WEB・モバイル2007.12.01

セカンドライフ~その2~ ―日本版セカンドライフはいつ隆盛を迎えるのか―

vol.32
株式会社スパイスボックス ビジネスプロデュース局 チームリーダー 飯野正樹さん
8月に第1回レポートをしたセカンドライフの続報です。どうですか?みなさんセカンドライフ楽しんでますか?……ちょっと返事が寂しいですねえ。という感じ、抱いているのは私だけではないと思います。編集部周辺で声をかけてみると、「やってみた」人はもちろんいる。ただ、「やってみたけど、なんか寂しかった」という感想が大半で、「アカウントは取ったけど、入ろうとするとPCが固まるのでやめた」という断念組も多い。 まったくもって、黎明期なのですね。初期トラブルがあって、参加者が少なくて、盛り上がりに欠ける――多くの関係者が異口同音に言うのは、「これは、インターネット初期とまったく同じ状況」ということです。前回レポートに協力してくださったデジタルハリウッドの工藤さん曰く、「リンデン社は、ことを急がないので有名」とのことですから、日本版セカンドライフを盛り上げるための対策、方策はこれからいろいろ出てくるのでしょうね。 ってなわけで、その後のセカンドライフについて、将来を予測しながら考えてみようというのが今月の特集です。 博報堂とのジョイントで、日本語圏のSIM(島)づくり「ジャパンアイランドプロジェクト」に取り組んでいる、制作会社/株式会社スパイスボックスの飯野正樹さんがお話を聞かせてくださいました。

取材対象者

飯野正樹氏

飯野正樹さん 株式会社スパイスボックス ビジネスプロデュース局 チームリーダー

 

企業出展は、確実に進んでいる。

11月2日には富士通が、セカンドライフ内に「富士通島」をオープン。3つの展示島で様々な展示活動すると同時に様々な業種の顧客と共に実証実験を行い、その結果を今後のサービス・製品開発・新しいコミュニケーション手段の確立につなげたいとしている。 日本版セカンドライフがスタートして約半年、その発展スピードへの評価は、事前にどんな予測をしたかによって賛否はわかれるでしょう。しかし、少なくとも、志ある企業の出店が順調に進んでいることだけは確かなよう。たった今の活況を知りたい読者は、THE SECOND TIMES(http://www.secondtimes.net/)、マグスル(http://magsl.net/)、ナビスル(http://www.navisl.jp/)等の専門サイトで最新ニュースを閲覧してみてください。 ただひとつ、そういった企業の積極参入の一方で、ユーザー(プレイヤー)が「寂しい」「どうやったら面白くなるのか、わからない」ととまどっているのも事実のようだ。ある識者によれば、「Second Lifeは“あとの祭り”、ニコニコ動画は“いつでも祭り”」。専門用語で同期性――つまり、その時、その場所に居合わせなければ、楽しいことに出会うことができない――が、現状、最大のネックになっているらしい。

(飯野さん) 特別驚いてもいないし、落胆してもいません。そんなに簡単に面白くならないことは、関係者は最初から覚悟していましたから。なにしろ、まだ情報がないですからね。セカンドライフでは、情報=人です。人に出会ってこそ、情報に触れることができる。これはもう、卵か先か鶏が先かですが、入ったら誰かに出会えて新しいなにかに触れることができる――そんな期待が膨らむような状況ができるまで、本当の意味でのブレイクはないでしょう。

そんな中で、企業の出店が順調に増えている理由は?

(飯野さん) 先行投資、と考えていいでしょう。法整備が追いついていないため、日本企業がセカンドライフ内で直接的なビジネスをするには、まだ無理があります。大手企業では、まず法務部が100%NOでしょう。なにしろ、セカンドライフ内で収益などあげようものなら、その税金をどこに納めていいのかすら決まっていないのですから。というわけで、現行、出店している企業の目的は広報、広告。しかもメディアとしての波及力や効果はすべてトライアルとわかったうえでの投資です。セカンドライフがアメリカで成功しているという事実、インターネットが結局スタンダードなメディアとなったこと――その辺を考えれば、少々のリスクがあっても乗り遅れるべきではないという判断がされているようです。

御社がジャパンアイランドプロジェクトで立ち上げた三越の店「越後屋」も、物販はしていない?

(飯野さん) していません。2階の販売コーナーは、そこからECサイトに飛ぶ仕組みになっています。メインは「ビジュアルで楽しませること」。ビジュアル的に斬新な店作りをして、訪問者に感心してもらい、TVなどで取り上げてもらえれば成功という考え方です。事実、TVではかなりの露出があって、関係者も満足してくださいました。

セカンドライフでは、人こそが情報。

広告媒体としては、どんなことを期待されている?マーケティングリサーチの仕組みなどもありうる?

(飯野さん) やはり、すべてが暗中模索としか言いようのない状況です。少なくとも、マーケティングリサーチの場としては、あまり期待はもてないでしょう。誰が考えても、たとえばリスティングの方がはるかに効果がある。ただ、それは「マス」の場合であって、視点を変えれば有効だと考える方もいるようです。どういうことかと言うと、マーケティング担当者が、個人としてセカンドライフに入り、出会った人一人ひとりとコミュニケーションする。実社会では、なかなかできないけれど、セカンドライフではそれができるのがいいと言う方が実際にいらっしゃいます。その方は、「インターネットを通して、お客様に“いらっしゃいませ”とリアルタイムに言えるのに新鮮な驚きをおぼえた」とおっしゃっていました。なにか、新しいビジネスの萌芽を感じ取られたようでした。

今後、日本版セカンドライフが盛り上がるために必要なことは?

(飯野さん) 今は出店ラッシュ、建設ラッシュのフェーズで、それはいたし方ないことです。ですが、どこかで箱の中身を充実させるフェーズに進むべきでしょうね。ユーザーが期待するのはすごい建物ではなく、すごく楽しいアトラクションであり、楽しい人が集まる場所や仕掛けですから。そういう認識は徐々に高まってきており、早晩新しい動きがあるでしょう。

「楽しい人が集まる場所や仕掛け」とは、具体的には?

(飯野さん) 極論すると建物の形状は、どうでもいいんです。楽しければ、車座に座ってだって盛り上がれる。大切なのは、WEBマスターあるいはチャットマスターのような人の存在。常にその場にいて、アテンドしてくれて、仕切ってくれる。そういう専門家が、存在する場所をいかにプロデュースするかとですね。

建物よりも、WEBマスターあるいは チャットマスターのような人が必要。

と、ここまで、参加するユーザーにとってどうあるべきか、出店する企業はどうなのかというお話を聞いてきた。一方でセカンドライフには、デジタルクリエイターの仕事場としての側面もある。制作会社としてプロジェクトに参加している飯野さんに、その辺の話題を振らない手はないと思いました。

(飯野さん) クリエイターさんたちの仕事は、あります。“建設ラッシュ”がひと段落し、その後のソフトづくりのフェーズでもクリエイターへのニーズはなくならないでしょうね。

フリーのクリエイターが個人で仕事を獲得する可能性もある?

(飯野さん) 大いにあるでしょう。もちろん、個人で数千万円、数億円のプロジェクトを受注するのには無理がありますが、求められる制作案件は大小さまざまだし、いくらでもある。すでにもう、「セカンドライフ内で出会った人物と意気投合し、仕事を発注した」というクライアントさんも実在します。

求められる技術は?

(飯野さん) Mayaなど3Dアプリケーションのスキルは、あきらかに活きます。今はまだ、セカンドライフ内のコンテンツクリエーションツールの使用頻度の方が高いですが、すでにMayaなどのエキスポーターも広まっています。そして、それ以上に活きるのが、プログラミングとスクリプトの技術。セカンドライフではツールを使って誰でも、なんでも作れますが、問題はそれを「どう動かすか」です。そこに関しては、スクリプトを操れる人の独壇場ですからね。Mayaもできる、プログラミングもスクリプトもOKという人なら、かなり活躍できるはずです。

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