WEB・モバイル2009.05.07

クリエイティブ&楽しい言葉の世界(NYのコピーライター)

Dig It! NYC Vol.7
Dig It! NYC 藤井さゆり

先日、あるコピーライターに会いました。 その人の仕事のテーマは、“Simple,Innovative,Fun”(シンプルで、革新的で、楽しい)だそうです。

そのコピーライターのネーミングワーク(商品や企業の名前を作る仕事)として、あの有名な任天堂のゲーム機があります。

その商品名がとても“Simple,Innovative,Fun”なのです!残念ながらここで実名を書くことができませんが、任天堂のゲーム機であることと、この3つのキーワードから推測できる商品といえば…。

スコット・ミラノさん ブランドコンサルタント /コピーライターのスコット・ミラノさん

スコット・ミラノさん ブランドコンサルタント /コピーライターのスコット・ミラノさん

ということで、今回は、その3つのキーワードを仕事のテーマとする、ブランドコンサルタント/コピーライターのスコット・ミラノさんをご紹介します。東京に7年間住んでいたこともあるスコットさんは、現在ニューヨークで、企業や商品のブランド構築のためのネーミング、スローガン、コピーを提供する「TANJ(タンジュ)」のビジネスオーナーです。

デザインと同様に、クリエイティブな言葉の世界について、全て日本語で(!)話してくれました。

“ブランディング”のためのコピーライター

*スコットさんのポートフォリオより、 彼がこれまでに仕事で関わった企業(一部)

*スコットさんのポートフォリオより、 彼がこれまでに仕事で関わった企業(一部)

ネーミング、スローガン、コピーの違いって何でしょう?

「ネーミングというのは、ブランディングの基礎となる企業名、商品名開発のことです。日本であるブランディング会社にいたとき、ソニーさんに以前“BRAVIA”という液晶テレビの商品名を提案しましたが、この仕事がネーミング開発です。ちなみにBRAVIAは、Bravo(聴衆からの歓声“ブラボー!”)からの造語ネーミングです。スローガンは企業のスタンスやトーンを表現するものです。例えば、ちょっと前に、NIKEの“JUST DO IT.”というのがありました。そういったものがスローガンです。そして、商品や企業の魅力、ブランドをより明確に伝えるのがコピーです」

スコットさんは、広告や雑誌などのキャッチコピーを作るというようなコピーライターではなく、商品や企業のブランド価値を高める、ブランドを構築する――“ブランディング”のためのコピーライターなのだそうです。

言葉の仕事は“写真や建物、絵を作るようなイメージ”

「コピーライティングの場合には、写真を撮ったりや建物を作るような感覚で文章を書き、段落を組み立てて行きます。 ネーミングの場合には、1つのネーミング案について2,000個、あるいは3,000個くらい、たくさん案を創ります。作業としては、頭にひらめいたネーミング案、言葉をExcelに全て打ち込んでいきます。アクションペインティングで有名なジャクソン・ポロックがキャンバスに絵の具を無数に散りばめたように、1つ1つに色、形がある言葉をキャンバスに散りばめるイメージです」

Pollock painting (1950)

画像を見ることで、言葉を作るためのアイディアを刺激

仕事でよく使う、もしくは役に立つツールはありますか?

「仕事でよく使うツールとしては、英語、フランス語、ラテン語、中国語、日本語などの辞書、似ている意味の言葉を探すために同義語辞書、英語では“ライム(韻)”が大事なのでライミング辞書、メタフォー(比喩表現)辞典をオンラインで使います。 その他、フィクション、ノンフィクション限らずたくさんの本を読んだり、ニュースを読んだり、ゲッティイメージズでいろいろな画像を見て、言葉を生み出すためのアイディアを刺激します」

Facebook,Twitter,LinkedInといったSNSでネットワーキング

仕事を獲得するために実践していることは何でしょう? 「ネットワークを広げることです。そのためによく利用するのがビジネスのためのSNSであるLinkedInです。実際、LinkedInのネットワークの中から連絡が来て仕事につながったことがあります。 現在、そのLinkedInで言葉やブランディングに関する“VERB”というコミュニティを立ち上げているのですが、ブランディング、マーケティング、デザイン業界にいる人たち約400人ほどが登録していて、活発に意見交換がされています。 最近、そこで出た面白いテーマとしては、言葉とビジュアル、どうやってミックスするか?というものです。言葉とデザインのどちらが優先されるべきか?ではなく、組み合わせが大事なのだ、といった意見交換でした。 プライベートでは、FacebookTwitterを使います。プライベートでのネットワークも大事にしています。 そのほか、実際に登録しているエージェントから仕事の依頼がくることもあります」

ビジネスのためのSNS、LinkedIn。 スコットさんが立ち上げているコミュニティ「VERB」 のページ

ビジネスのためのSNS、LinkedIn。 スコットさんが立ち上げているコミュニティ「VERB」 のページ

アメリカで最大のシェアがあるSNS、Facebook

アメリカで最大のシェアがあるSNS、Facebook

ブログとチャットの機能を併せ持つSNS、Twitter

ブログとチャットの機能を併せ持つSNS、Twitter

 

お客さんの話をよく聞くことが大切

仕事をする上で大事にしていることとは?

「お客さんの話をよく聞くことです。お客さんの目的や要望をきちんと理解することで、その後のクリエイティブ作業に大きく影響が出ますので、オリエンテーションは大事にしています。 そしてやはり、企業や商品のブランドのメッセージを伝えたい!というのが基本にありますし、ブランドが持つ魅力を引き出し、売り上げに貢献したい、という思いがあります」

“TANJ”は“単純”から

スコットさんのビジネス“TANJ”の元ネタの1つ、 “tangible”。さわることができるという意味

スコットさんのビジネス“TANJ”の元ネタの1つ、 “tangible”。さわることができるという意味

ビジネス名“TANJ”の意味は?

「意味は3つあります。1つは“tangible(さわれる)”からの造語で、言葉は物ではないので実際にさわることができないけれども、実際に作る言葉が商品の名前となりブランドとなり、たくさんの人がそれらを介して言葉にさわることができますよ、ということ。2つめはtangerine(みかん)が好きということ、3つめは日本語でシンプルという意味を表す“単純”からです(笑)」

さらに、TANJには冒頭であげたスコットさんの仕事のテーマも表現されています。 TANJという4つだけの文字で構成されていることーSimple、英語には最後の文字“J”で終わる言葉があまりないことーInnovative、“単純”からのおやじギャグ(笑)ーFun。“TANJ”は、スコットさんのクリエイションが詰まった言葉なのです。

言葉もデザインと同様に深く、広く、クリエイティブ。 そして、スコットさんが創り出す言葉は「言葉遊び」のような“Fun=楽しさ”も持ち合わせています。スコットさんが生み出す、シンプルで革新的で楽しい言葉たちが、商品やサービス、いろいろな媒体を通して、日本のみならず世界中のあちこちで見られる、そして、さわれることをこれかも楽しみにしたいと思います!

■TANJウェブサイト http://www.tanjbranding.com/

Profile of 藤井さゆり

藤井さゆり

東京生まれ、アメリカ在住。日本とアメリカでの職務経験あり。
東京丸の内にある公益法人にて8年間勤務の傍ら、友人が企画したクラブイベントのフライヤーや、CDジャケットのデザインを行う。
公益法人では「地方の街づくり・街おこし」支援事業の一環で、ウェブサイト業務に携わる。 公益法人退職後、2004年より4年間、都内商業施設のサイト更新・管理、販促サイトのキャンペーンページ企画と取材・撮影を含めたライティングワーク、ウェブデザインを経験。
2008年ニューヨークに移住。ニューヨークではウェブマーケティング、サイト管理を企業にて経験、それと共にウェブデザインとライティングワークをフリーランスとして行う。現在は日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」を立ち上げ、オーナー兼デザイナーを務める。
Foxylilly.com
facebook.com/foxylilly
instagram.com/foxylilly

続きを読む
TOP