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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

海と大陸

ミニ・シネマ・パラダイスVol.10
ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂

3月は多くの会社が決算月のため、私の会社も慌しくあっという間に時間が過ぎました。 そんな月が終わり、一言でいうと「疲労やストレスが溜まっている状態」で、映画を観ようと思ったときに、岩波ホールではじまったばかりの「海と大陸」の海の青々としたチラシに惹かれて、つられるようにフラフラと神保町に向かいました。

岩波ホールはミニシアターでは草分け的な存在。 ですが、もともとは神保町地下鉄ができる際に「文化・芸術の発信地となるべく、文化的なことをする場所」として作られたそうです。 なのではじめは映画がメインなわけではなく、芸術・文化活動の多目的ホールとしてスタートし、1974年以降はほぼ映画館として使われています。

古いビルの1階にチケット売り場があるのですが、雑居ビルの管理人がいるようなスペースでして、音の割れたスピーカーから、ガラス越しに話すスタッフの声がきこえます。 チケットを買い、10階にエレベーターで上がります。他の階には何が入居しているのか気になるところでしたが、17時ごろの休日は、映画利用者しかいない様子でした。静かです。

10階の受付はビルこそ古いですが、内装はなかなか綺麗。劇場内も広いのですが、やはり映画館というより音楽コンサートをやるホールに近い印象です。 赤いベルベット状の幕がかかっていて、側壁はウッド調で、音響を意識した作りなのでしょうか。 220席あるのですが、お客さんは数えるほど・・・1人客がほとんどで、若いカップルのみ2人組。 様子を伺いつつ、私はあえていつもより前列寄りに座りました。 幕が上がると、手前に舞台スペースがある影響で、スクリーンはかなり奥まった位置にありました。 映画館なのにスクリーンが後ろの方って、どうなのかな・・・とは思いますよね。

「海」に惹かれてこの映画に足を運んだのですが、始まって5分で、「この映画を観にきて良かった!1800円の元はもうとったな!」という心境になりました。

映画は海の中から始まります。暗転から、目覚めるように青々とした水の中に漂います。 海中には何もみえず、クリアというよりはどこまでも続いていきそうな深い海の中です。 水の中にもぐった時に聞こえる、ゴォォォォとした耳鳴りのような海の中の音が響きます。 そこに大きな釣り網がだんだんと上から覆いかぶさってきて、「ああ、上には猟師がいるんだな」と気づきます。

大音量で、大スクリーンでたっぷりと海の中を漂う。 それだけで不思議と癒されますし、深い海から感じられる一種の怖さに、気持ちが落ち着いていくのを感じ、この映画を観る目的を果たした気分となりました。

イタリアのシチリア島からさらに離れた小さな島を舞台に、海と共に生きる家族を描きます。 夏の観光シーズン以外は細々とした暮らし。 猟師である父親を海で亡くした20歳の息子、年老いてなお海に出続ける祖父、島を出て都会で暮らしたいと考えている母親のところに、アフリカから海を渡ってきた難民の母子が転がり込みます。 それぞれが「どこで、どうやって生きるか」に悩む人間ドラマになっています。

海を扱った映画は多いですが、海の表現の仕方は映画次第。 本作は93分の中で、晴れの日、雨の日、朝夜、陸からみた海、船の上からの海、海の中、など様々なシーンがでてきます。 そのどれもが美しい海に変りはないのですが、海のもつ意味を説き、圧倒されます。 時には人の命を奪う海は、夜の海で難民がおぼれている姿や、 海の中にもぐったときの、無音のような深い音の怖さに表現されます。 また一方で、海は陸と陸を引き離すものでもあるし、その先に大陸があるのかと思うと、その距離の遠さに絶望させられます。 そして海があるからこそ、大陸と大陸は繋がっているということに気づき、希望を感じるのです。 監督であるエマヌエーレ・クリアレーゼもシチリア出身。夏のシーズンで活気こそあれ、小さいときから海と接してきた監督だからこそ、海のもっている意味や表情を深く理解しているのだと思います。

映画は様々なことに悩む姿を描きつつも、主人公である20歳の息子の持つ若々しさと、イタリアならではの陽気さもあって、ラストに船で疾走する息子の姿に、とても力強い後味があります。 映画館を出たあとも、海に癒された気持ちと、その息子のたくましさに良いパワーをもらった気分になります。

興行映画だとなかなか味わえない、海の奥深さを全身で堪能できます。 絶対癒されます。五月病にかかりそうな方には一見の価値あり。是非!

Terraferma

「海と大陸」(原題:Terraferma)
監督  エマヌエーレ・クリアレーゼ 93分
製作年 2011年
製作国 イタリア・フランス合作
キャスト
フィリッポ・プチッロ
ドナテッラ・フィノッキアーロ
ミンモ・クティッキオ
配給:クレストインターナショナル

Profile of 市川 桂

市川桂

美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。

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