グラフィック2020.08.12

デジタルにはない「味」が出せる、シルクスクリーンの魅力とは?

名古屋
原プロアート株式会社 代表取締役
Shuji Taniguchi
谷口 修嗣

シルクで版下を作ってプリントするシルクスクリーン印刷と、機械でさまざまなインクを吹きつけるインクジェット印刷の技術を駆使して、ありとあらゆるものへのプリントを手掛ける「原プロアート株式会社」。お客さまの思いを最も効果的な形で打ち出すことに情熱を注ぐ代表の谷口修嗣(たにぐち しゅうじ)さんに、シルクスクリーン印刷の魅力や起業までの道のり、現在進行中の新店プロジェクトなどを伺いました。

シルクスクリーンに魅せられて

印刷の仕事をしておられますが、専門的な勉強はどのようにしたのですか?

デザイン科のある高校に進み、そこでデザインについて勉強しました。そのまま、“色を扱う仕事”がいいと感じて「原プロセス工芸」に入社しました。実は、京都の染物屋さんへの就職が早々に決まっていたのですが、その会社の諸事情により就職することが難しくなってしまい、それで慌てて就職活動を再開し、シルクスクリーン印刷を手掛ける原プロセス工芸にお世話になることになりました。

シルクスクリーン印刷は高校の授業で体験し、そのプロセスに引きつけられました。色を重ねていくことで徐々に完成に近付き、最後に乗せる黒色がズレずにビシッと決まったときに、なんとも言えない高揚感に包まれたんです。授業の課題では物足りず、自分で作業服にプリントしてシルクスクリーンを楽しんでいました。

「原プロアート」設立までの道のりを教えてください。

原プロセス工芸には、23年勤めました。そこで「シルク印刷」「製版」「版下デザイン」「営業」の4部門を経験したことで、会社のほとんどの業務を覚えることができました。すべての部門を経験した社員は、後にも先にも私だけだったようです。

さまざまな部門でスキルを重ね、とても有意義に過ごしていたのですが、インクジェット印刷の普及によって会社の仕事が徐々に減っていきました。勢いがある頃は50人ほどいた社員も次第に辞めていき、廃業が決まった頃には15人ほどになっていました。

辞めようとは思わなかったのですか?

他企業からヘッドハンティングの話も来てはいたのですが、移籍することにためらいがあったので断りました。営業の私には担当するお客さまがいますので、その方たちが困ってしまうことが見過ごせませんでした。社長に「会社の設備をそのまま使わせてくれませんか?」とお願いしたのが原プロアート起業のきっかけになります。

結局、オフィスと設備の使用を半年間だけ認めてもらうことができ、その後に現在の場所に移転、法人化しました。その際に、前の会社に残った印刷機器や材料を買い取りました。高額なインクジェット印刷機など、普通ではとても買えない価格で購入することができたので、今考えたらラッキーでしたね(笑)。

すべての仕事が一回勝負という緊張感

現在の事業内容を教えてください。

シルクスクリーン印刷とインクジェット印刷の技術を駆使して、看板やサインをはじめポスターや布、壁紙、名札、ステッカー、のぼり、のれんなど、ありとあらゆるものへの印刷を手掛けています。

場合によっては、シルクスクリーンを刷る道具を社外に持ち出して、お客さまの建物内で必要な壁面案内やサインを直接印刷する「現場シルク」も行います。

面白いですね! 会社の強みはどこにありますか?

30年以上のノウハウがありますので、「何か困ったことがあったら谷口さんに相談すればいい!」と信頼いただいている点だと思います。

工業製品と違って、私たちが取り扱う印刷物は同じ仕事がリピートすることはまれです。それゆえ、すべての仕事が一回勝負という緊張感があります。無理難題を相談されることも少なくないのですが、その課題に応える醍醐味(だいごみ)もあります。また、相談されたことには、できるだけ早く返答をする、スピード感も当社の強みだと感じます。

インクジェット印刷とシルクスクリーン印刷それぞれの魅力は?

まず、インクジェット印刷は、何と言っても技術の進歩が素晴らしいですね。以前は色が薄かったり、にじんだりといったトラブルが頻発したのですが、最新の印刷機は驚くべき精度で、これらの機械を考えた人、作った人は本当にすごいと思います。また、デザインしたデータをそのままデジタル出力できるのも大きな魅力ですね。

次に、シルクスクリーン印刷の魅力は、デジタルにはない“味”だと思います。当社では手刷りにこだわっているのですが、同じ道具を使っても刷り手によって仕上がりに大きな差が出ます。

1色ずつ色を重ねていく手法のため、ズレが生じないよう五感を研ぎ澄ませて集中力を高めて作業を行うので、思った通りの仕上がりにピタッと決まったときの達成感と高揚感は、言い尽くせません。私は手刷りのシルクスクリーン印刷を“アート”だと思っています。

谷口社長が日々心掛けていることを教えてください。

依頼された仕事を丁寧に仕上げることはもちろんですが、初めてのお客さまであっても、付き合いの長いお客さまであっても、同じ対応で、お客さまを区別せず、親身になって相談事に耳を傾け、解決の手助けになればと考えています。

シルクスクリーンの魅力を伝えるショップをオープン

原プロアートの今後の展望をお聞かせください。

現在の事業を継続しながら、2020年8月に体験型のショップをオープンします。シルクスクリーン印刷のショップは「チームTシャツを作れますよ!」などと宣伝して、依頼があったものをプリントするというスタイルが主流ですが、私は全く違うアプローチをしようと考えています。

どのようなアプローチを行われるのですか?

私が考えているのは、注文を受けるショップではなく、お客さま自らがデザインやプリントを行える工房です。シルクスクリーンという名前は知っていても、実際の印刷工程を詳細まで知っている人はほとんどいません。デザイン→製版→刷り上げのすべてを体感いただくことで、シルクスクリーン印刷の魅力を発信していけたらうれしいです。

現在(2020年6月)の構想では、ターゲットはクリエイターや若い女性、お子さまがいるファミリーなど。明確な用事がなくてもふらっと立ち寄って楽しめる空間にしたいです。

ショップ立ち上げに関連して、世のクリエイターにメッセージをお願いします。

シルクスクリーン印刷は、頭と体を動かして、目で見て確認する印刷手法です。頭の中に描いたイメージやアイデアを印刷物というカタチにするためにいろいろ考えたり、工夫したり、ときには失敗したり…というプロセスから、さまざまな“気付き”を得られると思いますので、ぜひショップに足を運んでください。私が丁寧にアドバイスしますので、クリエイターとしての経験値もアップすると思いますよ!

また、昨今はデジタルやウェブ関連のクリエイティブが活況ですが、シルクスクリーン印刷にはパソコンでは完結しないアナログならでは醍醐味(だいごみ)があります。仕上がりに違いが出る楽しみや、自身の作品が別のものに転写、複製されていく喜びを、ぜひ体感してください。

取材日:2020年6月23日

原プロアート株式会社

  • 代表者名:代表取締役 谷口 修嗣
  • 設立年月:2008年8月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷、その他
  • 所在地:〒454-0828 愛知県名古屋市中川区小本1丁目19-3
  • 電話番号:(052)369-1125
  • URL:https://haraproart.com
  • お問い合わせ先:

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