グラフィック2017.08.02

デザインを通して“縁”がめぐるよう、心と心の繋がりを大切に。人の役に立つトータルデザインで、地域の未来づくりに貢献する

仙台
株式会社enround  代表取締役社長 小泉 元樹 氏
副社長 小泉 奈子 氏
仙台駅から東へ5Km、卸町(おろしまち)の「クリエイティブ・シェア・オフィス TRUNK※1」の一角にオフィスを構える株式会社enround。東北芸術工科大学の先輩・後輩だった小泉さんご夫婦が営む同社は、東日本大震災を機にデザインを通して、地域に貢献したいという思いから誕生しました。旦那様の小泉元樹(こいずみ もとき)さんはプロダクトデザイン、奥様の小泉奈子(こいずみ たいこ)さんはグラフィックデザインを得意とし、クライアントに合わせてオリジナル商品開発やブランディング、そしてパッケージデザインからスペースデザインまで幅広く手掛けています。お客様が想定する販売シーンを丁寧にヒアリングして作り上げるデザインは大きな反響を生み、全国から依頼が途切れないほど評判を呼んでいます。今回は設立の経緯からこれまでの作品、そして今後の展望まで、興味深いお話をたくさん伺いました。

※1卸町(おろしまち)から、クリエイティブとテクノロジー、アートのコラボレーションによる新しいビジネスモデル、ライフスタイルを生み出していくことを目的に、ホテルをリノベーションして造られたクリエイター向けシェアオフィス。

海外でのデザイナー経験をいかし、東日本大震災を機に地元で起業

まずは設立までのご経歴を、教えていただけますか?

小泉元樹さん: 私は東北芸術工科大学の1期生として卒業し、株式会社アイリスオーヤマに就職しました。同社は生活用品の企画・製造・販売を行う企業で、私は商品開発部に所属し、ガーデニング用品やペット用品、文房具関係や収納用品、組み立て家具などのデザイン・設計を担当していました。当時から絵を描くだけではなく、原価計算や図面作成、工場での品質管理など、すべて一貫して担当し、商品が店頭に並ぶまで責任を持たされていたので、今の仕事に繋がる大切なノウハウを同社で学べたと感じています。1997年から2006年まで海外工場を頻繁に回り、海外の経営者とお会いする機会が増える中で、次第に自分も海外でデザインの世界を広げたいと思うようになり、退社を決意。その後単身中国へ渡り、台湾の会社から出資いただき、中国の福建省にデザインセンターを設立しました。年3回(上海2回、香港1回)の国際展示会で、自分たちが企画した商品を発表し、そこで世界中の企業のバイヤーとも親しくなり商品開発を任されたり、日本の企業とも順調に取引を行えるデザイン会社に成長しました。そして2011年3月8日、上海の国際展示会で大きな成果を上げ、「よし、これからが本番だ!」というところまでいきました。

それからどのようなきっかけで仙台へ戻り、同社を設立されたのですか?

小泉元樹さん: 上海の国際展示会から3日後の3月11日、東日本大震災が起きました。仙台の家族とはなかなか連絡が取れ ない中、翌⽇には原発事故。甚大な被害状況を聞き、急遽、⼀緒に働いていたスタッフは同グループ⼯場に分散してもらうことにしました。数日後、ようやく家族と会うことができ、これからは地元に貢献したいという思いが強くなりました。それから、2011年6月6日、デザイナーの妻と二人でゼロから当社を設立。社名の『enround(エンラウンド)』は、中国の方々から学んだ、「心と心の繋がりを大切にする」という思いを基に、デザインを通して人や企業を繋ぐ“縁+めぐる” を組み合わせた造語から名付けました。

幸せな気持ちが生まれ、育つデザイン

現在の事業内容について教えていただけますか?

小泉元樹さん: 現在はCI・VI・ロゴ、イラストレーション、プロダクト、パッケージ、ディスプレイ、看板などの企画・デザインを1からブランディングしなおして、トータルでご提案しています。私は立体物であるプロダクトデザインに強く、妻はパッケージデザインを中心としたグラフィックデザインを得意としているので、それぞれを尊重し合いながら同じゴールに向かって走っているような感覚です。体制としては、私がデザイナーと営業を兼任しながら、仕事を獲得してくるスタイルを取っています。長期的な目で見た地域の復興というのは、きちんと会社が利益を上げ、微力ながら雇用を生み、私たちがご提案した商品が誰かの心の支えになることです。デザインを通して、少しでも多くの方が幸せな気持ちになってくれたらうれしいと思います。また、お客様へのデザイン納品だけでなく、自社のオリジナル商品を制作し、販売できるようなメーカーになるのが目標です。

実際に事業を始めて、感じられたことはありますか?

小泉元樹さん: デザインを通して地元に貢献したいという強い思いが、仕事につながっているということです。その代表として挙げられるのが、2015年第三回 国連防災世界会議で発表された『おりひめトイレ』です。このトイレは積水ハウス様と共に、当社が企画デザインを手掛けた仮設トイレです。東日本大震災当時、汚い、暗い、怖いなど仮設トイレのマイナス点が浮き彫りになり、女性や子どもが安心して利用できる仮設トイレの考案が求められました。明るくキレイなのはもちろんのこと、お子様と一緒に入室できる広い空間で、まちがってドアが開いてしまった際も座る便座の位置が死角になるなど、細部の造りに至るまでデザインにこだわりました。優しい曲線を生かしたトイレは、外から見ても中で使用してもホッとするスペースとなっています。また、宮城県仙台市がバックアップする事業だったことで、マンホールの上にそのまま設置し水洗として利用できて、インフラも整っています。最初に、仙台国際ハーフマラソンでプロトタイプがデビューし、その後も改良を重ね、より使いやすいトイレに進化しています。そして同年、内閣府が新設した第一回目の「日本トイレ大賞」を受賞しました。

ほかにも、代表的なお仕事実績を教えていただけますか?

小泉奈子さん: どのお仕事も印象的で心に残るものばかりですが、いくつか例を挙げてお伝えすると、仙台空港の2014年クリスマスとお正月のディスプレイデザインが、コンペを勝ち抜いて採⽤されたことです。
また、放射能の風評被害で木材が使えず、近くの工房も流されて職人さんたちの仕事がない状態にあった岩沼市の木材問屋さんとの出会いがありました。そこで職人さんたちに東京のオフィスやシェアハウスに入れる家具や、壊滅的な被害にあった閖上(ゆりあげ)地区の立ち枯れた桜の木を使ってプレートを作っていただき、雇用を生むことに取り組んだことも印象深いです。
宮城県石巻にお店を構える、株式会社大沼製菓様のオリジナル商品開発と、パッケージデザイン、ディスプレイデザインなどを考案したこともありました。当社でアートディレクションを担当させていただいたオリジナル商品『桃生茶福(ものうさふく)』は、昨年『ふるさと名品オブ・ザ・イヤー』のお取り寄せ部門賞を受賞しました。『桃生茶福』は通常同社で販売しているお菓子より高価格帯で販売したので、売り上げを伸ばせるかどうか心配もありました。しかし、地元の素材を使用した美味しい大福ということで評判もあがり、贈答用としての売り上げが拡大し、通販サイトでも売られるようになり販路も拡大しました。

このようなお仕事は、どのように依頼が来るのですが?

小泉元樹さん:この株式会社大沼製菓様の仕事も、先ほどお話した積水ハウス様との仕事も、私たちがここ「クリエイティブ・シェア・オフィスTRUNK(トランク)」に入居したことで出会えた仕事なのです。トランクは仙台市経済局産業振興課と仙台印刷工業団地協同組合がバックアップするシェアオフィスで、組合が運営する無料相談窓口であるビジネスデザインセンターに仕事の依頼が入って、そこから「今回の仕事ならこの会社(クリエイター)に」とコーディネートしてくれます。大沼製菓様の仕事はそれがきっかけで、当社がアートディレクションを担い、デザインは他のデザイナーさんが担当して、クリエイター同士が持ち味をいかし、チームを編成して仕上げた成功事例だと思います。そういった1つ1つのお仕事の結果が信頼に繋がり、また別の仕事を紹介していただけています。

シーンを想定したきめ細やかなヒアリングが、デザイン作りの一歩

デザインの仕事をする上で、大切にされていることは何でしょうか?

小泉元樹さん: 私たちが大切にしているのは、お客様とよくお話をして、どういった場所で、どのように売られるのかを細かくヒアリングすることです。現在お客様が抱えているお悩みや問題点をしっかり分析し、売りのポイントを丁寧にカタチにするという事を常に心がけています。その上で売り上げをアップさせるためにはどのようなデザインが効果的なのか考えて、お客様に提案しています。

小泉奈子さん: キレイなデザインが良いデザインではありません。例えば華ずしさんのブランドアートディレクションを担当した際、パッケージを考える中で、まず食べ方のご提案をしました。女性がお寿司を食べる時、どんなスタイルが食べやすいのか。パッケージそのものがお皿になり、フタを開けたら小分けの鯖寿司があったら素敵だろうな。そんな思いからデザイン展開したのが華ずしさんの『小華すし』です。 パッケージは、商品を5倍、10倍と楽しむためのツール。商品の世界観をパッケージでより魅力的に表現することで、人は商品を手に取るきっかけが生まれます。また、売り場を華やかにします。パッケージは消耗されてしまう短命なものですが、新しい世界を作りあげる面白さがあると思うんですよね。

小泉社長は直近の仕事で、とても面白いデザインを手掛けたそうですね。

小泉元樹さん: はい、あるベンチャー企業の方が考案された『次世代型呼び出しベル』のデザインを担当させていただきました。イオンのショッピングモール内のフードコートに設置されるもので、フードメニューの調理を待っている間、呼び出しベルの画面を通して、ショッピングモールで上映中の映画の予告や、ショッピングセンター内のセール情報などを見ることができます。この(2017年)6月、千葉県のユーカリが丘イオンのフードコートにて使用がスタートし、今後全国のイオンでも展開される予定です。当社がデザインを手がけたものが、世の中に出て「おかげさまで売れています」というお言葉をいただいたり、そこから新しいお仕事に発展したりすると、モチベーションが上がります。長く愛される商品になってもらえたらうれしいですし、それはプロダクトデザインの大きな醍醐味でもあります。

今後の展望について教えていただけますか?

小泉元樹さん: デザインのご提案でお客様の思いをカタチにするお仕事に加え、2020年に向けて、自分たちの商品を作って販売ができればと思っています。モノの販売を通して利益を定期的に得るビジネスモデルを作っていきたいです。

最後にクリエイターの方々へ、メッセージをお願いします。

小泉元樹さん:クリエイター同士、今後はより多くの交流を増やし協業関係を構築しながら業界の発想を大きく変える動きが必要だと思っています。 今まで個人や大企業では実現できなかったビジネスを、クリエイターが関わる事で実現できる社会になればと感じています。 是非、機会があれば一緒に取り組めたら嬉しいです。

取材日: 2017年6月23日 ライター: 桜井玉蘭

株式会社enround

  • 代表者名:代表取締役 小泉元樹(こいずみ もとき)
  • 設立年月:2011年6月
  • 事業内容:CI・VI・ロゴ/イラストレーション/プロダクト/パッケージ/ディスプレイ・看板など
         デザインの企画、制作
         工業製品のデザイン
  • 所在地:Creative Office)〒984-8651 宮城県仙台市若林区卸町2-15-2 5F TRUNK#16
        Office)〒980-0855 宮城県仙台市青葉区川内澱橋通12-1
  • URL:http://www.enround.com/
  • お問い合わせ先: 022-399-7172

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