「ルールがない」のが会社の強み 常識にとらわれることなく新しい可能性にどんどん挑戦したい

福岡
株式会社シナプス 代表取締役 北村真一氏
福岡・天神発の国際FMラジオ局「LOVE FM 76.1」 の番組制作をはじめ、イベントの企画運営、広告やCMの制作、タレントやモデルなどの人材派遣、キャスティングまで、幅広い事業を展開する株式会社シナプス。18年前に同社を設立された経緯から多様な事業への広がり、今後の展望まで、代表取締役の北村真一氏にお話を伺いました。

人生後半は、自由にやりたいことをやるために起業

株式会社シナプスを設立されるまでのことを教えてください。

私はもともと西日本鉄道株式会社に18年ほど勤めていました。最初はバスや労務関係の担当でしたが、後半10年はソラリアプラザなどの天神再開発に携わりました。当時、都市再開発部門というのはまだ小さな部門で、都市開発専門の人材はほとんどいませんでした。ましてやソラリアプラザはファッションビルですから、ファッションに関する知識が必要で、テナントリーシングやマーチャンダイジング、ブランディングなども重要な業務になります。私は学生時代からファッションに興味があり、東京の大学に通っていて、まわりにそんな情報に長けている人が多かったため、比較的すんなりと新しい仕事に入ることができました。

それから、なぜ独立しようと思われたのでしょうか?

30代最後になり、人生前半は大きな組織で働いたので、後半は自由人になろうと思い、起業に至りました。当時は終身雇用が当たり前でしたが、私は自分の直感として、近いうちに終身雇用が崩れると感じていたんです。そんなこともあり、会社にしがみつくのではなく、自分でやりたいことをやろうと考えました。 また、西鉄に在職中から、私は純粋な西鉄カラーの社員ではない異質な存在だと思っていましたし、まわりからもよく言われていました。だから、外に出てみるのも面白いかなと考えたのも理由の一つです。

起業して、何をしたいという構想はありましたか?

最初はあまりなかったのです。これをやりたいから独立するという方もいますが、私の場合は、まず手にあるものを捨ててみようと思いました。ですから、退職して半年くらいは何もせずに、1ヶ月くらいフロリダなどを一人旅して、いろいろ考えました。そして、まずはできることからやっていこうと会社を設立してスタートを切ったのです。 最初の2年ほどで手がけたのは、都市開発のコンサルティングです。だんだん空洞化する九州の地方都市で、いくつかの再開発プロジェクトに携わりました。商店主たちと会合したり、設計や建築の人たちと組んで仕事をして、もちろんやりがいはあったのですが、自分が本当にやりたい事とのズレを感じるように・・・。そんなとき、FM局の仕事が舞い込んできたのです。

時代と社会のニーズに合わせて、事業を拡大

都市開発からFM局というのは、全く違う分野だと思いますが。

そうですね。これは古巣の西鉄から依頼された仕事でした。私は会社を辞める前、天神FMという西鉄のラジオ局の立ち上げプロジェクトに関わっていました。しかし開局して間もなく、経営があまりうまくいかなくなってしまったのです。私が描いたシナリオと若干ずれて経営していたものですから、その軌道修正に私が入ってほしいという話だったのです。それから番組制作を少しだけお手伝いするつもりが、どっぷりつかって今に至るというわけです。 西鉄で働いていた頃から、西鉄という大きな企業は、建物やインフラなどのハード面はとても強い一方で、今でいうコンテンツ=ソフト面はあまり得意ではないと感じていました。 そういう部分で、西鉄とコンテンツの両方を理解できる私にイベントや放送、人を扱う部分などのエンターテインメントを任せようと思っていただけたのかもしれませんね。

信頼されていたからこそ、仕事につながったのでしょう。

ただしビジネスですから、結果を出さないと半年や1年で終わりです。ラジオ局の運営を全面的に委託されて、半年後には黒字化し、それから18年間ずっと黒字が続いています。もちろん私一人の力ではなく、スタッフと一緒にやりましたよ。 当時は、コミュニティFMの開局ブームでしたが、日本で100数局あったFM局はほとんど赤字でした。それを黒字化して、経営として長く続けるという視点で中身や番組を考えました。

半年で黒字化したポイントは?

単純明快です。ラジオ界にはラジオ界の常識があるのですが、私はラジオ屋さんではないので、その常識を否定するところから始めました。私の頭にはラジオの標準コストもないため、会社の規模と売上規模と制作予算を考慮し、黒字になるベースで制作体制を組み直しました。そして、この範囲でやれることを一生懸命やりましょうと、身の丈に合ったものにしました。 また私の友人にローカルタレントがいるのですが、他の局なら例えば10万円だけど、私となら半額でいいよと言ってくれたりもしましたね。それがプロデュース力の一つだと思います。予算が限られていても、素人の寄せ集めでやるのではなく、少なくてもお金は払うから責任を持っていい番組を作ってくださいとお願いして、何とかうまくいきました。

人間関係があってこそですね。

サラリーマン時代はバブルでよく遊んでいましたので、人間関係はありますね。福岡のローカル性を考えると、ビジネスライクにお金や契約上で人と人がつながるのではなく、いかに一緒に遊んでいたかという共通項が信頼にもつながると私は思います。仕事だけの付き合いなら、仕事の切れ目が縁の切れ目になってしまう。けれども、一緒に過ごした友達は、仕事以外でも一緒に美味しいものを食べたりイベントをしたりとつながっている。いろいろな形で、当時の友達に支えられていますね。

ラブエフエム

LOVE FMの番組制作の他、様々な分野へ事業展開している。

そこから、イベントなどの事業に広がっていったのですね。

まずはラジオをベースにやっていましたが、インターネットや携帯などの波がきて、ラジオという媒体の必要性が縮小してきました。そこで、ラジオ以外のメディアとミックスして、イベントやWeb配信などに領域を拡大したのです。また、人がコンテンツとなり、面白い人を発掘したり、プロデュースしたりというニーズが出てきた。それで才能ある人たちを抱えるプロダクション事業やスクールの運営も始めました。 LOVE FMも担当するようになり、外国人の方々も所属していますが、ラジオの仕事だけで生活していけるわけではないので、他のイベントやメディアなどマルチに活躍できる場を作ってあげたいですね。いろんなことをプロデュースできればと考えています。

 
ラブスタ

LOVE FM パークサイドスタジオ(通称「ラブスタ」)

ちなみに、この時代だからこそのラジオのよさは、どんなところだとお考えですか?

テレビは、画像が見える範囲にいなければならない媒体です。一方のラジオは、歩きながらでも運転しながらでもパソコンを打ちながらでもご飯を食べながらでも聴ける。何かしながら聴いていて、自分にひっかかる曲がかかったり、ハッとする言葉に出会ったり、クスッと笑えるトークがあったり...。ラジオを聴くことが目的ではなく、生活の中のBGMぐらいの感じでいいんじゃないかと思っています。

女性が働きやすい環境を整え、新しいことにも挑戦

御社の強みはどこにあるとお考えですか?

ルールがないことでしょうか。うちは何屋さんという看板がなくて、何をしなきゃいけない、何をしちゃいけないというルールがありません。やりたいことや思いついたことがあれば、どんどん言ってもらえれば、できる限りチャレンジしたいと思っています。 それは社名のシナプスにもつながります。シナプスは神経細胞の刺激伝達物ですが、時間が経てばあるものは消滅し、また再生していく。常にリストラクチャーしながら生み出されていく、リプロダクションしていくということですから。うちの事業も都市再開発からラジオ、今はプロダクションに通販も始めました。可能性があるものはどんどんやっていって、ダメなものはどんどん片付ければいいと考えています。

今後の展望をお聞かせください。

会社を何倍も大きくしたいとか、いつか自社ビルを建ててやるとか、そういう野心は正直持ってないんです。いつも言っているのは、みんなで楽しく、幸せ度を増して仕事ができたらいいなということ。今、うちの社員は大半が女性なので、女性が結婚しても子育てしながらでものびのびと働ける環境を作りたい。実際に会社に子どもを連れてくる社員もいます。また、子どもの保育園送迎や帰りにスーパーに寄るために車通勤できるよう、この天神のど真ん中に会社で駐車場を借りているんですよ。子どもがいることでまわりの人も楽しく和み、互いに良い効果があります。優秀な女性が多いため、女性が働きやすい職場になることが会社の発展にもつながると考えています。 また、在宅でできることは在宅でやればいいと考えています。うちではネット通販やホームページの管理は在宅でできますね。私は机の上で書類を書いたりパソコンを打つのが仕事だと思っていないし、私自身も基本的に会社にいません。今は携帯もパソコンもネットもあり、机に張り付いていなくても仕事ができる時代ですから。

いつも時代の1歩先を見て行動されていますね。

1歩ならいいのですが、3歩行くものだから「行きすぎ。1歩くらいにしてくれないか。」と注意されるんです(笑)。早すぎる傾向にあるので、もう少しゆっくり行かないとダメだなと思っています、はい。

クリエイターには本物をたくさん体験してほしい

クリエイターの方にメッセージをお願いします。

私自身はクリエイターではないのですが、何でもゼロから創造するのは難しい。ものを生み出すのは、経験値の集大成だと思います。ですから、いろんなことに興味を持って行動することですね。私は性格がミーハーで、世の中で話題になっていることや興味のあることには、何でも首を突っ込むんです。 今は情報化時代で、大概の情報はネットなどで入るけれど、デジタルな情報ではなく、自分で体験したアナログな体験でないと「本当のモノ」にはならないと思います。 私は世界35か国くらいを訪れましたが、実際に行き、街を歩き、店に入り、そこの人たちと語って・・・ということをしないとダメ。福岡の飲食店にしても、雑誌やネットで見るだけではなくて、実際に行って食べて自分の舌に合うか、店の雰囲気がどうか、友達を連れてこようと思うかなどは、行かないとわからないですよね。 疑似体験でもいいけれど、特にクリエイターなら本物を体験してほしい。そうではないと、本物のクリエイトはできないのではないかと思います。

人との付き合い方にもコツがありそうですね。

私はもともと人と関わるのが好きで、男女問わず、いろんな人と話をするのが楽しい。私はお酒を1滴も飲まないのですが、お酒がなくてもお付き合いできます。酒飲まない、たばこ吸わない、ギャンブルしない、ゴルフやらない。一般的な50代の社長さんやおじさんとは行動が違うと思います。その時間やお金を旅行などに使っているんですよ。

将来、海外でビジネスしたいという考えはありますか?

はい、あります。今、LOVE FMは海外のFM局とどんどん業務提携しています。うちの会社も外国人スタッフが増えていますから、今後は外国とビジネスも含めて何かできればいいなと思っています。それは私の世代ではなく、次の世代かもしれませんが。

海外が好きで、それが仕事に活かされているのが素晴らしいですね。

私は小学生のときから乗り物が好きで、中学生からバンドを組み、音楽も好きでした。それで、乗り物を扱う西鉄に就職して、今はラジオで音楽に関わる仕事をしている。子どもの頃に好きだったことや夢中になったことを仕事にして食べていくことができているので、幸せだと思います。 皆さんも自分の好きなものをどうビジネスにつなげるか、考えてみたらいかがでしょう。それで起業して、好きなスタッフを雇い、理想の会社を作る。それが幸せな道の一つだと思いますよ。

取材日:2014年5月22日

株式会社シナプス

  • 代表取締役:北村真一
  • 設立年月:1996年7月
  • 事業内容:人材派遣業/キャスティング/音楽プロデュース・プロモーション/広告全般の企画・制作・代理業務/ラジオ番組企画・制作/CMの企画・制作/イベント企画&運営/スクール運営
  • 所在地:総括事業部
    • 〒810-8516 福岡市中央区今泉1-12-23 西鉄今泉ビル5F
    • TEL:092-731-5192
    • FAX:092-731-5190
    • URL:http://www.synapse-web.jp/
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