WEB・モバイル2022.05.11

「生物多様性」が新しいマーケットを創る。いきものコレクションアプリ「バイオーム」で目指す株式上場

京都
株式会社バイオーム 代表取締役
Shogoro Fujiki
藤木 庄五郎
拡大

拡大

拡大

拡大

現在知られているだけでも、世界には、約175万種の生物が存在すると言われています。私たちは1日に、そのうち何種類くらいの生物に出会っているのでしょうか?
ユーザー数が40万人を突破した(2022年4月現在)「バイオーム」は、花や木、鳥、虫など、身の回りで見つけた生物を撮影しコレクションできるユニークなアプリです。アプリを入れれば誰でも気軽に始められ、生物の名前を教え合ったりして交流できるのが楽しいと、リリース以来ユーザー数を伸ばし続けています。
株式会社バイオームの代表取締役 藤木 庄五郎(ふじき しょうごろう)さんは、環境保全へのアプローチのために「バイオーム」を開発しました。藤木さんが目指しているのは、“ボランティアではなくビジネス“としての環境保全。「環境保全をビジネスにする」という新しい事業モデルを掲げる会社、それがバイオームなのです。なぜ、そんな難しい分野に挑もうと思ったのでしょう?藤木さんが抱く、事業への想いを伺いました。

40万人以上が利用する“いきもの”コレクションアプリ「バイオーム」を開発

御社で開発されたアプリ「バイオーム」について教えてください。

“いきもの”コレクションアプリ「バイオーム」は現実世界で見つけた植物や動物、虫などの“いきもの”をスマートフォンやタブレットで撮影して記録できる「いきもの図鑑」です。名前がわからない“いきもの”も、10万種近く登録されている図鑑情報からAIの自動判定機能を使って調べられます。
バイオームには交流機能があり、自分でコレクションして楽しむのはもちろん、 “いきもの”の情報交換をしたり、お題に沿った“いきもの”を集めるイベント「クエスト」に参加したりといった楽しみ方もできます。現在は40万人以上の方がユーザー登録して、“いきもの”好きが集まるコミュニティとなっています。

 

ユーザー同士で盛り上がれるとさらに楽しそうですね!利用されているのはどのような方が多いのでしょうか?

男性と女性の比は6対4くらいでしょうか。女性はお花などの植物を記録している方が多いようです。年齢でいうと、一番多いのは意外にも30代から40代の方ですね。お子さんといっしょに始めた親御さんがハマってしまうケースが多いのかもしれません。お父さんのほうが夢中になっちゃった、みたいな(笑)。
ここ数年の新型コロナウイルスの影響で、自然に目を向ける人が増えたように感じています。人混みに行かなくなって、山や川、公園といった身近な自然に親しむ機会が多くなったのでしょう。アプリのユーザーも急速に増えました。多くの方が改めて「自然っていいな」と思うようになったのではないでしょうか。

その他にはどのような事業をされているのでしょうか?

アプリから収集した生物のデータをいかした事業を行なっています。
企業に対しては環境保全活動の提案、イベントの開催、レポート作成や情報開示のサポートなどを行っています。
アプリを小学校の授業に取り入れたい、という地方自治体からのお話もあります。最近では、樹木を使った治水、屋上緑化、ヒートアイランド抑制など、「グリーンインフラ」と呼ばれるまちづくりのプロジェクトも増えました。
幅広い事業に関わっていますが、僕たちの軸は「生物多様性の保全」で、そこから外れることは一切行っていません。

ボルネオ島で見た光景が、会社を立ち上げるきっかけに

環境に関わる事業を行おうと思ったのはなぜですか?

小学生のころにはすでに、家にあった本を読んだりテレビ番組を見たりして、砂漠緑化や外来種などのテーマに興味を持っていました。将来は研究者になりたいと思い、中高時代は運動系の部活をしながら受験勉強も続けていました。進路に選んだのは、京都大学の農学部。関西圏で環境について学ぶなら一番良い場所だろうと考えたからです。
入学した地域環境工学科は学びたかった生態学とは少し分野が違いましたが、修士課程に進学し、念願の生態学の研究を始めました。最終的には同じ研究室で、博士課程まで進みました。

修士課程からは海外に住み込みで調査をされていたこともあるそうですね。

はい、2年間ほど東南アジアのボルネオ島で過ごしました。当時の研究テーマは「生物多様性の定量化」。人工衛星が撮った衛星画像から生物の情報を読み取ろうとする試みです。実際、現地にどんな生物がいて、どんな樹木が植わっているかを調べるため、ボルネオ島の村に住み込んだり、キャンプ生活をしたりしながら調査を行っていました。
2年間も生活していると、現地の人と仲良くなって、色々なことを話すようになります。向こうでは森林伐採の仕事をしている人も多く、「木を切る」という行為で人々の生活が成り立っていることを知りました。
環境を守ることは人々の生活や経済と切り離せない、と痛感したんです。現地で見た、見渡す限り木が刈り倒され、裸の地平線が見えている光景は、僕の心にとてつもないインパクトで迫ってきました。「儲けよう」とする人間のエネルギーは、こんなにも大きいのかと。
それなら「環境を壊すと儲かる」ではなく、「環境を守ると儲かる」仕組みを作ればいいんじゃないか、と考えたんです。儲けるためのエネルギーの矛先を変えるだけでいい。環境を保全することで儲かる仕組みができたら、きっとみんながやりたがるはずです。
「自分で会社を作って、環境保全で利益を上げる」。それが僕の目標になりました。

「自分で会社を作って、環境保全で利益を上げる」という目標のもと、会社を立ち上げられたわけですね。

博士号を取り、大学を卒業してすぐに、株式会社バイオームを立ち上げました。真っ先に取り組んだのはアプリの開発です。当時はプログラミングの知識が一切ないところからのスタートだったので、本当に大変でした。プログラミングの入門書を買い、基礎の基礎から勉強し始めて。研究室の後輩が協力してくれたので、後輩と2人、必死で取り組みました。
アプリが完成したのは会社を設立して2年が過ぎたころ。少しでも会社とアプリのことを知ってもらいたくて、ピッチコンテストなどに応募して発表したり、取材を受けたりと、露出の場を増やすよう心がけました。
その甲斐あってか、僕たちの事業に興味を持ってくれる企業も増え、依頼のお声がかかるようになりました。苦労した時期もありましたが、今は常に70件くらいのプロジェクトを進めています。

社員にも「生物多様性」を

現在は何人くらいでお仕事をされているのでしょう?

現在のスタッフは、アルバイトも含めて32名。社員のうち6割がエンジニアとデータサイエンティストで、4割が企業とのやり取りや進行管理をしています。
初めは知人伝いに声をかけて探していましたが、最近ではウェブサイトからの応募が増えました。できるだけ情報発信をしてメディアに露出する機会を持つようにしているので、記事をきっかけにバイオームを知り、理念に共感してくれる人もいるようです。

採用ではどんなところに着目していますか?

いろいろなところを見ますが、最終的には「今いるメンバーにはできないことができるかどうか」という点を重視します。私たちの会社のテーマは「生物多様性」です。生態系も企業も同じで、多様性があるほうが強いんです。同じような毛色の人たちが集まっていれば、意思決定のスピードは確かに速いでしょう。初めは一気に物事を進められますが、想定外のトラブルが起きたときとても弱いと思うんです。その点、さまざまなことをできる人が集まっていたら、変化に柔軟に対応できます。
普通に採用していたら似たような人が集まりがちなので、なるべく意識して違うタイプの人を採るようにしています。そのほうが働いていても楽しいですしね。

多様性が強みになるのですね。今後も、採用は計画されていますか?

依頼されるプロジェクトが増えてきたので、今後はもう少し人手を増やしたいと思っています。僕もすべてのプロジェクトに密に関わるのは難しくなってきました。短い時間で自分が出せる成果と、担当者がしっかりついて出せる成果とでは、後者の方が優れているのは明らかでしょう。これからはマネジメント側にシフトし、自分の手からスタッフの手に、現場の仕事を渡していきたいと思っています。

成功することで社会にインパクトを与えたい

これからはどんな事業をしていきたいですか?

2021年、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が設立されました。TNFDは、二酸化炭素の排出量のように、“生物多様性”に関する企業のデータ開示を求める世界的な取り組みです。数年内にはデータの項目や達成目標などの具体的な指針が発表されるでしょう。
目標を達成するためにどのような取り組みをすればいいのかは、どの企業もまだ手探り状態です。二酸化炭素の削減などは取り組みやすいテーマですが、生物多様性の領域はまだ方法論が確立されておらず、参入のハードルが非常に高い。僕たちはそのハードルを下げる役割を担いたいんです。創業から強みにしてきた生物のデータ収集と活用のノウハウをいかして、企業の取り組みのお手伝いができたらと思っています。

生物多様性の保全は、これからますます重要なテーマとなっていくと思われますが。

これからの保全活動は、企業イメージを向上させるためだけのものではなくなっていくでしょう。そして僕たちが目指しているのは、“生態系の豊かさ”それ自体が利益を生むことです。先ほど話に出た、「環境を守ると儲かる」仕組みづくりです。
すでに「環境保全で利益を上げる」取り組みをさまざまな企業と始めていますが、業種や規模によって、どのようなことができるのかは知恵を絞る必要があります。たとえば、ある大手鉄道会社との企画では、アプリ「バイオーム」で鉄道沿線の“いきもの”を探すイベントを開催しました。参加された方々は沿線をあちこち周るのに鉄道を使い、合計で地球12周分くらいの人が動きました。沿線に住む多様な生物がきっかけとなり、鉄道会社の利益を生み出せたんです。

「生物多様性の保全」と「企業の利益」。2つを両立させることが大事なのですね。

日本では、社会にいいことはボランティアでやるべき、という意識が強いです。そのこと自体は素晴らしいのですが、近年の欧米では「環境問題をどうやってお金に変えるか」と考える傾向があり、取り組みのスピードも速いです。「環境保全で利益を上げる」くらいの意識がないと、課題解決は進まないと思っています。 課題解決にはまず、僕たち自身が環境保全で利益を生み、成功した姿を社会に見せたい、という気持ちがあります。

会社として目指している目標はありますか?

ひとつは、海外展開です。インドネシアやマレーシアなど、生物多様性のホットスポットである東南アジアから始められたらと思っています。環境破壊が進んでいるそれらの国で、一刻も早く取り組みを進めたいですね。まずは日本と同じように、アプリ「バイオーム」を展開させてユーザーを獲得しようと考えています。
そしてもうひとつは、株式上場です。会社を設立した理由でもある「環境保全で利益を上げる」ことができると身をもって証明するため、株式上場というひとつの成功例を見せて、社会にインパクトを与えたいんです。
僕たちの成功例が世に知られれば、自然と競合が出てくるはず。世間が真似したくなるような事業モデルを作り、新しいマーケットを生み出したいです。

これからの成長が楽しみです。設立からの約5年を振り返ってみていかがでしょう?

苦しい時期もありましたが、振り返ると楽しかったです。会社の成長に伴って求められるスキルがどんどん変わっていき、自分が常に変わり続けている。これがいいですね。同じことの繰り返しで未来が透けて見えるようになったら、つまらないですから。経営者としてのプレッシャーはもちろんあります。でも、「頑張らなければ」とは思っても「怖い」とは思いません。

変化を楽しむ藤木さんだからこそ、「新しいマーケットの創出」という大きなテーマに挑めるのでしょう。

TNFDの導入もあり、生物多様性の保全はこれからますます重要なテーマになっていくと思います。初めはみんな、何をしていいかわからなくて戸惑うでしょう。その時、僕たちバイオームという会社が橋渡し役になり、社会の受け皿として機能していけるようになりたい。すこし先の未来から今を振り返ったとき「バイオームがなかったら、環境保全は進まなかったね」と言ってもらえる会社になれたらいいですね。

取材日:2022年4月6日 ライター:土谷 真咲

株式会社バイオーム

  • 代表者名:藤木 庄五郎
  • 設立年月:2017年5月
  • 資本金:11,150万円(準備金含む)
  • 事業内容:生物情報アプリ開発・運営、生物情報可視化システムの提供、環境コンサルティング
  • 所在地:〒600-8813 京都府京都市下京区中堂寺南町134番ASTEMビル8階
  • URL:https://biome.co.jp/

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP