新しい道を歩み始めた自分には未開拓な世界がふさわしいと感じたからです。というのも、当時はゲームや映画で3DCGが本格的に活用され始めた時期であり、一方でMacromediaのFLASHがCG制作のツールとして世の中に認められていくなど、CGクリエイターにとって非常に刺激を受けやすいタイミングでした。 不動産会社時代には家を売ることも確かに面白かったのですが、同時に「どうせ売るならば自分が実際に手がけたモノ、本当にいいと思うモノを」と少なからず不満を感じていたのです。だから、デジタルハリウッドを経て自分の造詣したキャラクターを世の中に発信できるポジションに就いたことは、ごく自然な流れだったように思います。

作業風景

作業風景

学生時代の仲間との起業に際して不安はなかったのですか?

不安はなかったというよりも、何が不安の要素になるのかすら知らなかったというのが実状でした(笑) 福岡で起業したのは、当時の仲間と「CGの仕事に就くなら本格的な舞台は東京だよね」と語り合いながらも、「でも、いきなり東京に進出するには不安」だったと言うこともあり、まずは地元の福岡で自分たちでできることを手がけたのがきっかけです。そこで自信がついたら上京するつもりだったので、福岡の制作プロダクションとしてここまで長く存続できるとは予想もしませんでした。 デジタルハリウッド時代に卒業制作として作ったタイトルをVHSのテープに納め、それを周囲の人たちに片っ端から送るという非常に素朴な営業活動を行い、徐々に人脈を広げ、広告代理店やCM制作会社の方出会うことができのもあり、制作活動に乗り出せたのです。法人化については、デジタルハリウッド時代に知り合ったIT系コンサルティング会社の社長さんから「お前たちは面白いことをやっているが、キチンとしなければ長く続けられない」とアドバイスをいただき、会社の設立の協力を頂くことができました。そう考えると、営業にせよ創業にせよ、本当に周囲の人に恵まれたと思います。

仲間との別れやリーマンショックを経て原点に回帰

これまでの歩みの中で転機になったことはありましたか?

最初のころは「3DCGプロダクション」として、商業映像を中心に制作を行う集団という立ち位置でした。そのため業務内容も特に決まった形はなく、CM・イベント映像や、ゲーム・映画などのCGアニメーションや合成など、とにかく技術に負った業務を多数こなしてきました。 こうした日々を送る中で創業時のメンバーの中には次のステップを考える者も出始め、ある者は大手プロダクションに移り、またある者は学校の講師を目指すようになっていったのです。そして気がつくと、2008年ごろには創業時のメンバーが私だけという状況になり、実はこのとき本気で廃業を考えました。 さらに追い打ちをかけたのが、IT企業全体を苦しめることになるリーマンショックです。これまで通りのように安定的に仕事がない状況で、せっかく育ってきた後進のメンバーをどう導いていくかが大きな課題となりました。

その試練をどのように克服したのですか?

ひとつは原点回帰です。そもそも私が3DCGの分野に踏み込んだのは、「自分が作ったキャラクターを世の中に送り出したい」という非常にシンプルなものでした。しかし、受託業務をこなすことに夢中になり、その根本を忘れていたことに改めて気づいたのです。 創業時は私だけが営業の経験者であり、そのためビジネスについては「仲間がやりたいと思う仕事を獲得するのが自分の務め」と割り切らざる得ませんでしたが、創業時メンバーとの別れやリーマンショックを期にビジネスのあり方を考え直しました。そして出した結論が、「オリジナルのキャラクターやコンテンツなど、自分たちにしかできないものを自分たちの手で生み出そう」というものです。 幸いにもリーマンショックの影響下でリソースの余裕はふんだんにありましたから(笑)、このときに当時のスタッフと集中して創り出し、世に送り出したのが「フルーティ侍」です。

渾身の想いで生み出した「フルーティ侍」の評価はどうだったのでしょう?

非常に手応えを感じさせてくれる結果だったと思います。というのも「フルーティ侍」の1・2話は沖縄国際映画祭で受賞しましたが、その内容は「観客が選ぶ作品賞」というものでした。「フルーティ侍」はプロの目線で見れば決して王道とは呼べる作品ではありませんでしたが、その奇妙でゆるい作風はエンターテインメントとして会場の皆さんに支持され、それが観客特別賞を受賞することになったと聞いています。 2011年には、東京アニメアワードで優秀作品賞を頂くこともできました。 オリジナリティを公の場で認められたのは、私のそれまでの人生ではデジタルハリウッドの卒業制作で多くの方から評価された「USAO!」が最初であり、「フルーティ侍」が2度目の経験になります。人生の転機と呼べる局面で大きな手応えを感じたことが大きな自信となったのは確かです。そして以後、ハッピープロジェクトはCG制作の技術者集団の殻を破って、オリジナルキャラクターやコンテンツのメーカーとしての道を歩み始めます。

リーマンショックが与えてくれたのはチャンスだったともいえますね。

おっしゃる通りです。リーマンショックで事業を振り返る機会がなければ、いまも当時と変わらず受託仕事を続けていて、キャラクターやコンテンツビジネスに対してリアルに事業展開まで考えることはできなかったのでは無いかと思います。その意味ではリーマンショックという分岐点でうまく舵取りをできたのは、私はもちろん現在のメンバーにとっても幸いだったといえます。 ひとつ悔いをいえば、もっと早くオリジナリティへのアプローチができていれば、創業時のメンバーがハッピープロジェクトを離れることはなかったのではないか、という点です。この後悔を二度としないよう、今いるスタッフの未来を考えるのも私の役目だと考えています。

オフィスにはこんな一角も…

オフィスにはこんな一角も…

その後のオリジナルコンテンツへの挑戦など教えてください。

「フルーティ侍」については今年夏からの放送が決定したのもあり、これから制作に取りかかっていくところです。DVD化・商品化も徐々に進んでいくことになると思います。 「パパンがパンダ!」に関しては去年の2月より放送しており、商品化・アプリ化なども進んでいます。

また、そのほかにもハッピープロジェクトでは、国内・海外に向けたキャラクターコンテンツとして回転寿しのキャラクターの「くるくるスーシーズ」、覆面レスラー(ルチャリブレ)の「レスラーパンダ」、ちょっと怖いぬいぐるみのお話「ゾンビ〜ニ〜」など、新たなキャラクターを生み出し、発表の機会を探しているところです。

量産性と柔軟性を得ることで世界と向き合うプロダクションに

今後の取り組みや目標など教えてください。

すでにオリジナルキャラクターやコンテンツのメーカーとして少しずつ評価を得て来ていると思うのですが、今後は少し変わった方向でもオリジナリティを問いかけたいと考えています。そのアプローチの一環として現在挑戦中なのが、テレビ東京系の「LINE OFFLINE サラリーマン」の制作です。 これは毎週月火水に5分のミニ枠で放送されるCGアニメーションですが、東京に絡んだ本格的かつ継続的に手がけるビジネスである点、またこれまでアニメ制作をしたことがない当社が初めて手がける大規模プロジェクトである点に大きな意味があります。というのも、例え1話が5分という短編であっても、半年で約80話近く制作しなければいけないというミッションは、当社にとって決して容易なボリュームではありません。しかし、この試練は現在私たちに不足している「量産性」や、他府県・海外からニーズにも応えられる「柔軟性」という二つの面で、新たな可能性を切り開いてくれると考えているからです。

なぜ量産性や柔軟性を必要としているのですか?

海外では、アニメの制作において1クール13話といった日本的な考え方は一般的ではありません。仮に「フルーティ侍」が海外のメディアの目に留まって配信されるチャンスを得たとき、量産体制を持っていないから引き受けられないという事態だけは避けたいのです。 制作体制を強化することは今後の当社の最大の課題であり、それは福岡にいるCGクリエイターの活躍の場を拡大することにもつながります。有為な人材を得るために当社ではフェローズさんのようなクリエイティブ系の人材サービス企業はもちろん、これからの若者を世に送り出す専門学校などとも密に連携を取りたいと考えています。

フィギュアや参考資料がたくさん

フィギュアや参考資料がたくさん

最後にクリエイターに向けたメッセージをお願いできますか?

クリエイターとは、世に自分の考える善や美を問いかけるアーティストだと考えている方は多いでしょう。それは決して間違えていると思いませんが、私はクリエイターはアーティストである以上に職人であるとも考えています。 CGクリエイターに関していえば、エンターテインメントを担うCG制作のプロフェッショナルであり、その抱えるテーマも業務も決してきれい事ばかりではありません。しかし、困難な仕事を職人として受け入れる一方で、オリジナリティを創出する部分でも自分のスキルを発揮できるからこそクリエイターは面白いと思うのです。 オリジナルコンテンツとなる「フルーティ侍」がライフワークと言うなら、一方で日々の糧を得、技術やノウハウを培う「LINE OFFLINE サラリーマン」はライスワークといえます。私にとってはその両方が大切であり、バランスよく付き合うことで長くクリエイターとしてのモチベーションを保つことができるので無いかと思います。 私のとてもお世話になった社長から頂いた言葉でいまでもずっと心に残っている言葉があります「儲かる仕事はとっても大切!でも儲からなくてもオモシロイことやるのはもっと大切」せっかくエンターテイメントの業界にいるのですから、自分がオモシロイと思うことをやりつづけてほしいです。 皆さんが長く業界で活躍し、その過程で当社とご縁を得られることに期待しています。

取材日:2013年2月25日

株式会社ハッピープロジェクト

  • 代表取締役:田上キミノリ(たのうえきみのり)
  • 設立年月:2002年2月
  • 事業内容
    1. キャラクターの企画・開発
    2. CGアニメーションの企画・制作
    3. TVCM(主にアニメーション)の企画・制作
    4. 3DCG映像制作
    5. イラストレーションの制作
    6. グラフィックデザインの制作
    7. キャラクターグッズの企画・製作
    8. 販促グッズなどのOEM商品の企画・製作
    9. WEB・ゲーム・デジタルコンテンツの企画制作
    10. 上記各号に付帯する一切の業務
  • 所在地:〒810-0024 福岡県福岡市中央区桜坂3-11-48
  • URL:http://www.happyproject.jp/
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