日本映画の時代編Part2~自主制作&短編映画の実像~

vol.22
 face022さて、前回とりあげたように表層に数十億円規模のヒットという現象が表れているとき、水面下では何が起こっている?そんな複眼的な視点で「日本映画の時代」を理解するために、Part2で目を向けたのは、自主制作の世界です。これまでも、そしてこれからも、多くの映像作家は自主制作のフィールドで鍛えられ、育つ。そこがいかに充実するかがトップレベルの充実に影響するという構図は、プロスポーツとまったく同じだと思う。 そこで今回登場いただくのは、東京/下北沢で短編映画専門の映画館――トリウッドを運営する大槻貴宏さん。彼の地に日本初の短編専門映画館を開き、今年で8年目。「自主制作映画は90分作品である必要も、フィルム作品である必要もない」「作品は、必ず有料公開する」「観客動員に実績を残したら、作品の拡大公開と次回作製作をサポートする」等々、それまでの日本映画界にはなかった考え方で、新海誠、野口照夫などの才能を世に送り出しています。2006年夏には、高校生の自主制作映画コンクール「映画甲子園」で大槻さんは審査員に、トリウッドは公開劇場のひとつとして参加し、TVニュースにもとりあげられました。そんな大槻さんの自主制作・短編映画にかける意気込みと、展開するビジネスから、現代の自主制作の状況を理解しようと考えました。

http://homepage1.nifty.com/tollywood/

まず、短編映画館トリウッドの説明をしよう。立ち見8名を入れても、満席55名の小さな短編映画専門館である。上映作品は、30分以上50分以内。上映の条件は、有料であること。仲間内の上映会などは、受け付けない。その有料上映で計200人以上の観客動員を果たすと1週間のロードショーの権利が発生し、そこで400人の動員を達成すると次回作のロードショーが確定する。さらに実績を残すとポレポレ東中野での上映、さらにはトリウッドからの作品への出資と、映画作家がステップアップできる仕組みになっている。自身も高校時代に自主制作していた大槻さんが、映画作家発掘のために築き上げた実際的なシステム。そこにトリウッドの本質がある。

日本の映画界にも、ルーキーリーグが必要だ。

もちろん映画が好きで、アメリカに留学してプロデュースを学びました。帰国して映画制作専門学校の講師を務めながら膨らんだのが、短編上映館を作るというアイデア。アメリカ、日本を問わず、劇場公開する作品は90分とか2時間です。しかし、新人がいきなりその長さの作品を作るのは内容面、予算面でも難しい。しかし、そこで上映されなければ商品になりえないという矛盾があった。運よく上映まで到達しても、次にはもっと金銭的にも過酷な公開が待っている。そんな状況で新人が育つのは、あまりにも厳しいです。 無名の新人にどうやって真剣勝負の場を作るか、そこで浮かんだのが彼等でも作れる長さの映画=短編専門の映画館でした。 ベースボールでいえば、3Aでも2Aでもなくルーキーリーグ。これからはそれが必要だとの確信が、トリウッド設立の動機です。

才能のある人は、たくさんいる。足りないのは、覚悟だ。

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専門学校の講師をしていて実感したのは、面白い作品がどんどん生まれている、才能のある若者はたくさんいるということです。幸いにして高性能の機材が安価に手に入る時代ですから、フィルムにこだわらなければ簡単に、――技術的には録音が永遠の課題になるとは思いますが――安価に、個人の持っている良いセンスや面白い話を映画にすることができます。 ただ、それだけでは映画界の人材輩出の底上げにはなりません。良い才能があっても、その才能が残っていくとは限らない。残っていくために必要なこと――それは、映画で食っていく覚悟です。それは、作っただけで満足するのではなく、多くの人に知ってもらう努力、それに対価を支払ってもらう姿勢と経験から育まれる。トリウッドが有料公開を必須としているのは、そういう考えがあるからです。

「日本映画の元気」は、バブルだと思う。

今、「日本映画が元気だ」と言われている状況は、バブルだと思います。日本のアニメが世界的に評価され、“コンテンツ”として注目された結果いろいろな業界から資金が流れ込むようになった。その辺から起因したバブルだと思います。ですから、結果が出せない(=ヒットしない)と、必ず一度はじけると僕は思っています。 ただ、そういうメジャーの動きに否定的な気持ちは一切ありません。むしろ、ルーキーリーグから人材を送り出す者としてメジャーにはもっともっと隆盛してほしい。ですから大手映画会社にも、テレビ局にも、さらに映画ビジネスで大きな成功をしていただきたいですね。特に、テレビ局が本気で取り組むと映画があれほどのビッグビジネスになるのだという事実は、大きな意義のあることだと思っています。

トリウッドの問題点とは。

トリウッドはまだまだ、メジャーからはまだ認知されていません(笑)。新海誠くん(『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』)、野口照夫くん(『演じ屋』『駄目ナリ!』)あたりが出世頭になりますが、まだトリウッドに注目する動きにまではなっていない。でもそれは我々の力不足だということなので、我々が頑張るしかないことです。 また、自主制作をやっている人達のごく一部から、トリウッドは「厳しすぎる」「自主制作の敵」という声を聞きました。恐らく楽しく作っている自分たちのスタイルを否定されたように思われたのでしょう。僕は、映画制作を趣味とすることは本当に素敵なことだと思います。しかし、これで食っていこうと思っている人にはこの位の厳しさは乗り越えてほしいです。そういう意識を変えていくということも、僕がさらに取り組まなくてはならないことだと思います。

トリウッドが出資して作品を作る。

2年前からトリウッドが出資した映画製作にも乗り出しています。PPP(プロデューサー・プロデュース・プロジェクト)と呼んでいます。予算規模は300~500万円で、年2~3本のペース。僕が、この人はと思った方に声をかけます。ただ、脚本作りには時間をかけますし、僕の要求も厳しいですよ。この段階で、ギブアップしてしまう方もいます。『ゴーグル』(桜井剛監督)というドメスティックバイオレンスをテーマにした作品は、劇場公開だけで製作費を回収し、今、DVD販売も好調です。 トリウッドが映画製作することに関しては、当初からイメージの中にありました。東宝さんは興行網を持って、同時に映画製作もしていますよね。規模は違いますが、仕組みはあれと同じと考えています。PPPで商業ベースに乗る作品を作ることや、2004年から始めたポレポレ東中野での公開のチャンスなど、徐々に作家たちに提示するステップを増やすことができています。

トリウッド上映で満足してほしくない。

トリウッドに作品を持ち込む作家たちと、いろいろな話をします。そのうちの何人かとは、定期的に“作戦会議”をして今後のことを深く語り合います。そんな中で、みんなに共通して言っていることは「トリウッド上映で満足してほしくない」ということです。もちろん、全国公開のメジャー映画だけが目標である必要もゴールである必要もありません。いろいろな作家がいろいろな目標を持っていていい。ですが、常に上を見ていてほしいし、少なくとも“芸術”に逃げ込むことだけはしてほしくないですね。 自腹ではなく、人のお金を使って映画を作ることを目指してほしい。他人のお金を使えば、回収の責任が発生します。回収の責任を知れば、企画と脚本がどれほど重用かも身をもって知ることになるはずです。

「奇特な人」などと言われない時代を目指して。

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誤解してほしくないのは、僕は慈善家ではないということです。いまだに「映画をやっている人は、貧乏な人」「自主制作は、芸術に身をささげた清貧の世界」との認知があって、「そんな自主制作の世界を応援する大槻という人物は、奇特な慈善家」などと受け止められてしまいます。僕は映画が好きだからこの事業をやっていますが、貧乏でいいなんて思っていません。大体、映画界が貧乏だなんて、許せません。だから僕は、若い作家に、好きなことをやって食っていく覚悟を求め、覚悟のある人に資金回収の機会やノウハウを提供しているのです。 事業としてのトリウッドも、この2~3年でやっと軌道に乗りました。ビジネスは、もっと大きくしていくつもりです。映画は世の中を変える力を持っているし、映画自体も時代に即して変わっていくことができる。そう信じて、毎日忙しく、楽しく仕事をしています。

▼トリウッド上映情報

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―現在活躍されております映画監督のたちより絶賛の声が続々寄せられています!-

この作品は高校生ならではの青さに満ちている。それは取り戻そうとしてもなかなか手にはいらない貴重な青さだ。しかも彼らは、その青さを纏いながら同時に、あるレベルに到達しようとしている。 この二つが共存するのはなかなか並大抵のことではない。 高校生ながらここまでたどり着いた彼らが、次にどこまで行ってしまうのか? 我々もうかうかしてはいられないのである。

―山崎貴(映画監督<「ALWAYS三丁目の夕日」>

生きることの不条理、死ぬことの不条理。誰もが心の内に抱えているこのテーマを、ことさら誇張もせず媚もせず素直な感性で描ききった若き制作スタッフと「虹色★ロケット」に盛大な拍手を送ります。

―りんたろう(アニメーション映画監督<映画「銀河鉄道999」「メトロポリス」>

―これを高校生が撮ったんだ!―

本作品は、高校生・伊藤峻太監督(*)率いる「芸術家族ラチメリア・カルムナエ」が全て作りました。監督・撮影・編集は勿論、作詞作曲・歌まで-。 薬物依存やイジメ、恋人の死といった「過去」を乗り越えられたクラスメイトの中、自殺未遂という「過去」を乗り越えられないミナミを、難病に冒されている転校生ユカが変えていくという、力強いメッセージを持つ暖かい物語を、74分という長編映画に匹敵する時間の一瞬たりとも飽きさせず、笑わせ、泣かせ、完成度の高いエンターテインメントとして堂々と語ります。 登場人物達は、皆、存在感のあるキャラクター7人-ユカ、ミナミ、シュンタ、ヒロエ、ユウキ、コウヘイ、マナ。 演じる彼等も勿論高校生。彼等の自然な演技は、皆が想像する「学生映画」のイメージを遥かに超え、物語が進むにつれ我々は彼等の仲間になっていきます。 更に魅力的なのは、作品中で使われる「生きる『覚悟』はできたか?」「世の中には色んな人がいる。みんなあんたと同じなわけじゃないんよ。」等々のドキッさせられる台詞の数々。 74分の間、吹き出したり、ぐっと涙をこらえたり、どきどきしたり、心が揺り動かされるすシーンは数え切れない程沢山あります。そして、エンドロールで主題歌「虹色★ロケット」が流れると、自然と涙が溢れ出します。「こんな高校生達がいるんだ!」という事実に。 「本物の高校生」による「青春映画」の誕生です。まだ10代の彼等のエネルギーと勇気に感謝し、そして、より多くの方に彼等の”メッセージ”が届きますように。 *制作当時(2006年3月まで)高校3年生。現在大学1年生。

-「虹色★ロケット」上映の理由-

「映画甲子園2006」の審査員をやっている最中、この作品に出会った。「作家性」とか「ウェルメイド」とかいう言葉を超え、圧倒的なエンターテインメントだった。高校生の映画を映画館でロードショー上映するなんて無謀だと思われるかもしれない。学園祭の映画にお金を払って見る人がいるのか。 しかし、この圧倒的な力強さは2002年2月、新海誠「ほしのこえ」以来の衝撃だった。あれから5年、彼がアニメーションの世界を一人で変えたように、彼等が日本映画界を変えてくれると信じている。無名の高校生が作ったのだ。もう言い訳は出来ない。 -トリウッド代表/ポレポレ東中野支配人 大槻貴宏-

★ストーリー 「生きる覚悟」はできたか?

芸術的銀河科―― かつて生徒が作ったそのおかしな学科に、不思議な転校生がやってくる。名前はユカ。 持ち前の明るさでユカはすぐにメンバーの環に溶け込んでゆく。 薬物依存やイジメ、恋人の死。様々な過去を生きてきた仲間たちの中で、自殺未遂をしたミナミだけが、未だに"それ"を乗り越えられずにいる。 そしてユカもまた、難病に冒され、壮絶な過去を抱えていた。 誰にも変えることが出来なかったミナミ<死にたい者>の想いと、全てを捨てる決意を固めたユカ<生きたい者>の覚悟が衝突する… 果たしてその先に待つものとは? 「生」と「死」、どちらにも真っ正面からぶつかってゆく7人と、それを見守る顧問のトムやヤブ医者ハルカ、意地悪な神様。 厳しい冬を優しくあたためるような、それぞれの命の物語。

―「虹色★ロケット」ができるまで。―

「虹色★ロケット」は高校3年生の冬に在学中だった生徒指導教室用映像の依頼を受けて制作。 生徒指導教室では毎年、道徳ビデオを借り授業の一環として生徒に見せていたが、生徒の関心を引かなかった為、それなら「生徒が制作した作品を見せてみよう」ということになる。 そこで当時高校2年生で伊藤峻太監督が「自転車置き場の使い方」をテーマに作品の脚本を担当。 それが大多数の生徒に好評だったため、3年生の時、「命」をテーマに制作を依頼される。 その作品が本作品「虹色★ロケット」である。

★気になる監督のプロフィール、そしてエンドクレジット。

伊藤峻太(19) 1987年5月1日東京生まれ 釧路、札幌、宮城、兵庫、千葉と転々と移り住み、現在は京都精華大学アニメーション学科に在学中。 幼い頃から絵を描き、中学3年生から漫画家を志す。 高校1年生で同じクラスになった映画監督を志す友人(下條岳)につられて映画に興味を抱く。 高校3年生の文化祭で監督・脚本を手掛けた作品「ウィッシュバニッシュラビッシュ」が2006年高校生映画甲子園で優秀作品賞・HLS賞をダブル受賞。

★キャスト ユカ/ 松永祐佳   ミナミ/ 平山みな美  シュンタ/ 伊藤峻太 ヒロエ/ 小泉優絵   ユウキ/ 寺内雄生  コウヘイ/ 宮川広平 マナ/ 白石愛  神様/ 桑原遼介   はるかさん/ 阿部晴果 ミズキ/ 倉島瑞季  トム/ 戸村次男

★スタッフ ―芸術家族ラチメリア・カルムナエ― 監督/伊藤峻太  脚本/伊藤峻太・平山みな美  撮影/下條岳・伊藤峻太 録音/桑原遼介   美術/阿部晴果・平山みな美・松永祐佳 衣装/平山みな美・湯浅志保子  音楽/椎名遼   キャスティング/伊藤峻太 スチール/湯浅志保子 (2005年/日本/74分/DV)

★上映スケジュール

  • 2007年1月4日(木)より下北沢トリウッドにて新春ロードショー。

  • 上映時間 (12:30)/14:00/15:30/17:00/20:00 火曜日定休 ()内は土日祝日のみの上映。

  • 料金/一般:1000円・高校生:700円

★配給連絡先

下北沢トリウッド 担当:大川愛子 東京都世田谷区代沢5-32-5-2F TEL03-3414-0433 FAX03-3414-0463 e-mail/tollywood@nifty.com 携帯/080-6503-5614

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