WEB・モバイル2008.01.01

新春企画~2008年、広告業界のトレンドを読む~

vol.33
株式会社アサツー ディ・ケイクリエイティブ開発室 室長 染谷栄一さん
新春企画は、広告界のトレンドです。なんといっても広告界は今、ネットという新しい媒体がぐんぐん成長していて、根底の部分が大きなさまがわりを見せている。そんな、劇的な変化の真っ只中で、広告表現に何が求められるのか?広告のアプローチそのものが、どれくらい変わっていくのか?等々、クリエイターが無関心ではいられない事柄が多くあります。今回は株式会社アサツー ディ・ケイで様々な戦略的アプローチを企画し実行しているクリエイティブ開発室/室長の染谷栄一さんにお話をうかがいました。

取材対象者 株式会社アサツー ディ・ケイ クリエティブディビジョン クリエイティブ開発室 室長 エグゼクティブ・コミュニケーションディレクター 染谷栄一さん

“マスメディア”と呼ばれていたメディアが、 “マス”ではなくなってきている。

<染谷さんのお話はまず、メディアの現況から始まった。これまでマスメディアと呼ばれていた「新聞」「雑誌」「ラジオ」「テレビ」が、ネットやゲームなどの新しいメディアと消費者の時間を奪い合うタイムシェアリングが始まっているという>

マスメディアを成立させていた、前提が変わった

みなさんの日常を振り返ってみてください。昔に比べてテレビを見ている時間が、減っていませんか?それは当然だと思います。この10数年で、私たち消費者が時間を費やす対象は、WEBやゲームなど、新しく生まれたメディアや娯楽にも広がっている。 圧倒的な到達力をもってマスメディアと呼ばれていた「新聞」「雑誌」「ラジオ」「テレビ」は、これまで消費者の時間を4分野で奪い合い、分け合うことを前提に成立していましたが、もうそうはいきません。新しいメディアとの間で、新たなタイムシェアリングが始まっているのです。1日、24時間を5つめのメディア、6つめのメディアとタイムシェアリングした結果、マスメディアがマスメディアでなくなりつつある。テレビにはもう、ゴールデンタイムが存在しないとさえ言われています。 そんなマスメディアの崩壊の過程で生まれ始めているのが、個人がメディアになり、企業そのものがメディアになるという現象。背景には、もちろんネットの存在がある。個人のブログが媒体力を持つ現象などが、その象徴です。

広告にはコンテンツづくりが求められている

問題は、そんな時代にわれわれ広告ビジネスに携わる者が何をすべきかですね。企業と消費者のコミュニケーションにいかに関わり、貢献するか。私は、「広い意味でのコンテンツづくりが求められている」と考えています。 広告の仕事は、消費者に情報を届けること。クライアントの価値をお客様の価値に置き換える翻訳作業だと言ってもいい。コマーシャルメッセージとはつまり、包み紙です。受け取った人が包みを開けてみたくなるような何かが必要。その要求を満たすアプローチが、“コンテンツ”なのです。 たとえばコンテンツミックスという手法です。スポーツのヒーローなどを、いろいろなメディアがとりあげますね。あれが、ひとつの例です。魅力的なヒーローには、放っておいても様々なメディアが食いついてくる。そうした現象を意図して起こそうとすれば、おおもとの情報に仕掛けが必要ですし、それに成功すれば情報はターゲットに届く。そんな仕組みづくりが、これからの広告業界、広告クリエイターの腕のひとつの見せどころになるのではないかと考えています。

放っておいてもメディアがとりあげる仕組みづくり

「おおもとの情報に仕掛け」と聞いて、いわゆるヤラセのようなことをイメージした方、ちょっと違います。ことは、そんなに甘くはない(笑)。薄っぺらな演出や嘘は、簡単に見抜かれますからね。この場合の仕掛けや仕組みとは、たとえばCSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)です。 この何年かで、「企業は利益還元など、様々な社会的責任を負う存在だ」という認識が社会にも、企業にも定着しています。企業が地域の未来や、日本の未来に貢献する自社の行動を、広報を通じて社会に伝える活動が広く定着しつつある。ポイントは、それがいわゆる広報予算で行われることが多いことです。広告とは別予算で、しかも広告に比べれば手法がかなり拙い(つたない)。私は、そこに注目しています。たとえば広報予算と広告予算をあわせて、もっと大規模に、本格的にCSRを発信すれば、到達力は計り知れない。コンテンツミックスに乗り、放っておいても多くの人に認知されるようになる仕掛けを考えています。

CIはゴール。CSRは出発点

CSRは、今後ますます企業の社会的存在意義の重要な尺度になります。 そしてその概念は企業活動そのものであり、企業の存在意義として社会の方々に認知さなければならいコミュニケーションの種でもあります。 ちなみに「CSRとCIはどう違う?」と尋ねられたら、私は、「CIのブランド論は、それがゴールだったが、CSRにおける仕組みづくりは“変わり続けられる体制”をつくることがゴール」と答えています。だから私がその手の案件に取り組んだ場合は、視点は企業と社会の接点のみならず、企業の内側にも向きます。会社が目指そうとしている目標に向かって、社員が同じ行動指針を共有できるようになることがとても大切だからです。インナーとアウターが手を結ぶ。広報から販促までを含めた全体を俯瞰して見られるようになって初めて、CSRは成功へのステップを刻み始めるのです。

これからは「行動」に直接働きかけるような メッセージが求められる。

<染谷さんの占う、2008年の広告表現のトレンドは“本質”。消費者の行動に直接結びつく、感情に訴えかけるメッセージが求められるという。同時に、広告表現におけるコピーの復興などについても語ってくださった>

見えていなかったものを、いかに視覚化するか

2008年の広告表現にとって重要なキーワードは、“本質”だと思います。リアリティ――ドキュメンタリーということではなく、これまで見えていなかったもの、知ってはいたけれど視覚化されていなかったことをいかに視覚化するか――がトレンドになるかもしれない。お化粧をするのではなく、削ぎ落とす。見る人に、何か新しい発見を促すようなメッセージ。 これまでの広告理論では、「認知」が命題になっていましたが、これからは「行動」に直接働きかけるようなメッセージが求められる――と言い換えることもできます。行動に結びつけるには、感情に訴えなければならない。時にはファイトを湧き立たせ、時には憤りを喚起する。新しい発見のあるメッセージで感情を刺激し、行動を喚起するコマーシャルが増えるのではないかと思うのです。

メディア再構築の時代だから、コピーが重要

2008年とは限らず、もう少し長いレンジで考えた時、私は、広告表現におけるコピーの役割が再度見直されることになるとも考えています。映像はアイキャッチと印象はつくれるが、広いイマジネーションを定着させることはできない。「映像万能主義」とも言える状況が続いたせいで、私としてはコマーシャルがかなりつまらなくなっているし、映像の限界が見え始めてもいると感じます。 コピーの再評価が起こるのは必然だと思うのですが、起こるならぜひ、大きなインパクトのある動きになってほしい。なにしろ時代は、メディアの再構築の真っ只中。これまで、「コピーは紙媒体、映像はテレビ」と二元論で峻別されていた環境が、大きな様変わりを見せているのですから。コピーにしかできないことを追究していけば、これまでに考えも及ばなかった、かなり革新的な役割が担えると思います。

間口発想から奥行き発想へ

とにかく、広告業界は、メディアの再編を背景に広告モデルそのものを再構築する時代に突入しています。そんな戦国時代だからこそ、広告クリエイターには表現の力ひとつで新しい可能性を開拓する可能性も与えられている。まずは、メディア構造の変化、広告モデルの変化をしっかりと理解することが大切でしょう。 メディアが増えた結果、何が生じているかと言えば、情報の混乱のリスクです。それは情報発信者にとってのリスクであり、情報の受け手にとってのリスクでもある。いかに上手にメディアをナビゲートし、受け手に整理された情報を届けるかと考えるだけでもアイデアはいくつもありうる。受け手がどんなところから情報を得ているかをしっかりリサーチすることも必要ですね。 キーワードは、「パーソナル化」でしょう。マスを前提とした、受け手の顔が見えないコミュニケーションから、ネットなどを背景に、受け手の属性が明快になったコミュニケーションが主体になっています。マスメディアからパーソナルメディアへということです。 マスメディアからパーソナルメディアへというトレンドは、間口発想から奥行き発想へというアプローチの違いも生み出すでしょう。いかにたくさんの人に買ってもらうかではなく、限られた特定の顧客にいかに長く買い続けてもらえるかということです。あきらかに注意しなければならない表現も生まれたりするでしょう。「そんな情報は、コアじゃないね」と言われたら終わりです。なにしろ、コア層を相手にしているのだから手強いのです(笑)。

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