日本の「未来のテレビ」を考え、開発する 「ミライテレビファクトリー」というプロジェクト

Vol.75
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ テレビタイムビジネス局局長代理 (兼)テレビビジネス推進室室長 今野真人さん
某日、プレスリリース資料を入手した。

「次世代テレビ受像機の普及に伴うテレビビジネスを検討する組織『ミライテレビファクトリー』を設置」と題された資料は、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ(以下博報堂DYメディアパートナーズ)によるもので、(以下、資料より抜粋)「米国で先行するスマートTVでは、放送コンテンツの視聴に加え、動画配信、ゲーム、電子コンテンツガイド(ECG)、検索、e-コマース、ソーシャルネットワーク等のサービスが統合的に提供されています。このようなスマートTVを含む次世代型テレビ受像機が日本にも登場し普及することによって、現状のテレビ広告ビジネスに大きな影響が及ぶ可能性があります。博報堂DYメディアパートナーズは、この変化の兆しを、テレビ広告ビジネスだけではなくコンテンツやテレビ受像機を含めた新しいテレビビジネスモデルを創造できる機会と捕らえ、企業や生活者にこれまでにない価値を提供します」とある。
被災地を除いた日本全土に、地上デジタル波放送の時代が到来した現在です。なんとも好奇心の刺激される情報です。さっそく博報堂DYメディアパートナーズさんに、取材を申し込みました。
同社のインターネットに関する、メディア・コンテンツ及びソリューション担当、テクノロジー担当、調査・分析担当や、デジタルコミュニケーション領域のプラニング担当、その他専門性の高いスタッフを集め、構成されたミライテレビファクトリーの中心人物のひとりである今野真人さんが対応してくださいました。

テレビ広告ビジネスの極端な縮小現象は、
生活者の不利益になるとの信念。

かなりスケールの大きな開発プロジェクトと思います。 本来なら官庁主導だったり、業界関係各社がつどって立ち上げるようなものにも見えるのですが。

【今野さんのお話】
もちろんこのようなことは、将来的にはオールジャパンに広がっていくこととなるはずですし、オールジャパンで取り組むべきことです。しかし、今回私たちはあえてスモールスタートを選択し、枠組みを整えた後に賛同してくださる方々に参加していただく進め方としました。端緒としては当社がリーダーシップをとりますが、決して独占しようなどとは考えていません。

私たちにも、ひとり占めをめざすようなことではなさそうだとわかります(笑)。

【今野さんのお話】
おっしゃるとおり、これは業界の将来を見据えたプロジェクトです。放送局や広告会社にとって、テレビ広告ビジネスの将来展望はいわば死活問題ですから。次世代の新しいテレビビジネスモデルは旧来のテレビ広告ビジネスを縮小させる事態を憂慮させますが、テレビ広告ビジネスの極端な縮小は、放送局や広告会社といった業界にとって困ったことであると同時に、生活者にとっての不利益も生み出しかねない問題です。そこを信念とし、新しいテレビビジネスモデルを根本から創造する活動を開始したのがミライテレビファクトリーなのです。

テレビ広告ビジネスの縮小は、生活者の不利益につながる?

【今野さんのお話】
極端な縮小は、生活者の不利益となる。私たちは、そう考えています。
昨今の広告論では、テレビ広告が不要でネット広告が隆盛するといった二元論が多く見られますが、大きな疑問です。私たちは、テレビとネットがバランス良く連携すべきだと考えています。何について知りたいかといった目的意識がはっきりした生活者にはネット広告が喜ばれるでしょうが、そうでない方もたくさんいらっしゃるわけですから。
いわゆる「偶然接触」は、テレビが担うべき大きな役割。例えば私は普段あまりお菓子を食べないのですが、たまたまテレビCMで見かけたお菓子が食べたくなり、それを買って食べたらとても美味しくて幸せを感じたといったような経験が多々あります。そういう出会いは、生活者の人生を豊かにしてくれます。また、広告主にとっても喜ぶべき現象ではないでしょうか。

一説にはアメリカでは「偶然接触」の役割がかなり低下し、テレビ受像機が「有料映像コンテンツ」のためのものになるという流れが加速しているようですが。

【今野さんのお話】
そこはまさに文化の違いでしょうね。アメリカには、お金を払ってコンテンツを視聴するケーブルテレビの文化がずいぶん前から定着していますから。日本に同じ流れが生まれるとも、同じ流れが歓迎されるとも、どちらも一概には言えません。
少なくとも私たちは、テレビ広告は生活者にとって最も重要な情報源の1つだと考えていますので、テレビ広告が激減することは生活者の不利益にもつながりかねないと考えています。

プラットフォームへの理解を深くし、
これまでになかった創意工夫のできるクリエイターには、
活躍の場が広がる。

新しいテレビビジネスモデルが展開される「ミライテレビ」は、アメリカで先行している、いわゆる「スマートテレビ」と同じものなのでしょうか。

【今野さんのお話】
「ミライテレビ」がインターネットにつながっているテレビであることだけは、確かと思います。ただ、放送にまつわるルールの違いからグーグルTVに代表されるアメリカ型のスマートテレビがそのまま日本に上陸することはないはずです。さらに言えば、文化の違い、視聴者の嗜好の違いは明らかにありますので、日本には日本独自の「ミライテレビ」が生まれると考えた方がいいでしょう。

具体的には?

【今野さんのお話】
メイン画面のインターフェイス、検索しやすさなどは大切な設計ファクターでしょうね。また、日本独特の「録画文化」をいかに上手に生かせるかもよく考えるべきしょう。ちなみに、エアチェックをした番組をあとで見返すという視聴スタイルは、少なくともアメリカにはほとんどありません。見逃し視聴はアーカイブなどの専門サービスを使うのが一般的なので、家庭に録画装置を据える習慣がないのです。あの国の電器製品売り場に録画機材がほとんど売っていないことを知れば、みなさん驚くはずですよ(笑)。

ミライテレビファクトリーは、「テレビの未来」と「未来のテレビ」の研究・開発を実施することにより、新しいテレビビジネスを創造していく。ということですね。

【今野さんのお話】
調査設計は、もう開始しています。我々が想定するミライテレビの概要をもとに、生活者に徹底的なアンケート調査を進めます。その作業の中から「未来のテレビはこうなる」という姿を見きわめ、そこで展開される「テレビビジネスはこうなる」を見定めていこうと考えています。可能であればテレビ受像機の規格制定にまで関与できればと期待されています。

当面のスケジュールは?

【今野さんのお話】
今年度中に調査結果をまとめ、モック(全体イメージ)を形成させます。来年度には、受像機規格の案を出す予定です。かなり速い進行になるはずです。

ちなみに、そういった動きの中で、クリエイターたちは何をテーマに勉強すべきなのでしょう。

【今野さんのお話】
リアルタイムに入るCMコンテンツの手法、録画されても見てもらえるCMコンテンツの手法などの開発は重要になってきます。明らかに、「仕組み」の部分への創造が求められるようになるでしょう。プラットフォームへの理解を深くし、これまでになかった創意工夫のできる人には、活躍の場があるはずです。

【取材対象者】
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
テレビタイムビジネス局局長代理 (兼)テレビビジネス推進室室長
今野真人さん

取材/2011年7月19日

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