テレビの未来を予想する~アメリカのテレビ事情に詳しい志村一隆さんに聞く~ 

Vol.68
株式会社情報通信総合研究所 グローバル研究グループ主任研究員 博士、MBA 志村一隆さん

著書『明日のテレビ チャンネルが消える日』の中で、テレビの今後を大胆に予測する志村一隆さん。アメリカのテレビの現状と変化をつぶさに見ている志村さんならではの、精度の高い分析は、国内のテレビ業界でも注目を集めている。アメリカでは、テレビとインターネットとの融合により、PC上で好きな番組を好きな時間に思い思いの場所で見られるようになり、アメリカを代表するキー局である4大ネットワークですら、従来と違う収益の柱を追って、テレビ以外のメディア、たとえば屋外看板や地下鉄の広告などに進出し始めている状況だ。
かたや、これまでもアメリカのテレビの後を追うように変化してきた日本のテレビ。2011年7月、地上デジタル放送への移行によって、どのような変化を迎えるのだろうか。 志村さんに、テレビの明日、そしてクリエイターへのヒントを語ってもらった。

コンテンツの有料化が進むアメリカのテレビ

アメリカのテレビ業界が、いまいちばん変化している点は?

【志村さんのお話】
アメリカのテレビが大きく変わりはじめたのは、2009年のことです。それまでCMを収益の中心に置いてきたテレビ各社が、コンテンツそのものを有料化するようになりました。コンテンツの売り上げで利益を上げるビジネスモデルに、急速に移行しはじめました。
有料化の流れは、ネット上でも同時進行しています。フールー(2007年3月設立のHulu社が運営する動画共有サイト。映画やドラマなどを共有可能)や、テレビ局配信のサイトたとえばCBS.comなどは、当初は無料サービスでした。しかし、広告単価が伸びず、1年くらいたつとコンテンツの有料化に踏み切らざるを得なくなったのです。フールーは有料版を出し、グーグルTVなどの多くのサイトコンテンツも有料化に踏み切っています。デジタルの世界では、広告ではなくコンテンツそのものを売る、そういう時代になっています。

コンテンツの有料化は、ユーザーに受け入れられていますか?

【志村さんのお話】
当然というべきか、あまり評判はよくなくて、フールーの有料版のカスタマーレビューを見ると、「有料化反対!」「ふざけるな!」という声が99%を占めます(笑)。やはり無料のサービスを有料へ移行するというのは本当に難しいのです。いっぽうで、iPadやグーグルTVなど、これから出てくる媒体ははじめから有料でスタートできるので、まさに“金の卵”という扱いですね。
しかし、たとえば映画会社は直接ユーザーにコンテンツを売ることで、確実に収益構造を変えようとしています。ユーザーは直接ワーナーブラザーズ.comに行って、好みの映画をダウンロードする。広告会社、映画館、テレビ局など第三者を挟まない、そういうビジネスモデルを確立しようとしているのです。ユーザーの抵抗感が根強いとはいえ、コンテンツ有料化の流れは止まらないと見られています。

アメリカの、そして日本のテレビのライバルは
他のコンテンツに

アメリカではいま、ケーブルテレビに替わる有料テレビが出てきたと聞いています。

【志村さんのお話】
ネットフリックスというオンラインDVDレンタル企業が、急激に業績を伸ばしています。日本のツタヤなどと同じ方式ですが、月9ドル払うと、宅配とストリーミング配信でDVDを無制限で見られるサービスです。いま、その会員数が1500万人と言われていて、これは、ケーブルテレビ最大手のコムキャストの2400万人は別格としても、第2位のタイムワーナーケーブルの1200万人を上回っています。これまでは、有料で映像を見るとなると「ケーブル」と決まっていましたが、違う業態がアップルやグーグルTV以外にも出てきたわけです。
ネットフリックスは、サムソンとかグーグルTVなど、一般のテレビの外付けボックスにインフラとして載っている機器を使うだけで利用できます。ユーザーがリモコンでテレビの電源を入れると、いきなりテレビが点くのではなく、まずメニューアイコンが画面に並ぶ。そこでネットフリックスを選ぶだけで、簡単にアクセスできてしまいます。

テレビは受信機の中でも、テレビ以外のコンテンツと競うことになるのでしょうか?

【志村さんのお話】
そうです。テレビの側からみると、インターネットサイトであったり、ツイッター、チャットなどのメニューが並ぶ中から、「映画はやめよう」とか「今日は買い物はいいや」とか、いろいろ“やめた”末のテレビ、という選ばれ方になりました。
たとえばサムソンが売り出しているテレビなどは、最初の画面のアイコンで見られるのは映画だけ。テレビを見たければ、別画面に移動してクリックする必要があります。起動画面からテレビに辿りつくのに、2、3回ボタン押さなければいけない場合もあり、日本のテレビのように、電源オンで地上波やBS、CS放送が映り、ライバルは録画画像とゲーム程度という受信機とは、そもそものつくりが違っているのです。
テレビ局のライバルはいままでは他のテレビ局だったわけですが、これからはインターネットサイトやツイッター、映画など、テレビに入っている他のコンテンツがライバルになっていくわけです。

日本のクリエイターはアメリカのネットに注目すべき

7月の地デジ化で、日本のテレビはどう変わりますか?

【志村さんのお話】
地デジ化前までは機器普及が話題になるでしょうね。すでに始まっている3D技術の開発競争やブルーレイの普及などです。
地デジ化が完了した後は、アメリカと同様、インターネットとの融合が始まるのではないかと思います。もちろん、日本とアメリカではテレビに対する興味、関心度が違いますから、まったく同じになるとは思いませんが、コンテンツの有料化など大筋は変わらないのではないでしょうか。

テレビやネットにかかわるクリエイターは、どの方向にアンテナを張るといいでしょう?

<インタビュー対象者> 志村一隆さん 株式会社情報通信総合研究所 グローバル研究グループ主任研究員 博士、MBA

<インタビュー対象者>
志村一隆さん
株式会社情報通信総合研究所
グローバル研究グループ主任研究員
博士、MBA

ネットの世界では、何かをつくる人と、それを受け取るユーザーしか残らないですよね、究極は。だからこれから、クリエイターには大きなチャンスがある。たとえば映像ビジネスでいえば、映像をつくれる人は本当にチャンスだと僕は思います。いままでテレビだけなら24時間しか枠がなかったのが、ネットであればすごく広がるわけですから。表現力がある人は、自分の作品を生み出し世界中からファンをみつけていけばいいんです。
その場合、ユーザーが分散化されるので儲からないのではという意見があるでしょうが、それは少し違います。ネットが本格的に入ってくると、映像だけではなく、大企業が利潤を上げて社員に給料を出すという仕組みそのものが変わってくると思います。回るお金の額が少なくなるので、組織をダウンサイジングして、売上追求じゃなくて堅実に儲かる仕組みをつくる。映像も個人や2、3人で何かの仕事を請けて、きちんとしたものをつくっていけば、そこそこの利益が見込めるのではないでしょうか。なので、知り合いのクリエイターには「会社、辞めたら」みたいなことを言っているところです(笑)。
実際、アメリカにはそうやって起業している人たちがかなりいます。たとえば「video creation」とか「video **」などで検索すれば、個性的な企業や個人のサイトがいっぱい出てくるはずですから、一度参考にしてみてはいかがでしょうか。
最近、日本国内でも、若いクリエイターはこういった話にすごく反応を示してくれますね。とくに20代後半前後のベンチャー志向のある方と話していると、「世界市場で闘わないとだめ」という意見をよく聞きます。皆さんの活躍を期待しています。

取材:2010年11月22日 株式会社情報通信総合研究所

『明日のテレビ チャンネルが消える日』朝日新書
定価:本体740円+税

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〔目次〕
第1章 アメリカに日本のテレビの未来が見える
第2章 テレビにインターネットが合体したら
第3章 日本と違う、アメリカのテレビ放送ってこんな感じ
第4章 新たなテレビの見方
第5章 テレビ局は何で儲ける会社になるのか?
第6章 地デジ移行とモバイル放送の関係
第7章 3Dにかける映画会社と家電メーカー
第8章 これからどうなるテレビ

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