WEB・モバイル2017.05.10

世界のITの学びの中心を石巻へ。 2021年までに石巻から1000人のIT技術者の育成を目指して

石巻
一般社団法人イトナブ石巻 代表理事 古山 隆幸氏
宮城県の東部に位置し、海と川に囲まれた街として知られる石巻。2011年の東日本大震災で甚大な津波の被害に遭い、連日の報道で“石巻”という名を知った方も多いと思います。この街では震災から6年が経った現在、IT技術者をめざす若者たちが集まり、賑わいを見せています。その立役者として活躍しているのが株式会社イトナブ、一般社団法人イトナブ石巻の代表を務める古山 隆幸(ふるやま たかゆき)さん。目標は、震災から10年が経つ2021年までに「世界のITの学びの中心地を石巻へ」、石巻から1000人のIT技術者を育成することです。小学生から20代まで、若者たちのIT技術者育成に励む古山さんに、起業の経緯から今後の目標まで、興味深いお話をたっぷり伺いました。

故郷・石巻で作りたかったのは「若者が大声で夢を語れる団体」

まずは古山さんの、これまでの経歴について教えていただけますか?

僕は宮城県石巻市で生まれ育ち、石巻工業高校へ進学しました。同校では卒業後の進路として、就職を選ぶ人が8~9割。僕も先生から就職を勧められ、提案された就職先の中から、条件などを見比べながら選んでいました。そんな時、ふと感じたのです。「なぜ自分の未来を、人が選んだ選択肢の中から選んでいるのだろう」と。当時、僕にとって石巻は“やりたいことが見つからない街”でした。決まり切った道しか選べず、チャレンジしようとしても大人たちからは「お前には無理だよ」と言われてしまうこともありました。だから、地元で就職するのは嫌で、自分の可能性を縮めず、選択肢の中から選ぶ人生ではなく、やりたいことを探す人生を選びたいと思い、まずは埼玉工業大学へ進学して地元を出ました。でも結局のところ大きな目標を持てず、ただ平凡に過ごしていた3年生の頃、友人が「この先どうするの?」と心配してくれて「これからはITの時代が来る」とパソコンを作ってくれました。その中にはWeb制作に必要なソフトも入っていて、遊びでWeb制作を始めてみると楽しくなり、独学で技術を身につけていくと、パソコンを作ってくれた友人が今度は仕事を持ってきてくれて、大学4年生の時にはプログラミングにも取り組むようになっていました。そして卒業後、1年間フリーランスの仕事を続けて、東京でWebの会社を立ち上げました。

それからどのようにして今の活動に至ったのですか?

東京で会社を立ち上げて10年くらい経った頃、東日本大震災が起きました。僕の実家も津波で被災したので、その片付けなどで石巻へ戻りました。その時、目の前に見たことのない景色が広がっていて、慣れ親しんだ友達の家も、お店も、すべてなくなっていて、何とかしなくてはと思ったんです。まずは同じ思いを持った仲間たちと「ISHINOMAKI 2.0」という街づくり団体を立ち上げて、レストランの運営に携わったり、サッカー教室を開いてたり、コミュニティの再生活動に参加していました。しかし、これは自分のフィールドではないので、石巻の進化にもっと貢献するためには、IT事業を始めるべきなんじゃないか、そして、かつての自分がそうであったように、この街で子どもたちが夢を見つけられないのは、大人の責任ではないか、ならば自分が、チャレンジし続ける大人としての姿を若者たちに見せるために、ここ石巻で「若者たちが大声で夢を語れる団体」を作ろうと思い、2012年に活動をはじめて、2013年に一般社団法人イトナブ石巻を立ち上げました。東京で仕事をしていたので、その時のコネクションを使って仕事を持ってくるのは簡単でしたが、それでは意味がなく、街を変化させるためにはここで仕事を作っていかなくてはダメだと思い、東京のコネクションは一切使わず、本当にゼロから作り上げていきました。

とても素敵ですね。現在、どのような取り組みにチャレンジされているのですか?

当社では世界のITの学びの中心地を石巻にするため、震災から10年が経つ2021年までに、1000人のIT技術者を石巻から育成するという目標を掲げています。例えば、5月からミシガン大学(アメリカ・ミシガン州)の女の子がインターンとして参加しますし、シリコンバレー(アメリカ・カリフォルニア州)やサンノゼ(アメリカ・カリフォルニア州)の高校から学生たちがインターンで来ることも。そのようなプログラムが少しずつ仕上がってきて、「石巻の若者を育てる」から「石巻で若者を育てる」に変わってきています。もちろん、石巻専修大学や東北芸術工科大学の学生たちなど、国内の学生たちもたくさん学びに来ていています。学生たちの間に良い意味でライバル意識も芽生えて、「彼に負けないように」と、向上心を持ってスキルアップに努めている姿を見ると、とても嬉しくなります。そうやって技術を得た若者は、どんどん外の世界へ出てほしいんです。そして、その姿を見た別の若者が「この人は一体どこで学んだんだ?出身が石巻だ!イトナブってなんなんだ?」と興味を示して、イトナブの名がどんどん広がってくれたら良いですよね。

小学生から大学生まで楽しく学ぶ環境。ユニークな環境がアイディアを生む

『イトナブ』という名前にも由来があるとか?

「IT」×「遊ぶ」×「学ぶ」×「営む」×「イノベーション」の造語です。
例えば、ITで遊ぶためには学ばないといけないし、学び始めると遊びが楽しくなります。
2020年からプログラミングが小学校で必修授業になりますが、みんながプログラムを学べる反面、勉強になってしまわないか心配です。例えば、英語は、本来コミュニケーションを取るためのもの。それが勉強になってしまうと、頭に入らなくなるんですよね。僕はプログラミングもコミュニケーション言語のひとつだと思うので、遊びから入って学んでほしいですし、プログラミングを通して、若い世代に「ロジカル」な考え方を身に付けて、これからの人生に役立ててもらいたいのです。

株式会社イトナブの現在の事業内容について教えていただけますか?

Web制作、映像制作、ロゴなどのデザイン、アプリ開発、イベント企画運営を中心に事業を展開しています。例えば、宮城県気仙沼で立ち上がり、東北の高校生が“自分のやりたいこと”と“地元のためにできること”を考えて行動をおこすことをサポートをする認定NPO法人『ソコアゲ』のホームページ制作や、南三陸町で回収された生ごみをバイオガス施設でエネルギーと液体肥料に変える『南三陸GURUGURU計画』というホームページの企画制作、iPhoneで季節の移り変わりを見られる『hanasaka時計』のアプリ開発などが代表的です。そして、その収益のほとんどを若者たちの教育活動にあてています。実は2012年から母校の石巻工業高校でプログラミングの授業も受け持っていて、初年度は特別授業でしたが、今では1年生~3年生までの必須授業を受け持っています。また、石巻専修大学でも講師を勤めており、大学生と高校生を繋ぐことで、大学生が高校生へ教える教育スタイルを作っています。これから中学校の単発授業も担当することになっているので、とても楽しみです。もちろん、報酬などはいただかず、こちらも若者を育てるための教育活動の一環として行っています。

学校教育での授業がきっかけで、若者たちがこちらで学ぶようになったのですか?

そうですね。高校生や大学生は、学校で教わったことがきっかけで、もっと学びたいという子がインターンやアルバイトとして当社で学ぶケースが多いです。あとは、僕の講演やイベントでの出会いなど様々です。僕の方から気になって誘う場合もありますよ。あとは小学生の子どもたちも通ってきます。彼らはお母さん同士のクチコミや、通りすがりに見て「何しているの?」と声をかけてくれて、そのまま楽しそうだから朝の登校前や放課後に当社に立ち寄って、パソコンをいじって遊んでいます(笑)。時には僕の出社前から会社の前で待っていて、僕が「遅い!」と怒られることもあります。現在、子どもたちは自由に出入りして、パソコンを使って遊んでいる状態ですが、しっかり学べる場を確立していきたいので、今後は小中学生を対象に無料のプログラミング講座の開催も視野に入れています。

スタッフのみなさんも若い世代が多くて、オフィスもユニークですね。

平均年齢が25歳くらいで、正社員9名、インターン5名、学びに訪れている学生20名くらいです。2016年の実績として、小学生から大学生まで学生240名にプログラミングを教えました。設立時の2012年は僕一人で立ち上げて、活動する中で徐々に仲間が増えていって、現在に至ります。オフィスも津波で被災したビルを自分たちでDIYをして、仕事場として使えるようにしました。メインとして使っている建物の向かいには、ビジネスに関わる本からマンガ本までぎっしり並ぶ図書館のような建物もあります。そこで作業をしても構いませんし、在宅作業も出社時間も自由に選べるのが当社の特徴です。僕は仕事や学びの仕方って、きっちりしたオフィスじゃなくて良いと思うんです。大人になればなるほど、部室のように“わくわくする部屋”がなくなってしまうから、学生時代にちょっとアホになって過ごした環境を大切にしたくて、こういう環境にしました。実はここから少し離れた北上(きたかみ)という場所にある、築300年のかやぶき屋根の古民家を借りリノベーションをして、これから研修施設として運営する予定で、とても楽しみなんです。

ハッカソンを石巻の夏の思い出に!若者教育に無限大の可能性を感じて

毎年夏に、古山さんがとても力を入れているイベントがあるそうですね。

はい、2012年から夏に高校で開催している『石巻ハッカソン』です。以前から石巻でハッカソンをやりたいと思っていて、とりあえず何か石巻でやってみるか!という思いで立ち上げました(笑)。内容はチームに分かれて、テーマに沿ったアプリを3日間で作り上げる開発合宿で、アプリ開発を通して若者たちにITへの興味や夢を持ってもらうのが目的です。開発イベントですが、技術者だけではなく、一般の方々ももちろん参加いただけますし、カレー部としてマルシェチームと一緒にカレーを作っていただくことも可能です。大人になると仲間と会う機会が減ってしまうので、お盆前の『石巻ハッカソン』が、ひと夏の思い出になるのが最終的な目標。現在の参加者は150名、これから300名を目指して頑張ります。今年(2017年)も7月28日(金)~30(日)に、『秘密道具』をテーマに開催します。面白い技術者が集まるので、ぜひみなさん気軽に参加してください!詳細はホームページをご覧くださいね。

それでは、今後の展望について教えていただけますか?

先程も少しお話した通り、石巻を世界のITの学びの中心地にすることです。これまでいろいろな種を撒いてきたので、震災から10年が経つ2021年には花を咲かせると思います。震災当時18歳だった子も28歳になり、技術者として力がついている頃です。若者の教育事業にお金をいただかないのは、当社がボランティア団体ではなく投資会社だからです。若者のITプログラミング教育に投資して、最終的にどんな付加価値を得られるか、それはまだ誰にも分からないもの。だからこそやる意義があり、無限の可能性を秘めていると思います。

活動する上で、古山さんが大切にしていることはなんですか?

大切にしているのは「目隠しでダッシュ」する勇気ですね。怖がらないで、とにかく全力で走って、コケてケガをしたら治療すれば良いと思っています。「無我夢中」「一生懸命」になって、毎日を誠心誠意、生きることを大切にしています。

最後にクリエイターの方々へのメッセージをお願いします。

僕は誰でも、大いに夢を語って良いと思います。例えば、まだ技術が足りないと思っても、今の自分が精一杯考えたデザインであれば、最高のパフォーマンスとして誇りを持って出せばよいと思います。もしそこで挫折を経験しても、最終的に5年後、10年後の自分に向けて心の強さを育てるための練習となるはずです。だからこそ、自信を持って、夢を語りながら、そこに向かって全力で頑張ればよいと思います。

取材日: 2017年4月17日 ライター: 桜井玉蘭

一般社団法人イトナブ石巻

  • 代表者名(ふりがな):代表理事 古山 隆幸(ふるやま たかゆき)
  • 設立年月:2013年12月
  • 事業内容:プログラミング講習(java)/デザイン講習(PhotoshopIllustrator)/カメラ講習/映像講習/ハッカソンイベントへの参加/
         企業研修 など
  • 所在地:〒986-0822 宮城県石巻市中央2-10-21 サトミビル1F

株式会社イトナブ

  • 代表者名(ふりがな):代表 古山 隆幸(ふるやま たかゆき)
  • 設立年月:2015年6月
  • 事業内容:アプリ制作/webサイト制作/グラフィックデザイン全般/映像制作/イベント企画・運営 など
  • 所在地:〒986-0822 宮城県石巻市中央2-10-21 サトミビル1F
  • URL: http://itnav.jp/
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