WEB・モバイル2011.07.06

無限の可能性を秘めるFacebookのビジネスとクリエイティブ ~ソーシャルメディア・ストラテジスト、熊坂仁美さんに聞く~

Vol.74
株式会社ソーシャルメディア研究所 代表 熊坂仁美さん
東日本大震災の際、携帯電話やメールなどの通信手段がダウンした中、唯一機能したソーシャルメディア(SM=SNS:ソーシャルネットワークサービス)。

数年前から普及していたツイッターを追うように、震災後、Facebookが日本でも大幅にユーザー数を伸ばしている。
著書『Facebookをビジネスに使う本』において、海外でのFacebookページのビジネス利用の実態をいち早く日本に紹介したのが、ソーシャルメディア・ストラテジスト熊坂仁美さんだ。
Facebookページはクリエイターにとってもマーケティングに有効なツールになると語る熊坂さんに、Facebookの今後、そしてその活用法についてお話を伺った。

大震災を機にインフラとして認められたソーシャルメディア

フェイスブック(以下、FB)のビジネスアカウントは、日本においても今後大きく伸びて行くことが予想されています。

【熊坂さんのお話】
そうですね、まず個人ユーザー数が増えています。東日本大震災以降は、マスメディアがツイッターやFBについて報じたこともあり、特に伸びて、登録者数はいま(2011年5月現在)340万人くらいになっています。
それにつれて、ビジネスユースも増えており、有名企業もぞくぞくと参入。FBページ(旧:ファンページ)というビジネスのためのページがありますが、こちらのページ数が現在2万くらいあります。

最終的には日本での個人ユーザー数はどのくらいになるとお考えですか?

【熊坂さんのお話】
全世界ではいま、約7億人になりました。6億人までは半年に1億人ずつ増えてきたのですが、今年1月に6億になってから4カ月で7億人に達したところです。
日本では、Mixiの登録者が2000万人ですが、数年先にはFBもその程度までは普及するでしょう。Facebook社の日本法人はインターネットユーザー1億人の半数(5000万人)を目指すと言っています。

それでも海外に比べて普及は遅れているのでしょうか?

【熊坂さんのお話】
『Facebookをビジネスに使う本』(2010年、ダイヤモンド社)のための研究をしていた当時は、アメリカに比べて質量ともに2年くらい遅れていると感じました。ところが最近、FBミニバブルとでもいうべき伸びで、関連本もこの本の後に50冊くらい出ています。
コンテンツや利用法のレベルもが上がり、現在はおおよその印象で、タイムラグ1年くらいまでに追いついてきたと思います。

FBが入ってきた当初、普及しなかった理由はどこにあったのでしょうか?

【熊坂さんのお話】
日本語化はされていたけどわかりにくい表現が多かったことと、あとは実名の壁ですね。日本ではMixiなどで匿名の文化が根付いていたこともあり、実名登録が障壁になったということです。
しかしその後、まずツイッターが先に浸透し、ソーシャルメディア(以下、SM)という今までと違うメディアへの免疫ができていた。ツイッターは実名を義務付けてはいないのですが、Mixiなどに比べると、実名で登録しているユーザーが多いですから。

大震災の時に、携帯電話が使えなくなって、ツイッターだけが生きていた。それでSMに対する評価が高まったと聞いています。

【熊坂さんのお話】
トラブルに強いメディアである点が認められたと思います。
マスメディアを補完する形でツイッターから情報を取っていた人も多かったですね。ただ、ツイッターのネガティブな面、匿名性ゆえのデマが、流された。それを有名な方などもリツィートしてしまった。 その点FBは、ツイッターほど情報の伝播は早くないが、実名ということで、確実な情報を広げる役割を果たせました。

海外でのFB普及状況を知り、日本への紹介を決意

熊坂さんはSMにはかなり早くから注目されていましたね?

【熊坂さんのお話】
もともと私は、主にIT企業向けに「事例取材」の専門サービスを行っていました。エンドユーザーに取材して「なぜその機種を選んでくださったか」という声を聞いて、ウェブサイト用に記事を制作する仕事です。その中で、お客様の話を聞いていた当時から、FBなどの“口コミの場”の重要性は感じていました。
FBの研究をはじめたきっかけは、海外のサイトで、企業がツイッターアカウントを持つのと同じようにFBページを持つのが常識だと知ったことです。
かなりおもしろいなとは思ったのですが、日本ではツイッターだけが先行していて、FBの情報がまったくなかった。そこで海外のサイトを調べるほか、実際に渡米して研究しました。

アメリカでは広告のターゲティングのリアリティを実感したと本に書かれていますが、日本とは環境が違うようですね?

【熊坂さんのお話】
日本と海外との一番の差はユーザー数なのです。
FBの場合はオート広告という、自分でセグメントしていく広告が主流になるのですが、そのセグメントはユーザー数が少ないとセグメントが限られてしまいます。たとえば「ゴルフ」と検索してもヒット数が少なすぎる。また、店舗ビジネスなら、地域を絞り込みたいところですが、日本はまだできません。今後、ユーザー数が増えれば絞り込みもできるようになります。

売り込みを嫌うメディアで成功するための技“連携”

インターネットを使って、より躍進したい方たちには、有力な武器ですね?日本でのビジネスユースの傾向は?

【熊坂さんのお話】
『Facebookをビジネスに使う本』では海外の大企業の例を中心に紹介しました。しかし、普及期に当たる日本では小さな会社の方がスタートも早く、確実に実績をあげ始めています。

FBの利用が、すぐ業績には結びつくとは限らないとも書いておられます。

【熊坂さんのお話】
SMは売り込みを嫌うメディアなので、少しでも「売らんかな」の姿勢が見えた途端、ユーザーに引かれてしまいます。
また、ある程度行き渡ると、それ以上ファンを増やすのが難しい。そのため、多くの企業がジレンマに陥っている状況ですね。

著書の中に書かれた、アメリカのワイン企業の場合はかなりの成功例ですね?

【熊坂さんのお話】
売り込みを嫌うメディアでどう売るか、そのひとつの手法として他メディアとの連携が挙げられます。 あるワイン企業では、動画のブログをメインにして、そこにFBなどを連携させたことが成功につながりました。
動画は完成度を高めるのが難しいメディアですが、得られる効果はやはり高い。これからはプロモーションに使うなら動画が一番だろうと思います。

メディアの組み合わせが鍵とのことですが、そこにプロのコンサルティング力が発揮されるのではないでしょうか?

【熊坂さんのお話】
メディアの組み合わせ手法も高度化し、効果を上げるためのハードルはどんどん高くなっていますから、プロの力も必要なケースがあるでしょう。
いままでのネットメディアでは、SEOやキーワードの広告などが主流でしたが、このSMというメディアはまったく違うアプローチが必要ですから。

新しいアイデアが、無限の可能性を引き出す

すぐにスタートできて、無料で自分の媒体を持てるFB。しかもアイデア次第で、無限の可能性が広がりますね?

【熊坂さんのお話】
まさに可能性は無限です。ただし、アイデアやクリエイティビティが問われる場なのです。
よく皆さんから「成功事例」を聞かれますが、まねをしても成功はしない。また新しい試みが必ず成功するとも限らない。そこのリスクが取れるかどうかが問われますね。

先ほど動画の有効性に触れられましたが、テレビや映画など既存のメディアで制作に携わっていた方にとっては、これまで経験を強みにすることは可能では?

【熊坂さんのお話】
これまでマスメディアでやってこられた方には技術がある。いい例がUstream です。誰もが好きな場所からTV中継をできるようになりましたが、それだけでは視聴者は満足しない。 既存のメディアの方々はその技術や経験を捨てるのではなく、むしろそれをベースに新しいものを積み上げてSMに挑戦していけば差別化が図れると思います。

クリエイターにとって、クライアントになりうる企業との関係性が変わってくる可能性も?

【熊坂さんのお話】
SMにおける集客は、「お願いします」とこちらから行く集客法ではないのです。むしろ、自分をブランディングして、ショールームのような形にして、クライアントの方から来てくれるように仕掛けることが重要なのです。
そもそもFBは企業ではなく個人に有利な場所なので、個人のクリエイターにはまさに打ってつけの場だと思います。

ソーシャルメディア研究所のHP(http://socialmedialabs.jp/)にもランキングが載っていますが、FBではどういうページが集客に成功するのでしょうか?

【熊坂さんのお話】
3つ要素があると思います。
まずはコンテンツ、これが大前提です。
次はパーソナリティ、ブランディングの確立ができるか、ですね。
最後は「向き合い度」、実はこれが一番重要だと思います。いかにファンの方とインタラクションできるかということですね。これが無いと、有名人でもコンテンツが良くてもだめです。
FBの効果は費やす時間に比例する。短時間のかかわりで、結果だけ得ようとしても無理です。あのLady Gagaですら、時間を割いていると聞いています。

システム上で安全対策は万全
クリエイターもビジネスユースを

FB利用をためらっているクリエイターにアドバイスをいただけますか?

【熊坂さんのお話】
皆さんがもっとも心配されているのは、実名やプロフィールを出すことで不都合が起きるのではないかということでしょう。しかしFBには“プライバシー設定”があり、情報開示の範囲を「友達」「友達の友達」「すべてのユーザー」の3段階で設定することで、情報管理が可能です。
“攻撃”とか“炎上”を心配される方もいるようです。FBは実名登録なので、ツイッターに比べてはるかに少ないですが、中には偽名登録のユーザーもいて、攻撃してくることもあります。しかしその場合には“ブロック”機能があります。このブロックは強力で、検索しても相手からはまったく見えなくなります。そういう点でもツイッターやブログよりは安全だと言えます。
そして最も大事なのは、「友達」を承認する際、実際に会ったことのある、よく知っている人に限定すること。ここがしっかりしていないとFBを安全かつ有効に使いこなせないのです。

売り込みを嫌うメディアとのことですが、FBページ2万のうち、成功しているのはどういうページですか?

【熊坂さんのお話】
売り込みが難しい半面、認知度を高めるためのコミュニケーションツールとしては最高だと思います。 自分(自社)が何をやっているかを明らかにし、来てくれる人に役立つ情報をアップしていれば、登録してくださいと言わずに、顧客の方から自然に登録してくれる流れができる。マインド・シェアを高めることが重要なところです。
理想的な形は、たとえば「クリエイターズステーション」で展開するならば、主宰のFBページを設けて、さまざまな分野のクリエイターがページをリンクして個性を発揮する。つまりクリエイターのページの“ハブ”になる、そうすれば「クリエイターズステーションのFBページに行けば、いろんなクリエイターを探せる」ということで、自然に登録数は上がってくるはずです。

不況の中でフリーになる人も減っていますが、FBは強力な武器になりえますね?

【熊坂さんのお話】
クリエイターの方は職人気質の方が多く、マーケティングの苦手な方が多いように感じます。
FBは内容さえよければ、自動的にマーケティングをしてくれるツールなので、最初の土台に乗るまでをしっかりやるのが良いと思います。自分が何者かわかるように、写真をのせたり、コンテンツを考えたり“下ごしらえ”をきっちりやる。
そして、定期的に新しい情報を発信していく。発信というのは手数がかかりますが、慣れですから、いずれできるようになります。 FBで情報発信を考えておられるクリエイターの皆さんを応援しています。

【インタビュー対象者】 熊坂仁美さん 株式会社ソーシャルメディア研究所代表

【インタビュー対象者】
熊坂仁美さん
株式会社ソーシャルメディア研究所代表

Facebookをビジネスに使う本
出版社: ダイヤモンド社 (2010/11/6)
ISBN-10: 4478015147
ISBN-13: 978-4478015148
発売日: 2010/11/6

Facebookを集客に使う本
出版社: ダイヤモンド社 (2011/6/10)
ISBN-10: 4478016011
ISBN-13: 978-4478016015
発売日: 2011/6/10

取材/2011年6月1日

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