グラフィック2020.10.28

ローカルからグローバルへ!カミガキヒロフミ氏率いる IC4DESIGNが世界で活躍するためのチャンスの掴み方

広島
有限会社IC4DESIGN 代表・イラストレーター
Hiroyuki Kamigaki
神垣 博文

今、広島のとあるクリエイティブスタジオに、世界各国から制作の依頼が舞い込んでいます。その名は有限会社IC4DESIGN(アイシーフォーデザイン)。日本のみならず、アメリカ、ヨーロッパ、中東などといった世界各地でクリエイティブワークが高く評価され、「カンヌライオンズ」や「ロンドン・インターナショナル・アワーズ」といった国際的なコンクールで輝かしい受賞歴を重ねています。 代表の神垣 博文さんは、カミガキヒロフミのカタカナ読みでイラストレーターや絵本作家として活躍中ですが、同社はいかにして世界に羽ばたき、活躍の場を広げているのか、お話を伺いました。

いつかは起業。スタッフの将来を考え会社設立へ

会社設立までの経緯を教えてください。

大学卒業後に地元・広島のゲーム制作会社に就職し、その後デザイン会社や広告代理店勤務を経て、31歳でフリーランスとして独立しました。2年目を迎えたあたりから現在のスタッフ数人と一緒に働くようになったのですが、当時から「スタッフの将来や社会保険のことを考えると、いずれは会社にしなければ」と感じていました。そこで独立から10年の節目となる2006年4月に「IC4DESIGN」を立ち上げたんです。なので、新しく会社を設立したというより、個人経営の事務所から法人に切り替えたという表現が正しいかもしれません。

就職されたときから独立志向があったのですか?

若い頃は誰にでも「とにかく俺は成功する!」という、根拠のない野心があると思うのですが、僕もその一人で(笑)。忘れられないエピソードがあります。大学受験の帰りにたまたま先輩のお姉さんと出会って電車の中で話したとき、「将来何になりたいの?」と聞かれたんです。僕はとっさに「社長になりたい!」と答えました。そうしたら「いいね。若いのにそういうことが言えるなんてすてきよ」と言ってくれて。今でもはっきりと覚えているくらいですから、就職する前から漠然と「いつかは起業するんだ」という気持ちがあったのでしょう。

人生を変えたニューヨークからの依頼。気付かされたトップの貪欲さ

広島を拠点に海外にも活躍の場を広げられていますが、転機となったのはどんなお仕事でしたか?

「The New York Times Magazine(ニューヨーク・タイムズ・マガジン)」のカバーイラストの仕事です。今までの人生で、最大の転機となりました。僕はもともと、「東京で仕事がしたい、東京で活躍することではじめて、理想のイラストレーター像に近づける」と感じていたんです。ところが月日だけが過ぎ、このままだとローカルクリエイターで終わってしまうのではないかと焦りは募るばかり。この状況を打破せねばと本格的に東京の企業へ営業をかけたのですが、交通費や滞在期間中のスケジュール調整などが問題となり、思い通りに進みませんでした。

しかし、考えてみればポートフォリオはPDFにしてメールで送れますし、その後のやりとりもインターネットを介して行えば、東京どころか世界中に営業をかけられます。「だったらいっそのこと、ニューヨークに!」と思い立ち、英語ができるスタッフに頼んで営業をかけていったら、幸運にも「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」のアートディレクターの目に留まり、仕事の依頼をいただけたというわけです。

大きな仕事ですね。その後すぐに世界中から注目が集まったのですか?

いいえ。世界で最も評価されている雑誌の一つですから「さぞかし反響は大きいだろう」と楽しみにしていたのですが、蓋を開けてみれば何も反応はありませんでした。アメリカの媒体なので、刊行されても広島の書店で見かけることはなく、周囲のうわさにもならない。肩透かしを食らった感じでしたね(笑)。しかし時間が経つにつれて「作品を見ました」という反応が世界中から返って来るようになり、仕事につながるようになりました。

徐々に反響が広がっていったのはなぜでしょうか。

「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」の仕事は、その後ADC(東京アートディレクターズクラブ)の銀賞を受賞し、「ASME(アメリカ雑誌編集協会)ベストカバー2010」ファイナリストにも残りました。そこでカバーイラストの依頼をくれた著名なアートディレクター、アレム・デュプレシス氏が頻繁にメディアに取り上げられたんです。彼がインタビューを受けるたびに、僕たちのイラストも一緒に紹介されたことが大きかったんだと思います。

海外の仕事を受けるようになって変わったことはありますか?

東京在住のトップイラストレーターからSNSでフォローされ、国内のクリエイターとも交流が増えました。やりとりしているうちに気付かされたのは、彼らの仕事に対する貪欲さです。僕はそれまで、イラストレーターというのは下積みでは苦労するけれど、一度トップに上がれば悠々自適に暮らせるものだというイメージがありました。しかしそれは、とんだ勘違いだったんです。

僕は、海外のアワードへ応募するのは1作品でいいだろうと思っていましたが、トップレベルのクリエイターは一度に10作品も応募していたんです。海外のトップレベルになると100作品応募することもよくあると知り、努力して一流になったら安泰ではなく、それを維持するために一層の努力が必要だったと気付きました。それは非常に衝撃的で、僕のマインドはすっかり切り替わりましたね。「止まっていられないな」と強く思い、さらに全力疾走するようになってチャンスが増え、全米の鉄道の祭典「National Train Day(ナショナル・トレイン・デイ)」や「UN Women(国連女性機関)」といった海外のメジャーな仕事につながっていったんです。

絵本には「人生で描きたかったものを全部詰め込んだ」

カミガキさんのイラストは、細かく描き込んだ独自の表現です。この得意の手法はどのようにして生まれたのですか?

ディテールを緻密に描き込むようになったのは、作品を見た人に「わーっ! と言わせたい」という気持ちが一番強いかもしれませんね。もっと驚いてもらおうと思うにつれ、ますます細かく描くようになっていきました。 コンセプトのベースにあるのは「こんなところに住みたいな、行ってみたいな」という願望です。緻密に描くイラストは、仕事が混むほど制作が大変になりますが、見たことがない場所への欲求が創作意欲の源泉となり、モチベーションを上げることができるんです。

絵本では、2014年から続く『迷路探偵ピエール』シリーズが話題となっていますね。

イラストの中に迷路や絵捜しの問題を散りばめた「遊べる絵本」です。僕には「いつか自分の代表作となるような絵本を作りたい」という夢がありました。出版社からお話をいただいたとき、「どうせやるなら、今までの人生で描きたかったものを全部詰め込んだ本にしたい」と思ったんです。第1作の完成まで約2年3カ月、制作期間中はいつも迷路探偵のことばかり考えて、ほとんど休まず取り組みました。

すでに同作は世界35カ国以上で出版展開されていますね。

そのようですね(笑)。海外の書店に並んでいるところを自分の目で見ていないので、実感は少ないですが。とはいえ各国の読者からSNSなどでメッセージをいただくと、とても幸せな気持ちになります。外国の子供が僕の絵をまねして描いてくれたり、日本人の方から旅先のミュージアムショップに「カミガキさんの本があったよ」と、写真付きで送ってくださるんです。

2017年にスペインでカタルーニャ独立住民投票があったとき「今投票所に来ているが、子供があなたの本を読んで待っているんだ」とリアルタイムでメッセージをくれた方もいて。普段ニュースで目にする出来事とダイレクトな情報とが重なって、面白くもあり、何だか不思議な気分にもなりました。

ちなみに、2020年の春ごろに『ピエール』と別の絵本が出版される予定です。当社のスタッフが手がけたものです。こちらもどんな展開になっていくのか楽しみですね。

世界で勝負するには、突き抜けた個性を伸ばして挑戦あるのみ

スタッフにはどのようなことを求めていますか?

プロとして仕事をしていると、どうしても自分の得意な分野とそうでない分野がはっきりしてきます。高いクオリティで勝負するときは、苦手なところをカバーしようと一生懸命になっても、やはりその分野のエキスパートにはかなわないんですね。だからまんべんなく総合的なスキルを身につけるより、自分の得意な部分を突き抜けて伸ばしてくれたほうがいい。他に多少足りないところがあっても僕は構わないと思っています。

今後の事業展望をお聞かせください。

イラストやグラフィックの通常業務は、決まった値段の積み重ねがあって1年の収入の結果になります。一方で、絵本プロジェクトなどは企業にとっての商品開発と同じで、すぐに利益にはならないけれど、先のことを考えれば欠かせないものです。実際、子供のために絵本を買ったお父さんから「一緒に仕事をしませんか」と連絡が来たこともありました。

そのうえで、自分たちの会社についてもっときちんと世界に発信していけるようになると、共感した人が「一緒に仕事を」と言ってくれる機会は確実に増えてくるはずです。それは日本以外かもしれない。いずれの国であっても、自分たちから積極的に世界へアプローチして、チャンスを増やすことが大切だと考えています。

具体的に取り組んでいることはありますか?

今年、2020年6月から動画チャンネルをスタートしました。ホームページからみられます。日本語のほか、英語や中国語で僕たちの活動を世界に発信しています。登録者数は日本より海外の方が多くなり、よりグローバルに“仕事の種”をまくことができているのではないかと感じています。今の時代、オウンドメディアはものすごく強力なツールですね。

将来どういう会社でありたいですか? 夢や目標を教えてください。

夢は会社をノマド化させることです。今やパソコンを持っていけばリモートでどこでも仕事ができますから、事務所を広島に置きながら、沖縄や台湾、アメリカや北欧などにスタッフ全員を連れて行って仕事ができます。世界各地を移動して仕事ができるなんて、すごくエキサイティングですよね。そういうノマドスタイルを実現させていきたいです。

世界を舞台に活躍したいと思っているクリエイターにメッセージをお願いします。

一番大切なのは、本当にやりたいと思う気持ちです。「英語ができないから海外の仕事ができない」という人は、そこまで海外の仕事がしたいわけじゃないと思うんです。もちろん、それはそれでいいんです。でも例えば、サッカー選手が欧州リーグに行くのは言葉が話せるからではなく、純粋にサッカーがしたいからで、それはクリエイターにも同じことが言えると思います。

当然、世界は欧米だけではなく、アジアやオセアニアなどいろいろな国があってスタイルもさまざまです。どこが自分を受け入れてくれるかは、やってみなければわかりません。だから、本当にやりたいと思うのであれば、まずは行動に移して、後から足りないものを埋めていけばいい。熱い気持ちを胸に、積極的に世界に挑戦してほしいですね。

取材日:2019年10月16日 ライター:小泉 真治

有限会社IC4DESIGN

  • 代表者名:神垣 博文
  • 設立年月:2006年4月(創業1998年3月)
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:イラストレーションおよびグラフィックデザイン制作
  • 所在地:〒730-0041 広島市中区小町1-5高山ビル3F
  • 電話番号:082-243-1999
  • URL:http://www.ic4design.com/
  • お問い合わせ先:上記URLの「CONTACT」よりお問合せください

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