新しいテレビ

番長プロデューサーの世直しコラムVol.28
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

引っ越しを期に、テレビとハードディスクレコーダーを一気に買い換えることにしました。

これまでの自宅のテレビは、画面は横長なのにアナログ放送のチューナーしか付いていないブラウン管のテレビだったので、「地デジ」と呼ばれる地上デジタル放送は見ることができませんでした。 「こりゃあCMプロデューサーとしては問題だ」と常々思っていました。というのは少しだけ嘘(笑)。テレビコマーシャルはいまだに、ほとんどが地上派のアナログ放送の規格で制作されてますから。

これまでのアナログ放送はスタンダードディフィニッションSDTV(SDTV:Standard Definition Television)といって、横:縦の比率が4:3、画素数は640×480。光の点で映像が構成されています。いわゆる、今までのテレビ。 それに対し、新しく始まった「地デジ」と言われる地上波デジタルテレビ放送は、ハイディフィニッション(High Definition Television:HDTVあるいは単にHD)といって、横:縦の比率が16:9、画素数は1440×1080という高精細な画像でテレビを見ることになります。ハイビジョンと呼ばれるものは、これをさす場合が多いです。

単純に、SDよりHDの方がデータ量が多いので、大きな画面でもきれいに見える。音もきれいで、チャンネル数が多くサラウンドにもできる。番組表なども見ることができて、新聞を見なくても録画の予約などが簡単。データ放送も同時に見ることができて、テレビを見ながらニュースや天気予報の文字データが見られる。双方向サービスがあり、リモコンの赤青黄緑のボタンでクイズやアンケートに答えることができる。などなど、いろんな新機能がある。

今はSDからHDへの移行期ですから、この2つの放送規格が同時に同じ番組を流している状況にあります。新しいテレビを買うと両方見られるのですが、これまでの僕の自宅のように地上波のテレビしか見られない家庭の数はまだまだ多いそうです。

と言うわけで、テレビコマーシャルは一部のAV機器や化粧品のような高精密な画像を見せたい商品を除いては、いまだにSDの納品が多数派であります。SDで納品したCMを地デジの放送で流す場合は、無理矢理、SDをHDにアップコンバートして放送しているのが現状です。

この、従来のアナログ放送の規格は、なんと、2011年の7月24日にすべて終了してしまいますね。なくなっちゃうんです。「終了します」と言われてもなあ。今までのテレビは何も映らなくなっちゃうんです。テレビを買い換えるか、チューナーを買い足すか、いずれにせよ機器を増やさないと自宅でテレビが見られなくなるという話なのです。勝手な話だな。なんでそんなことをしなきゃいけないのかと憤る国民も多いのでは?

ちょっと、知ったかぶりをします。通信用の電波の周波数帯が、今の放送形態では、もう、めいっぱいでパンパンなんだそうです。電波は無限に使えるような印象がありますが、通信に使える電波の周波数帯はある一定の幅だけです。日本は平地より山が多い国土のため、中継の電波塔がものすごい数、乱立しています。そして、アナログ放送は周波数が近いと電波が干渉し混信してしまうため、周波数を中継局ごとに変えて発信することになり、いっぱい電波を使っちゃう。現状、アメリカの50倍も電波を使っているそうです。テレビのデジタル放送化で、混信の影響を受けにくくして、チャンネル数を減らし、空いたチャンネルを通信などの他の用途に解放するのが大きな目的。 政府はそれを「ICT(情報通信技術)活用社会」と呼び、たいへん力を入れています。世界一のデジタル先進国をめざしているのだそうです。

せっかく新居に引っ越すんだからということと、仕事を盾にして、「地デジ見られないとやばいよなあ」「テレビ代は奮発してみよう」という意見を通し、女房と家電量販店に行きました。液晶は精度がどうこう、プラズマはきれいだけど消費電力がうんぬん、エコじゃないといけないとか。あれがいいこれがいいと迷った挙げ句、最終的に「もったいないおじさん」がCM出演しているテレビに決定。「一番でかいのいっとかんかい!」と52型を買ったら、ポイントでブルーレイのHDレコーダーがついてきた。

そいつらが、新居にやってきた。壁一面テレビの印象。でかすぎて多少無理がある。だけど、ものすごい画質。きれいで大きい画像。「すげえなあ」と思う。 編集室などで仕事に使ってはいるものの、改めて自宅で見ると印象が違う。 細かく書いていくと書き足りないくらいのいろんな機能がついていて、ものすごい進化だと思います。

いまだSD納品の多いテレビコマーシャル。データ量の多いHDの編集も編集時間がかかるし、納品用のテープも、従来のSDよりかなりコストがかかるため、ぎりぎりまでSDのフォーマットでつくることになるんだろうけれども、2011年はもうすぐです。 この新しい放送に対応した撮影の機材もどんどん進化して、安くなってきています。

先日発売になった一眼レフのデジタルカメラには、動画のモードがついていて、35ミリのスチルカメラの画素数でムービーが撮影できる。ということは、フィルムのムービーカメラより大きい画素数のムービーが撮れることを意味します。ちなみに言うとHDの画素数とフィルムの画素数は、幼稚園性と大人くらいサイズが違います。フィルムの方が大きいのです。 そのカメラのレンズがそのまま使えるものだから、スチル写真のクオリティでムービーが撮れるということになる。「むむ、これは使えるんじゃないの?」と早速海外ロケに持って行って使ってみました。もうちょっと改良の余地があるけど、なかなか使えます。セッティングの融通がきくようになってきたら、真面目にハイビジョンのムービーカメラがいらなくなっちゃうかもしれない。

そういった所に面白い可能性がいっぱい潜んでいます。 動画もテレビで見ることばかり考える必要もない。当然Webを中心に考える世の中が来てもおかしくない。テレビとWebが融合しはじめているのも新しいテレビを買ってみるとわかる。

僕は、そういった技術まわりの状況が楽しみでなりません。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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