WEB・モバイル2009.03.04

トランスキュレーターmokomokoさん

Dig It! NYC Vol.5
Dig It! NYC 藤井さゆり

“ セーラー服を来てルーズソックスを履き、その場でパンツを脱いでジップロックに入れて売る、なんていうパフォーマンスをしていました ”

このパフォーマンスの主は“mokomoko”こと、芦川朋子さん。これは学生時代にニューヨークで制作したパフォーマンス作品の話で、タイトルは「ブルセラ」。

mokomokoこと、芦川朋子さん

mokomokoこと、芦川朋子さん

今回ご紹介する芦川さんは、現在東京を拠点に、ニューヨークにあるAG Galleryの展示プログラムのキュレーションおよび運営業務全般を任されるキュレーター、また、日本のギャラリーがニューヨークでアートイベントを実施する際(反対にニューヨークのギャラリーが日本で実施する際も含む)の企画コーディネーター、東京都の財団が運営する「トーキョーワンダーサイト」のイベント運営業務のメインコーディネーター、その他にもフリーでギャラリー運営のサポートや企画コーディネーションをするなど、国外・国内に関わらず幅広い活動をしています。

東京とニューヨーク、この世界2大メトロポリス(!)をフィールドに、これだけのクリエイティブワークをしている方って、そうはいません。どうやって「ブルセラパフォーマンス」→現在に至ったのか教えてください!ということで、その経緯をご紹介しつつ、アートからの視点を通したニューヨークと日本のクリエイティブについて聞いてみました。

大学在学中にニューヨークに単身乗り込んだという芦川さん。まず、なぜニューヨーク?

「日本の大学がつまらなかったんです(笑)。とにかくニューヨークで1年間アートの本場とやらを見てこようと来たわけですが、まんまとニューヨークの魅力にやられて日本の大学を退学し、ニューヨーク大学のスタジオアート学科に編入しました。」

そうですか、まんまと…(笑)。 でも、芦川さん、そこからどうやって現在のようなお仕事に行き着いたのでしょう?

 
ニューヨーク時代。友人達と

ニューヨーク時代。友人達と

「パフォーマンスやビデオ作品を真面目に制作し、アーティスト活動を行っていた学生時代(ちなみに同大学を“Student of Excellence”の称号とともに卒業されたそうです)、インディペンデントキュレーターとして友人と学外で展示企画を行っていました。また、ニューヨークで最も老舗の“Artists Space”というノンプロフィットアートオーガニゼーションのギャラリースタッフとしてインターンを経験し、卒業してすぐにそこでパートタイムの空きができ、雇ってもらえました。そこで多くの若手作家のサポートを行い、その経験からさらに、展示企画・ギャラリー運営という方向に向かっていきましたね。」

 
芦川さんが働いていたNYの老舗ギャラリー、Artist Space。 写真は昨年開催された“Night of 1000 Drawings”より

芦川さんが働いていたNYの老舗ギャラリー、Artist Space。
写真は昨年開催された“Night of 1000 Drawings”より

インターンは基本無償(有償もあり)ですが、実地で仕事が学べ経験できるというもの。アメリカでは非常にポピュラーでオフィスワークからデザインワークまでさまざま分野においてインターンを募集していたりします。芦川さんのようにインターン終了後の就職先という可能性や、将来のための経験、コネクション作りなど、主に学生にとっては仕事を獲得するための有益な手段です。

さて、そのArtist Spaceでの仕事を通して、展示企画・ギャラリー運営への方向性をさらに強めた芦川さん。ニューヨークでも有名なこの老舗ギャラリーでの経験はどうだったのでしょう?

「私はタイミングに恵まれていてラッキーだったなと思うのですが、そこではギャラリーの一スタッフとして働いていたので、大手ギャラリーの裏側を垣間みるいい経験になりました。」

 
芦川さんが現在もキュレーターを務めるAG Gallery

芦川さんが現在もキュレーターを務めるAG Gallery

そしてこの頃、Artists Spaceのギャラリースタッフと併行しながら、今もキュレーションを行うAG Galleryにて1本、展示企画を実施。その企画の成功がきっかけで、メインキュレーターとしてのポジションのオファーが舞い込みます。

「年間すべてのプログラムを自分一人で立てられるという素晴らしい職に出会いました。しかし、そこはコマーシャルギャラリー。自分のやりたい企画と売れるものの間に挟まり、時には悩んだりもしました。しかし、ギャラリー運営の全てを実地でやりながら学んだことは、かけがえのない財産です。」

“自分がいいと思うもの”と、実際に売れるもの、もしくはクライアントの意向といったものとのギャップに苦しむ経験は、クリエイターであるならば少なからず経験がある方もいらっしゃるでしょう。それは実際に学びながら、そして経験しながらそのギャップを1つ1つ埋めていくしかなく、そしてその作業も非常に大切なことです。

さて、ニューヨークは、芦川さんにとって非常に居心地もよく、精神的にも楽な場所になっていきます。でも時は流れ、気付けばニューヨークに8年…。しかし、芦川さんはここで新たな決意をします。

「ニューヨークには“3年、5年、10年ジンクス”というのがあるんです。3年越えたら5年はいる、5年越えたら10年はいる、10年越えたら一生いる、という話なんですが…。私としてはニューヨークに一生住む気はなく、自分が学んだり経験したことを日本に持ち帰り、どう日本に貢献できるかが勝負だったので、とにかく10年たつ前に帰らなきゃ!と思っていました。 …まあ、自分に挑戦したかったのだと思います。すべてがあるニューヨークではなく、一からやり直さなければならない日本でチャレンジしたかったんですね。」

ニューヨーク滞在9ヶ月の私にとって8年という期間が、どれだけのものか想像しがたいのですが、慣れ親しんだ日常がなくなってしまうさびしさや、親しい友人との別れ、様々な思いに駆られつつも、そこから決別して新しい道を歩むことへの価値が芦川さんの中でより大きかった、ということなのでしょう。そして2007年秋に帰国。

また、「自分にチャレンジしたかった」という決意、今の芦川さんの仕事ぶりを見れば納得できます。現在、芦川さんがコーディネーターを務めるアートイベントがニューヨークで開催中!2009年3月8日(日)まで開催しているので、この期間にニューヨークにいる方はぜひ訪れてみてください。

■日本人の若いアーティスト達がニューヨークを舞台にしたアートイベント“Tokyo Regionalism 東京地域主義”

■日本のアーティストが制作したアートブックイベント“JAPANESE YOUNG ARTISTS BOOK FAIR_3rd”

※詳しくはhttp://www.peppers-project.com/

最後に、アートを通しニューヨークと日本のクリエイティブについて。

「ニューヨーク在住のクリエイターは、日本人よりも視野が広くまた自由です。恐らくフリーランス体制で活動している方の数も、断然多いのではないかと思います。ニューヨークという場所自体が自由なため、それぞれが自由に活動できる土壌があるのでしょう。ただ自由な状態というのは、同時に非常に厳しいものです。自由に活動できる土壌があるからこそ、どの分野でも競争は激しく、ハイクオリティなもののみが生き残っていきます。そういった“自由=厳しさ”が、ニューヨークのアート/クリエーターシーンを、いつまでも魅力的なものにしているのだと思います。」

waitingroomオープニングパーティーの様子

waitingroomオープニングパーティーの様子

現在は、先にご紹介したニューヨークのアートイベントに意識が向いているんだろうなあ、と思っていたこちらの予想を裏切り、三軒茶屋の自宅(!)スペースをギャラリーにした「waitingroom」をオープン。

最近はこちらの業務が忙しかったようです。色んなことやってるんですね…。待合室という意味を持つwaitingroomは、来るべきときを待つ若手アーティストが様々な出会いを経て世の中に出ていく、その一過程を担いたい、というのがコンセプト。芦川さんいわく、とにかく“いい展示”をしていくことが目標なのだとか。この言葉を聞いたときに、幅広い国外での活動も続けつつ、足場もきちんと固めている、そんな印象を受けました。きっと、芦川さんがニューヨークから持ち帰ってきた様々な経験や思いなどが凝縮されたギャラリーなんだろうなー、と想像し今から訪れるのを楽しみにしている私です。

waitingroomにて。パートナーと。

waitingroomにて。パートナーと。

追記: 今回は、芦川さんがキュレーター、アートイベントのコーディネーター、通訳、企画・運営、国内、国外問わず、様々なフィールドで活躍されているという意味を込めて、タイトルを“トランスキュレーター”(造語)とさせて頂きました。

 

■AG gallery

芦川さんがキュレーションをしているギャラリー。

ブルックリンの中でもギャラリーの数も多く、おしゃれなお店やレストランが集まる若者の街、ウィリアムズバーグにあります。

セレクトショップ、生活雑貨を扱うAbout Glamourと併設となっている点も魅力。ギャラリーでは、新進気鋭アーティストで、 まだ巷では知られていないが力のある作家、そして将来伸びていく可能性があるアーティストを中心に展示しています。

Profile of 藤井さゆり

藤井さゆり

東京生まれ、アメリカ在住。日本とアメリカでの職務経験あり。
東京丸の内にある公益法人にて8年間勤務の傍ら、友人が企画したクラブイベントのフライヤーや、CDジャケットのデザインを行う。
公益法人では「地方の街づくり・街おこし」支援事業の一環で、ウェブサイト業務に携わる。 公益法人退職後、2004年より4年間、都内商業施設のサイト更新・管理、販促サイトのキャンペーンページ企画と取材・撮影を含めたライティングワーク、ウェブデザインを経験。
2008年ニューヨークに移住。ニューヨークではウェブマーケティング、サイト管理を企業にて経験、それと共にウェブデザインとライティングワークをフリーランスとして行う。現在は日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」を立ち上げ、オーナー兼デザイナーを務める。
Foxylilly.com
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