存続の危機を乗り越え30回目 学生による学生のための「東京学生映画祭」はなぜ続くのか?

Vol.167
第30回東京学生映画祭企画委員会 進行部
Shuto Kume, Haruka Sado
久米 修人氏、佐渡 春香

東京・渋谷のユーロライブで8月3、4日に第30回東京学生映画祭(同企画委員会主催)が開かれます。日本映画界の第一線で活躍する有名監督らを輩出してきましたが、昨年は運営が苦しくなって開催が延期され、ようやく今年30回目の節目を迎えました。なぜ映画祭は続いているのか? 企画委員会進行部の久米修人さん(日本映画大学4年)と佐渡春香さん(一橋大学大学院修士2年)の学生スタッフ2人に、見どころや思い入れと共に聞きました。

 

学生が企画・運営のすべてを取り仕切る 珍しい映画祭

東京学生映画祭はどのような映画祭なのですか?

久米さん:

この映画祭は、他の映画祭と違ってバックに企業がついていない、学生だけで企画・運営している日本最大規模の学生映画祭です。このスタイルで30回も続いている映画祭というのは、ヨーロッパなどをみても、例がありません。

続いている理由も正直不明で、その年ごとに運営している学生の気持ちだけでつながっている映画祭です。

映画祭出身の監督を教えてください。

久米さん:

青山真治監督(『EUREKA』)、熊澤尚人監督(『君に届け』)、中村義洋監督(『アヒルと鴨のコインロッカー』)、月川翔監督(『君の膵臓をたべたい』)、小泉徳宏監督(『ちはやふる』)、山戸結希監督(『溺れるナイフ』)らがいます。

そうそうたる方ばかりですね。映画祭の審査部門はいくつあるのですか?

久米さん:16分以上の作品を審査する「東学祭コンペティション」とそれより短い「短編コンペティション」という二つの部門に分かれています。それぞれ現役映画監督などのゲスト審査員が審査し、最終日にグランプリと準グランプリを発表します。
 

学生が運営する映画祭ということですが、応募者も学生なのですか?

学生が運営する映画祭ということですが、応募者も学生なのですか?

久米さん:エントリーの規定では、作品が完成した時点で学生であることを条件にしています。というのも、8月に映画祭があるので、4年生の卒業制作で作った学生はすでに卒業してしまっているからです。

応募する学生は、映画を専門に勉強している人が多いのですか?

久米さん:必ずしも映画を専門に勉強している学生だけではなく、芸術系の学校に通っているけれど、映画や映像を専攻していない学生からの応募もあります。また、学校のサークルで映画を撮っている学生からの応募もあります。

今回はどれくらいの作品が集まったのですか?

久米さん:前回のエントリー数は156本だったのですが、今回は213本にまで増えました。“東京”学生映画祭という名前ですが、27回から全国から作品を募るようになり、今年からは新たにオンラインでエントリーできるようになっています。

決め手は本気度とパッション 同世代が選ぶ“僕らが応援したい映画”

213本ものエントリーの中から、映画祭で上映する16本をどのように選んでいるのですか?

久米さん:1次審査では学生スタッフが作品を審査し、2次審査ではOBや出身監督に感想や意見をもらいますが、最終的には学生スタッフが決定します。

監督も審査員も学生ですから、同じ世代、同じ目線で同じぐらいの知識しかないし、作中では知らないモチーフも事件もほとんど出てこない。そんな中で、今の学生だからこそ選べる作品というのがあると思います。学生なので作品を選ぶ人間が毎年変わりますから、映画祭としての統一性はあまりないかもしれませんね。

審査する学生の意見は一致するのですか? それとも割れる?

佐渡さん:上演するかどうかのボーダーライン上の作品の選定で、今回議論が紛糾しました。

久米さん:8、9割の人がいいという作品もあれば、意見が分かれる作品もあります。それはどちらがいいか一概には言えません。議論が生まれる映画がいいという考えもあるし、色んな感想を引き出せる映画のほうがいいのかもしれません。一人が強く推しただけでも、いいものかもしれない。そうやって色々考慮に入れたら、全然決まらなかったんです(笑)。

意見が割れた時、何が決め手となるのでしょう?

久米さん:学生なので、機材や予算、人員など映画作りの環境はさまざまですが、その環境の中で本気でやっているか、パッションを感じるか……こういう風に言うと何だか上から目線で嫌なんですけど、そういったものが伝わってくる“僕らが応援したい映画”というのが一つ基準になるのかと思います。

会場変更を機に存続の危機 学生ならではの弱点 資金も精神面も厳しく

映画祭は最初、どのように立ち上げられたのでしょうか。

久米さん:僕らも伝え聞いた話しか知らないのですが、1回目の時は8ミリフィルムの時代でした。今のようにいろいろな映画祭があるわけではなかったので、ここで学生の映画を紹介しなければ、他に環境がないという状況だったようです。自分たちの映画を自分たちで上映しようということで始まったそうです。

現在の映画祭の活動理念は学生の才能の発掘と、映画業界の活性化です。コンセプトは学生映画をいかに活かしていくか、ということです。

30年も続けていくのには、大変だったこともあったのでは?

久米さん:実は昨年、映画祭を延期しているのです。ですから今年で30回ですが、31年目なのです。

28回までの十数年間、世田谷区の指定管理会社が運営する下北沢のホールを無償で貸してもらっていたのですが、ホールの委託先が変わった関係で、29回から自分たちで会場を探さなければならなくなりました。29回は品川で開いたのですが、会場が変わったことで、作業量が予想以上に膨大になってしまい、そこから運営がなかなか難しくなりました。去年はついに映画祭を開催せず、1年延期しました。

映画祭存続の危機だったのですね。

久米さん:昨年は一番の危機だったと思います。メンバーの中から「できないよ」という言葉が出るような、辛い時期もありました。資金的にも精神的にも運営が難しくて、立て直すのにかなり時間を要しました。

そこは学生ならではの弱点だと思います。映画祭を仕事としてやっているわけではありませんからね。僕も正直、その時は「もう嫌だ」と思いました。

1年の延期を経て開催 過去を引きずらずに続く“不思議な”映画祭

 


久米 修人さん(左)、佐渡 春香さん(右)

危機をどうやって乗り越えることができたのでしょう?

佐渡さん:メンバーは4年で全員入れ替わりますし、いい意味で過去を引きずらないのです。その時々の学生のモチベーション次第で色々なことに挑戦できます。ある意味、“自主映画以上に自由な映画祭”ですね。

久米さん:今回も新しく入ったメンバーのやる気もあって、続けることができました。また、去年1年間で色んな方にご助言、ご支援をいただいて、何とかここまでたどり着きました。協賛企業やOB・OGのご支援、チケット代、エントリー代などの収入源で、資金的にはなんとか回っている状況です。

映画祭が終わらずに続いているのが、自分でも不思議なくらいです。こうやって続いているのは何でだろう? 映画祭を終えて何か感じられたらいいなというのが、個人的な願いです。

油絵専攻の藝大生が1人11役 「新世代の才能」を感じさせるコンペ作品

コンペティション作品の中で、それぞれ個人的に注目している作品を教えてください。

久米さん:短編部門の『くじらの湯』(東京藝術大学大学院 / 7分 / 監督:キヤマミズキ)は、独特なタッチのアニメーションです。描かれるのは作り手が子供の頃に見た大浴場で見た景色なのですが、その日常的な風景が神秘的で幻想的な世界に仕上がっています。

もう一つは、『Fiction』(東京学芸大学/15分/監督:北川未来)。撮影はすべてアメリカで行われ、出演者も全員が海外の役者さんです。ただ、その珍しさで選んだのではなくて、物語が本当によくできていて、洗練された印象を受けました。監督自体も面白い取り組みをしていて、脚本を2日で書き上げ、役者はオンラインオーディションで選んだそうです。

佐渡さん:私が一番好きな作品は、『ワンダラー』(映画美学校/32分/監督:小林瑛美)です。ある女性が彼氏に「一人でデンマークに行った」というつまらない嘘をついたことから始まるストーリーです。閉じこもった世界観もありつつ、広い世界を描いている。よくある学生映画とは毛色が異なり、登場人物の背景にあるものがすごくよく描かれています。

二つ目は『歴史から消えた小野小町』(東京藝術大学/27分/監督:大野キャンディス真奈)。監督は東京藝大で油絵を専攻している方です。映画を専門に勉強していない人が、初めて映画を撮ってみたら、こんな風になった、という作品です。一人11役やっていて、エンドロールも全部自分! 小野小町の歴史を自分と同化させて描いています。

学生が撮った映画の他にも、上映される作品があるのでしょうか?

久米さん:特別招待作品『あたしは世界なんかじゃないから』をクロージング作品として上映します。監督の高橋泉さんは『ソラニン』、『凶悪』など脚本家としても活躍されていますが、自主映画も撮られていて、第13回東京フィルメックス学生審査員賞を受賞した作品です。DVや同性愛など色んな問題をすくいとりながら、普遍的なエネルギーを持った作品で、ぜひ観てもらいたいです。上映後には『孤狼の血』などで知られる白石和彌監督とのトークセッションも行います。

「将来の巨匠が出たらうれしい」「大学院で映画祭を研究」――スタッフの思い入れと熱意

 

ここまで説明いただいて、メンバーの皆さんの熱い思いを感じました。なぜ、映画祭にここまで情熱を傾けるのでしょうか?

久米さん:僕は最初は映画を作る側を目指していて、中学生の時から脚本を書くなど色々とやってきました。そんな中、同世代の映画を観て、ただ作るだけで終わらせちゃいけないと思うようになり、作る側から映画を上映する側に関心を持って、映画祭のスタッフに加わりました。作り手もスタッフも同世代で、同じ目線で作品を扱うという映画祭は、他ではありえないことだと思っています。ここから将来、日本の巨匠と呼ばれる人が出たらうれしいなと思います。だから、本当のやりがいを感じるのは何十年も先かもしれないですね。

佐渡さん:私は文化をどう発信していくかということに興味があって、学部の時から色々な映画祭に携わってきました。現在は一橋大学大学院で映画祭の研究をしています。社会学の観点から、映画祭がどういうシステムで、そこに携わる人たちがどういう風に動いているのか、ということを研究しています。映画祭にスタッフとして参加することで、作家さんと観客の橋渡しをしたり、作家さんへの交流の場を作ったりできるのではないかと思っています。もちろん、自分の研究にも役立っています。

最後にこの記事を読んでいるクリエイターの方々にメッセージをお願いします。

久米さん:映画祭で選ばれた作品の作り手は「この人たちはすごい」という紹介になってしまうと思います。ですから、選ばれなかった人たちは「うらやましい」「こいつが……」という気持ちも正直あると思いますが、そういった気持ちになれることも含めて映画祭だと思います。映画祭を訪れるクリエイターの方々には、「この作品を自分は超えられるか?」「この人と何かやりたい」といった気持ちを感じてもらえるとうれしいです。

佐渡さん:クリエイターは、才能を生かした孤高の存在とも言えますが、作品に触れる第三者がいなければ成り立たない部分もあると思います。私は映画祭を通して、クリエイターの交流の場を作っていきたいと思っています。映画業界以外のクリエイターの方々にもぜひ来場してもらいたいです。

取材日:2019年6月19日 ライター:すずき くみ

第30回東京学生映画祭

開催日:2019年8月3、4日
会場:ユーロライブ(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F)
チケット(1プログラム券):前売500円(Pass Market)、会期中700円(会場にて)

URL:http://tougakusai.jp/

twitter : @tougakusai

問い合わせ先:HPお問合せフォームより

 

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