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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

昔のCMと今のCM

番長プロデューサーの世直しコラムVol.48
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
ACC(社団法人全日本シーエム放送連盟)が今年、創立50周年を迎えた。記念に制作された「もう一度観たい日本のCM50年」と「杉山登志TVCM作品集」というDVDが発売されたので、早速買って、鑑賞しました。 「もう一度観たい日本のCM50年」には、50年分の名作がぎっしり詰まっていて、疲れるくらい見応えがある。本当にみんな、がんばったんだなあと先輩方への畏敬の念を募らせました。 「杉山登志TVCM作品集」は、CM黎明期に活躍した伝説のCMディレクター/杉山登志氏が、今年、CMの殿堂入りしたことを記念して発売された作品集です。有名なモービル石油のCMも入っているけど、大半を占めるのは初期の資生堂のCMで、さながら資生堂の作品集のようです。 で、この2つのDVD、ちょっと考えさせられることが多いです。なんと言いましょうか、昔のコマーシャルは、そこはかとなく芸術作品のにおいがするんです。多分つくっている人たちにも、コマーシャルという場を借りて芸術作品をつくるつもりがあったと思うのです。それがいいことなのか悪いことなのかはわかりませんが、ものづくりを職業としている者としては、うらやましい限りの作品が並んでいます。 ひるがえって今のコマーシャルづくりの半分くらいは、コールセンターに誘引するか、検索ワードを入れてネットへ誘引するかの、ダイレクトマーケティング的な仕掛けの中で行われています。 オンエアして数分以内に、コールセンターにどれくらい電話がかかってきたかでCMの評価がされる仕組みのもとで、おもしろくてもだめ、おもしろくなくてもだめ。その商品に興味のある、比較的購買意欲の高い消費者に購入を決断させ、すぐに行動を起こさせるようなロジックのコマーシャルメッセージが求められています。もちろんそんな案件には、芸術性の高い映像をつくる余地なんて、ありません。 やはりそこには、50年分の隔たりと違いがあります。50年という時間は、日本人を十分に豊かにさせ、物知りにもしてくれました。1980年代、CMに引用されたガウディの建築は、僕を含めた多くの日本人の度肝を抜くに十分なインパクトを持っていました。CMを通して初めて見るもの、知ることがたくさんありました。テレビで芸術性を帯びたCM映像を見るのを、みんなが心待ちにしていました。 現代は情報が手に入り放題なので、世界中の珍しいものや凄いものが普通に知られています。自分の目で見たことのある人も少なくない。びっくりすることが、なくなってきました。 ただ昔は、「CMは話題なんだけど、いまいち商品が売れないなあ」というケースがよくあったと聞きます。CMの制作者が、「それは商品の魅力が足りないからだ」と申し立てても怒られることはなかったそうです。つくったCMが販売につながらなくても、制作者、制作会社には次々に仕事がまわってくる、のんきな世の中だった。 今は、結果が出ないと首になる。いとも簡単に。飯が食えなきゃ、芸術もへったくれもありません。 誤解してほしくないのですが、僕はそんな今を肯定します。コマーシャルの本来の役割、「物を動かす」が正確な数値として出されるようになり、自分の手がけたCMで数値を向上させた時の快感を味わうという楽しみがある。そのために知恵を絞る、想像力と創造力を駆使しまくる。そこに今のCMづくりのおもしろさがあるのだと、確信しています。 そこを理解した上で、冒頭の僕の感慨に耳を傾けてほしいです。 なんだろう? このDVDを観たときの、この悔しさは。 たぶん、おもしろいものをつくりたいという欲求が、僕の心の中にあるせいだ。やりたければ映画でも番組でも何でもいいはずなんだが、あえてCMでそれをやりたいと願う心が確実にあるのだ。 だけど、時代の変化やCMやテレビの役割の変化を感じようともしないで「おもしろいやつをつくろう」みたいなことばかりを言うのはかっこわるいし、頭が悪いと思う。時代錯誤だ。 現代を生き、現代でCMづくりにたずさわる僕たちは、あれもやれるがこれもやれるという自分の幅を、研鑽積み重ねて用意しておき、チャンスが巡ってきたのを逃さず「おもしろいもの」をつくるしかない。そう思う。 杉山さんの経歴をググると、こう記されています。 杉山 登志(すぎやま とし、1936年8月7日-1973年12月12日)は、日本天然色映画株式会社に所属していたCMディレクター。テレビ草創期から数多くのテレビCMを製作し、国内外の賞を数多く受賞。天才の名をほしいままにしたが、自らのキャリアの絶頂にあった1973年12月12日、東京都港区赤坂の自宅マンションで首を吊って自殺。享年37。 そして、杉山氏の遺書には、こう書いてあったそうです。 リッチでないのに リッチな世界などわかりません ハッピーでないのに ハッピーな世界などえがけません 「夢」がないのに 「夢」をうることなどは・・・とても 嘘をついてもばれるものです どういう意味なのか? すべてを理解できるつもりはないし、なんとか受け止められそうな部分にも、100%の自信があるわけではない。できることなら、ご本人に質問してみたい。 僕の所属する会社は「リフト」。この会社の一つ前の社名は「ニッテンアルティ」、二つ前の名前は「日本天然色映画」。つまり杉山さんは僕の会社の直接の大先輩。僕は、杉山さんと、その弟子たちがつくり上げた日本天然色映画にあこがれて上京して、運良く入社することができた身です。入社して、CMつくりをはじめて20年。自分の年齢が、とうに杉山さんが亡くなった年も越え、時代の変革期と格闘しているのです。 杉山さんが、大先輩であるがゆえに、悔しさが倍増するのかもしれません。僕は今、新しい風潮に対応していく自信はあるが、杉山さんがつくったようなものはつくれないでいる。 杉山さん、 もしあなたがご存命だったら、 こんな状況で、どうしますか? そう聞いてみたい。先輩に。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~

  • 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
  • 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
  • 2000年にプロデューサーに昇格。
  • 2009年 社名がリフトに変更。

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。

<主なプロデュース作品>

  • AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
  • 日清食品 焼きそばU.F.O
  • マルコメ 料亭の味
  • リーブ21 企業CM
  • コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
  • クレイジーケンバンドPV
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