不良力

番長プロデューサーの世直しコラムVol.40
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
先日、親族に不幸があり、通夜に出席しました。 普段はご無沙汰している親戚の人たちに、会うことになりました。 従兄(いとこ)のおにいちゃんの一家とも、久しぶりに会いました。二人の息子と娘もついてきていました。前回会ったときは息子二人だけで、娘はまだ生まれていなかった。たしか上の子が幼稚園に通ってるくらいで、まだ幼く、ポケモンのチョコレートを取り上げたら、兄弟二人に泣かれて困った思い出がある。僕の中では、そんなに昔ではない。 ところが、上の子は、中学を卒業して高校にも無事合格し、入学式を待っているとのこと。身長も177cmまで伸びて、僕と同じくらいになっていました。中学では野球部で、色も浅黒く精悍な顔つきになっていてびっくりしました。おいおい誰だ、お前。時の経つのは、速いものです。 ひとしきり思い出話に花が咲いた後、その子のお母さん、つまり従兄のお嫁さんから相談をうけました。上の子が、なんというか、不良になりたがっている節がある。自分たちではどうしていいかわからないので、息子の話を聞いてもらえないだろうか? 従兄のおにいちゃんは、脳神経外科のお医者さん。奥さんは、元キャビンアテンダント。 当然、従兄夫婦には不良の少年の気持ちは理解しがたい様子で、集まっている親戚たちをざっと見渡しても、不良だった人は、情けないことに僕以外に見あたらない。更生した大人なんていう珍しい生き物を見る、好奇の視線をほんのり感じたりして。(ほんとに更生したかどうかは、実は不明ですが) で、「お前、ちょっとこっちこい」ということになりました。 不良っていうのは、なにも家族環境が悪い人だけがなっちゃうもんじゃありません。凶暴な性格の子だけがなるものでもない。一番影響するのは、学校での交友関係です。 男らしく生きようとすれば、おのずと不良は寄ってくるし、それを嫌悪すれば攻撃の対象になる。受け入れれば、仲間にならざるを得ません。 男の子は動物の本能として、集団の中での自分のランクが常に気になる。歌のセリフじゃないけれど、自分がどれだけ強いか知りたくてたまらない時期でもある。カラダの中からぼんぼんエネルギーは湧いてくるけど、それの使い道をちゃんと知らないし教えてくれる人も、場所もない。 他人との距離のとり方に慣れていなく、多感な時期を迎えている中学、高校生は、ただでさえ何かに偏りがち。おとなしくガリ勉くんみたいにしているか、なんぼのもんじゃいと気を張って悪い奴らとつるむか、どっちか。選択肢はほぼ、他にないと言える。まるで、文系か理系かを選択しなければいけないようにだ。 体育系という道が用意されているのは、ものすごい才能の持ち主にだけで、そんな人物はチームに一人いるかいないか。大人になれば美術系や芸能系という選択肢もあると気づくのだが、田舎の中学校の教員には、生徒たちにそういう選択肢を与えられるだけの想像力はほとんどない。彼らにとってもそんなものはテレビの中の話で、実際に見たことがないからだ。 お母さんとその子にそんな話を一通りしてから、聞いてみた。 「おい、殴り合いのケンカしたことあるか?」 「ありますよ」 「それなら話は早い。本物の不良になれる奴となれない奴の違いって、わかるか? それはね、人の顔面を平気で力いっぱい殴る根性があるかどうかなんだね。お前、他人の顔のど真ん中に力いっぱいパンチをぶち込むことはできると思う?」 「できません」 「だよな。人の顔を思いっきり殴れる奴なんて、頭がおかしい。まともな神経してたら無理だぜ。だけど、みんなから一目置かれるような不良っていうのは、やらないとやられちゃうし、やられちゃいけない立場にもある。そういう奴はためらわないよ。冷静な顔してすぐやる。がつんと。」 「なんでですか?」 「不良ってのは、殴り合いのケンカしなきゃいけない運命にあるんだ。自分のことだけじゃなく、ダチの窮地を救う必要もあるし、集団の尊厳をかけて戦うこともある。そして、そういうケンカは速攻で勝負をつけないといけない。野次馬が寄ってくるし、すぐに警察呼ばれちゃう。マンガのタイマンみたいにじっくり戦わせてくれるほど、世の中は寛大じゃないのよ。 ケンカのほとんどは勝負がつかないで終わるでしょ?必ず邪魔がはいるもんね。そんな中でいつまでも胸ぐらつかんで、あ~あ~言ってるのは半端モンよ。ハナから怖がっていて、やる気がない証拠。誰かが止めてくれるのを、待っているだけ。 本当に強い奴は、一発でケンカを終わらせようとする奴。最初から核のボタンを押すかもしれないっていう貫禄を持ってる奴が不良の大将だし、狂気をはらむから、それが恐怖を生み、抑止力にもなる」 「はあ・・・」 「問題は、君はそういう奴でいれるのか? ってことですよ。つまり、その根性がなかったら、不良グループの中でも使い走りにされるのが落ちなんだからやめといた方がいい。不良やっていこうと思うなら、かっこいい不良の方がいいし、舐められないようにしないとね。どう思う?」 「できないです」 「そうか、残念だな。じゃあ、不良やめてどうするかって考えなきゃね。ガリ勉ってタイプでもなさそうだしな」 「どうすればいいですか?」 「知るか。自分で考えろ。何をして生きていきたいか真剣に考えてその準備を始めてたら、不良の相手してる暇なんかないと思うよ」 まあ、何となく、ダークサイドに落ちそうだった若きジェダイを救ったような気分になったのである。自分はダークサイドに落ちてたくせに(笑)。 だけど、僕は不良だったことを恥じてはいない。不良のある一面として、毎日起きるなんらかの揉めごとを仲裁するという役割があった。ケンカの仲裁、学校同士の揉めごと、女の取り合い。バイク壊したとか、金払えとか。不良の仲間は余計なことばっかりするので、揉めごとが絶えない。 そのときに考えるのは、揉めている者同士の利益の妥協点である。 お前はここまで折れろ。お前はこれだけは払え。これで俺の顔に免じて手打ちにしろ。それでも不満なら両方やっちまうぞ。そんなことばっかりしていたような気がします。 実は、プロデューサーの仕事の本質はそこにあるのです。だから、CMや映画のプロデューサーで目立っている人には元不良が多いのです。窮地に追い込まれるような出来事があっても、びびった顔なんか絶対にしない。ある一言、ある一つのアイディアでピンチを殴り倒して進む。人の気持ちの振れ幅をみて妥協点を探り当て、人に気を遣った挙げ句に、自分の都合を押しつける(笑)。なんか文句あんのかよ? と。 世の中には、不良力が役に立つ仕事ってのがあるのです。そういう仕事に就いてよかったなあと、少年を諭していて思ったのでした。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~

  • 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
  • 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
  • 2000年にプロデューサーに昇格。
  • 2009年 社名がリフトに変更。

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。

<主なプロデュース作品>

  • AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
  • 日清食品 焼きそばU.F.O
  • マルコメ 料亭の味
  • リーブ21 企業CM
  • コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
  • クレイジーケンバンドPV
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