グラフィック2013.01.23

今、クリエイターが知っておくべき 『流行色』 の世界

Vol.90
一般社団法人 日本流行色協会 クリエイティブディレクター 大澤かほる
テレビや雑誌で「今年のトレンドカラーは?」と話題になることも多い「流行色」。この「流行色」がどのように定まっていくか、その仕組みをご存知ですか?「流行色」は世界的な会議を経て選定され、さらに日本国内市場向けにアレンジされてトレンドカラー情報として発信され、さまざまな企業のデザイン活動に反映されているのです!この流行色情報を発信している「一般社団法人 日本流行色協会」(JAFCA)の大澤かほるクリエイティブディレクターにお話を伺い、流行色選定までの流れや与える影響、流行色を知ることによるメリットなど、クリエイターが知るべき「カラーのトレンド情報」について、お話を伺いました!

トレンドカラー情報を発信する 「流行色協会」(JAFCA)

恥ずかしながら「流行色協会」(JAFCA)という機関の存在を初めて知りました。

Webや広告などを中心に活動されているクリエイターの方にはあまりなじみがないかもしれませんが、JAFCAの会員企業は800社を越えていて、ファッションのアパレルメーカーはもちろん、自動車、家電、生活用品、おもちゃなどのプロダクツメーカーから大学などの研究機関まで、幅広い業種に向けて色に関する最新情報、つまりトレンドカラー情報を提供しています。モノづくりの現場で私たちの発信するトレンドカラー情報は欠かせないデータになっているんですよ。

JAFCAが「今年のトレンドカラーは黄色」のように、流行色を決めているんでしょうか?

いえ、テレビや雑誌ではわかりやすく「黄色」「緑」「ブルー」のように単色を挙げますが、それはあくまで傾向であり、私たちがはっきりと単色を決めているわけではありません。流行色が市場に反映される流れとしては、まず2年後のトレンドカラーについて「インターカラー」と呼ばれる国際流行色委員会で、世界レベルでのトレンドカラーが選定されます。ここにJAFCAは日本で唯一参加しています。その結果を日本に持ち帰り、現在のライフスタイルや意識を踏まえたディスカッションや市場調査を経て、国内市場向けのトレンドカラー情報として発信しています。このトレンドカラー情報は、単色を挙げるわけではなく、いくつかのカラーグループを発表しているんですよ。

カラーグループにはそれぞれタイトルがつけられていますね。

どんなカラーが求められているか、そのストーリーを考えて言葉で表現しています。カラーグループを作って、それぞれのカラーパレットとストーリーを表現する言葉で発表するこの形は、60年前の協会発足当初から続いています。単なる「色」だけでなく、素材感や仕上げの光沢など、より細かいところの表現も求められるようになってきました。

2013年春夏JAFCAプロダクツ&インテリアカラー

【参考】2013年春夏JAFCAプロダクツ&インテリアカラー
(画像はJAFCAホームページより)

流行色は時代を映す鏡。 トレンドカラーを見れば、時代がわかる!?

60年前からJAFCAの活動は続いているんですね!60年分の発表されたトレンドカラー情報を時系列で並べると面白そうです。

その通りです。流行色とは時代を移す鏡なので、トレンドカラーを見るとその時代の雰囲気が浮かび上がりますよ。トレンドカラーを提案するということは、時代の動く方向を見越してストーリーを作り、未来を「色」という表現で提案しているのです。もっと言ってしまうと「未来を色で作っている」と言えるかもしれませんね。

JAFCAの創立は約60年前とのことですが、そのきっかけは何ですか?

発足当時は日本の繊維産業が戦後復興の中心的役割を果たしていた時期で、布地を大量生産して海外に輸出する、今の中国や東南アジアのような産業構造だったのです。布地は「色」が売上に直結しますよね。海外で受け入れられる布地にするために、業界全体で欧米の色彩嗜好や傾向を把握して、より良いものを作っていこう、という目的でJAFCAは発足しました。1962年には淡い色合いの「シャーベットカラー」を提案したのですが、ファッションだけでなく化粧品や雑貨まで街中がシャーベットカラーであふれた、なんてこともありましたね。

時代とともに流行色の役割も変化。 流行色を知ればリスクヘッジになる。

今は、当時のようにみんなで同じ色のファッションを身に着ける、というよりは、個性の時代になっていますよね。

生活が豊かになるにつれ、流行色の意味合いも変わってきています。ですが、色が時代を映す鏡である、という役割は同じです。商品企画に費やす期間は、商品分野によって異なりますが、例えば自動車は3年から5年かかります。今、消費者に人気がある色であっても、その商品が発売される時期にも売れるとは限りません。企画段階でまったくゼロの状態でデザインを起こすよりも、何らかの指針があった方が、リスクヘッジになります。色は視覚から得る情報の8割を占めると言われていて、色を侮ったら、すでにその商品の市場戦略は出だしの時点でつまづいている、と言っても過言ではありません。時代の嗜好や気分とまったく違う色の商品を世に出してしまったら、それだけで見向きもされませんからね。身近な生活用品やファッションはもちろん、例えばクルマや家電製品のような開発期間もコストも莫大な製品が色の選択をひとつ間違えただけで売れなくなる、そんなリスクを回避するために、JAFCAの提供するトレンドカラー情報を役立ててもらっているのです。

なるほど。デザイナーをはじめとするクリエイターは、自分の感性やセンスで勝負するものだと思っていましたが、トレンドカラー情報を知っているのと知らないのでは、大きな違いがありそうですね。

もちろん、クリエイターにとっては、自身の感性やセンスが一番重要です。私たちJAFCAは、流行色を押し付けているのではなく、あくまで時代の流れや嗜好を反映した指針として提供しますので、そこから感性やセンスを活かして個性あふれる商品を作っていただければと思います。ですが、クリエイターは新鮮な仕事を生み出していくためには、常に自分の殻を破らなくてはならないと思うのです。そのときの指針やキッカケづくりのために、トレンドカラーを知っておくことは決して損にならないはずです。また、常にトレンドカラー情報をチェックすることで、知らず知らずに自分に染み付いていた独りよがりな考え方やクセを是正することができるかもしれません。何度も言いますが、トレンドカラーは時代を映す鏡なので、「今」の世の中の気持ちや流れにあったデザインを生み出すために役立ててほしいですね。

流行色を知って、新鮮な作品を生み出すキッカケに。 プレゼンの説得力を増す材料に。

なぜこの色を使ったデザインになったのか、プレゼンテーションの説得材料としても役立ちそうです。

特にクルマや家電製品などで当てはまるのですが、私たちは技術者とクリエイターの橋渡しの役割も担っていると自負しています。クリエイターが考えるデザインの根拠として、時代の流れを移すトレンドカラー情報を提示すれば、技術者の納得度は高まります。また、クリエイターなら誰でも経験があると思うのですが、得意先や上司などのプレゼン相手が「直感」「好き嫌い」だけでデザインの優劣を決めたがる時がありますよね(笑)。ですが、今の世の中の流れや人々が求めている方向性を示すトレンドカラー情報を示しながらプレゼンテーションすれば、単純な好みだけでデザインを判断されなくて済むかもしれません。

大澤かほる氏

【インタビュー対象者】
一般社団法人 日本流行色協会(JAFCA)
クリエイティブディレクター
大澤かほる氏

それはクリエイターにとっては、とても助かりますね(笑)トレンドカラー情報の提供を受けるにはJAFCAの会員になることが必要とのことですが、フリーのクリエイターなど個人でも会員になれるのでしょうか?

もちろん、個人の会員の方も多くいらっしゃいます。年間3万円から会員になることができますので、色についての意識を高めるためにも、入会をご検討いただければと思います。企業に所属している方なら、JAFCAのサイトに会員企業一覧がありますので、登録されているか確認してみてください。また、JAFCAでは年に数度交流会やセミナーを実施していて、様々な異業種の方々に参加していただいています。そこで視野が広がったり、新しい仕事のキッカケになった、という嬉しい話も聞きますので、「色」に関心を持つ人々が集まるJAFCAのイベントにぜひ参加してみてください。自分の殻を破るチャンスになるかもしれません。

◆一般社団法人 日本流行色協会(JAFCA) http://www.jafca.org/

取材/2013年1月8日 取材・文/植松

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