WEB・モバイル2008.04.01

色――デジタル時代の発色を考える

vol.36
株式会社DWH 代表取締役 杉山久仁彦さん
前々回(第34回)で印刷にまつわる発色のお話をしました。かなり反響がありました。デジタル環境でデザインするのが当たり前になった今、グラフィックデザイナーのみなさんがカラーマネジメントに強い関心を持っていることがよくわかりました。 そこで今回は、カラーモニター編。コンピュータによるデザインワークと色を、まず最初にとりもっているのはモニターですからね。 てなわけで取材をつづけたところ、とても興味深い本に出会いました。タイトルは、『DesktopColor Handbook07〔Coloredgeの副読本〕』(以下、『DesktopColor Handbook07』)。大手モニターメーカー/株式会社ナナオ(以下、ナナオ)が、販売促進用ツールとして制作し、セミナー等のイベント参加者に配布している液晶カラーモニターのカラーマネジメント用の副読本です。販促ツールとあなどるなかれ。本編127Pのボリュームで、内容はカラーマネジメントの実践講座はもとより、すぐに仕事に使えるカラーチャートまで盛りだくさん。何より冒頭40数Pを割いて展開される「特集:虹からスペクトルへ」は、読み物として面白く、色に関する深い深い造詣を提供してくれる内容です。 今回はナナオさんと、『DesktopColor Handbook07』をたったひとりで編集・執筆、デザインまで手がけているスーパーデザイナー兼色の探求者(クリステが勝手に命名)/杉山久仁彦さん(株式会社DWH代表取締役)の快諾を得て、同書からカラーマネジメントの基礎知識を抜粋させていただきました。

(著者紹介)杉山久仁彦さん

1948 年北海道生まれ 1969 年東京造形大学ビジュアルデザイン科入学 1973 年東京造形大学ビジュアルデザイン科卒 1973 年デザイン・ウィズ・ハート設立

株式会社DWH(デザイン・ウィズ・ハート)設立当初から約15年間は百科辞典・月刊誌・教科等のアートディレクションや図解デザインを主な仕事とする。DTPの黎明期から[Macintosh]をデザインツールとして活用。DTP が普及するまでの約10 年間は主要なDTP ソフトやモニター、スキャナ・プリンターメーカーのベーターサイトに従事、DTP関連の広告制作、執筆講演会などDTPの普及活動に専念する。 2004年(株)ナナオから「Designers Handbook 04日本語版」をリリース。同年Drupa2004 で「Designers Handbook 04 英語版」を配布する。04のみは韓国にて韓国語版も配布された。2005年以降「Desktop Color Handbook」に改名して05/06、07の日本語・英語版共に平均1万部程度が配布されている。 現在、多摩美術大学 情報表現学部 デザイン学科の非常勤講師(情報デザイン担当) 印刷技術協会主催:DeskTopPrepress エキスパート認証制度実技試験審査部会メンバー

<著作> 共著 『ビジネスで使いこなすAdobe Photoshop5.0公式ガイドブック』 DTPWORLD発行 共著 写真集『虹物語』写真=高橋真澄、文=杉山久仁彦

(株式会社DWH)digitalpaper@mac.com

液晶カラーモニターのカラーマネジメント基礎講座 ~『DesktopColor Handbook07』より抜粋~

カラーマネジメントをしよう!

カラードキュメント制作において、モニターやプリントアウトの色が、何もしなくても一致するのはよほどの偶然。通常は、異なるデバイス間の色はカラーマネジメントしなければ合わないのが普通だ。最近では何もしなくてもあたかも色があっているかのような錯覚を起こすこともあるが、厳密に測定すればほとんどのケースで色ずれが生じている。デザイナーやカメラマンは、好むと好まざるとにかかわらず、色あわせ、つまりカラーマネジメントのノウハウが必要になるのだ。(『DesktopColor Handbook07』~カラーマネジメントの仕組み~より)

アプリケーション間のカラー設定は、AdobeのCreativeSuite3ではAdobeBridgeによって各ソフトのカラー環境を統一することが容易になっている。カラーマネジメントの実現は、従来よりはるかに身近なものになっている。

アプリケーション間のカラー設定は、AdobeのCreativeSuite3ではAdobeBridgeによって各ソフトのカラー環境を統一することが容易になっている。カラーマネジメントの実現は、従来よりはるかに身近なものになっている。

色を見る環境の構築

カラーマネジメント・システムを導入するにあたりもっとも重要なのはモニターやプリンタだが、忘れてならないのは色を見る環境。色を見る環境には、2つの重要な要素「室内照明」と「モニターの選定」がある

1. 室内照明 理想的な室内照明環境とは、多くの色の規格のベースとなっている環境。理想は太陽光線の下で色を見ること。太陽光線といっても天候、時間帯、方向、季節や場所によって変わるもので、ISO工業規格で標準的な光の条件が決められている。印刷関係では「D50」という光の条件がもっとも適しているといわれる。そこで「D50」光源にできるだけ近似する環境を作ることが重要になる。以下が、そのポイントだ。 <照明光源> 「D50」光源として「色評価用蛍光灯」という蛍光灯で室内全体と見たい原稿(写真原稿やプリント結果)を照らすような環境を作る。色評価用蛍光灯はさまざまな種類があり、大手メーカーから同一規格のものが発売されている。たとえば「色評価用 N-EDL 演色指数AAA」といった蛍光灯がそのひとつ。原稿(写真原稿やプリント結果)だけを照らす「色味台」「カラービューワー」も発売されている。

(写真左)価用(演色指数AAA)蛍光灯  (写真右)ポータブルタイプのビューワー

(写真左)価用(演色指数AAA)蛍光灯  (写真右)ポータブルタイプのビューワー

<明るさ> 原稿(写真原稿やプリント結果)だけに「D50」光源を集中させ、周囲を暗室状態にするのがもっとも良いといわれる。しかし暗室状態では作業が行いにくいので、できるだけ室内照明を落とすような工夫をすればよいだろう。ルーバー付き蛍光灯とすれば、モニターへの反射を軽減できる。 <家具、壁の色> 照明を調節しても、周囲に光を強く反射する(明るい色)家具や壁があったり窓の光が差し込んでいると正確な色は観察できない。家具は暗めの色に、厚めのカーテンを引いて外からの光の侵入を防ぐ工夫が必要だ。

照明条件の確認 光源を確認するには、プロの写真家が使っている「色温度メーター」でモニター表面や色校をする場所での色温度を測定する方法がある。「D50」の場合、4900~5100K程度になっていれば正確な環境といえる。「色温度メーター」は高価なものなので、簡易な方法としては大手写真材料店やデザイン画材店、DTP機器の総合販売店などが取り扱っている「光源演色性カード」がお薦めだ。

2. モニターの選定 カラーマネジメント・システムでもっとも重要な機器は、モニターだ。モニターに表示される色味が終始一貫して印刷まで受け継がれることが理想。そのためには、正確な色再現性が可能なモニターが必須になる。数年前まではCRTが主流で、LCDモニターではDTP作業などの正確な色再現を必要とする作業には無理という意見が多かったが、今は高性能なLCDモニターが多く登場し、印刷・デザイン用モニターの主流になりつつある。

モニターを調整する ~キャリブレーション~ キャリブレーションとは、モニターが正確な色を表示するための調節の意味。モニター・キャリブレーションには大別して2つの方法がある。1つはEye-Oneのようなキャリブレーターと呼ばれるハードウェアと専用ソフトウェアを使う方法。この方法はもっとも正確に調整・管理を行えるが、専用の機材が必要となる。もう1つの方法は、AppleColorSyncやAdobePhotoshopにバンドル化されているモニター調整用ソフトウェア(Adobeガンマ)による方法。この方法は、ポイントさえ押さえれば容易に調整でき、なおかつ簡易的なプロファイルを作ることもできる。 <キャリブレーションのタイミング> モニターのキャリブレーションは一定期間で繰り返す必要がある。タイミングはColorNavigatorのようなキャリブレーションソフトウェアが一定期間経過すると自動的に警告してくれるが、モニター配置や室内照明を変えたときなどは再キャリブレーションをすべきだ。

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