WEB・モバイル2018.02.21

「非常識」が生み出す快適な職場環境で会社を存続させる

大阪
有限会社オブ・ユース 代表取締役 牧野浩之氏
土日出勤や徹夜作業は禁止。有限会社オブ・ユースは従業員が仕事以外の時間を大切にして人間としての幅を広げることを重視するWeb制作会社です。同社の牧野浩之社長にとっての理想はクライアントからの新しい顧客の紹介。それを実現するためにも自分勝手な客や、無理難題を持ちかける企業との取り引きをしないという方針をとっているそうです。ユニークともいえる姿勢の背景には何があるのでしょうか。「多くの時間を過ごす仕事場の環境が悪ければ人生の損失。快適な雰囲気を作ってスタッフに勤め続けてもらうことが会社の存続にもつながる」と強調する牧野社長に聞いてみました。

バブルの崩壊を転機に

オブ・ユースを設立される以前のことを聞かせてください。まず、お生まれは?

東京五輪があった1964年に大阪で生まれました。父が建設関係の会社を経営していたこともあって建築が学べる近畿大学理工学部へ進学しました。ところが、色々な大学の学生が集まってイベントなどを主催するサークルに入って、ほとんど大学へ行かず留年を続けて1回生を3度やり、入学して4年目に2回生に進級できたのですが、父が亡くなってしまいました。もう呑気にしていられないと、親戚に反対されながらも父の会社を継ぐことにしました。まだ学生で、従業員たちもついてきてくれません。結局は大阪・ミナミのアメリカ村に事務所を借りて、ほとんどひとりで、友達や一級建築士の資格を持っている大学の教授らに助けてもらいながら主に内装を手がける会社を始めました。

大学はどうしたのですか?

やればできるものです。仕事をしながら大学にも通って4回生までの3年間で順調に単位も取って卒業できました。それからは時代がバブル景気に突入しましたから仕事の受注には困ることもなく、専門店の改装などが次々に舞い込んで一時期は従業員も40人ほどになりました。しかし、バブルが崩壊すると、仕事も減りましたし、代金が回収できないケースなどもあって、30歳のときに会社を整理しました。とにかくメシは食わないといけないので、いろいろな仕事をしました。たこ焼き屋、バー、ペンション、ファッション専門店……。方向性はなくて、身近にある話に誘われるまま、思いつくままに手掛けたという感じです。でも、ちゃんと“芯"のあることをやろうと考えてWebサイト制作の将来性に着目し知識を習得しました。それが2000年を過ぎたころですね。

具体的には、どのような仕事を?

2003年に松下電器産業(現・パナソニック)100%出資の子会社内で進められていた京都の旅行サイトの開発に参加させてもらいました。それが転機でした。翌年、京都市内に有限会社オブ・ユースを立ち上げてスキーツアー商品販売サイトの構築や旅行サイトのツアー販売システムの開発なども手がけました。「オブ・ユース」とは「役に立つものを作っていこう」という意味でパナソニック創業者の松下幸之助氏の言葉だといわれています。2005年には大阪事務所も開設して翌年、京都本社と統合して、それ以来、大阪を拠点にしています。

目標は「幸せで充実した人生」の実現

会社の特徴を教えてください。

「まず人ありき」ということです。Web制作会社としては、パンフレットや映像制作などの方向も積極的に拡大するという選択肢があります。実現に向けて、それらに適した人材を採用したり社員に技術を習得させたりするという方法がありますが、当社は少し違います。Web制作会社としてWeb制作を専門にしている人材を採用し、その人物が映像制作が好きだとか、紙媒体を手掛けた経験があって関心もあるという場合に、その延長線上で映像やパンフレットの仕事も受注していくという考えです。つまり「人ありき」というのは、まずWeb制作のできる「人」がいて、その人材が持っている能力に合わせて会社の守備範囲を広げていくということです。

Web制作以外のことを積極的に標榜すると会社のイメージが"濁(にご)る"と思うのです。シンプルに「Web制作会社です」と言い切る方が透明感があって、人材採用やお客さんへの説明の際にストレートに当社のことが伝わると思います。また、コアの得意部分をしっかり主張せず、不得意なことまで「できる」と強調してしまうとクライアントにも迷惑をかけることになります。社員にとって、興味がありやりたい仕事をしてもらった方が、やりがいを感じて質の高い仕事をしてくれるはずです。

そのような姿勢はどこから生まれたのですか?

バブルがはじけた後に会社を整理し、お金だけでつながっていた人は離れていくという経験をしました。たとえば事業がうまくいっているときは「緻密だ」と評価されていた経営者も失敗すると「お金に細かい」と酷評されるなど、人の態度は変わります。とはいえ、私たちの生活や人生は人間同士のつきあいがあって成り立っていますから関係性は大切です。それで1日8時間寝て8時間働くとすると、休日を除けば起きている時間の半分は仕事をしていることになります。それならば仕事の現場は人間関係が良い雰囲気で働きやすくなければ人生の半分は損をしているようなもの。だからオブ・ユースは社員全員の「幸せで充実した人生」の実現を理念として、働きやすい環境を作るために20の信条を掲げて設立しました。

どのような内容ですか?

自分にとって「いい人生」を第一に考えて仕事とどう向き合っていくのかを常に考えましょう、といったことや、仕事とプライベートの調和を通じてひとりひとりが有意義な人生を送ることをめざす、といったことです。無理をして家族に犠牲を強いることも戒(いまし)めています。さらに「成熟した大人同士のつきあいの重視」を宣言し「利己主義の客」「悪意を持つ客」とは取り引きをしないと明記しています。そんな会社や人物とつきあうと、その対応によるコスト増などで、既存客に迷惑をかける可能性があるからです。

お客さまからお客さまを紹介してもらえる仕事を

その理念によるマイナスはないのですか?

理念を実現するため、イベント担当者を除いて土曜日曜出勤は禁止しています。徹夜作業もダメです。それでは受注する仕事の絶対量が減るので、比例して売り上げも下がるということはあるでしょう。一方で、理念には「以前に仕事をさせていただいたクライアントさんから、お客さんを紹介していただく」ことを理想としています。紹介していただくためにはクライアントに満足していただく必要がありますが、そのためにはスタッフが最善の知恵を出して努力できる環境が必要で、人間の幅を広げることで、質の高い仕事を生み出せる環境づくりが大事だと思っています。お客さんを紹介してくれるクライアントは必ずリピーターになってくださいますから、その点でも、会社の存続につながります。

でも、あらゆる人々が理念に賛同できるわけではないですよね。

当然です。土日に仕事をして、もっと高い給料がほしい人もいますからね。でも会社は他にもたくさんあります。そんな方はそちらに行っていただけばよいと考えています。「去る者は追わず」です。従業員は20人ほどにしていますが、10人以下ですと、派閥ができて派閥以外のメンバーが居づらくなる可能性があります。また30人を越えてくると、業績や数字の管理を厳しくする必要があるので、理念の実現を重視するのが難しくなります。私としては経験的に20人くらいが一番いいと思っています。世の中には数え切れないくらいの会社があるのに当社を選んでくれた従業員には感謝しています。会社と個人は「来ていただいている」「来させていただいている」という関係が良い、というのが私の考えです。

Web制作会社としての強みは?

最初の企画・提案から制作、運営までを社内で完結できるのが強みで、栄枯盛衰が激しい業界のなかで存続していることはアピールできると思います。たとえば企業がホームページを作って数年後に同じ制作会社にリニューアルを依頼しようとしたら、その会社がなくなっていて当時のデータが残っていないためコスト増になったという事は珍しくないようですが、当社はそのようなご迷惑をかけたことはありません。つまり「持続可能性」が大切だということですよね。私が社員にできるだけ長くこの会社にいてもらえる環境づくりをする理由は会社の持続力を高めるためでもあります。

将来はどのような会社にしたいとお考えですか?

メーカーのように単価がわかりやすい商品と違ってWeb制作の価格設定は不透明な部分があります。そういう意味で信用と信頼が大切。たとえば相手に予算が300万円あったとしても、100万円で十分だと思えば、その値段に抑えますし極端な場合、ホームページが不要な場合もあるので、その時は正直にお伝えし、お客様の立場に立った提案をするようにしています。そのようにして築いた信用を背景にして、より"上流"で仕事を受け存続していけるような仕組みづくりを進めています。現在は私だけが営業をしていますが、将来に向けて営業ができる人材を育成するよりも、営業がいなくても、クリエイター集団として社員にはクリエイティブに専念できる会社にしたいからです。仕事に追われることなく、快適な環境で仕事をしてもらうことで個々の能力を発揮し、よりよい仕事をしていってもらいたいと思います。

どのような人材を求めていますか?

仕事は会社のためではなく自分のためにするものだ、と社員に言っていることと関係しますが、会社に守ってもらうおうと思わず、自分を守れるのは自分だけだと自覚して常にスキルの向上をめざす人物です。

取材日:2017年12月19日 ライター:岡崎秀俊

有限会社オブ・ユース

  • 代表者名:代表取締役 牧野浩之(まきの ひろゆき)
  • 設立年月日:2004年1月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:Webサイト制作・企画・運営・管理、プログラム開発、動画・キャラクター制作、イベント運営など
  • 所在地:大阪市西区阿波座1-5-12 ACDC;02 3階A
  • URL:http://www.ofuse.jp/
  • 問い合わせ先:TEL)06-6532-1422
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