“デザイン”の力で”福祉”に風を。宮田尚幸さんが目指す福祉の未来

Vol.196
尚工藝 / 風と地と木合同会社 代表
Naoyuki Miyata
宮田 尚幸

自分が”福祉(国民一人ひとりの幸せ)”と感じることに対して、”デザイン(創意工夫)”を取り入れる活動をしている宮田尚幸(みやた なおゆき)さん。デンマークの杖工房「Vilhelm Hertz(ヴィルヘルム・ハーツ)」のアジアチーフとして、機能性と意匠性を兼ね備えたオーダーメイドの杖を日本に広める役割も担っています。

文化や言葉の違いに触れながら、デンマークでの住み込みの修行を終えた宮田さん。そこで得た経験から、「見た目の美しさを諦めない道具の開発は、障がいを抱えた人の気持ちをも豊かにすることにつながる」と宮田さんは話します。

今回は宮田さんの経歴とともに、デザインの力で福祉はどのように変化するのか、詳しくお聞きしました。

 

デザインの基礎を積み上げた7年間

まずは、宮田さんのご経歴を教えてください。

大学卒業後は、文具雑貨をデザイン開発、販売する会社にデザイナーとして入社しました。そこではデザインのほか、企画、ブランディングや営業、生産管理など、ものづくりに関わる業務全般に携わりました。その経験は、今の自分の財産になっています。

ただ、当時は物を大量生産する会社の仕組みに疑問を感じてしまったんですよね。今となっては、物を作って消費する行為が、社会にとって必要だというのもわかるんですけど……。そのころは「もっと質の高い、長く愛用してもらえる物を作らなくていいんだろうか?」という気持ちがどんどん出てきて。4年勤めた結果、退職を決意したんです。

なるほど……。退職後は、どのように過ごしていたんでしょう?

退職後は、以前から、必要だと考えていた語学留学に行きました。5カ月間イギリスで語学を学び、その後1カ月はスペイン、フランス、ベルギー、ドイツ、デンマークなど、ヨーロッパを回りました。いわゆる、バックパッカーです。

語学留学から帰国した後は、ずっと憧れていた「POSTALCO(ポスタルコ)」に運良く入社でき、服飾雑貨のデザインに携わりました。ポスタルコは、質のいい物を長く毎日使ってもらうことを目的に、環境面にも配慮しながら丁寧にものづくりをしている服飾小物製品のブランドです。

ポスタルコで3年間ものづくりの思想を深めて30歳を機に退職し、以前から願っていた海外で働くという経験をすべく、ワーキングホリデーでデンマークに渡りました。そのワーキングホリデーの中で、オーダーメイドの杖をハンドメイドで製作する、ヴィルヘルム・ハーツと出会ったんです。

ワーキングホリデーの年齢制限は、2021年9月現在で30歳が一般的ですもんね。語学留学やワーキングホリデーなど、とても活動的な方だと感じます。語学留学に行く前から、英語は話せましたか?

いいえ、まったく(笑)英語は話せなかったけど、それでも行こうと決めていたんです。日本人がいない学校を調べ上げて、あえて英語だけの環境に身を置きました。

ただ、僕は活発でも、社交的でもないタイプだと思います。少なくとも学生時代は極度の恥ずかしがり屋で、人と話すことが得意じゃなかったんですよ。

 

子どものころから「普通」を追い求めていた

 

語学留学の際にあえて日本人がいない学校を選ぶなど、チャレンジ精神旺盛の一面を感じます。恥ずかしがり屋だったとは、ちょっと意外だなと。

小学校のときは、授業中に落とした消しゴムを拾うことさえできませんでしたよ。周りと違うことをして、目立ちたくなくて。

そうだったんですか……! 文字を消したいときは、どうしていたんですか?

指で文字をこするんです、ゴシゴシと。消せば消すほどノートは汚れていくんですけど、それより授業中に消しゴムを拾って、周りの視線が集まるほうが嫌でした。

僕は、子どものころからずっと「早く普通の人になりたい」と思っていたんです。今振り返ると、なにが普通かなんてわからないんですけど。

当時は、周りの人より後れを取っていると感じていて……。「早く、周りと同じようにならなくちゃ!」と常に焦っていました。

「自分は周りより遅れている」と感じた理由は、なにかあったんでしょうか……?

社交性、の部分でしょうか。和を乱さないように上手にコミュニケーションを取る……というのが、僕はなかなかできなくて。他の人も必死だったのかもしれないけど、僕からすると、当たり前のように人と交流しているように見えたんですよね。

「すごいなぁ」と思いつつ、「なんで自分はできないんだろう」と情けなさを感じていました。それが、語学留学をきっかけに、長年凝り固まっていた考え方が少しずつ変わったんです。

イギリスでの語学留学ですね。変わったというのは、どんな風に?

幼いときは、周りに合わせようと必死でした。語学留学を決意したのも、少しでも自分を変えたかったからなんです。日本を出ることで、自分が想像する”普通の人”に少しでも近付きたかった。

だけど、語学留学中に出会った人たちは、育った環境も培ってきた常識や文化も、なにもかもが自分と違う。僕が想像する”普通の人”なんて、全然いなかったんです。

確かに、国の文化や常識が変われば、その中の”普通”や”当たり前”も変わりますよね。

そうそう。もう、ハッとしました。自分の”普通”は、ちょっと外の世界に行くだけで通用しないんだなぁと。

あとは、人はそう簡単に変わらないんだなって。どこに行っても、僕は僕のままでした。でも、そんな僕を、留学先の人たちはそのまま受け入れてくれた。

僕は周りを盛り上げたり、ワイワイ騒ぐタイプではないけど、そんなことは気にせずにそのままの僕と交流してくれて……。ずっと変わりたいと思っていたけど、「もういいか、僕は僕のままで」って、自然に思えたんですよね。

 

きっかけは一目惚れ。オーダーメイドの杖にかける思い

デンマークのワーキングホリデーでは、社会福祉にフォーカスを当てた「Egmont Højskolen(エグモント・ホイスコーレン)」という、全寮制の学校に通ったそうですね。

はい。エグモント・ホイスコーレンでは、障がいを持った生徒と、持っていない生徒が、共に活動をし、どうやったら障がいの壁がなく生活できるのかをさまざまなアクティビティを通じて身を持って学びます。

学校の設備やケアも整っていて、障がいを持っていない生徒が障がいを持った生徒のヘルバーをするシステムになっています。もちろん、障がいを持った生徒が、持っていない生徒をサポートすることだってあります。

障がいがある、なしは関係なく、お互いに共存する社会を目指している学校なんです。

宮田さんは長年デザイナーとして働いてきましたが、なぜデザインを学ぶ学校ではなく、福祉に視点を当てたエグモント・ホイスコーレンを選んだんでしょうか?

約7年デザイナーとして働いたからこそ、デザインの学校を選ばなかったんです。もし学校に通ったとしても、「このデザインは予算の範囲内だろうか?」といちいち考えてしまうだろうなぁと思ったし……(笑)デザインから一度離れたい気持ちもあって。

社会福祉を選んだのは、自分がそれまで関わったことがない分野だったから。障がいを持つ人と関わることで、自分がなにを感じるのか。一人の人間として、社会福祉とどう向き合えるのか。なにもわからなかったから、知りたかったんです。

エグモント・ホイスコーレンに通って、宮田さんの中で変化はありましたか?

「障がいがある人も、ない人も、私も皆、同じ人間だ」と思いました。そもそも、デンマークでは”障がい者”という単語が耳に入ってこなかった。単語で区別する必要がないくらい、障がいを持つ人と持たない人が共存することが当たり前なんです。自分がそれまで持っていた常識や価値観は、とても小さな枠組みの中で培われたものなんだと改めて実感しました。

学校が主催するダンスパーティーで、腰から下が動かない生徒が車椅子でクルクル踊っていたり。アウトドアの授業の締めくくりで5日間の登山へ行くことになったとき、自力では歩けない生徒が「私も行きたい」と声を上げて、他の生徒がみんなで行けるように方法を考えたり。

「障がいがあるからなにかを諦める」ではなく、「障がいがあるから、それができる方法をみんなで考えよう」となるのが、とてもいいなと思いました。

オーダーメイドの杖工房・ヴィルヘルム・ハーツとの出会いについても、教えてください。

半年間の学校生活を終える少し前に、コペンハーゲンで国際福祉機器展が開催されていたんです。そこに、ヴィルヘルム・ハーツが出店していて……。

並んでいる杖を見たときに、雷に打たれたような衝撃が走ったんです。「自分がやりたいことは、これだ!」って。

一目惚れ、のような?

そうですね、本当に一目惚れ。車椅子や医療用ベッドなど、展示会には他にもたくさんの機器が並んでいました。でも、心を打ちぬかれたのはヴィルヘルム・ハーツの杖だけだった。

後日、頼み込んで工房を見学させてもらって、職人の考え方にも非常に共感して。「ここで働きたい!」と頼み込んで、半年間住み込みで修行させてもらったんです。

職人たちと関わる中で、僕は杖の美しさだけではなく、彼らの製作過程のこだわりや、お客さんと職人の関係がとてもフラットなことに気づきました。それらに対して「どうにか記録して、世界中の人たちに伝えたい!」という強い思いが芽生えて、修行は杖の製作ではなく彼らの働く姿を映像や写真に残すことに力を入れました。僕ができることはなんでもしながら、彼らの思想を学ぼうと思ったんです。

宮田さんが共感した職人さんの考え方を、ぜひ教えていただきたいです。

ヴィルヘルム・ハーツの職人であるクリストファーが「俺がお前を信じられない と、お前も俺を信じられないだろう」と、僕が住むための小屋を二人で一緒に建 てるところから始めたことに、まず衝撃を受けましたね。

その後、クリスト ファーは「障がいを抱えているからといって、自分が望まない道具を使っていたら、人間の尊厳を失ってしまう」「自分らしくいられる道具を、僕たちは作っている」と僕に語ってくれました。

ヴィルヘルム・ハーツでは、杖の機能性だけではなく、見た目の美しさをとても大切にしています。杖を使う人が、納得して杖を使えるように。杖の機能性と美しさ、そのどちらも追及するヴィルヘルム・ハーツのこだわりに、僕は惚れ込んでしまったんです。

 

「すてきだね!」の声が、人生を楽しむ力になる

確かに、ヴィルヘルム・ハーツの杖は見た目がとてもかっこいいです。洗練されていて、はじめて見たときは「すてき!」と思わず言葉がもれました。

ありがとうございます。見た目を洗練させることで、なにが変わるんだと思う人もいるかもしれませんが……。杖を使う人にとっては、大きく影響するんです。

ヴィルヘルム・ハーツにいたときに、色々なお客さんと話す機会があって。その中の一人が、僕にこう言ってくれました。「この杖は、私の人生を変えたよ!」って。

それまでは、そのお客さまもシンプルなデザインの杖を使っていたそうです。病院でもらえる杖を想像してもらうとわかりやすいですかね。そういったデザインの杖を使っていると、周りからかけられる言葉は「大丈夫?」みたいなんです、ほとんどが。

杖をついている人がいたら……、そうですね、私も心配してしまうと思います。

そうですよね。決して、心配する気持ちが悪いわけではないんです。

ただ、日常的に杖をついている人が、時間とともに回復していくことはあまりない。老化によって足腰が弱まっている場合、生活の中で杖を使うことが当たり前ですから。

「大丈夫?」と聞かれても、「大丈夫だよ、元気になったよ!」と答えられる人は少ないんです。むしろ「足が痛くてね」「最近は昔より歩けなくて」と、体の不調をわざわざ言わらざるを得ない人のほうが多い。

自分の不調を口に出して、自分でその言葉を聞く。それによって、気持ちが落ち込んでしまう人がいるんです。心配されることがつらくて、外出を楽しめなくなる人も。

なるほど、想像不足でした……。自分の不調を説明するのは、つらいですよね。

僕に話しかけてくれたお客さんは、ヴィルヘルム・ハーツの杖を使うようになって、周りからかけられる言葉が変わったそうなんです。「その杖、すてきだね!」「どこで買ったの?」って。「大丈夫?」と比べると、言葉の印象が全然違いますよね。

褒められることで気持ちが明るくなると、行動にも変化が出てきます。「杖に合わせて服を変えてみようか」「用はないけど、外に出てみようか」って。体を動かす機会が増えると、それがまた気持ちにプラスの影響を与える。

杖の見た目が「かっこいい」「きれい」「美しい」だけで、人生は大きく変わるんです。

自分の好みではない福祉用具を使わなくてはいけない人は、本当にたくさんいると思います。お話を聞いて、魅力を感じるものを、自由に選べる社会になってほしいと感じました。

デンマークでは、行政がデザインを含めた、さまざまな創意工夫ができる人を雇っていることは珍しくありません。日本でも、行政や社会福祉にもっとデザインを取り入れたいと思っています。社会福祉とデザインをつなぐために、僕が杖の採寸や納品をするときには、理学療法士や作業療法士にも立ち会ってもらっているんですよ。

もちろん、日本にもいいところはたくさんあります。国同士を比較して「どちらがいい」と決めるのではなく、僕は他の国の考え方や仕組みを参考にしながら、皆で協力して、日本をより暮らしやすい国にしていったら良いのではと思います。

今までの経験を活かして、”デザイン”と”福祉”に循環の風を取り入れられたらと思っています。

業界同士を区別せずに、協力する。お互いの専門性をかけ合わせたら、本当によりよい方向に進んでいきそうです。

“福祉”は、そもそも、「国民一人ひとりの幸せ」という言葉の意味なんです。一人ひとりが幸せに暮らしていけるように工夫(デザイン)を取り入れることが、社会福祉につながると思っています。

日常生活の中で、もっと福祉が身近に感じられるようになって、福祉という言葉を使わないで活動するのが今後の目標です。そこでヴィルヘルム・ハーツの杖も、カフェに置かせてもらっているんです。お茶を飲む空間に、当たり前のように杖があっていいと思ったから。

カフェに杖があったり、アパレルショップに車椅子があったり。僕たちの生活の中に当たり前に福祉が馴染んでいくように、これからも活動していこうと思っています。

取材日:2021年9月8日 ライター:くまのなな
取材場所:SANDO BY WEMON PROJECTS

プロフィール
尚工藝 / 風と地と木合同会社 代表
宮田 尚幸
大学卒業後は、文具雑貨を取り扱う企業にデザイナーとして入社。商品デザイン・ブランディングの基礎を学ぶ。その後は「POSTALCO」で服飾雑貨のデザインに携わり、物を長く愛用する大切さを実感。現在は「尚工藝」として福祉とデザインを組み合わせる活動を行うとともに、「風と地と木合同会社」の代表として、心理的な安全性の探究をテーマに、デンマークの杖工房「Vilhelm Hertz (ヴィルヘルム・ハーツ)」の日本窓口としてオーダーメイドの杖を日本に広めている。
■Vilhelm Hertz Japan 公式サイト:https://www.vilhelm-hertz-japan.jp/
 杖の商品一覧ページ:https://www.vilhelm-hertz-japan.jp/products
■杖のオーダーメイドについての問い合わせ先:mail@nao-kogei.n

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