職種その他2016.09.14

丘の上から見えるのは? British Art Show 8

London Art Trail Vol.51
London Art Trail 笠原みゆき
ノリッチ城。12世紀に木造から石造へ改築された。

ノリッチ城。12世紀に木造から石造へ改築された。

丘の上にそびえる要塞のような建物は何でしょう?それはイギリス王室の開祖、ウィリアム制服王によって11世紀に建てられたノリッチ城。城からは町が一望出来き、築城当時から残る野外市場も目の前に望めます。今月はここ、ノーフォークの古都、ノリッチから、城を含む町の3カ所にまたがって展示されていた“British Art Show 8"を紹介します。ノリッチはロンドンから電車で2時間程。

城の中。中央のアーチはビクトリア朝時代に増築された。

城の中。中央のアーチはビクトリア朝時代に増築された。

まずはお城へ。城の中はノリッチの歴史、自然史を展示する博物館と美術ギャラリーに分かれています。「食事の時間です!中世のテーブルマナーを学びましょう!」とベルを鳴らす中世の衣装を着た女性の脇を抜け、美術ギャラリーへ向かいます。

https://vimeo.com/167875122 “Feed Me (1時間、2015)”© Rachel Macleanのハイライトをどうぞ。

かわいすぎる!キャンディカラーがトレードマークのRachel Macleanの映像 “Feed Me (1時間、2015)"。商業化される子供達と幼稚化するグロテスクな大人達との、ユートビアとディストピアの交差する社会を描きます。そして、何よりすごいのは全てのキャラクターをMaclean本人が一人で演じていること。

https://vimeo.com/167875058 “In Children of Unquiet(15分、2013-2014)”© Mikhail Karikisのハイライトをどうぞ。

こちらも子供達が主役の映像作品、Mikhail Karikisの“In Children of Unquiet(2013-2014)"。舞台は1911年に建てられた世界初、現在でも世界最大級のイタリア、ラルデレロの地熱発電所。80年代前半には発電所が自動化したため、労働者やその家族は村を離れ過疎化が進みました。映像では村に残された45人の子供達が、間欠泉の吹き上がる火山の麓で地から轟く音を拾いながら、抜け殻となった工場や家屋の中を唄い、駆け巡ります。

“Century Egg(2015)” © Bedwyr Williams

“Century Egg(2015)” © Bedwyr Williams


博物館の収蔵品って本当にそんなに価値があるの?鎧兜にトックリクジラ、70年代のポケット電卓まで、Bedwyr Williamsは映像の中で、ケンブリッジの八つの博物館で見付けた収蔵品の付加価値を独自の見解で探っていきます。 作品のタイトルの“Century Egg(2015)"はアヒルのゆで卵を灰に埋めて数週間から数ヶ月置くことで、その価値や見た目が全く変わる皮蛋(ピータン)の英語名より。

“leaves (2015)” © Magali Reus

“leaves (2015)” © Magali Reus


城を後にし、ノリッチ美術大学のイーストギャラリーへ。
壁に並ぶのは巨大なカレンダーの付いた南京錠?金属、石材、樹脂と様々な素材を組み合わせて作り上げた精工な南京錠のシリーズ、Magali Reusの“leaves (2015)”。

A Conversation of Tiny Movement(2015) © Lawrence Abu Hamdan

A Conversation of Tiny Movement(2015) © Lawrence Abu Hamdan


ノリッチ美術大学へ向かいます。
壁に貼られているのは白黒とカラーの混じったスーパーマーケットの写真。カラーで綺麗に写っているのはスナック菓子のパッケージ、ティッシュ箱、水やジュースのボトルなど。マサチューセッツ工科大学の最近の研究により、実はこれらが盗聴器として使えるという怖い話。どういうことかというと、高速カメラでその物体のバイブレーションを録画し読み取ることで、あなたの会話が解読できてしまうのだとか。ティッシュ箱そのものが盗聴器になる日がもうそこに来ている!作品は Lawrence Abu Hamdanの“A Conversation of Tiny Movement(2015)”。

"Sequencer(2015)” © Benedict Drew

"Sequencer(2015)” © Benedict Drew


壁に耳ありじゃなくて、画面に耳あり!と近づいていってよく見るとそれは耳じゃなくてピンクの巻貝。巻貝の付いたマルチスクリーンにはどこまでも続く荒涼とした岩肌が映し出されています。辺りにはアルミホイルで巻かれたコードに、キャンプ用テントの骨組みで作られたエイリアン、粘土をこねて作った擬人化したオブジェなどが散在。未来なのか過去なのか?何かが起き、一人取り残されてしまったロビンソー・クルーソーのような世界をつくり出すBenedict Drewの"Sequencer(2015)"。

Thanks for Listening(2015) © Susan Hiller

Thanks for Listening(2015) © Susan Hiller


パブでお馴染み、コインを入れると任意の曲が聴けるジュークボックス。曲のリストをみると、Student Strike Rant (The Sky Catching Fire), U640 (Write Off The Debt)などとあり、ボックスの表には “このマシーンは学生の負債と戦う”と書かれています。実はこのジュークボックスはAhmet Ögütが続けている学生の学費ローンの負債救済キャンペーンの一つで、様々なアーティストとコラボレーションを行なっていて、こちらはSusan Hiller とのコラボレーション。ボックスに入れたお金はキャンペーンへの募金となる仕組みです。

“Sea Painting (2015 & 2016)"© Jessica Warboys リーズ、エジンバラ、ノリッジの海岸で描かれたもの。

“Sea Painting (2015 & 2016)"© Jessica Warboys リーズ、エジンバラ、ノリッジの海岸で描かれたもの。

荒波を彷彿させる巨大な絵画は、実際に海の波にキャンバスをのせて描いたJessica Warboysの“Sea Painting (2015 &2016)" シリーズ。British Art Show 8 はリーズ、エジンバラ、今回のノリッジ、次はサウスハンプトンと巡回しますが、Warboysはこの全ての会場の海岸でこのアクションペインティングを試みています。 まだまだ紹介しきれませんが今回はこの辺で。英国を拠点とする42人のアーティストの展示でしたが、ゆったりと空間を使っていて見ごたえがありました。 産業革命まではロンドンに次ぐイングランド第2の都市だったノリッジ。町には城と同時期に建てられた大聖堂もある他、中世の面影が色濃く残っていて、また是非訪れてみたいです。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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