プロダクト2020.04.15

気づく力とひらめき、そしてマーケティングで、新しい価値をつくる

札幌
株式会社エルアイズ 代表取締役
Akiko Yamamoto
山本 亜紀子

北海道札幌市で、マーケティングを軸に事業を展開している「株式会社エルアイズ」。創業から13年、もっとこうだったらいいなというサービスや商品を世の中に送り出し続けています。アイデアはどこから生まれるのか、それをどう形にしているのか。その原動力と原点を探るべく、代表取締役の山本亜紀子(やまもと あきこ)さんにお話を伺いました。

子育てと仕事を両立させるために起業した

起業のきっかけを教えてください。

きっかけは、子どもを預けられる保育園がなかったこと。それまで10年ほど専業主婦をしていて、仕事を再開しようとしたとき、保育園が満員で預けられなかったのです。仕方がないので、会社員よりは時間が自由になるのではないかと考えて個人事業を始めることにしました。大学を卒業して入社したリクルートではずっと営業職だったので、営業はできるからなんとかなると、半ば自分に言い聞かせていました(笑)。

札幌市主催の起業塾に通いながら、自分のできることや好きなこと、仕事になりそうなこと、北海道にはないビジネスなどを考えに考えて、「女性顧客視点アドバイザー」で起業することにしました。

「女性顧客視点アドバイザー」はどのような仕事ですか?

文字どおり、女性客の視点で企業にアドバイスする仕事です。

実は伏線となる話があって、子どもたちを連れて石屋製菓の白い恋人パークに行ったときのこと。楽しかったけれど、「こうだといいな」と惜しく感じることもありました。ふと見たら、石水勲社長(現会長)がすぐそばにいらしたので、思いきって声をかけました。気づいたことをわーっと伝えると、気を悪くなさるどころか、ありがとうとすごく喜んでくださったのです。

「お客さまの声を経営者に伝えて改善していただくこと」を仕事にできたらいいなと思ったことを覚えています。

「気づく」は武器ですね。それをどのように事業化なさいましたか?

もともと何かと気づくタイプ。それが誰かの役に立つならうれしいですよね。当時は資本が潤沢にあるわけではなく、大きなリスクを背負えません。鉛筆一本でできて100%利益になる仕事を模索していたので、そのときにふさわしい事業アイデアだと思いました。

「気づく」を売るとしたら、どの業界がいいか。昔から買い物が大好きで、スーパーマーケットやドラッグストアによく行っていましたので、まずはそこで「気づく」を生かせるのではないかと考えて、そこをターゲットに「女性顧客視点アドバイザー」として開業することにしました。100万円ショートしたら廃業しようというように考えたら、怖さが少し減りました。失敗したとしても勉強になるし、挑戦してみようと。

順調なスタートを切れました。自分のできることと好きなことが重なった仕事だから、無我夢中で取り組み、成果を出すことに必死になれたのかもしれません。おかげさまで資金も貯まり、約1年半後に法人化、「株式会社エルアイズ」を設立しました。

初めての仕事はどのような内容でしたか。

北海道の地域密着型スーパーマーケットの社長に手紙を書きました。愛着がありましたし、ホームページの社長あいさつの文章を読んで共感したからです。 手紙には、女性の顧客目線で商品や陳列に対するもっとこうだったらいいのにと思うこと、気づいたことを書き連ねました。もっと女性のお客さまのお気に入りのスーパーとなれるはずで、その手伝いがしたいので一度会っていただけませんかということも併せて書いて送りました。

そうすると、その会社の常務から電話があり、「主婦に会うのは前代未聞ですが、社長は会うと言っています」と。本当に会って話を聞いてくださいました。企画書を何度も手直しして、役員会議でプレゼンして、最終的にコンサルティング契約を結んでいただけることになったのです。

最初の仕事は、惣菜・弁当の開発。売上は伸びているけれど、男性好みの商品が多いので、女性が買いたくなるお弁当をつくってほしいと依頼されました。惣菜やお弁当の製造センターに通いながら、女性に喜ばれそうなお弁当を開発しました。しかし、最初に開発した商品が、思いのほか売れませんでした。

理由がなかなか分からなかったのですが、「自分がターゲットではないからだ」ということにそのうち気づきました。私は料理が好きなので、お弁当を買った経験がほとんどなかったのです。お弁当を買っている人の声を聞かないことには話にならないと思い知りました。そこで、周りにいるお弁当を買う人にヒアリングをしてみました。分かったのは、持ち上げて軽いと感じたお弁当には手を出さないということ。「いろいろなものを少しずつ食べたい」という女性ニーズは満たしていたけれど、働いている方が多いので、ボリュームがあって腹持ちのいい内容が好まれるようなのです。ターゲットの声を聞く仕組みが必要だと痛感しました。それでつくったのが「主婦ラボ」です。

時代は「主婦ラボ」から「ドーモニ」へ

「主婦ラボ」とはどのようなサービスでしょうか。

主婦をメインとしたモニターサイトで、飲食店の覆面調査や食品の試食、化粧品の試用、アンケートやグループインタビューなどを実施したい企業と、生活者の声をつなぐサービスです。集まった情報を分析して企業に届けることで、商品開発やサービス向上に役立てていただけると考えました。

スタート時は、紙でアンケートや意見を集めていましたが、あるとき、リクルート時代のお客さまに「主婦ラボ」の話をしたところ、「なんでインターネットでやらへんの!」と叱責されまして……。当時は毛嫌いしていたインターネットを使ってみることにしたのです。

「主婦ラボ」は必要性と人脈から生まれたのですね!

あとは時代性もあったと思います。当時はいまほどSNSが発達していないので、主婦が自分たちの声を発信する場も、企業が生活者の声を集める場も限られていました。スーパーの陳列や商品構成、パッケージなどに思うことがあったとしても、その声は企業に届きません。それは企業にとっては損失です。主婦と企業が一緒になって、ニーズや要望を叶えるのが理想だと考えて、「主婦ラボ」は〈主婦から発信して世の中を変える〉を目的としました。

いまは、誰もが自由に発信できるようになり、「主婦ラボ」は役目を終えたと思います。そこで思いきって昨年、「ドーモニ」へと切り替えました。

「ドーモニ」が「主婦ラボ」と最も異なる点を教えてください。

一番大きな違いは、「ドーモニ」は性別や職業などの属性を問わずにモニターを募っていること。近年は、多様な属性のモニターが求められることが増えています。そこで、「女性」「主婦」に限定せず、16歳以上の男女に登録いただく仕組みにしました。サービス名も北海道のモニターサイトということで「ドーモニ」としたのです。

企業からご依頼いただくと、まず私たちはドーモニ登録者に募集情報を配信します。応募者の中からモニターを選定して、さまざまな声を集め、分析してから企業に調査結果をお伝えするのは「主婦ラボ」と同じです。マーケティングでいうとリサーチ(市場調査)の仕事にあたります。

「北海道おみやげ研究所」という挑戦

成長が期待されるお土産業界にも進出なさっていますね。

2018年に「北海道おみやげ研究所」を設立しました。新千歳空港の老舗土産店「スカイショップ小笠原」やネットショップ「北海道お土産探検隊」を運営する山ト(やまと)小笠原商店と、エルアイズのコラボレーションです。発端は、小笠原商店の小笠原航社長のPB(プライべートブランド)商品をつくりたいというご相談でした。「研究所」という形にしたのは、シンボリックで発展させやすいと見込んだためです。

どのような仕組みなのでしょうか。

食材や加工品をつくる技術のある生産者・製造者(作り手)、販路と販売のノウハウを持つ小売店(売り手)、市場の動向や売れ筋を読むマーケティング会社(買い手)が手を組んで、商品の企画・開発から販売までを手がけます。三者が協力することで、商品アイデアから製造上の工夫、パッケージデザイン、プロモーション手法などを出し合い、一つの商品を作りあげる仕組みです。

この2年間で5つの商品を世に出しました。千歳市で収穫されたじゃがいもととうもろこしを使ったフリーズドライのお菓子「じゃがもろこし」やアーモンドパイクッキー「恋の街さっぽろ」は、菓子メーカーとコラボレーションした商品です。一方、豊富町の牛乳を原材料とした「TOYOTOMI BUTTERSAND」は、豊富町の牧場主さんから「町のお土産菓子をつくりたい」という連絡を受けて取り組んだ商品です。

これからの目標をお聞かせください。

今年は6つの新商品を発売する予定です。目標は、ロングセラーのヒット商品にすること。

「北海道おみやげ研究所」は成功報酬制にしています。中小企業に活用していただきやすいと考えたからです。いま、アイデアを商品化する環境を拡充していまして、製造工場も、販路も増えてきました。やる気と情熱のある企業を盛り上げていきたいです。

ひらめきのモト、挑戦を支えるモノ

どの仕事も絶妙な「ひらめき」から生まれています。ひらめくためには?

とにかく考える続けることです。そのことばかりずっと考えていると、何かを見たり聞いたりしたときに、ふと思いつくことがあります。それが「ひらめき」の正体ではないでしょうか。

「主婦ラボ」のときも、あれこれと考えながら、関連本を20冊ほど買い込んで読みました。頭の中が情報と知識で満杯になったとき、アイデアがぽっと浮かんだのです。その3日後には制作会社にウェブサイトの制作を発注していました。「北海道おみやげ研究所」のときも同様です。

チャレンジングな仕事をするために大事にしていることは?

リスク分散は大事だと考えています。「北海道おみやげ研究所」の運営で感じるのは、販路が複数あると強みになるということ。エルアイズも複数の事業を育て、安定経営を目指しています。経営が安定して余裕が持てれば、次世代に必要とされる仕事や企業と意義深いコラボレーションへの挑戦を粘り強く継続することができます。

最後に、クリエイターへのメッセージをお願いします。

「北海道おみやげ研究所」では、北海道のグラフィックデザイナーの方々に商品のパッケージやロゴマークのデザインを依頼しています。デザイナーさんたちと出会いたくて、デザインを公募したこともありました。さまざまなスキルをお持ちのクリエイターのみなさんとおもしろい仕事がしたいと思っています。関わるみなさんが妥当な利益を長く得られ、地域の活性化やお客さまの笑顔につながる商品をどんどん生み出していきましょう!

取材日:2020年3月4日 ライター:一條 亜紀枝

株式会社エルアイズ

  • 代表者名:代表取締役 山本 亜紀子
  • 設立年月:2007年9月
  • 資本金:1000万円
  • 事業内容:マーケティングリサーチ・コンサルティング、コンテンツ制作代行、北海道おみやげ研究所
  • 所在地:〒064-0822 北海道札幌市中央区北2条西28丁目1-18 円山パークハイツ216
  • URL:https://www.l-eyes.com
  • お問い合わせ先:上記HPの「お問い合わせメールフォーム」より

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