株式会社クリエーターズ~映像制作に夢を生むために26社が出資~

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株式会社クリエーターズ 代表取締役社長 高村裕さん
2006年7月13日、株式会社クリエーターズという新会社が発足した。テレビ番組制作会社など26社が共同出資したもので、参加会社と発注主の間に立ち、映像制作案件を動かし、生まれた作品の2次利用、3次利用のマネジメント等も請け負う。これは、テレビ制作界に大きな変化が生まれている?そう感じ取材を申し込んでみた。結論から言うと、目線はもっと先に向けられていた。これまで地上波テレビに依存していた映像コンテンツ制作者たち、制作会社が、自らの未来を自らの手で切り開こうという意欲的な試みだったのである。発起人のひとりであり、同社社長でもある高村裕さんにお話を伺った。
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<取材協力> 高村裕(たかむら・ゆたか)さん 株式会社クリエーターズ代表取締役社長(株式会社エキスプレス・シー・アール代表取締役社長) http://www.creators.tv/

 

年々制作費が削られている地上波テレビへの依存度を 下げる。それが、映像コンテンツ制作者の生き残る道だった。

株式会社クリエーターズは、どんな会社ですか?

独立系映像制作プロダクション26社が出資し、めまぐるしく変化する映像コンテンツの制作環境、ビジネス環境に対応する活動を目指して設立しました。出資会社は、ほぼテレビ番組制作会社です。これまで地上波テレビ局からの請負い制作に依存してきた会社ばかりですが、インターネットやCS、さらには直販など、新しい分野に進出するための営業活動、企画立案をクリエーターズが担い、次の時代へのステップとしようという構想です。

地上波テレビ番組制作に、行き詰まりを感じたということですか。

このままではいけない。これまでのやり方だけでは、先がないという認識は出資会社全社に共通しています。在京5局の株式上場が完了して以降、制作費の削減は動かしがたい流れになっている。ある局の社長が、「当社は、制作費は削らない」と発言すると、IR担当者から「そんなことを言ったら株価が下がる」とたしなめられたそうです(笑)。そういう時代になりました。地上波テレビだけに依存していては、私たち制作会社の未来はかなり暗いと感ぜざるをえませんでした。

新しい分野に進出するにあたって、複数の会社が共同するという発想はどこから?

テレビ番組制作社の集まりであるATPという団体があります。今回の案件は、そこで交流のあった仲間たちの間で話し合われ、実現したものです。発起人の5人中4人は、ATPの理事です。で、なぜ力を合わせたかというと、まず同じ悩みを持つ者同士の共感があった。そして、もうひとつ、みんな営業が苦手なんです(笑)。制作会社社長といっても、制作出身で制作好き。企画が一本通れば現場に貼りつくことになるので、並行して他の企画の営業なんてやってられないのが実情。特にインターネットやDVD販売など、これまで手がけてこなかった分野への新規進出は、かなりの負担を強いられますから、共同というアイデアが出たのは必然的なことだと思います。

課金、直販――これまでにないルートを 開拓し、ビジネスの可能性を切り開く試み。

どのような体制で営業活動をするのですか?

出資会社から私を含めた役員が5人。営業担当の7人は各社からのピックアップです。残念ながら、全員が出身会社の業務との兼任。これは、早晩解決すべきことになると思う。専任スタッフは必要になるはずですからね。

具体的な活動方針を教えてください。

まず、新規分野の開拓が大きな目標です。インターネットやモバイルなど、映像コンテンツを求める分野に積極的に働きかけていきたいですね。たとえば映像配信に関しては現在、大きく分けて広告モデルで動いている地上波と課金モデルのCSがある。ネットにも広告モデルと課金モデルの配信がある。私たちは地上波の広告モデルで育った会社の集まりですが、他の3分野に視野を広げ、さらに直販、つまりDVD販売や映画のような自社制作・配給のビジネスへの可能性も探っていこうと考えています。

成立した案件、獲得した案件を実際に制作するのは?

我々クリエーターズがマッチングし、参加(出資)会社の中から指名することになると思います。たとえばオンデマンド配信用に1ヵ月に10タイトルのコンテンツが必要だというケース―今後増えると考えているのですが―などは、ある意味理想的な案件。1社では10ヵ月かかってしまうけど、クリエーターズのコーディネートによって10社が参加し、1ヵ月で納品できる。参加会社全社で計1500人にいたるクリエイターが参加しているこの会社ならではの総合力が示せると思います。

直販というのは、かなりドラスティックな新方針ですね。

ニーズも作品もあるが、配信機会がない。多くの映像作品が、そういう状況下にあると思います。それは、地上波テレビにオンエアされるという選択肢しか持っていなかった私たちの責任でもあります。たとえばドキュメンタリー作品などは、潜在的なファンはかなりいるけれど、放映枠が年々減っている。ならばファンに向けてDVDを販売する。あるいはネットなどで課金配信する。そういう選択肢を自分たちで作っていくべきだと思うのです。これは今後作る作品に関する方針であると同時に、今各社が著作権を持っている過去の作品にもあてはまります。今、参加各社の著作権所有作品のリストを作っているところです。

次世代の人材を育成する方策でもある。若者たちに、 魅力を感じてもらえる業界に生まれ変わらなければならない。

今回の会社設立は、業界全体の未来を考えた上での方策でもあると思いますが。

もちろんそうです。ここまでビジネスの側面についてのみお話しましたが、もうひとつ大きなテーマがあります。それは、「人」です。気づくと、私たちの愛したテレビ制作の世界は、人気の職場ではなくなってしまいました。労働条件が厳しい上に、作品発表の場も少ない。「テレビは好きだけど、こんな条件では働けない」と考える若者がどんどん増えてしまった。そこへの危機感も、会社設立を強力に後押ししたのです。

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「発表の場」は減っているのですか?

いわゆる「完パケ納品」に、制作会社ディレクターがかかわるチャンスがどんどん減っています。原因は、すべてを取り仕切る立場には局のディレクターがいて、制作会社ディレクターはコーナー制作だけを受け持つというケースが多くなっているから。若手にチャンスを与えられなければ、次の世代が育たない。これまでに比べて低予算でもいいから、機会創出をすべきだ。そういう判断のもとに他分野への進出を考えているのです。さらに言えば、今後は、もっと個人が前面に出てこなければいけないとも思います。いうなれば、ヒーローですね。独立系プロダクションから、人気コンテンツの制作者が生まれる。大金持ちが生まれる。そういうムーブメントがない限り、次の世代に魅力を提示できないと思います。

数人でも、成功者が生まれれば良いと考えている?

業界再活性の足がかりとしては、全然かまわないと思います。長い目で見れば、一人の成功者が生まれれば、その周辺に連鎖的に新しい仕事も生まれるはず。そういう事例をひとつひとつ増やしていくことが大切なのだと思います。

将来的な目標は?

2011年には、売上ベースで40億円を目指しています。5年後に、1社あたり2億円の売上増という換算で設定した目標です。

クリエーターズの手数料は、発注者が支払う?

いえ、制作を担当する会社からいただきます。制作単価には上乗せはなかなかできませんので。

クリエーターズによる制作案件1号は、いつごろ成立する見込みですか?

年度内には1件成立させなくてはと考えています。今、そのために一生懸命活動しているところです。ぜひ期待していてください。

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