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コラム・ザ・ちゃんこ

すでに秋の気配を感じるロンドンです。束の間の夏らしい日々を楽しむ間もなくあっという間にもう9月! 早いもので、悲惨な同時テロが起こってから2か月がたとうとしています。
先日の新聞によると、ロンドナーの3人に1人がテロによるかなりの精神的ストレスに見舞われているそう。「へー、この国の人はそんなに繊細だったんだ!」と驚きつつ、記事を読み進めると32%の市民が通称チューブとよばれる地下鉄やバスに乗る機会を減らしたり、ロンドン中心部へ出てくることを控えたりするなどしているらしい。
どうりで最近自転車に乗っている人を多く見かけるようになった訳だと勝手に一人で納得していたら、実際テロの影響で交通手段をバイクに切り替える人が急増し、おかげでバイクの売り上げが約2倍になったんだそう。
近頃のチューブ車内が、比較的空いているのは気の性ではないようです。


左:ロンドンの中心街、コベントガーデンのチューブの駅。
右:通勤時間帯でも日本のような凄まじいラッシュはありません。

しかしこのチューブ、毎年お決まりのように必ず値上がりし、今や初乗り運賃2ポンド台(約400円!)となってしまいました。若い社会人ロンドナーにとってチューブ代は、1か月の消費支出の中でもおそらくタバコ代(1箱5ポンド!)に匹敵する痛い出費なんじゃないでしょうか。
世界で最も古く100年以上の歴史をもつチューブは、老朽化がすすんだ駅の改修工事がいたるところでおこなわれてるし、しゅっちゅう止まるし遅れるしで、いいことが全くない。
と、さんざん文句をいいながらも、その愛嬌のある車体とやっぱり便利で早いチューブはロンドナーの足としてかかせない交通手段なのも事実なのです。それに駅でもらえる印刷物がきれい!最近ロンドン市内の駅構内で無料配付されているLocal journey plannerという全部で30種類以上になる地域トラベルガイドを集めているのですが、このガイド、地域に主要駅からのバス路線図や始発や終電情報などの交通情報が記載され実用的なだけでなく、デザイン自体がかっこいいのです。ロンドン市内を縦横無尽に貫くさまざまな路線図を見てるだけでもすごく楽しい! それにこの「路線図」、実はとても奥が深いのです。


色とりどりのバスの路線図が描かれた「トラベルジャーニープランナー」。
駅で無料配付されており、やっと5冊集めました。

これらロンドンのバスや電車などの路線図のデザインは、チューブの路線図のデザインが原型となっているのです。長い歴史のあるチューブ同様、現在の路線図の原型がデザインのされたのも遥か昔、1931年にハリー・ベックによってデザインされたのだそう。

製図者であり電子回路図を描いていたハリーは、システマティックに描かれた電子回路をもとに、配線ケーブルのように複雑な地下鉄システムを水平・垂直・45度の3種類の線と色のみを用いて体系化し、ロンドンの美しく洗練されたイメージを生み出しました。またこれによって、地理に沿った曲がりくねる線が交錯するそれまでの地図を「簡素化」するという新しい手法をもたらしたのです。例えば、駅が密集する中心街と駅の間隔が離れた郊外とでは地理的距離感が実際とはかなり異なるといえ、このダイヤグラムは簡素化されることで誰の目にも分かりやすい、一目見ただけで乗客へ正確な情報を瞬時に伝達することを可能にしました。またカラーコードを用いることにより各路線や乗り換えの駅を表現するなど首尾一環した情報デザインをもたらしたのです。もちろん当時はコンピューターなどあるわけがなく、今なら数時間でできる仕事も、当然ながら全て手作業だったかと思うとさぞかし大変だっただろうなと思います。そうです、つい最近まではアナログでデザインしてたんですよ。コンピューターってすごいなぁ…。
さて、ハリーがデザインした当時は8路線しかなかった地下鉄も、現在では14路線まで増えています。それにも関わらず、ハリーの情報アーキテクチャが世界中の路線図の原型ともなり、現在でも原型をとどめたまま生き残っているのは、彼が本質をよく理解した上でしっかりデザインしているからこそでしょう。このハリーのもたらした複雑な情報を整理・簡素化し、分かりやすくビジュアライズするということは、ウェブサイトの情報設計などでの情報アーキテクチャの礎となるのかもしれません。


駅構内にかならずあるチューブの路線図。電子回路に基づきシンプルに
デザインされた地図は、誰の目にも一目瞭然でわかりやすい。

ちなみに、この地下鉄から生まれたのは地図だけではありません。のちにエリック・ジルによって作られた「ジル・サンズ」のデザインへ多大な影響を与えたと言われる、エドワード・ジョンストンによりデザインされ、彼の名前が付けられた「ジョンストン」というロンドン・トランスポーテーションのコーポレート・タイプフェイスが生み出されたのも、ここからなのです。 この「ジョンストン」というタイプフェイスは、小文字の’i’と’j’のドット部分がダイヤモンドの形をしているのが特徴で、クラシカルなイメージが漂うフォント。
今でも駅のいたるところでこの「ジョンストン」が使われ、印刷物やサインのタイプフェイスは「ジョンストン」を使用することが決められています。このハリーの路線図とジョンストンのタイプフェイスによってロンドン・トランスポーテーションのアイデンティティだけでなく、ロンドンの街全体のイメージとして人々に強い印象を与えているのです。




印刷物はもちろん、全てのサインにジョンストンが使われている。
上:出口と乗り換えを表すサイン、
中:ドアに注意のサイン、
下:駅のホームにある行き先を示すサイン。

ちなみにロンドン市内のお土産屋さんでは、地下鉄路線図のマグカップやTシャツ、ジョンストンのフォントが使われた赤い丸にブルーのラインでお馴染みのチューブのシンボルマークのステッカーやキーホルダーなどが売られています。もしかして、みなさんもお土産なんかで持ってたりしませんか?もし持っていたら、改めてもう一度見てみて下さい。そこにはハリーとジョンストンの傑作があるんです。


実は私も愛用しているロンドン地下鉄路線図のマグカップ。


Profile of コウヅマノエ
女子美術短期大学卒業後、デザイン事務所勤務。その後、雑誌『エルジャポン』のデザイナーを経て、フリーのグラフィックデザイナーとして活躍。2003年に渡英し、ロンドンにあるRavensbourne CollegeでInteractive digital Media の修士号を取得。現在は南ロンドンで作品制作を行うかたわら、様々なプロジェクトに参加しながらロンドン生活を満喫中





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