アニメ2020.08.26

「日本のアニメは、10年、20年経って飽きられないか?」クリエイターが「商売」をするために必要なこと

東京
株式会社テラエフェクト 代表取締役 クリエイティブディレクター
PO-LUN TSAI
蔡 伯崙

数々のアニメーション制作会社で実績を上げてきた蔡伯崙(サイ ハクリン)さんが株式会社テラエフェクトを立ち上げて、3年。クリエイターが満足に成長できて、世の中に評価される環境を目指す姿は、さながら求道者のようだ。後進の育成に力を注ぎながら、企業のブランド力を高めている蔡さんに、会社の立ち上げから展開している事業について、そして、台湾や中国のアニメ文化にも触れながら、「クリエイターが培うべき力」とは何かに迫った。

やりたいことができて、おいしく食べれて、世の中に評価される環境を志す

台湾のご出身と伺いましたが、日本のアニメーションに興味を持ったきっかけは何ですか?

大友克洋さん原作のアニメ映画『老人Z』です。日本アニメの奥深さに感銘を受けて、そのカルチャーショックによってすっかりアニメオタクになりました。大学は機械工学を勉強しましたが、最終的にアニメ業界に入ることを決意し、2006年に東京デザイナー学院アニメーション科に入り、12年のキャリアを積んで今に至りました。

会社立ち上げまでのキャリアを教えてください。

最初は撮影会社T2スタジオに3年ほど勤めて、その後は3D制作会社デジタルフロンティアに転職しました。丁度台湾に子会社を立ち上げたところで、プロダクションマネージャーとして入って、しかも人事総務の業務まで関わることによって社長たちの仕事を見ることが出来て、自分の人生の中では一番濃厚な時期でした。

でも、クリエイター業に未練があったので、次はショートムービーを特化する映像会社ポイントピクチャーズで撮影監督をやりました。その後はアニメ制作会社MAPPAに移籍して、主にはアニメ『牙狼-GARO- 炎の刻印』のエフェクトを担当。最後に、株式会社ランドックスタジオでデジタル撮影部の創設を手伝い、当時にやりたいことを尽くした所で起業しました。

きっかけは何だったのでしょうか?

これまでの経験から、自分が思い描く「クリエイターが成長できる環境」は、自分で作るしかないという結論に至ったのです。理想論ですけど、「会社の中でやりたいことができて、おいしく食べれて、世の中に評価される」環境を作りたいと思っています。商業の世界だから、売れるのは大事なんですが、クリエイターとクライアント両方ともちゃんと満足できるような座組を実現したいのです。

クリエイターはサラリーマンと違って保障がなく、多くは成果に対する報酬だけです。つまり自分の力を相手に認めさせて、自分のブランド力を培い、今度は「腕を買いたい」と頼まれるようにならなくちゃいけない世界です。会社を立ち上げて3年。まだ模索中だけど、ちょっとずつ業界の方々に評価して頂きながら、社員も徐々に増えてきて、会社風土をどう作るか最善を模索している所です。

「もうちょっとできないか?」を語れるような提案力

企業として新しい環境を作るために、実施していることはありますか?

今までの企業では、職人として分業する各ポジションで機能すればOKという考え方でした。ただ、分業をしても、皆が向き合うのは「作品」なんですね。だから私が求めているのは「完全調和」です。

皆が同じ思考である必要はなくて、皆がハモってシンフォニーを奏でるもの。完全調和がとれた作品を作るためには、皆が監督と同じくらいの気持ちで作品を愛さないといけない。「作品を愛しながら、私たちは何ができるかを考える」と、私がスタッフたちに日々教えています。

例えば、撮影に関して、どうしようもない素材ばかりで困ることもある。でも、「こんな素材だからこれぐらいしかできなくても仕方ない」ではなくて「もうちょっとできないか?」を語れるような「提案力」を大事にしています。自分は良く「調理」の例えにしますが、映像の調理方法によってクオリティは全然違います。

現在の事業内容を教えてください。

業務の割合としては、テレビシリーズのアニメ撮影業務が一番多いです。他にもコマーシャルや、企業の社内向け映像なども手掛けています。また、来年からはモーションコミック事業への参入を考えています。

基盤がアニメであることは変わらないですけど、その特性を生かしながら将来的には「映像になるものならなんでも作る」会社になりたい。アルバイト時期で少し参加した特撮作品や映画『進撃の巨人』実写合成の仕事も経験した身として、実写や特撮の仕事も積極的にやりたい。アニメ畑から来た人間はどういう化学反応を作れるのか試したい。

日本と中華圏が思う「良い日本アニメ」に違いがある

生まれた環境や、生い立ちが作品に反映されるのではないでしょうか? 日本と他の国では、作品の表現方法に違いはありませんか?

あります。例えば台湾のアニメファンはゆるく動く絵よりも、『キルラキル』など、株式会社トリガーさんの人気作品のような変化の早いトリッキーな絵が受ける印象を感じています。

そして自分の仕事経験からすると中国が思い「良い日本アニメ」と、日本国内で評価される「良い日本アニメ」は、文化性の目線からすると全く異なります。中国では、国の発展の過程が起因して「盛るもの」「丁寧に仕上がるもの」が好まれます。ハリウッド映画に対する感覚のよう、「ゴージャス=ハイクオリティ」的な所が判りやすいでしょう。

でも自分が感じた日本アニメのいい所はそればかりではありません。歌舞伎や浮世絵の庶民文化から発展したものですので、けれんみをどう味付けするのが一番面白い所です。

アジアの他の国もアニメを作っていますね。アジアのアニメ文化は一つになっていくと思いますか?

私はなってほしくないと思いますね、正直に。最近は中国もディズニーの良いところを取り込むなど、制作に8年を費やした『西遊記之大聖帰来』という面白い作品を世に送り出しました。この作品は中国のクリエイターの目線でしか作れないものですよ。私にとってその地域にしかないアイデンティティを理解したうえで、「面白い物とは何か?」を突き止めることが重要です。

文明の利器によってクリエイターの能力が落ちている!

海外の人材育成もされていると伺いましたが、どのような形でされていますでしょうか?

去年はオンラインでの撮影塾を3カ月間、台湾の社団法人と組んでやりました。最終的には1人を採用しました。撮影塾を終えてみて、こういう塾を日本でもやるべきかなと思いましたね。仕事のスキルを習得するのはもちろん、なぜこれを使って、こういうプロセスを踏んでこんなことが出来るのかという原理原則を参加者にしっかり理解してもらいたい。

そして大事なのは手法ではなく「ひらめき」です。弊社の会社ロゴにもひらめきの表現を入れました。現在のデジタル撮影ではAdobe After Effectsを用いた手法に限られてしまうかもしれないけど、それが撮影のすべてだと思われたくないのです。ネットで検索すれば情報がすべてそろう時代になって、「方法を考える能力」が急激に落ちて、それが撮影の表現力が下がることに直結していて、その傾向が最近の作品に表れています。

趣向を凝らしたアナログの手法で作られた作品を見て、デジタルのツールで負けないものを作れるか考えてほしいとスタッフに言って、自分も日々考えています。

昔に比べて創意工夫する機会が減っているんでしょうか?

創意工夫できる幅が全然違うんですよね。しかもAfter Effectsにもいろいろな素材を読み込めるのに、現場で「新しく素材を作ろう」っていう発想が意外と少ない。もちろんソフト開発会社側もエフェクトを更新するけど、実写用が多くてアニメ向きのものは少ない。そう考えると10年20年30年経って、観客に同じ絵を見せるのか? 飽きちゃうじゃないですか。

独創的な絵を期待しちゃいます。

有名なレオナルド・ダ・ヴィンチが生まれたアトリエを知っていますか? そこには、絵画をはじめさまざまな物を作る生徒たちが集まっていた素晴らしい環境です。ダヴィンチはその環境で、たくさんの影響を受けたから、あんな発明家になったんじゃないかな、と考えました。私はこの会社をそのようなアトリエにしたい。皆それぞれ面白いことをやって、刺激しあって、その中に1人のダヴィンチがいたら、爆発的に面白いことが生まれることを期待しています。

ダ・ヴィンチを生むためには、刺激を持つ人たちが集まっている必要があるんですね。

私は、撮影監督としては変わったスタイルでやっています。部下にはサンプル通り作業するよりも、「サンプルを通して、どういう空間で、どんな照明なのか。どう処理すれば、一連のシーンはそのような雰囲気になるのか想像しながら撮ってください」と指示します。必要なときは、「こういう感じのものが欲しい」に対して参考資料を集めてきます。

クリエイターって絵で語るものだから、言葉だけでは伝えきれないこともあります。それ故に自分の時間が全然足りないのです(笑)。たぶん私が誰より一番早くに来て、一番遅く帰るんじゃないかと。スタッフに「やることがなくなったら今日は早く帰りな」と言いながら。話題から逸れてしまいましたが、ディレクターをやるためにはその覚悟が無いと続かないと思います。

最後に、アニメ業界の新人さんたちにアドバイスをいただけますか。

私たちは「クリエイター」でありながら、「商売」をしています。「自分はこれができる」、に対して同時に「あなたのためにこれができる」というアピールをしています。両立できないと今の世の中では食べていけません。 そして、会社に入ったからといって商売のことを考えないようでは、きっと会社に籍があるだけで終わりです。貨幣価値の決め方をご存知でしょうか? 一言で「信用」です。給与の額は、その人に対する「信用」、そしてクライアントからもらう額も、「信用」で決まる。だから応えないといけないのです。応えられない人に、次はない。仕事で信用を失ったら、次はない。そのくらいシビアな気持ちで働いてほしい。

取材日:2020年7月13日 ライター:渡辺 りえ

株式会社テラエフェクト

  • 代表者名:代表取締役 蔡 伯崙
  • 設立年月:2017年
  • 資本金:500万円
  • 事業内容:
    1. アニメーション撮影
    2. 3DCGコンポジット
    3. 実写合成
    4. 国内海外向け短編映像企画、制作 5. イベント企画、プロデュース
  • 所在地:〒164-0011 東京都中野区中野中央4-25-14 中央ハウスC号室
  • URL:http://tera-effect.com/
  • お問合せ先:http://tera-effect.com/contact/

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP