グラフィック2019.09.04

「なんとなくいい」のためのデザイン

福井
六感デザイン 代表・アートディレクター・グラフィックデザイナー
Yasuto Noji
野路 靖人
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親しみやすく、洗練されたデザインのパッケージやチラシが幅広い年代の人々の心を捉えている『六感デザイン』。お菓子やピクルス、ぽん酢などに添えられた、シンプルだけど気どりのないイラストには、誰が読んでもその趣意が伝わるキャッチコピーやコメントが添えられています。一瞬で「いいな」と思わせるグラフィックデザインと、顧客と深い信頼関係を築きながら進めるブランディングの取り組み等について代表の野路靖人さんに伺いました。

企業や商品の魅力を一瞬で伝えたい

独立までの経歴を教えてください。

大学卒業後、地元に戻り、福井市内の制作会社でグラフィックデザインを手掛けました。広告代理店からの仕事が中心で、イベントのチラシやポスターなどのデザインが多かったですね。8年間勤めた後、独立しました。

独立に当たって、何かきっかけがありましたか。

実は、計画的に独立したわけではなく、仕事でやり取りしていた広告代理店の方から「独立しないの?」と声をかけられたり、子どもが生まれたことで、妻からそれとなく促されたりしているうちに決心した感じです。「独立すれば、自分なりのやり方ができる」といった漠然とした思いはありましたが、実際は、周りから背中を押されてでした。

『六感デザイン』という屋号の由来を教えてください。

屋号も名刺もない状態でスタートし、屋号は1か月位考えました。直感で伝わるデザイン、見た瞬間に人の心に届くようなデザインをしたいという気持ちを、英語を使わず、「漢字+デザイン」で表したかった。それで、頭に付ける漢字2文字くらいを、いろいろなものを見ながら探し、悩みました。そして或る日、僕が好きなミュージシャン・小沢健二さんの歌詞を見ていたら「第六感」という言葉が目に留まったんです。早速調べたら、「直感」という意味があることがわかり、『六感デザイン』に決めました。今は、当初以上にしっくりきています。僕がやりたいことにピッタリあっているなあと(笑)。

「なんとなくいい」デザインは、丁寧な作業から生まれる

「直感で伝わるデザイン」がコンセプトといってよいでしょうか。

そうですね。理屈ではなく「なんとなくいい」と思ってもらえるデザインを目指しています。一般の方、いわゆるエンドユーザーさんの多くは、何か商品を買うときにも、「なんとなくこっちの方がよさそう」という感覚で選んでいるのではないかと思います。もちろんいろいろな理由があるはずですが、「なんとなく」の部分って僕は結構大きいような気がするんです。「なぜこれを買ったのですか」という質問に明確に答えられなくても、その商品が発する何かは届いていて、その「なんとなく手にとってしまった」ところを大事にしたい。「なんとなくいい」が直感に通じるものではないかと思っています。

「なんとなくいい」と感じるデザインはどのように生まれるのでしょう。

それは丁寧な下準備からです。その会社やお店の成り立ち、経営方針、マーケティングなどをまず把握することが大事です。基本方針を理解した上で、こういう人に、こんな想いで、こんな形で役立ててもらいたくて、この商品を作る、といったことを理解する。そこは、なんとなくではいけないと思っています。お客様からさまざまなことをお聞きし、調べられることはできる限り調べる。丁寧に一つひとつ手順を踏んでいくことを心がけています。

直感で「なんとなくいい」は、よく言われるセンスがいいこととは別ですね。

そうなんです。直感とか六感というとセンスと誤解されがちで、これはもうしょうがないですね。一般のお客さんには、直感で「お!」って思っていただければいいんです。でも、僕たちは、細かく一つひとつ丁寧に積み上げていかなければならない。デザインでもキャッチコピーでも、「なんか違う」、「もっと良くできるのでは」と感じるときは、何が良くないのか、もしかしたら無駄な言葉が入っているのではないか、などを細かく見ていくことで、「なんとなくいい」に近づいていく。そんなふうに進めています。

ロゴやパッケージデザインをきっかけに販促全般をお手伝い

手がけておられる事業内容について教えてください。

ロゴやパッケージのデザインを中心としたグラフィックデザイン全般と、お客様によっては、これらとともにお店等のブランディングもさせていただいております。ウェブサイトデザインのお問い合わせもありますが、そちらは今のところ基本的なものならお受けするという感じです。

主だった業種やエリアはありますか。

業種は、農家さん、小売店さん、病院や学習塾などいろいろですね。特に業種のこだわりはないです。エリアは福井県内全般で、県外からのお問い合わせもあるのですが、地元のデザイナーさんの方が、その土地の空気感や会社の社風をつかんで細かい対応ができると思うんです。それを充分にできない僕らが手掛けるのはどうかなという感覚があって、県外のお仕事は、ほぼお断りさせていただいています。

現在、どういったジャンルのデザインが中心となっていますか。

独立後、徐々にお客様から直接いただく仕事が増えていったのですが、中でもパッケージデザインの依頼が多くなりました。農家さんが6次化でジャムやお菓子などの商品をつくるときのパッケージデザインが多いですね。行政からの補助事業のこともあり、その場合、デザインの専門家として派遣され、その流れの中で受注させていただいています。

ロゴのお仕事はパッケージに付随して発生することが多いのでしょうか。

そうですね。最初はパッケージから入るんですけど、それだけでは今後に続くブランディングにならないので、その農家さんがどういう農家さんなのかがちゃんと伝わるようにするためにロゴやコンセプトを作り、その上で、こういう商品があるんですよ、という流れにしていかないと、後々商品を増やしていってもイメージがバラバラになってしまいます。まずは大もとをきちんとまとめて、それを商品に落とし込んでいきましょう、という流れで進めることが多いです。大もとがまとまることで、商品説明のリーフレットや、それらを全部まとめたパンフレットへと広がって行くことが多いですね。もちろん、最初からロゴ制作を進めるご依頼もあります。

顧客の良き相談相手となり、隅々までブランディング

キャッチコピーも制作され、お店のブランディングもされていますが、どのような事例がありますか。

『竹内菓子舗』さんという和菓子屋さんがリニューアル移転されたのを機に、お店のキャッチコピー、新商品のネーミング、パッケージデザイン、チラシやポスターなどをずっとお手伝いさせていただいています。竹内さんについては、僕らが関わる前に、一番の主力商品『四代目と喧嘩しても作りたかった五代目の米粉カステラ』のネーミングとパッケージが先にできており、この親密さと名前のインパクトを一つの基準として全体をまとめさせていただいています。

ブランディングに当たっては、どのような進め方をされましたか。

まずヒヤリングを行いました。5代目だけでなく、先代夫妻や従業員さんからもお聞きしました。竹内菓子舗さんは、明治7年(1874)創業の老舗ですけど、最初から和菓子屋だけのお店だったわけではなく、紆余曲折を経て和菓子屋さんとして定着したお店です。時代に合わせて変化してきたお店なので、一つひとつの商品が発しているメッセージがバラバラな感じでした。美味しいけれど、全部が竹内菓子舗さんの商品になっているかというと、そうではなく、根幹になる大もとがないからまとまっていない印象でした。そこで、大もとをちゃんと定めて、全部の商品が収束するように見直しを行いました。

最初に根幹となるキャッチコピーを考えられたわけですね。

ええ、先程の米粉カステラの名前が発している親密さと、地域に根差したお店ということを「お菓子と仲良し。」というキャッチコピーで表し、その親密さを他の商品でも表現していくにはどういうネーミングがよいかを考えていきました。一つひとつの商品が「お菓子と仲良し。」感を出せているかどうかが基準です。ネーミング、パッケージとともに、商品ごとのコピーなども全部お手伝いさせていただいています。その中で、老舗和菓子屋さんとしての風格も大切なので、『くるみ大福』など古くから受け継いでいるお餅関係の名前はそのままにしています。

新たなネーミングにはどのようなものがありますか。

『最中福(もなふく)さん』という最中があります。「最中は若い人には売れない。でも最中をやりたい」という竹内さんの想いを受け、それなら、パッと見て受け入れられやすい形状のものにしようということになりました。最初は「仲良し」にちなんで、男の子と女の子の形も考えたのですが、ピッタリくるものができず、縁起がよくて、竹内菓子舗さんの感覚にも合うふくろうになりました。そして、可愛く呼びやすいネーミングにできないかなと考え『最中福さん』としました。それから、『しっとり生サブレ』という商品は、外がサクサクで中が柔らかいという特徴が「生サブレ」だけでは伝わらないと思い、「しっとり」を加え、「し」の形で鳥のキャラクターを作りました。

商品企画にも参加されている感じですね。

一から企画までは難しいですが、「こんなの作ってみました。どうですか」とか、何かあるたび相談してくださるので、僕が感じたことは率直にお伝えしています。商品にはそれぞれの立ち位置があって、安心感があって幅広く受け入れられる主力商品と、ちょっととんがっていて、新しいものが好きな人に受け入れられやすい商品などで分けられると思うんです。お店としてブランディングするには、全体の商品バランスを考え、一つひとつの商品を理解し、全体の枠の中で、アピール方法も変えていかなくてはいけない。例えば、ちょっとだけとんがろうとする商品はキャラクター化するとか……。そういったものは一緒に考えさせていただいています。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

現在のところ明確には描けていないのですが、ときどき考えるのは、例えば農家さんが6次化した商品を展示会に出し、僕らもその場に参加して、より目を引くブースを考えるとか、販路作りのお手伝いもできるといいなということです。でも、今の体制では難しいので、現状では、今やっているブランディングをさらに隅々までできるようになりたいと思います。それによってお客さんが着実に成長して行ってくださるのが理想です。

取材日:2019年7月26日 ライター:井上 靖恵

六感デザイン

  • 代表者名:野路 靖人
  • 設立年月:2007年7月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:ロゴ・パッケージ・キャラクター・名刺等デザイン、リーフレット・パンフレット・ポスター等制作、ブランディング、ネーミング・スローガン制作、新聞広告・雑誌広告、Webデザイン
  • 所在地:〒918-8026 福井県福井市渕3-401 やまや会館3F南室
  • URL:rokkan-d.com
  • お問い合わせ先:TEL 0776-88-0038

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