愛する人の“死の運命”が見えたら?究極の問いを突き付ける映画『フォルトゥナの瞳』

番外編「Viva!映画」
映画『フォルトゥナの瞳』監督 三木 孝浩 氏
“フォルトゥナ”とは運命の女神。その瞳を持った者には、「死を目前にした人間が透けて見える」という不思議な力が宿る。その力によって、愛する人の運命を知ってしまったら……?百田尚樹原作の映画『フォルトゥナの瞳』は、そんな究極の問いを突き付ける、神木隆之介、有村架純出演のラブストーリーです。三木孝浩監督に作品に込めたメッセージ、さらに青春映画への思い入れや“ヒロインを美しく撮る方法”まで語ってもらいました。

「自分ならどうするのか?」 究極の選択を疑似体験

これまでの監督作品と比べて、今回の映画はいかがですか?

僕の長編映画の中では、新たなタッチの映像にチャレンジすることができました。今回はサスペンスの要素も大きかったのですが、自分の中では楽しみながら作ることができた作品です。どうやったらお客さんを怖がらせられるかな、ドキドキさせられるかな、と考えながら撮影しました。

主人公の慎一郎は死が目前に迫った人が透けて見えるという、ファンタジー設定でした。

僕はファンタジー映画や小説が大好きです。どうしてファンタジーに魅かれるのかというと、普段の日常生活だと考えられない窮地があって、見ている人に「自分ならどうするのか?」という問いかけがあるからだと思います。ある種、究極の状況を疑似体験できるのが、ファンタジーの魅力だと感じています。

百田尚樹さんの原作小説を読んだ印象は?

小説を読んだ時、主人公の慎一郎の選択に対して、「主人公と同じ選択ができるのか?」と読者に問いかけるような所が素敵だなと思いました。こうした問いを持って日常生活に戻ると、一日一日を一生懸命生きようというきっかけを与えてくれるんだと思います。

原作を映画化するにあたって、どんな所が変わりましたか?

ラブストーリーの要素が原作よりも強まったと思います。また、映画版では慎一郎と葵の絆を強くしたいなと思って、新たな関係性を付け足しました。2人の結びつきは、運命なのか、自分の選択の結果なのか、誰にも答えは分からないのですが……。

男が惚れる神木隆之介の魅力とは? 有村架純は芯が強い!?

©2019「フォルトゥナの瞳」製作委員会

主演の神木隆之介さんは本格的なラブストーリーは初挑戦だそうですね。

多くの作品に出演しているので、ちょっと意外でしたね。今まで可愛らしさや繊細さが求められる役どころが多かったと思いますが、これまでと違った一面が切り取れるんじゃないかなという期待がありました。

神木さんの「これまでと違う一面」とは?

実は神木君、男から見ても惚れる部分や“男らしさ”を持っています。本番で鬼気迫る表情を見せて、終わった後に優しい表情に切り替わる瞬間が、男から見てもドキッとします。僕の中では神木君とフィギュアスケートの羽生結弦選手がすごく被るんですよね。カメラが回っている時は、リンクで滑っている羽生選手のようなイメージがあります。

有村架純さんは監督の作品に初出演ということでしたが、いかがでしたか?

出演作品を色々と拝見して、実は彼女の中に、芯が強い部分があるんだと思っていました。今回演じた桐生葵は、ごく普通の可愛らしい女性として登場するのですが、後半は芯の強さや思いの深さが出てきます。その部分を架純ちゃんなら素敵に演じてくれるんじゃないかという期待感がありました。実際、そこを見事にお芝居で表現してくれたので、演じてもらってよかったと思いましたね。

葵はごく普通の女の子として登場しますが、どのようにヒロイン像を作り上げていったのですか?

架純ちゃんが最初の本読みの時に、等身大の女の子のキャラクターを作り上げてきてくれました。僕はいい意味で予想を裏切られて、プロデューサーと話してその方向で行くことにしました。結果的にも架純ちゃんの役作りがうまくはまって、観客は冒頭から葵に自然に感情移入できるし、後半の展開ではより驚いたり楽しんだりできる内容になったと思います。

他のキャストの方はいかがでしたか?

志尊淳君は、意外とハードでやんちゃな役が似合うのが、新たな発見でしたね。

DAIGOさんは、普段から本当にジェントルマンで素敵な方ですが、そんな人が嫌な奴を演じるというギャップが面白かったですね。

北村有起哉さん演じる黒川は、ファンタジーの設定を説明しながら、嘘くさくなってもいけない役。醸し出す雰囲気で説得力を持たせなければいけないので、ある意味一番難しい役どころだったかもしれません。

松井愛莉さんは今回、ちょっとかわいそうな役なのですが、「大丈夫です」と引き受けてもらえてよかったです。

死ぬ運命にある人が透けて見える 恐怖感をCGでどう表現するか

©2019「フォルトゥナの瞳」製作委員会

死ぬ運命にある人が透けていく様子が、とてもリアルだなと感じました。

小説を読んだ時から、人が透けていくのをどう表現するかは、すごく悩んで、CGチームと試行錯誤して作り上げました。死に対する恐怖が、この映画にとっては大事な要素です。ただ透明になっていくだけでは、怖くないので、少しグロテスクでホラーっぽくして、死に対する恐怖感が観客に伝わるように考えました。

クライマックスの映像は衝撃的ですが、どうやって撮影したのですか?

クライマックスの部分は、今の日本ではなかなかできないような撮影となりました。近鉄さんにご協力いただいて、本物の電車を使って、CGもフル活用して、今まで見たことのないような映像を作ろうとこだわりました。冒頭の飛行機事故のシーンも、色々な撮影技術を使っているので、見どころだと思いますね。

「時をかける少女」が原点 未完成な若者の物語に魅かれる

©2019「フォルトゥナの瞳」製作委員会

「青春映画、恋愛映画と言えば三木孝浩監督」と世間では認知されていますが、ご自身ではどのように思われますか?

僕はそういう作品を作るのが大好きなので、そう言っていただけるのは嬉しいですし、何本撮っても撮り足りないです。少し未熟なキャラクターが、失敗しながらももがいて、自分のあるべき姿にたどり着こうとする。そういう物語を作りたいという思いがずっと自分の中にベースとしてある気がします。だから僕の映画は必然的にキャラクターの設定が若い人たちになるし、そういう人たちに魅かれるんだと思います。

青春映画が好きな監督の原点と言える作品は?

大林宣彦監督の『時をかける少女』です。自分は何者なのか、自分はどうあるべきかと一番悩んだ時に、答えまではないけれど、「自分の目指すもの」がその中にあるというのを感じさせてくれたのが大林監督作品でした。

監督が大林作品から見出した、「自分が目指すべきもの」とは?

言葉にできない心を動かす何かがあって、映画だからこそ感じられた何かを、生み出して与える側に回りたいと思いました。それは、言語化できないからこそ、映画でなければ表現できないと思ったんです。中学高校時代ですね。

毎回ヒロインに片思い 他の作品よりも美しいカットを絶対に撮る!

©2019「フォルトゥナの瞳」製作委員会

監督の作品を見ていると、いつも女優さんの素敵な表情を上手に捉えている印象があります。

男性の俳優の方々には申し訳ないのですが(笑)、毎回女優さんを撮る時に、他の作品より美しいカットを絶対に撮るというのを、自分の中で目標にしています。特に笑顔は誰でも可愛く撮れるけれど、憂いの表情こそ可愛く撮ろうと思っています。

人が誰かを好きになった時に、「自分だけが知っている、この人のこの表情」というのがありますよね。そういう目線で女優さんを撮ると、他の作品にはない所を引き出せると思っています。

そうすると、監督は撮影中にヒロインに恋しているんですか?

モニター越しに、毎回片思いをしているような感覚でいます(笑)。予告編に使われていますが、架純ちゃんが振り返ってカメラ目線で笑う表情が撮れた時に、達成感を感じました。

監督自身が撮影しながら、胸がキュンキュンしているんですね!

それが映画を撮っていて楽しい部分ですよね。思い返してみると、片思いをしている最中が一番楽しいんじゃないですかね。色んな想像をしながら、その人のことを見つめている感覚。イマジネーションが一番広がるし、自分の想像力の源は絶対にそこにあると思います。

神木隆之介“ミリ単位の芝居”は鳥肌もの

©2019「フォルトゥナの瞳」製作委員会

女優さんだけでなく、先ほど神木さんについても「男から見て惚れる部分がある」と話していました。

神木君は“ミリ単位の芝居”ができる役者です。頭の中のイメージと実際の表現は、普通だとずれますよね。でも、神木君はその誤差がない。頭の中でイメージしたものを、そのまま表現できる。鳥肌が立つ瞬間もあり、凄いなと思いましたね。

神木さんの凄さを感じたシーンは?

感情を吐き出すシーンはすごく難しいので、何回も繰り返すとテンションにばらつきが出るのが普通なんですけど、僕の演出の修正に対して、熱量を失わずに、ピタリと合わせてくる。修正はできても感情が伴っていない芝居というのもよくあるんですけど、感情も合わせてくる。その精度は“ミリ単位”で、天才肌だと思いました。

愛する人のために自分は何ができるか?映画を見たら自分に問いかけてほしい

この映画を通して観客に伝えたいメッセージは?

この作品は、いろんな状況に置き換えられると思うんです。例えば、愛する人の危機にいずれ直面するかもしれないというのは、想像できると思うんが、その時、愛する人のために行動できるのか。僕が原作小説を読んだ時にそういう問いかけを自分自身にしたし、観客の皆さんにもそういう問いかけをしたいというのが、作るモチベーションになりました。

主人公の慎一郎をただのヒーローにしたくなかったんです。生身の人間が悩む姿を観客の皆さんに見てもらって、皆さんが慎一郎に自分を重ねて物語を見てもらえるんじゃないかと思います。

愛する人のために行動できるのか。監督だったら、どうしますか?

そうありたいと思っても、わが身可愛さとか、恐怖とかがあって、いざとなったら怖気づきますよね。でも、そうありたいというのはあります。

監督にとって、今までの最大の選択は何ですか?

会社を辞めたことですかね。元々映画監督志望でしたが、レコード会社でミュージックビデオやライブビデオを作っていたんです。でも、やはり映画を撮りたいという思いが沸々と湧き上がってきて、30歳くらいの時に悩みました。

安定したサラリーマン生活を続けることもできるけれど、映画を作りたいという思いもずっとある。その時、自分が死ぬ間際に映画を作ればよかったと後悔したくないと思ったんです。それだったら、チャレンジしたほうがいいんじゃないかなと。

現場でのモットー「いいものを生み出すための摩擦は恐れない」

最後に、このサイトを見ているクリエイターの皆さんにメッセージをお願いします。

映画は芸術の中でも様々なスタッフが関わる総合芸術なので、完成イメージを監督が一番持っているのですが、それを共有するのがすごく大変なんです。毎回色んな意見の違いもある中で、みんながより良いものを目指して作ります。

僕の現場でのモットーは、「いいものを生み出すための摩擦は恐れない」。初めてのスタッフと仕事をして、自分とやりたいことが違う時に、まずはこの人がどうより良くしようとしているのか相手の立場に立って考えます。そして、お互いの違いをディスカッションしていくと、熱量が生まれます。その熱量が作品自体の熱量につながると思うので、話し合うことを大事しています。

映画づくりは監督が全部命令しているイメージがあるかもしれないけれど、監督はある種、中間管理職的な立場だと思っています。色んな人の意見を集約して話し合い、一番良いものを生み出すために、その中から選択していく。いい作品ができれば、みんながハッピーになるじゃないですか。いい作品を作るためにも、クリエイターの皆さんには“摩擦”を恐れないでほしいと思います。

取材日:2019年1月8日 ライター:すずき くみ ビデオ(撮影・編集):竹中博信 スチール撮影:橋本直貴

三木孝浩(みき たかひろ)

1974年8月29日生まれ。徳島県出身。映画監督。多数のミュージックビデオ、ショートムービー、ドラマ、CM等を監督し、カンヌ国際広告祭2009/メディア部門金賞などを受賞。
2010年、映画『ソラニン』で長編監督デビュー。以降の長編映画として『僕等がいた 前篇・後篇』(2012)、『陽だまりの彼女』(2013)、『ホットロード』(2014)、『アオハライド』(2014)、『くちびるに歌を』(2015)、『青空エール』(2016)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)、『先生! 、、、好きになってもいいですか?』(2017)、『坂道のアポロン』(2018)などがあり、最新作『フォルトゥナの瞳』が公開中。

『フォルトゥナの瞳』

監督:三木孝浩 
原作:百田尚樹『フォルトゥナの瞳』(新潮文庫刊)
脚本:坂口理子、三木孝浩
音楽:林ゆうき
キャスト:神木隆之介 有村架純
     志尊 淳 DAIGO 松井愛莉 / 北村有起哉
     斉藤由貴 時任三郎
公式HP:http://fortuna-movie.com/
© 2019「フォルトゥナの瞳」製作委員会

全国東宝系にて大ヒット公開中!

続きを読む

クリエイティブ好奇心をもっと見る

TOP