WEB・モバイル2021.02.10

京都を愛するからこそ、奥深い京都の魅力を熱く伝えたい「らくたび」

京都
株式会社らくたび 代表取締役
Ryo Wakamura
若村 亮

旅行会社向け京都旅行の企画プロデュースや京都観光のガイド、京都学講座の講演など観光事業をメインに、京都本の企画・編集・執筆、京町家の保存活用などを手掛ける株式会社らくたび。「らくたび」とは、「洛(らく=京都)を旅(たび)する」の略で、築80年を超える京町家を拠点に、豊かな歴史と文化を誇る京都の魅力を発信しています。

代表取締役の若村亮さん(わかむらりょう)さんは大学時代「京都学生ガイドクラブ」でのアルバイト仲間だった山村純也(やまむらじゅんや)さんと、共同で会社を設立。15年目を迎えた現在も、ガイドや講師として各地へ飛び回る若村さんに、起業の経緯や仕事への思い、今後の展望について伺いました。

 

理系男子、ゆかりのない京都に魅せられて観光の道へ

観光事業の世界に入られた経緯をお聞かせください。

私はもともと愛媛生まれの大阪育ち。立命館大学の機械工学科専攻で、京都にゆかりもなければ歴史のことも全く知りませんでしたが、せっかくなら京都でしかできないアルバイトがしたいと思い、学生が自主運営する「京都学生ガイドクラブ」で活動したのが始まりです。

クラブといっても会社経営さながらで、4回生が新入生を勧誘してガイドとして育成し、旅行会社に営業して仕事をもらうなど、本格的なものでした。修学旅行で訪れる生徒を案内するのが楽しそうだ、と思って入ったものの、実際は大変でした。人前で話して料金をいただくだけのクオリティが求められます。加えて、一生に一度しかない修学旅行の思い出を良いものにしてもらおうとすると、責任は重大。先輩からは半年間厳しく教習指導を受けました。京都じゅうの大学から100人ぐらいガイド希望者が入りましたが、教習を経て残ったのは20人ほどで、卒業まで続けた同期はわずか3人。その一人が、当社の共同経営者である山村です。

向かって右が共同経営者である山村さん

ガイドをする際はどんなことが大変でしたか。

修学旅行生は、話がつまらなかったら観光バスの移動中に寝だすんですよ。悔しくて、「どう伝えたら楽しいと思ってもらえるか」「どうしたら歴史に興味を持ってもらえるのか」を突き詰めて考え、試行錯誤を重ねた結果、話す相手に応じて伝え方を変えながら楽しい空気を作るように心掛けました。小学生には「このお兄さん面白い」と思ってもらえたら勝ちです。「奈良公園の鹿は国の天然記念物だから、いじめたらシカられる」とか話すとドーンとウケる(笑)。一方で中学生だとギャグは通じにくいんです。そこで、リーダー格の生徒の名前を事前に聞いておいて、「〇〇君どうでしたか?」と名指しで当てると皆がこっちを向いてくれる。楽しそうな表情をしてもらえたときはやりがいがあります。

その後、会社立ち上げに至った経緯を伺えますか?

「いつかは京都の歴史や魅力を伝える仕事がしたい」と思っていましたが、すぐに生計が立てられるとは思えなくて、卒業後は大手機械メーカーに就職して大型クレーンの開発設計に6年間携わりました。赴任先の四国も満喫しましたが、離れて改めて京都の魅力が分かったんです。旅行会社で海外旅行企画の仕事をしていた山村も同じ思いで、一緒に起業準備をしようと29歳で退職しました。

まず平日はお互い派遣社員として働きながら、土日に座学による「京都学講座」と現地を案内する「京都さんぽ」の開催からスタートしました。名所や歴史に関するブログも毎日更新し続けて、1年半ぐらいして出版社から本の執筆依頼や、旅行会社からツアー企画や現地ガイドの依頼が増えたのを機に、2006年4月に会社を設立したのです。

 

京町家を拠点に、京都の奥深い魅力を伝えてコアなファンを増やす

株式会社らくたびの事業内容をお聞かせください。

京都の地から、京都の奥深い魅力を全国に発信することを目的に、観光事業をメインに、出版事業、京町家事業の3本柱で展開しています。観光事業では、旅行会社向けに学びの深い京都旅行企画プロデュースや現地案内を得意としており、お客さまにいいガイドパフォーマンスをすることで、当社ファンの囲い込みが狙えます。創業当初から15年来「らくたび会員」としてリピートいただいている方もいらっしゃいます。

「らくたび会員」に入るのはどんな方が多いですか。

50、60代以上の女性が6割くらいでしょうか。子育てが終わって好きな旅行に時間が使えるとか、ありきたりの観光ではなく、もっと京都を深く体験してみたいという方が多いです。リピート率が高く、東京から月2、3回来られる方もおられます。年会費3000円で年4回の会報誌(らくたび通信)をお送りしており、当社主催の京都さんぽや京都学講座にお得に参加できます。ご興味のある方はぜひWebサイトをご覧いただきたいですね。

ガイド案内風景

京阪・祇園四条駅_観光案内所

観光事業として、他にも京都ツアーの観光ガイドや各種文化センターの京都学講師、京阪電車祇園四条(ぎおんしじょう)駅にある観光案内所の運営など多岐に展開されていますね。

プロとして生計が立てられるガイド育成にも取り組んでいます。志望者はもともと、私たちのツアーの参加者が多いんです。何度も参加して京都の知識が増えてくると、自分も京都の魅力をお届けする発信側になりたいと思う人が一定数いらっしゃるので、そういう方に人前での話し方や現地での案内の仕方など、ガイドとしてのスキルを伝えて、最後は実際に一般のお客さまを前にして模擬ツアーを実施する観光ガイド育成講座を開催しています。

修了した受講生は、二条城の公式日本語ガイドでも活躍しています。まずは1カ所の定点ガイドとして人と接する練習を重ねてから、数カ所を案内するエリアガイドに、さらには京都全般の知識が求められる観光バスガイドや、京都検定講座を教える京都学講師へのステップアップが可能です。仕事として経験を積むなかで、レベルが上がった修了生を中心に、正社員として採用しています。

出版事業や京町家事業はどのような展開をされていますか。

創業当初から、京都観光ガイドブックや京都検定対策本などの企画、編集、執筆を行っていて、最近では昭文社「まっぷる」「ことりっぷ」の京都本の制作なども手掛けています。また、「らくたび文庫」シリーズを立ち上げて現在50冊以上も発行しています。実は、全部並べると背表紙に東山三十六峰が現れるようになっていて、大文字や南禅寺水路閣などのイラストが見えるんですよ。

京町家事業としては、築80年を超える国指定・登録有形文化財の「らくたび京町家」で四季のお茶会などの文化体験やセミナー、貸し会場など、さまざまな用途に活用しています。

らくたび文庫

京町家をオフィスにされたのはなぜですか。

京都の歴史や文化を伝える会社として、京町家を拠点にしたい思いがあり、8年ほど前から四条西洞院(しじょうにしのとういん)にあった京町家に入っていました。ただそこが取り壊しになり、4年前に国指定・登録有形文化財に指定されている旧村西家住宅に移りました。

今の場所にたどり着いたのは、ご縁による賜物(たまもの)ですね。相談しました不動産店は、私が以前に業界団体向けに講演した先でご縁のあった方でした。そこで紹介された旧村西家住宅のオーナーさんは長年カルチャーセンターでご縁のあった方だったんです。家賃は以前の4倍ほどで、経営的にも清水の舞台から飛び降りる覚悟で借りることにしたのですが(笑)。

結果的にこの新オフィスにすごく助けられました。商談に訪れる皆さんが京町家を見て喜んで帰られて、契約もうまくまとまるんです。京町家の歴史と伝統に会社が引き上げられて、おかげでそこから急速に事業も拡大していきました。

オフィス内風景

御社の強みはどんなところにありますか。

らくたびでしか味わえないガイドでしょうか。同じ料理でも、誰と一緒に食べるかで味も少し違って感じるのと同様に、旅行も「誰の案内でそこへ行くか」により印象も変わってきます。当社所属でも人によって得意分野やタイプが違うので、「あのガイドと一緒に散策したい」「この先生の話が聞きたい」といった形で各ガイドや講師にお客さまがついてくるよう、ファンサービスを重視しています。

 

伝え手自身が地元に感動していないと、お客さまを感動させられない

印象に残っている仕事についてお聞かせください。

創業まもない頃、紅葉の時期に下鴨神社の糺(ただす)の森を案内したときに、ツアー参加者の女性が「京都の紅葉は足裏に優しい」と言われたんです。

どこの紅葉を踏んでもふかふかさは変わらないのに、その方は“京都に感動”しているから、足裏の感触にまで“感動”していたのです。

日々地元でガイドをする私たちはこの女性と同じぐらい京都に感動しているのか? 改めて肝に銘じました。いまも絶えず自分に問いかけながら、京都に感動する心を大切に案内しています。

たしかにガイド自身が感動していなければ、魂のこもった案内は難しそうですね。

「観光」とは感を求めに行く「感行」なんです。旅行者は京都に着いて新幹線のドアが開いた瞬間、「京都」と書かれた駅名板を見ただけでも「来た!」と感動しているんですよね。「〇〇年に〇〇が建てられた」「〇〇の乱が起きた」などの事実ばかりを話しても、人は感動しないもので、事件の原因や当時を生きた人びとの思いなど、「表からは見えない部分」を伝えてこそ、「また京都に行きたい!」とお客さまの心を感動させることができる・・・、これが観光ガイドの役割であり、仕事のやりがいだと思います。

地元にいながらも感動の気持ちを保つために、心掛けていることはありますか。

新しいお店を見つけたり、寺社仏閣へ非公開の文化財を見に行ったりすることで「京都ってすごい」と常に自らも刺激を受けること。あとは同じガイド内容を話してもお客さまが毎回違うので、その方を楽しませるようにしっかりと接していくことでも新鮮な感動を保つことができます。

2020年4月からフェイスブック(Facebook)での生中継ライブも始められましたね。

コロナ禍のご時世で、講座やツアーができず、直接多くの方にお会いする機会が少なくなりました。そこでインターネットを通して京都を伝えようと「らくたび通信ライブ版-京、ちょっと旅へ-」をほぼ毎日15時から生中継でお届けしています(https://facebook.com/ryo.wakamura/)。アーカイブはユーチューブ(YouTube)で好きな時間に閲覧可能です(https://www.youtube.com/wakamuraryo)。7月以降はいったん対面できる機会も徐々に増えて、お客さまに直接お会いした際に「お久しぶりです」と言うと、「先生に毎日会っていますよ」と返されました(笑)。

▼ライブ生中継を見逃した!という方のためのユーチューブのアーカイブ▼

 

 

会社の今後の展望についてお聞かせください。

当社がやっている事業形態を他の地域でも展開できると面白いですね。たとえば奈良で「ならたび」、東京で「えどたび」といった組織を作るとか。私たちがガイド育成や会員募集、ファン作りの方法などノウハウを提供してサポートしつつ、自分たちの地域を愛する人たちが発信して、地元に根付く経営基盤ができればと思います。

取材日:2020年12月22日ライター:小田原衣利

株式会社らくたび

  • 代表者名:山村 純也/若村 亮
  • 設立年月:2006年4月
  • 資本金:1,000万円
  • 事業内容:京都における旅行企画、プロデュース、観光ガイド、京都学講座の主催、講演、書籍の企画・編集・執筆/町家の活用・保存、観光案内所運営
  • 所在地:〒604-8141京都市中京区蛸薬師通高倉西入ル泉正寺町333らくたび京町家
  • 電話番号:075-257-7320
  • URL:http://rakutabi.com/
  • お問い合わせ先:上記URLの「お申し込み・お問い合わせ」より

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