聖者たちの食卓

ミニ・シネマ・パラダイスVol.28
ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂

このコラムを読んでる方からすれば、「なぜこいつはアップリンクに行ってないんだ?」と思われていたかもしれません。 ミニシアターが多い渋谷でも、異彩を放っていて、映画好き、アングラ好きな人々が足しげく通っている(らしい)映画館です。 特に行っていなかったのは理由はありません。「そういえば!」と思って今回行ってきてみました!

渋谷駅からとことこ歩いて10分くらい。高級住宅街エリアの松涛近くの古いビルに、アップリンクはさりげなく現れました。 1階はアップリンクが経営しているオシャレなカフェとチケット売り場、上の階にスクリーンがいくつかあるようです。 カフェもあり、まさにアートとかカルチャーとかを感じる雰囲気ですね。

ちょうどやっていたのが「聖者たちの食卓」。 アップリンクは毎日上映時間が変わるらしいので、お目当てがある場合は要チェック。 やっている映画は結構コアなドキュメンタリーなども多いようです。

上映予定のスクリーンに入ると、そこには列ごとに様々な種類のイスが、コンクリートうちっぱなしの床に並んでいます。 空いていたイスに座ってみると、まさかのロッキングチェアになっていて、もうすわり心地抜群!このまま揺ら揺らゆれて寝てしまいたい衝動に駆られるほど、まず他の映画館では座ることのないイスに座れました。 40席くらいの本当に小さい空間で、他の方もロッキングチェアに揺られて、映画がはじまる時間までをリラックスした面持ちで待っているようでした。 なかなか無い感じで、これはこれで良いですね。

聖者たちの食卓」は、聖地インドにある黄金寺院「ハリマンディル・サーヒブ」が、500年も前から運営している無料食堂の裏側をとらえたドキュメンタリーです。 この無料食堂は色々すごくて、一日に10万人が利用し、1回に5000人が一緒に食事し、すべての料理を原始的な調理器具のみでボランティアスタッフが作り、そして階級制度が色濃いインドにおいて、階級、人種、年齢、性別を問わず一緒に食事を共にするという、まさに「聖なる行い」なのです。 映画はその調理の様子から、配膳、食事、片付けまでをずっと撮っているだけで、ナレーションなし、音楽もほぼ無し、といった作り。 ですが、その行いのダイナミックさに圧倒されてしまうのです。 とにかく10万人分の豆カレーを人が何人も入れそうな巨大ナベを薪で火をつけ作ったり、 5000人が並んで座っている銀の皿の中に、バケツで次々と配膳していったり、 食べ終わった皿を投げるように洗い場へと運んでいったり・・・ そして、それをすべての大勢の人が行っている姿は、食事というものを超えて、誰もが何かに突き動かされ、聖なる行いに参加しているように見えてきます。

インドといえばガンジス河。 水と宗教が密接なイメージですが、この寺院もぐるっと水で囲まれている作りになっていて、映画全体で水がたくさん使われているのが見受けられます。 ナベを洗うにも、皿を洗うにも、床を洗うにも、水を使う。 それを運ぶバケツなど、こぼれるなんてレベルを超え、水がそこかしこに溢れかえっていき、スクリーンや映画そのものを瑞々しく彩っているのが、とても心地よく感じました。

アップリンクも気になる空間で、まだまだ座ってみたいイスもあるので(笑)、今後はもっと足を運んでみようと思います。

聖者たちの食卓

聖者たちの食卓(原題:Himself He Cooks) 製作年:2011年/上映時間:65分/製作国:ベルギー 配給:アップリンク 監督:バレリー・ベルトー/フィリップ・ウィチュス 音楽:ファブリス・コレ

Profile of 市川 桂

市川桂

美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。

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