高校生でフェローズフィルムフェスティバル最優秀賞を受賞した乾拓歩の戦略

Vol.191
学生映画監督
Takuho Inui
乾 拓歩
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第3回FFF-Sの模様

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選出作品

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第3回FFF-S審査員

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最優秀賞決定の瞬間

株式会社フェローズが開催する、学生のための短編映画祭「フェローズフィルムフェスティバル学生部門(以下FFF-S)」は早くも4回目の開催が決定。応募作品は7月1日から受け付けを開始いたします。

2021年3月24日、渋谷 ユーロライブで行われた第3回FFF-Sで、最優秀賞を受賞したのは当時高校生だった乾拓歩(いぬい たくほ)さんでした。今回は乾さんに作品をはじめ、FFF-Sに挑む戦略、創作のインスピレーションになったことなどについて、お話を伺いました。

 

応募締め切りの2週間前から制作した『Fugue!』(フーガ)

今回のFFF-Sに参加したきっかけを教えてください。

毎年夏に、高校の放送部の大会(NHK杯全国高校放送コンテスト)があって、そこで自分の作品を作って卒業しようと思っていました。ただコロナの影響でなくなってしまったので、何かいい機会はないかなと思って探していたときにFFF-Sを見つけました。当時は公表されていませんでしたが、大好きな樋口真嗣(ひぐち  しんじ)さんが審査委員をされると知って、応募してみたのがきっかけです。

憧れの樋口監督にも会えた

『Fugue!』のストーリーはどのように思いつきましたか?

FFF-Sを知ったのが応募締め切りの2週間前だったので、緻密なストーリーを描いている時間がなく、とりあえず見せ方を重視した作品にしようと思いました。アングルにこだわりたかったので、アクションが一番向いていると思い、カメラワークを重視しようと。アクションを見せるなら校舎が使えるな、できれば校舎全体を使おうと考えをめぐらせ、逃亡劇を思いつきました。ただ逃亡劇だけだと「他の応募作品と比べて弱いかな」と思ったので、フックになりそうなコロナとマスクという“社会性”をテーマとして入れました。このような段階を追って構成していった感じです。

映画・映像に社会性が必要だと考えたのはなぜですか?

映像はある意味ナマモノでもあり、その時期にしか作れない、その時期に合った作品が絶対にあると思ったからです。あと、放送部の大会などで先輩の作品をたくさん見てきました。その時その時、ちゃんと今っぽいテーマを取り入れた作品が受賞していたので、高い評価を受けるには社会性を入れるべきだと思っていました。

そういう戦略があったんですね。今回受賞してどんな反響がありましたか?

茶一郎さんという、YouTubeで映画レビュー動画を投稿されている方とつながれたりしましたね。『Fugue!』をTwitterで流したら“いいね”をもらって、勢いでDMを送ったりして、コンタクトがとれたんです。ちょっとしたコミュニケーションですがすごく嬉しかったですね。

ご自身の作品で反省点はありますか?

いっぱいあります。粗削りすぎると思っていて。特に音の調整がまだまだで、編集時にも雑音が入っていたので、それをごまかすために全編通して音楽をつけているんですよ。あと色のバランスもよくわからないまま完成させてしまいました。

では今回ご自身が最優秀賞を受賞した理由は何だと思いますか?

正直、僕がまだ高校生で一番元気があったからじゃないでしょうか。また学園ものって設定はみんなが知っていることだから状況説明が省けますし、学校が舞台なのも学生限定の映画祭という趣旨に一番リンクしていたのかと思います。あとは、もちろん商業映画では到底できないような、好き勝手やった作品だったこともよかったのかもしれません。

 

映像制作を始めたきっかけは『シン・ゴジラ』

大学の映像学科に進学した乾氏

そもそも映像制作を始めようと思ったきっかけは何ですか?

もともとストーリーを考えたり、絵を書いたりするのが好きだったので、昔からずっと漫画家になりたいと思っていました。でも漫画って下書きして清書して、結構時間がかかるので完成に近い状態をすぐに確認できないことや、ストーリー上は必要だけど気分的に描きたくない絵も見せなきゃいけないので、自分の性格上合っていないなと気付きました。それで悩んでいたときに『シン・ゴジラ』を見て、実写の映像ってこんなに面白くできるんだという衝撃がありました。そこで方向性が決まった感じですね。

では映像制作を始めたのは高校生からですか?

そうです。ただ、1年のうちは部活の方針でずっと朗読をやっていたので、ちゃんと映像を作り始めたのは2年生からです。

ちなみに『シン・ゴジラ』の魅力は何でしょうか?

全部ですよ。でも、強いて言えばどのシーンも構図が決まっていることです。全然決めなくてもいいんじゃないかな、という場面でも、めちゃくちゃかっこよく構図が決まっているので、見飽きないです。あと怪獣映画なのに、会議シーンの方が面白かったり、変化していくゴジラのビジュアル的な面とか。なんとなく漠然と思っていたゴジラのイメージが要所要所で打ち砕かれるんですよ。そういうインパクトを持たせるのが大事って気付いたのは、この映画ですね。つかみが大事とか、自分の根底にある基盤は全部『シン・ゴジラ』からきています。

きっと創作のヒントになっていると思うので聞きますが、好きな漫画は何でしょうか?

『進撃の巨人』(講談社)は完璧ですよね。セリフとシナリオに社会性がありますし。あとアニメーション映像を作る女子高校生を描いた『映像研には手を出すな!』(小学館)も、自分のターニングポイントになったな、と思いますね。大童澄瞳(おおわら すみと)先生の大ファンで、Twitterで二次創作絵を描いたら何回かリツイートされたことがあります。

映像研には手を出すな!
https://www.amazon.co.jp/dp/4091892965/

他にどんな作品が好きですか?

ちょっとぶっ飛んだ作品が好きですね。自分の作品もそうで、たとえルールを破ったとしても、学校で生徒会が本気で追いかけてくるなんて実際にはありえないじゃないですか。いわゆる現実っぽい世界で、現実には絶対にありえない要素が組み込んであるものが好きです。

そういうネタを思いつくヒントは何でしょうか?

とりあえずいろいろな作品を見まくっていますが、短編作品は結構設定を重視するものが多くて参考になりますね。あとコントとか、お笑いも結構ヒントになります。例えば、設定とか一つの発想だけで広げるのだったら、「さらば青春の光」のコントは参考になります。バラエティー番組の企画ものも発想が面白いですし、広く浅く見るようにしてます。

 

自信を付けるためにもFFF-Sはおすすめ

第3回FFF-Sの会場と制作者、審査員の皆さん

 

今も作品作りをされているんですよね?

そうですね。大学は映像系の学部ですし、サークルでも脚本を書いたり監督をしたりしています。あとは、自主制作として縦型動画の映画祭にも応募しようと思っています。

創作欲が止まりませんね…将来はどういうキャリアを考えてますか?

やっぱり漠然と映画を撮りたいなと思っていますが、今回やった、映像と音楽をシンクロさせる作業がすごく楽しかったので、ミュージックビデオを撮るのも楽しそうだなと思っていて、やってみたいなと。

これから映像制作を始めたい人に向けてアドバイスをお願いします。

同い年くらいの方への話になるかな。僕はこれから大人になります。多分大人になったら、知識や経験が増えることで、どんどん余計なことを考え出すと思うんですよ。

だから余計なことを考え出す前に、自分が本心で一番楽しいと思えるものを早めに見つけておくことが大事なんじゃないかなと思います。

最後にFFF-Sのおすすめポイントがあったら、メッセージをお願いします。

選出された作品はどれも、ちょっとぶっ飛んだ自主制作ならではの作品が多かったです。つまり好き勝手できるという利点があります。それがうまくいけば賞をもらえて自信にもなるので、やらない手はないですね。ぜひ挑戦するべきだと思います。

取材日:2021年5月25日 ライター:坂本彩

 

学生のための短編映画祭 第4回フェローズフィルムフェスティバル学生部門
作品募集
応募期間:2021年7月1日(木)~9月30日(木)

プロフィール
学生映画監督
乾 拓歩
高校生の時に企画・監督・脚本・演出・編集を手掛けた『Fugue!』(フーガ)が、第3回フェローズフィルムフェスティバル学生部門で最優秀賞を受賞。2021年4月には大学の映像系学科に進学し、現在もさまざまな映像制作にチャレンジしている。

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