WEB・モバイル2020.08.12

アルは究極の漫画サービス!名場面コマ投稿、無料マンガまとめから運営にも参加可能

Vol.180
マンガサービス アル 代表取締役
Kensuke Furukawa
古川 健介

新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため自宅で過ごす時間が増え、これをきっかけに漫画を読むようになった方も増えたのではないでしょうか。スマホの普及により電子書籍で楽しんでいる方も多いかもしれません。昨今ではさまざまな電子書籍サービスがリリースされていますが、無料漫画のまとめや新刊のお知らせ、コマの合法的な2次使用、コミュニティの運営などをまとめて提供しているのが「アル」という漫画サービスです。

今回はアルがどんな取り組みを行っているのか、どんな思いが込められているのか、会社代表である “けんすう”こと古川健介(ふるかわ けんすけ)さんに伺いました。

電子書籍ストアが150以上…特殊な国・日本だからこそ生まれた漫画サービス

Twitterなどでおなじみ、けんすう氏のイメージイラスト

アルと言えば漫画ファンの間ではもうおなじみのWebサービスだと思いますが、改めてご説明していただけますか?

アルは漫画ファンが集まって、漫画のいろいろな情報を知ることができたり、次に読みたいと思える漫画を探すことができるというコンセプトで作っているサービスです。いろいろな出版社や電子書籍ストアさんに無料で読める漫画が公開されていますが、その情報を一覧で見られるサービスがありません。そこで、それをまとめて紹介したり、新刊の告知をしたり、漫画家さんや編集の方に取材をして作品の裏側を伝えたりしています。

他にもSNSで漫画が話題になる企画もやっています。作品とコラボしてキャラクター総選挙をしたり、クイズを行ったりとか。企画の一つ「#私を構成する5つのマンガ( https://alu.jp/elementsOfMe/0T2kdyPIe1k8h6rcIhLF )」には、62万人以上の人が参加してくれました。作品をよく知ることで盛り上がり、そのムードがSNSに染み出すことで新しい読者さんが増えるのを目指しています。

企画【1】#あなたがいま追っているマンガを画像でシェアしよう!

企画参加ページはコチラ https://alu.jp/myHotManga

企画【2】#私を構成する5つのマンガ

企画参加ページはコチラ https://alu.jp/elementsOfMe/0T2kdyPIe1k8h6rcIhLF

SNSで漫画のコマを投稿できる「コマ投稿できるシリーズ」は新しいなと感じました。

業界や漫画ファンの間では、二次創作や漫画のコマをブログやTwitterにアップして楽しむようなことがよく行われています。出版社さんや作者さんにとっても、作品の宣伝となるのでポジティブに捉える人も少なくないのですが、いきすぎると漫画村のような海賊版だったり、作品が無料に読めるような状態になったりするので「使っていいですか?」と聞かれたら断らざるを得ない。

そのあたりをちゃんと整理して、インターネットユーザーが自然な形で楽しむことができ、出版社さんも作者さんも喜ぶ形ができたらいいなと思って作っています。

※「コマ投稿」はアルの看板サービスのひとつ。出版社や作家さんから使用許諾をいただいたマンガのコマの写真を撮影し、アル内で投稿することで、ブログやSNSで活用できる。コマ投稿ができるマンガ一覧はこちら(https://alu.jp/shelf/crop

アルで一番力を入れたところはどこですか?

出版社さんや作者さんの許可をとったり、noteさんやライブドアさん、アメーバブログさん等のブログサービスの方にもちゃんと話を通したり、利害関係を明らかにすることに力を入れています。時間がかかる割には自分たちに利益が出ないので大変ではありますが、見て見ぬふりをすると解決していかない問題も多く起こると思うので、そこを巻き取ってやってるイメージですね

アルには短期間でどんどん機能が追加されているので、すごく勢いがあるように感じます。何人くらいのチームで運営されてますか?

11、12人で、エンジニアが6人くらいです。弊社のようなサービスは、ただ作るだけであればどこの会社でも1週間でできると思います。アルくらいの規模であればリリースして実際の数値で判断して進めていく方が早いし精度が上がると考えて、スピードを意識しています。機能によって異なりますが、3日から1週間くらいで作ってリリースして結果を見ていますね。

いや本当にスピーディな印象ですよ。そんなアルが意識してるライバル的な存在のサービスはありますか?

たとえばアメリカやドイツ、イギリス、カナダだと電子書籍ストアはAmazon1強になるので、我々のような「いろいろな電子書籍ストアがある状態だからこそ成り立つ」といったサービスはあまり見かけません。日本は150〜200くらい電子書籍ストアがある特殊な状態なんですよね。そこをまとめあげて自分たちが得をすることを目指すというよりは、「たくさんの電子書籍ストアが存在しているほうが業界にとっていいのではないか」と思っています。

意識しているのはどちらかというとSNSやYouTubeですね。漫画を読む時間を削ってくるので、それらの人に届くよう漫画の話を入れ込み続けて、漫画のアテンションを高めていこうとしてます。

好きなことを仕事にする道筋を作りたい

アル(2020年8月21日現在) https://alu.jp/

アルを立ち上げたのは漫画が好きだからと伺いましたが、そもそも好きになったきっかけは何ですか?

漫画は小さい頃から読んでたので、きっかけは覚えてないですね。最初に読んだのは冨樫義博の『幽遊白書』とかかな。あとは小学校高学年で読んだ山田玲司の『Bバージン』や、高橋留美子の『らんま1/2』だと思います。

(引用:『らんま1/2』〔新装版〕(1) (少年サンデーコミックス) Kindle版

 

(引用:『幽★遊★白書』 1 (ジャンプコミックスDIGITAL) Kindle版) 

 

(引用:『Bバージン』(1) Bバージン (ヤングサンデーコミックス) Kindle版)

 

『Bバージン』はもう少し年が上の方が読む印象がありますが、それを小学生のときに面白いと思える感性だったのは興味深いですね。

『Bバージン』の内容を簡単に話すと、生き物オタクだった男の子がデートで女の子から「カメ見て、楽しい?」と言われてショックを受けます。そこから自分のお姉さんに手ほどきを受けてモテる方法を学び、好きな女の子の恋人になろうと頑張る話なんですけど、最終的には水族館で働いてすごく生き生きするんです。その状態でハッピーエンドになるんですよね。そういった「他人にどう思われてるのかよりも、自分が好きなものを好きだとちゃんと言うっていいよね」みたいな話の漫画は、結構ずっと好きですね。

古川さんが“今”いいと思っている作品も教えてほしいです。たくさんあるのは承知の上です!

最近だと『その着せ替え人形は恋をする』ですかね。これはひな人形を作る男子高校生とコスプレが好きな女子の物語です。男の子がコスプレ衣装を作る手伝いをするとかみたいな話なんですけど、ひな人形をつくる男子高校生とかニッチですよね。またコスプレする女の子もギャル仲間から理解されていないんです。でも好きなものを好きって言って楽しむって、いいよねっていう明るい話なんです。

あと『マキとマミ ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』。主人公がクールな感じの上司に呼び出されたら「すごい衰退したジャンルのオタクで、お互いそうだった」ってところからはじまる話です。理解されないようなものが好きなことも、それっていいよねみたいな。 隠すようなものでもないし、悪いこともでもない、後ろめたい話でもない。やりたいこと、好きなものを好きっていうのはいいよねって、そういった系が好きですね。

これはアルを運営していくうえでも思っていて、批判や悪口がSNSで増えるよりかは「好きなものがめちゃくちゃ好き」ってみんなが言える感じになる場を作りたくてやってます。

 

(引用:『その着せ替え人形は恋をする』 1巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス) Kindle版)

   

  (引用:『マキとマミ ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』 (コミックエッセイ) Kindle版)

 

好きなことを仕事にできる人は日本では少ないんじゃないかなという印象がありますが、それをかなえたい人に向けて御社の支援策などありますか?

アルでは「アル開発室」という有料のコミュニティー、いわゆるオンラインサロンをやってるんですけど、その理由はサービス作りや漫画サービスに携わりたい人がたくさんいるからなんですね。だけどお金を払って仕事としての採用は、スキルが相当高い人しか、今はできません。それってある意味、エリートによる仕事の独占なんですよ。

例えばSNS を作るという仕事は最高に楽しいけど、それってシリコンバレーのFacebookとかTwitter みたいなところに入らないとできないし、超学歴社会の中で勝ち抜いた人に独占されてるのが現実としてあるんですね。本当にSNSを好きな人がそういう仕事しようとしても、そもそも入れない。なので、アルでは、お金を払うと漫画サービス作りに関われる、という場所を作りたいと思っています。

アル開発室は「お金をもらいながら仕事してもらってるのいいですね」と言われがちなんですが、サービス作りはしっかりとやってもらわないといけないので、教えるコストが発生しますし、むしろ大変です。正直、優秀な人に給与を払ってやってもらうほうがコスト的には割安のはずです。

でも、ユーザーさんと一緒に作って、スキルがない人でも無料漫画をまとめると皆に感謝してもらえるとか、そんなにスキルがなくても記事を書いたら作者さんが喜んでくれてリプライがくるとか、それだけでもユーザーさんに喜んでもらえる。スキルが高まってきたら今度は、仕事としてお金を支払ってコンテンツを作ってもらって、成果が上がってきたら仕事になっていく、みたいな道筋になったらと。

それは漫画ファンにとって、すごくいい仕組みですね。

そうですね。そういうところまでやる時代になるかなと思います。この業界の仕事量は、ツールやフレームワークの発展で生産性が上がり、ここ10年くらいで約半分になっている感覚があります。繰り返しますが、面白い仕事は優秀な人とかエリートにどんどん独占されていて、好きなことを仕事にしたいと思っても、経験を積める場所がない人が大半になってしまいます。なので、お金を払ってでも経験を積んで好きなことを仕事にしたいって人が出てくるんじゃないかと思って。そういう場を作っていきたいですね。

最終ゴールは、世界中の人が漫画を楽しめるようにすること

アル開発室 https://salon.jp/alu

アル開発室についてもう少し詳しく教えてください。

アル開発室は昨年10月頃から始めて、今は1,700人くらい入っていただいています。アイデアをくれたり、無料漫画のリストをまとめたりしてくれているのが開発室のユーザーさんです。

すごい大人数ですね。1,700人に開発の裏側を見せて、まねされたり他で先にやられたらどうしようみたいな不安はありませんか?

そもそも出来上がったサービスを見たら、簡単に同じものは作れるんですよ。例えば、Twitterと全く同じものを作ってくださいと言われたら、見た目と動作が同じ”だけ”であればすぐに作れるんですが、Twitter自体は作れないじゃないですか。なので、アイデアとか中身だけをまねされてもほとんどの場合は大丈夫というか、情報を公開してようがしてなかろうがまねされるというのが基本にあります。

インターネット上のサービスがパクられないための防御策はもうこの20年ぐらいでほぼ体系化されていて、「ネットワーク効果とブランドとスケールとエンベッド(埋め込み)」といわれています。それらによって、競合がまねしてもブロックできる体制ができているものは公開しても大丈夫だし、そうでなくても、リリースしたら真似されちゃうので、僕らみたいなサービスだと、あまりデメリットはないですね。

なるほど。もうひとつお聞きしたいのが、コミュニティ作りを意識しているのはなぜですか?

我々は蟻(あり)を個別で判断できないじゃないですか。差が少ないからですよね。それと同じで人類という種で考えると、能力の差はそこまでないと思うんですね。人類最速のウサイン・ボルトのようには走れないけど、ボルトの3倍くらい時間をかければ多くの人は100メートル走れるじゃないですか。 なので人がちゃんと生きる環境や場、つまりコミュニティを作って、「こういうふうに動く仕組みを作るとこう動く、動けるようになる」みたいなことに自分は興味があるんだと思います。

サービスでも、例えばフォームの文言を少し変えるだけで投稿する内容がすごく変わるんですよ。「この漫画を批評してください」だと、悪いところも言わないとフェアじゃないと思って悪いところも書くんですけど、「この漫画の好きなところを書いてください」だと、好きなところしか書かない。このように意識のディレクションはできるので、そういったことをうまく使って皆の幸福度が上がる道筋を作れると面白いなと思います。

最後にアルのゴールを教えてください。

最終的には世界中の人が漫画を楽しめる状態にすることです。漫画市場はグローバルで約1.7兆円なんですけど、世界の主要国が日本と同じくらい漫画を読むようになると、5、6兆円までいくんですよ。それくらいになると、絶対そこのトップランナーは日本人が圧倒的になります。日本で漫画を描いていると世界的スターのような生活ができて、人気者になれるチャンスがあるので、その状態に持ってくイメージですね。映画だとアメリカが強いし、音楽だと韓国が強いけど、漫画だったらまだチャンスがあるので、その本拠地になるといいなと思います。

取材日:2020年7月1日 ライター:坂本彩
※オンラインにて取材

プロフィール
マンガサービス アル 代表取締役
古川 健介
Web業界では“けんすう”と親しみをもって呼ばれている。2006年早稲田大学卒業。インターネット掲示板「したらば」にかかわり、Webサービス「nanapi」を手掛ける。現在は漫画の新刊情報や無料情報、最新ニュースなどを届け、コマ投稿といった漫画をより楽しめる、より漫画に出会えるサービス、アルに注力している。

「アル」
サービス開始日:2019年1月22日
アル株式会社
設立年月:2018年7月
所在地:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2丁目6-6
URL:https://alu.jp/
Twitter:https://twitter.com/alu_inc

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