地方でも成立するクリエイティブな仕事を目指し、音楽やVRコンテンツの充実を図る

富山
株式会社スプラウト 代表取締役
Naoki Fujihisa
藤久 直樹

「地方の時代」「地方創生」とうたわれて久しいですが、クリエイティブな仕事はどうしても首都圏に集中してきました。なんとか状況を変えて、地方に拠点を置く制作会社の営業を伸ばせないものか。富山市でゲームの音楽制作やVR(バーチャル・リアリティ=仮想現実)コンテンツ制作などを手掛ける、株式会社スプラウトの代表取締役・藤久直樹(ふじひさ なおき)さんは富山県富山市に拠点を置きながら、働く場所を選ばない仕事の仕方を探りながら、若いクリエイターの育成にも力を注いでいます。

遊技機の音源にコンペで採用され、チャンスが広がる

会社設立の経緯をお聞かせください。

2004年に富山市でコマーシャルやイベントの音源を制作する個人事業として、妻と2人でスプラウトを創業しました。営業として、東京の制作会社にデモ音源を送り続けていたところ、音楽プロデューサーとつながる機会ができ、遊技機のサウンド制作コンペへの参加を打診されました。2007年のことですね。ありがたいことに、参加したそのコンペで私たちの作品が高い評価をいただき、採用が決まりました。

これを機に、ゲームや遊技機などのサウンド制作の受注が広がって、2012年に株式会社スプラウトを設立したのです。

社名の「スプラウト」にはどんな思いが込められていますか?

「スプラウト」は英語で植物の新芽を意味します。最初に事業を立ち上げた時、富山には音楽に特化したコンテンツ制作会社はほかにありませんでした。音を大切にする、その気持ちを事業の柱に据えた会社として、この地で芽吹いていきたいという思いを込めました。

藤久さんのご経歴を教えてください。

富山市出身で高校卒業後、金沢市内の専門学校に通い、映像や音響、レコーディングなどについて学びました。高校時代からパソコンで音楽を作るDTMを独学で勉強しており、将来はゲームサウンドに携わりたいという気持ちを強くもっていました。

卒業後、どこに就職されたのですか。

地元にいても自分が思うような職種がなかったので20歳で上京しました。仮採用ではあったのですが、サウンドプログラマーのアシスタントとして音楽制作会社に入社することができ、スタジオ業務や営業などの経験をさせていただきました。

上京後、音楽制作会社で働き始めましたが、その後はどうされたのですか?

上京してから2年がすぎた頃、富山の方から音楽制作の仕事をいただくようになりました。その後、地元から度々仕事をいただくようになり、富山に戻る事を視野に入れ始めました。

また、地元の知人から制作会社を設立したいので手伝ってほしいとの話になり、東京に残るか悩んだのですが、親、友人がいる富山にUターンすることを選びました。ですが、計画が頓挫してしまい、自身でやっていく事を決意しました。実家の一室を仕事場にしてスタートしたのですが、すぐに食べてはいけなかったので、別の仕事をしながら二束のわらじでしのいでいました。

2007年に東京の制作会社さんからのお声がけでチャンスをいただいた事が、その後の転機となったのでしょうか。

そうですね。そこから仕事が広がっていきました。別機種のサウンド制作をさせていただいたり、ニンテンドーDSなど家庭用のゲーム機の音源制作を受注できるようになり、状況がかわっていったのです。

法人化に次いで、2014年には自社でレコーディングスタジオを整備し、さらにレベルの高い受注にも対応できるようにと設備を整えました。おかげさまで、さらにクオリティの高い作品を提供できるようになり、クライアント立ち合いでのレコーディングにも対応できるようになりました。

北陸新幹線開業PR動画で受託制作から自社発信に乗り出す

その後、さらなる飛躍のチャンスは?

実は、2015年の北陸新幹線開業時に富山県がPR動画を制作することになりました。「待ってたよ 北陸新幹線 富山県Ver」と題するその動画の挿入歌「I became the wind」の作詞・作曲・編曲を私と現在育休中の妻で担当しました。動画が公開されると、楽曲についての問い合わせが会社や県に相次ぎ、CD販売や音源配信にも乗り出しました。

それまでは単純に受託制作中心だったのですが、企画から制作、販売まで一連の流れを初めて経験しました。プロモーションイベントやメディア対応、ライブ開催など初めて体験することも多く、自社で発信する大変さと面白さを知ることができたのは、大きな収穫となり、人脈も広がりました。

現在の事業内容についてお聞かせください。

音楽・効果音制作をはじめ、2016年からはVRコンテンツの制作も積極的に提案を行っています。行政の観光VR映像や工場見学VRなどさまざまなコンテンツを制作しています。

例えば、石川県かほく市・津幡町・内灘町の3市町で構成する「河北郡市観光企画委員会」から発注いただいた観光PR用のVRコンテンツでは、サマーフェスタの花火(かほく市)や内灘海水浴場(内灘町)、河北潟干拓地のメタセコイア並木(津幡町)などの疑似体験が楽しめるのです。ゴーグルで視聴すると更に臨場感があり、若者だけでなく高齢者からも美しい映像に好評をいただきました。

新たな事業として、VRコンテンツに注目したきっかけはありますか?

2016年に「東京ゲームショウ」でVRに出会い、大きな可能性を感じてVRコンテンツの制作に力を入れるようになったのです。現状は音楽や効果音制作で売り上げの7割ほどを占めますが、映像制作なども含めたVR・AR関連が3割ほどに伸びてきました。

地方に拠点を置きながら、仕事が成り立つように挑む

仕事をするうえで大切にされていることはありますか?

クライアントの要望に応えることが前提ですが、自分の好みに左右されない判断と先方が抱くイメージを上回る提案を心掛けています。

一緒に働いているスタッフに対しても、新しい知識や技術を日々学び続けてほしいと思っています。また、繁忙期では不規則になりやすいため、体調管理も大事にしています。お客さまの役に立ち、かゆいところに手の届く存在であり続けたいという気持ちが強いですね。

富山に拠点を置くメリットについてはどのようにお考えでしょうか?

都会に比べると固定費を抑えることができます。その分、設備に投資するなど、より良いものを作ることが可能となるので、「取り組みたい」ことに注力することができるのです。

さらに、本社のスタジオからわずか30分ほど行けば、マイナスイオンたっぷりの森林浴が楽しめる森があり、日本海の波音を聞きながら海風を感じる磯辺へと足を運ぶことができます。豊かな自然の恵みが与えてくれるインスピレーションは、都会では得ることのできないものであり、クリエイティブを生み出す基になっていると思います。

今後の課題をお聞かせください。

クリエイターの育成と首都圏への営業活動が大きな課題です。

デジタル化が進み、「どこにいても仕事ができる」とはよく言われますが、東京に数多くのクリエイター、制作会社が存在する状況は依然変わらず、地方だけに拠点を置く私たちのような会社が仕事を請けていくことに厳しさを感じています。

しかし、場所を選ばない仕事の仕方が徐々に確立されてきているので、ますます状況は変化していくと思っています。私たちは、才能があるクリエイターが場所を選ばずとも仕事をすることができる、そのような機会や場を作ることで貢献したいと考えています。

取材日:2020年5月26日 ライター:加茂谷 慎治

※オンラインにて取材

株式会社スプラウト

  • 代表者名:代表取締役 藤久 直樹
  • 設立年月:2012年11月
  • 資本金:200万円
  • 事業内容:音楽・映像・書籍などのコンテンツの制作・管理・製造・卸・販売 音楽著作権、原版権、商標権、肖像権、意匠権などの無体財産権の取得、使用許諾、譲渡および管理業務 音楽プロデューサー、ディレクターの育成および管理 作詞家、作曲家、演奏家、歌手の育成、音楽活動、タレント活動のマネージメントおよびプロモート業務 ゲームソフト・遊技機などの音楽・効果音制作 AR/VR/MRアプリケーションソフトウェアおよびコンピュータソフトウェアの企画、開発、制作および販売
  • 所在地:〒939-8087 富山県富山市大泉町2-8-8
  • URL:https://www.sprout-sense.com/
  • お問い合わせ先:https://www.sprout-sense.com/contact

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