ストックフォトエージェンシーの変貌がもたらすもの

vol.9
ゲッティ イメージズ ジャパン株式会社 営業部長 杉渓言久
印刷媒体の世界で10年以上のキャリアを持つクリエイターなら、“レンタル写真屋さん”の利用経験はあるはずです。カタログから選んで電話する。ラボに足を運んで、担当者に相談しながらポジを選ぶ。主に撮影の予算や時間がない仕事で、心強い味方となってくれる業者さんでした。 現在では、それはストックフォトエージェンシーと呼ばれます。変わったのは呼称のみにあらず。サービス形態は、この数年で一気にデジタルに。瞬時にキーワード検索できる検索エンジンと、下は使用料数千円のものから揃っている商品ラインナップで、日に日に使い勝手が良くなっている。グラフィックデザイナーやWEBデザイナーにとっては、仕事になくてはならないサービスプロバイダー。そして、フォトグラファーにとっては作品とユーザーの間を取り持ってくれる重要な存在。そんなストックフォトエージェンシーの現在を、業界最大手のゲッティ イメージズ ジャパンの営業部長さんが紹介してくれます。
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<取材協力者> 杉渓言久(すぎたに・ときひさ)さん ~ゲッティ イメージズ ジャパン株式会社 営業部長

 

ストックフォトの認識は、 使う側からも提供する側からも変わってきた。

もっとも変わりつつあるのは、ユーザーさんの認識。“ありネガ”とか“貸しポジ”とかいう、いやな言い方(笑)がなくなりつつありますね。「ストックフォトにもいいものがある」「ストックフォトは仕事に使える」という認識が定着したせいだと思います。それは、この業種が生まれた当初の、「フォトグラファーが余った写真を提供する」という素材ソースの実態が変わったことにリンクしています。供給側の意識が変わって、使う側の認識も変わったという単純明快なことでもあるんです。 現在当社が提供しているものは、市場の欲しがっているものをしっかりとリサーチして制作したオリジナル素材ばかりです。全世界に15人ほどいるクリエイティブリサーチャーがビジュアルのトレンドを分析し、毎月レポートを提出。それをもとに決められたキーワードに即して、アートディレクターがアートディレクションし、契約フォトグラファーと協力して必要なビジュアルを作ります。 フォトグラファードリブンから市場のニーズを反映したビジュアル作りへ――私たちは、一連の流れをそんな言葉で表現しています。

検索エンジンとイメージパートナー戦略で、 着実にポータルサイトに成長中。

ゲッティイメージズジャパンのサイト

ゲッティイメージズジャパンのサイト

当社の最大の武器は、検索エンジンです。トップページの キーワードボックスにキーワードを入れて、膨大なストックの中から欲しい素材を探し出せる。AND、OR、NOT検索を駆使してどんどん絞り込んでいけますし、抽象的なキーワードもひっかかるようになっています。もちろんプルダウンで特定用語を追加していくこともできます。提供形態は、すべてデジタルです。 ストック素材は、オリジナルとイメージパートナーのものをあわせれば 毎日400-500点は増えています。イメージパートナーとは、当社サイトとの提携契約を結んでくれている他社さんのこと。このイメージパートナー戦略の成果で、当社のサイトは着実にストックフォトのポータル化を成し遂げていると思います。

リサーチャーがいて、アートディレクターがいて、 オリジナル素材が生まれる。

フォトグラファーさんに「良い写真があったらお寄せください」とやっているエージェンシーもありますが、うちはそれをほとんどやっていません。基本的にオリジナルです。アートディレクターが吟味し、選んだフォトグラファーに、「あなたの腕が必要です。一緒にやりましょう」と働きかけ、契約を結んだ後にビジュアルを作る。 全世界で3500~4000人くらい、日本国内には30名ほどの契約フォトグラファーさんがいます。アートディレクターは日本にひとり。当然ですが、かなり忙しくしています。リサーチャーとはどんな仕事か?文字通り市場のニーズをリサーチするスタッフです。たとえば、 9.11の同時多発テロ。あの後には、人々が「癒し」や「安らぎ」を求める傾向が生まれているという現象をすくいとり、それらのキーワードのもとにたくさんの素材が制作されました。

海外には、ゲッティからロイヤリティだけで 1億円以上を稼ぐフォトグラファーもいる。

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撮影予算の分担やロイヤリティの比率は、フォトグラファーさんによって千差万別。いろいろな事情を加味して様々な契約形態が存在しています。でも、一緒に作り、著作権はフォトグラファーさんが持つ。販売の責任を私たちが担い、使用されるごとにフォトグラファーさんの収入が増える。それによって当社もフォトグラファーさんも一緒にハッピーになるという構図は共通です。 当社との仕事だけで生活しているフォトグラファーさんは、日本にはまだいないと思います。ただ、世界を見渡せばゲッティのロイヤリティだけで1億円以上を稼いでいる方もいます。日本では、アートディレクターが稼動し始めてまだ2年半ほどなので、今後契約フォトグラファーさんの数も、当社との仕事での収入ももっと増えていくはずです。

誕生は1995年。創業者は 「息長く続けられる事業を手がけたい」と考えた。

ゲッティ イメージズという会社は、10年前にマーク・ゲッティとジョナサン・クラインという人がロンドンの銀行で出会って意気投合して生まれた会社です。もちろん、ゲッティ イメージズ ジャパンはゲッゲッティ イメージズの100%出資会社。この会社の特徴は、そのお2人が「息長く続けられる事業を手がけたい」と考えて立ち上げたこと。ベンチャー企業を立ち上げて、どこかで売却するという現代の風潮とは逆の発想ですね。 その思い通り、この10年、着実に成長しています。実は、当時はアナログからデジタルへの移行期で、会社はアナログ写真のストックビジネスで創業しました。でも、時代の波に気づいて、翌年から大慌てでデジタルに移行したそうです(笑)。日本への進出は、2002年1月のことでした。

意外な一面。 ASPとしての顔、動画素材サプライヤーとしての顔。

自他ともに評価の高い検索エンジンのプログラムを、企業向けに提供し始めています。ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)として、企業の持つ、画像、映像、文書を資産として活かすお手伝いをしています。まだ日本語化が進んでいないので広報していませんが、欧米では企業向けアセット・マネジメント・システムとして提供し、導入実績を増やしています。 動画素材に関しては、現在映像クリエイターさんたちの意識改革のために努力している真っ最中。CM映像や展示映像の分野では、徐々に導入実績を伸ばしています。みなさんがTVで目にするCMのあちこちに、たとえば綺麗な空とか、背景とかにけっこう当社の素材が使われているんですよ。

ロイヤリティフリーへの誤解について。

当社の素材提供形態は、大きくわけて2つ。ロイヤリティフリーとライツマネージ(著作権管理付き)に分かれます。ロイヤリティフリーについては、まだまだ誤解が多いようですね。たとえば、それは「買い取り」ではありません。あくまで「媒体、地域、期限に制限がない」上に使用料が廉価、ということです。一度料金を払っていただければ、何度でも、どんなものにも(公序良俗に反するもの以外)使用できますが、あくまで著作権はフォトグラファーにあります。「ロイヤリティフリーは解像度を落としているので安い」という誤解もあるようですが、それも違います。当社では、ロイヤリティフリーの価格を解像度によって4段階に分けていて、最上級のものはライセンス契約素材とまったく同じ解像度です

ライツマネージの注意点。

ライツマネージ素材は、使用媒体や使用法もちゃんと事前に申告してもらわなければなりません。使用期間延長の場合は、手続きの必要があります。ここで、トラブルが起こりがちですね。クリエイターさんがちゃんとわかっていて、クライアントさんに告げていても、ついつい当初のライセンス契約期間以上使ってしまったり、他媒体へ流用したりとなってしまう。ただ、ほとんどの場合、当社のチェックで明らかになります。不正使用が発覚した場合は、通常料金の5倍を請求させていただきますので、ご注意を。もし、使用期間があらかじめ3年ならば、事前に相談していただきたい。事前の相談で契約を進めれば、ものすごく安く済むんです。決して3倍になんてならない。そこを手を抜いて、あとでトラブルというのが、お互いにとってもっとも不幸なことなんだと思います。

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