デベロッパーという仕事と世界

vol.2
デベロッパー

開発の守備範囲は?

仕様書のびっちりきまったゲーム企画のものとでCGだけを請け負うこともあるし、私たちのオリジナルな発案をメーカーに持ち込んで商品化することもある。開発の形態は、ものすごく幅広いです。

メーカーとデベロッパーの 開発環境の違いは?

メーカーさんの開発者は責任を分担できるが、デベロッパーは、一度失敗したらそのクライアントさんからは二度と仕事がもらえないという環境。乱暴に言えばそういうことになりますね。ジョブローテーションや研修システムのなかで育成されて開発部長に納まるのがメーカーさんの開発者なら、デベロッパーの開発者は腕自慢の傭兵。これは良い悪いではありません。どちらを選ぶかは当人の志向の問題だし、どちらにも良いところ悪いところがあります。おしなべて、デベロッパーにはチャレンジ精神旺盛な開発者が集まる傾向にあります。メーカーに在籍していたけれど、チャレンジしたくてデベロッパーに身を投じるという人もたくさんいます。

なぜデベロッパーに身を投じるのか?

簡単に言えば、A、B、C、Dという4つのメーカーさんがあって、それぞれに所属していたらそれぞれの開発手法しかわからないですよね。デベロッパーは、頑張れば4社からそれぞれ仕事を請け負うことができて、それを通して4種類のやり方を全部体験できるし身に付けることができる。もちろん、契約上の守秘義務はありますし、厳守していますが、体験し、身に付けることはルール違反ではありません。そういうことに好奇心をくすぐられる人が、集まっているのがデベロッパーなんですよ。

デベロッパーは陰の存在なのか?

メーカーさんもデベロッパーの貢献度というものは、ちゃんと評価してくれます。企画から参加したタイトルでは立ち上げ画面に「Developed by~」とデベロッパーの社名を出してくれますし、エンドロールに参加スタッフの名前を出してもくれる。これがあるとスタッフの志気も上がるし、正味「~の開発をやったスタッフです」と言えるのは別の仕事を受注する上で威力がありますからね。損得を抜いて考えれば、エンドロールクレジットは開発に参加した者にとってはものすごく重いものです。なにしろ、最近の開発は2~3年がかりはあたりまえで、「25歳から28歳の春まで自分の生活はこの開発がすべてだった」という作品に名前を残せないなんて、あまりに切ないですから。

エンドロール、けっこういい加減な部分ありますよ。基本的に、「これ誰?」っていう人の名前は必ず入ってます。うまく立ち回って、ちゃっかり名前をねじ込む奴がいるんですよ(笑)。もっとすごいケースを言うと、エンディングテーマ曲の尺が長くて正味のスタッフ数だけでは足りないと、増やすこともある。逆に、スタッフ数が多すぎてテーマ曲内で流しきれなくなることもある。作曲家に「30秒長くしてください」ってお願いしたこともあります(笑)。

メーカの系列?下請け産業?

デベロッパーは自立的に経営戦略を練ってもいますよ。簡単に言えば、ゲーム以外の業界での仕事を開拓しています。ゲームが不況なら、ゲーム以外で、資金が潤沢な業界と手を組むということです。具体的には、たとえばパチンコ・パチスロメーカーからの仕事。あの世界はいまだに好況ですし、どうやらゲーム界の開発力に魅力を感じていたらしい。私の会社でもやっています。昨年は売上げの3割はパチンコ・パチスロメーカーでした。

パチンコ・パチスロの開発を任じられた若手は、ほぼいやがりますね(笑)。「僕はゲームが作りたくてこの世界に入ったんです」とまっとうな主張をします。「3ヵ月したら戻してやる。だから頑張れ」となだめ、励ますのがプロデューサーである私たちの仕事。でも、「ゲーム以外はいやだ」とごねる奴は、結局、骨のある奴なんです。引き止める価値は、十分にあります。

数年前にパチンコ・パチスロ業界がゲーム開発者に興味を持ったような情況が、今、テレビ業界に生まれているように感じます。面白いことを考え付いたら瞬発力で作って電波に乗せるテレビ屋さんにとって、発案してから2年も3年目もジトーっと(笑)テーマに取り組むゲーム屋はかなり興味深いらしいです。実際に、具体的な案件も動き始めています。

労働時間は長い?

みんな帰りませんね(笑)。なんで帰らないのかっていうと「気づいた者勝ち」だっていうことを知ってるからなんですよ。他の者より、他の会社より先に面白いことやる。それがエルドラド(黄金郷)に続いているということを知っていますから。特にプログラマーはそれをよく知っている。たとえばPS2などは、あらかじめ改造の余地を織り込んでいるプラットフォームで、どんな抜け道をさがして凄いことをするかという競争が日々行われている。そんななかで努力すればお金は後からついてくる世界ですから、みんな当然のように頑張ります。

新しい傾向はありますか?

ゲーム好きでない人材が増えていますね。以前にはなかったことです。そこで何が起こるか、それは共通言語の喪失です。「あのゲームのように」「あのゲームのここのように」というような比喩が成立しないチームがゲーム開発を担当するようになってきている。もちろん、悪い側面だけではありませんが、アプリケーション系のプログラマーは苦労していますね。たとえばデザイナーの仕上げたものが、綺麗な絵だけどゲームに適した絵じゃないというケースがある。「素晴らしい仕上がりだけど、そのボックスが暗すぎてクリックしずらいじゃない」ってなことですね。ゲームをやらない人はそのメリハリがわからないんですね。

今後の展望は?

次世代プラットフォームは、ネットワーキング機能があるし、ハイビジョン対応だし、とにかく映像にまつわるあらゆる機能を内包している。つまり、ゲーム以外の映像分野にコネクトしています。それに象徴されるように、「ゲーム」というものが囲っていたフィールドの垣根がどんどんなくなってきている。なくなっていくと思います。それを面白いと思える人には、面白さは増すばかりでしょうね。そして、「ゲーム」の概念の変化についていけない人にはつらい時代が待っているのかもしれません。

今後のビジョンは?

あくまで個人的意見ですが、今後、デベロッパーは規模を拡大しても意味はないと思います。スタッフの多さを誇るような体制は、仕事の過多に対応できず、身動きがとれなくなると思う。ハリウッドのプロデューサーシステムのように、プロジェクトごとにプロデューサーのもとに必要人数が集散するのが理想なのではないかと思います。プロデューサーのもとにフリーランスが20人集まる。あるいはプロデューサーのもとに、10人、20人規模のスペシャリスト集団が必要な数だけ集まる。私は今、その少数精鋭のスペシャリスト集団作りに乗り出したいと思っているところです。

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