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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

野球的感覚と働き方改革

番長プロデューサーの世直しコラム Vol.124
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

受験の時に、どこかの大学の現代国語の試験の例文で読んで、なるほどーと思ったことがあります。
日本になぜ野球が一番根付いたか?ということが書いてあったのです。

野球というスポーツは、幕の内弁当の文化の中にある。

もともと日本にあるスポーツは柔道、剣道、相撲、だった。
その中で一番メジャーなスポーツはやはり国技でもある相撲。
相撲は1対1の取り組みの積み重ねというプログラムで進行する。
つまり、比較的短い時間で一つの取り組みが終わると、また次の取り組みまで少し間がある。

観客は、客席で取り組みと取り組みの間のちょっとした時間にお弁当を食べ、また、取り組みが始まるとその試合に集中し、終わると、またお弁当を食べる。
これが観戦の時の楽しみ。
そんな合間あいまにつまめる、おかずの品数の多い弁当だから「幕の内弁当」というらしいのです。
幕内力士の戦いを見ながら食べるための弁当。

野球は、いろんなスポーツが日本に輸入された中でも、特にその対戦の間合いの感覚が相撲に似ていたため一番根付いた。と、その試験の例文には書いてあったのです。
弁当の食べやすいスポーツだった、と。

調べてみると、幕の内弁当の語源には、芝居の幕間に食べるから、とか、幕の内側で役者が食べるためのものだとか、諸説ありますが、本当のことはわかりません。

日本のプロ野球は1920年に始まったとされています。
100年やっていることになるんです。
WBCを見ていてもわかりますが、100年のプロ歴史のある国の代表はメジャーリーグの選手が出ていなくてもそこそこいい戦いをしますね。

日本では、特に野球を専門にやっていなくてもほとんどの男の子はルールをちゃんと知っているし、ボールの投げ方もバットの振り方も最初から知っていますからね。
レベルの高いプロの試合をいつもテレビでみる機会があるからです。

日本では、最近はサッカーが大人気ですし、バスケもプロリーグができました。
でも、ビジネスの規模としては100年運営している野球には遠く及びません。
野球は日本人にそれだけ染みついているんだと思うのです。

僕は、気付いた時にはバスケ部だったので野球をやった経験がありません。
公園で草野球的な遊びはやったことがありますが、グローブを買ってもらったことがないのです。
そういう野球を知らない人間からすると、そしてどっぷりバスケにはまっていた感覚からすると、野球が不思議に見える時があったんです。実は。

それは、「時間」の感覚です。

バスケの試合の時間は40分です。10分間を4回。ボールを持ってから攻撃する時、ボールがセンターラインを10秒以内に超えなければいけないし、超えたら戻れない。24秒以内にシュートをしなければ反則。攻撃側はゴール下の長方形の中に3秒以上留まることも反則。スローインは5秒以内にしなければ反則。
とにかく、バスケのルールは秒刻みのせっかちなルールになっています。
サッカーやラグビーも時間で区切っていますが、バスケには、ロスタイムという概念がありません。泣いても笑っても40分。きっかり。同点の場合の延長はありますが。

そういうスポーツなので、時間に沿ったゲームプランが立てやすいのです。
自分のチームの戦力と相手のチームの戦力を見て、どこまで持ちこたえたらどれくらいの時間に必殺技を出すか。うまくいった行かないで修正しながら試合を進める。「あきらめたらそこで試合終了ですよ」という安西先生の名文句は、安西先生のゲームプランがあっての発言なんですね。ただの気合の話じゃない。

野球を見ていたら、野球には野球の深さや駆け引きがめちゃくちゃあって、本当に刀を持った侍と手裏剣を持った忍者の戦いみたいなんだけど、本当に面白い心理戦なんだけど、時間の感覚だけが無いんですね。何時間かかるか予想のつかないゲームなんです。どっちかが勝つまでやる相撲に近い。だから日本で根付きやすかったんだとも言えます。

野球をディスってるわけでは無いですよ。違う競技ですから。

野球はその性質上ドラマになりやすく、「スポ根」と言われる漫画やドラマで名作が数多くあります。巨人の星やドカベンが日本の発展にどれだけ貢献しているかは言うまでもありません。甲子園での高校生の全国大会はそれ自体がドラマだし、星飛雄馬や長島茂雄や王貞治を見て日本は高度経済成長期を乗り切ったんだと思います。だから、日本人の、特に今会社のおじさんメンタルは野球によるところがめちゃめちゃ大きい。

今、仕事をしていていちばんの問題なのは社員の長時間労働の問題です。
残業が多すぎて人が心と体を壊し始めている。
問題が多すぎて、ついに政府も国の方針として働き方改革に乗り出しました。
法律も厳しくなり、会社は社員の労務管理を徹底しなきゃいけなくなったしペナルティも大きいです。

経済成長を第一義としながら働き方改革をするのもジレンマがあって大変だと思うのです。各業種、各企業がどうやったら社員に残業をさせないで生産性を維持するか試行錯誤、四苦八苦している状況。
ただわかっていることは、大きく意識を変えなければいけない。

スイスのビジネススクールであるIMD(国際経営開発研究所)が発行しているWorld Talent Reportの2016年の調査によると日本の「働く国としての魅力」は、分析対象61カ国中52位なんだそうです。外国の人は日本で働きたくないと思っているらしいです。英語が通じない、とか、わかりにくい年功序列の仕組みとか色々理由があるらしいですが、理由の一位は「長時間労働」だそうです。

これから、色んなことを考えて、長時間労働の問題を解決する仕組みを作って行かなければいけないルールに変わったのです。

僕が会社に入った頃に流行っていた栄養ドリンクのCMのキャッチコピーは「24時間戦えますか?」と言うジャックバウワーのようなコピーでした。
「働け働け」が美徳だったのですが、最近は新人の社員に「帰れ」と言わなければならないような状況です。超過勤務になっちゃうから帰れ、と。
俺の若い頃に言って欲しかったぜ、と思います。仕事ばっかりやっててどれだけの恋を失ったことか。なんちゃって。

ルールが変わったんだから対処しなくてはいけません。しなきゃ退場。
ただ部下を帰らせればいいと言う問題でもありません。
時間を短縮して同じ質のサービスを提供しなければならない。
問題が大きすぎて、ずっと考えていますがまだ答えはありません。

ただ、一つ思うのは野球的な時間の使い方メンタルから、サッカーやラグビー、バスケのような時間の使い方にシフトすればいいんじゃないかと思いますね。思いますね、って、そこが簡単じゃ無いんだけれど。
どうしても染み込んでいる野球的な、できるまでやる、勝つまでやる、みたいな感覚を、90分やって残業はロスタイム分ね、くらいの感覚に変えていかないと、やっぱり仕事ってどうしてもやりたくなっちゃうから、終わらないと思うんですよね。ほんの思いつきの端っこの話なんですけど。

人間らしく暮らしましょう。と言うことなんだから当たり前と言えば当たり前なんでしょうけど。

職業が、ある程度、その人の人格を定義するとなると人には負けたく無い。
練習しなければ不安、と言うアスリート的な感覚もありつつ、時間を区切ったゲームの中で仕事をする感覚に全部が包まれたら何か変わるかもしれません。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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