コツコツこつこつ、ものづくりの骨 業界違えば骨(コツ)も違う

vol.1
CMディレクター

いかに通すか ~プレビデオという裏技が当然に~

当然のことだが、CMは広告。広告主の意向を反映すること、広告主に承認されたものを作ることが至上命題だ。そこで、クリエイティブチームはよい企画を作ると同時に、いかによいプレゼンテーションをするかということが大切になる。広告主の了承を得るために、どんな映像ができあがるのかを事前にコンセンサスとするために、あらゆる努力が注ぎ込まれる。

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SmokeやAvidなどのデジタル合成ソフトを使って、“動く画コンテ”ともいえるプレビデオを作り、プレゼンテーションすることが主流になっている。映像はオリジナルに撮りおろしたものから、ハリウッド映画の名場面を借用したものまで様々。もちろん音声、音楽も入れて、限りなく完成作品に近いものを「作ってしまう」「見せてしまう」わけだ。10年前なら、広告会社が赤字覚悟でGOを出さなければ使われない手法だったが、デジタル技術の進展で、いまや当たり前のプレゼンツールになりつつある。

<CMディレクターK氏の話> いかに通すかということに、バジェットの1/5くらいを使うこともよくある世界です。広告主さんあってのCMなので、作り手だけが完成のイメージを知っていればいいというわけにはいきませんから。プレビデオは、もちろん説得力があって有効な手法。ただ、難点は、「こういうイメージです」という主旨で使っている仮映像を広告主さんが「そういう映像」と勘違いしてしまいがちなこと。もちろんちゃんと説明しているのですが、人間の思い込みというのは、なかなかに手ごわい。実は、そういう意味でもっとも苦労しているのは、作曲家さん。プレビデオは音楽まで「こういうイメージ」という既存のものを使うことが多いので、広告主さんの出すOKが、結局、限りなくそれと同じものになる。オリジナリティのあるいい曲を書いても、「もっと、こう」という指示にしたがって微調整していくうちに盗作ギリギリのものになることがけっこう多いんです。

いかに仕上げるか ~技術とコストの混迷が始まっている~

ポストプロダクション――編集および合成。映像作品を完成させるには必要不可欠の作業である。潤沢なバジェットを持つCM界がポストプロダクションに贅沢な設備や技術を導入することで、日本のデジタル映像の技術を引っ張った。AvidやInfernoといったハイエンドな機材を日本に定着させたのも、もちろんCMだ。

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Infernoさえ使えばOKという時代は終わりつつある。なにより、使いこなすエディターやアーチストの技量が大切という認識が定着した。そして、民生ソフトで、CM映像にも使えるようなハイクオリティな映像を作る作家が増えている。

<CMディレクターH氏の話> とにかく技術の進歩が加速度的に速まっている世界です。なにが最先端か、なにが適正かを判断するのはすごくむずかしい。雑駁に言えば、「とにかく一番いいものを使う」というのがポストプロダクションに対する業界の方針というところです。合成・CGに関しては、スペシャリストであるエディターやCGアーチストの技量をいかにうまく使いこなすかということがディレクターの仕事。この世界の映像表現技術の進歩は、彼らの腕と努力にかかっているといっても過言ではありません。一昔前、あるプロデューサーが「Infernoってのは、100円硬貨が詰まった麻袋の底に穴を空けて、それが落ちるのを見ている感じ」と言っていたバカ高いスタジオ料は、もうかなりこなれてきています。探せば、自主制作映画でも使えるようなスタジオがあるんじゃないですか。

いかに生き残るか ~豪華絢爛・優雅な業界人という誤解~

優雅に撮影現場に現れて、ど真ん中のディレクターズチェアに座り、かしずくスタッフの接待を受ける宣伝部長――テレビドラマに出てくるような広告業界の一コマは、もうすでにない。任期4~5年の宣伝部長は、稟議にはかって経営陣の意思を確認する。つまり、企業活動の1パーツとして、厳密に厳格に動くことを求められている。広告&CMは、少々名を売ったからといって、「~ちゃん」のノリだけで渡っていけるような世界ではない。

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感性もオリジナリティも、技術があってこそ。企業と消費者のコミュニケーションを成立させるための演出力――という答えのない命題を、自分なりの方法論で構築している者だけが生き残れる世界なのだ。

<CMディレクターF氏の話> たしかに昔はそんな時代もありましたが、広告主さんも、代理店さんも、情実や好き嫌いでCMディレクターを登用したりしません、現在は。CMは常に監視されている世界です。オンエアされたものは消費者と競合他社に。妙な資金の流れは税務署に。しっかり監視されているので、第三者が思う以上にクリーンな世界です。ディレクターに求められるのは、まず精密さ。練って、通して、稟議を通った広告案を、いかに意図通りに精密に仕上げるかが評価のポイント。職人の世界です。常に情報収集して、「意図を映像で表現する」ための技量を磨き続けなければ生き残れません。もちろん競争は激しいです。毎年若手はデビューしてくるし、他分野からの参入だってある。最近は、PV(プロモーションビデオ)のディレクターたちがどんどんCMに参入してます。強敵です。

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